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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
316/911

316.力を戴く星②

 森の中をしばらく進んでいくと、切り立った岩場に黒い穴が見えてきた。

 普通に立って入れる高さがあって、結構深そうな感じもする。


「アイナ様、この洞窟です」


「わー、いかにも洞窟って感じだね。中も深いの?」


「はい、結構奥までありますよ。

 以前ちょっとした修練に使ったのですが、野営をするにも丁度良かったです」


「修練? 修練って、何の?」


「サバイバル技術の修練です」


 話を聞いてみると、ルークはそういった修練――訓練のようなものを、仕事の一環としてやっていたらしい。

 所属する部署によっては、野外での仕事も当然のようにあるから……というのが理由だった。


「……ふぅん、いろいろやってきたんだ……。

 それじゃ、私たちが休むにも良さそうだね。今日は疲れちゃったし、さっさと準備して早く休もっか」


「はい」

「分かりました!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 野営の準備をしてみると、その洞窟は確かに雨露をしのぐにはもってこいの場所だった。

 少し入ったところには広めの空洞があって、アイテムボックスから馬車を出すことも普通にできた。


 洞窟の中で、さらに馬車の中。

 馬車に乗ってみると、いつもより吹き込んでくる風が少なく感じられる。

 最近は本当に冷えてきているから、これだけでもずいぶんと過ごしやすくなるというものだ。



「――とはいっても、ずっとここにいるわけにもいかないからね……。

 馬がやられて、馬車は動かせないし……。これからどうしよう……」


 焚き火を囲みながら、温かいお茶を飲みながら今後のことを話す。


「クレントスまでは馬車でもまだ1週間といったところでしたから、徒歩となると……」


 私の言葉に、ルークが頭を抱えた。

 馬車を時速40キロ、徒歩を時速4キロとすれば、掛かる時間は10倍だ。


 馬車で1週間が必要というのであれば、徒歩なら単純計算で10週間、つまり2か月以上……。

 さすがにそれは、現実的ではない。


「どこかで馬を買えれば良いですよね……。

 ルークさん、この辺りに街や村は無いんですか?」


「この森から北東に行ったところに小さな街があります。

 ただ、そこでも身分証明が必要ですので……」


「……うーん。それじゃそこも、入れないか……」


「むぅ……。街に入れないって、やっぱり凄い大変なことですよね。

 私、少し前まで全然意識したことがありませんでした……」


 エミリアさんはそう言いながら、肩を落とした。

 街に入れないだなんて、悪いことをしなければそうそうは無いはずなのだ。

 エミリアさんは司祭――聖職者だし、そんな意識が無かったのも当然というものだろう。


「……仮に街に入れたら、馬でも何でもたくさん買えるんですけどね……。

 食糧とか、お料理とか、あとは服とか――」


「はぁ~……。

 せめてアイナさんだけでも街の中に入っていければ……」


「ふふっ。今なら即、捕まっちゃいますけどね!」


「あはは、確かに! ……はぁ」


 一瞬の笑いは取れたものの、同時にため息も取れてしまった。


 さすがにこんな空気ばかりでは気が滅入ってしまう。そろそろ明るい話題が欲しいところだけど――

 ……しかし、頭に出てくるのは暗い話ばかりだ。



「――結局、馬に矢を放ったのって、誰だったのかなぁ……」


 私たちの馬車の馬を、一矢で仕留めた弓師。

 その矢はかなり遠くの岩場から放たれたはずで、私たちは今もその矢の主を知らないでいた。


「……何とも、正体が分からないっていうのは不気味ですよね……」


 正体が分からなければ、私たちを狙った理由も分からない。

 例えばこれが王国軍の誰かであるなら、王様の命令の下で私たちを狙ってきている……ということになるんだけど。


「普通に考えれば王国軍、あるいは実力のある野盗――

 いや、物盗りであるなら、すぐに襲ってくるか……」


 ルークは独り言を言うかのように、考えをまとめていった。

 聞こえる言葉からすると、やはり王国軍の誰かという可能性が濃厚だろう。



「……ちなみに、弓師で有名な人っているの?

 ほら、剣だったら英雄シルヴェスター……みたいな感じで」


「そうですね。英雄クラスではいませんが、有名な方は何人もいますよ。

 王国軍は、層が厚いですからね」


「それじゃ、その誰かなのかな――

 ……って、さすがに情報が少なすぎるか」


「はい、残念ながら……。

 しかし私たちも立ち止まってはいられませんので、少々危険でも何とか進まなければ」


「確かにぃ~……」



 その後もしばらく話を続けたが、結局何の答えも見つけることはできなかった。

 三人とも八方ふさがりの状態になってしまったので、今日はほどほどのところで諦めることにした。


 何も進まないときは、一旦そこから離れた方が捗る場合もある。

 今日はいろいろなことがあったし、また明日から考えることにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――毛布に包まってから、寝付けない時間を長く過ごす。

 いつもなら眠れている時間なのに、今日に限っては何だか眠れない。


 ……何て言うか、何かの胸騒ぎがするというか――


 私の横ではエミリアさんが静かに寝息を立てている。

 私の枕元ではリリーが静かに……寝てる……のかな……。とりあえず揺れもせずに置かれている……というか、そこにいる。

 そして馬車の外では、ルークが焚き火の側で夜番をしながら休息を取っている。


 よくよく考えてみれば、とくに珍しくもない、いつも通りの夜だ。

 しかし、何だか嫌な気配がしてならない……?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おはようございます!」


 馬車の中で毛布に包まっていると、エミリアさんが目を覚まして、私に挨拶をしてきた。


「……おはようございます」


「もう起きていたんですか?

 ……って、あれ? 今日は例の夢を――」


 エミリアさんの顔が一瞬、嬉しそうに綻んだ。

 私はいつも、朝起きるときに大声を上げてしまう。それが無かったのだから、きっと悪夢を見なかった……と、思ったのだろう。

 しかしそうではなくて――


「すいません……。眠れなかったんです……」


「え? ……一晩ずっと、ですか?」


「はい……。少しくらいはうとうとしたんですが、何だかちょっと……」


 洞窟の中ということで、いつもより野営の環境は良かったはずなのに、眠ることができなかった。

 普通に寝不足なわけだから、体調的にはかなりしんどい。


 ……とはいえ、そろそろ朝食の用意をする時間だ。

 やることをやって、それ以外のことはあとから考えることにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 馬車から出ると、ルークが焚き火の側に座っていた。

 私とエミリアさんの気配を察して、ルークはすぐに挨拶をしてくる。


「――アイナ様、おはようございます。

 ……もしかして、今日はあの夢を――」


 ルークはそう言いながら、一瞬明るい表情を見せた。

 ……ごめん、そうじゃないんだ。


「いや、一睡もできなくて……。

 だから今日は、夢も無し」


「あ……そうでしたか……。

 しかし一睡もできていないというのはお辛いでしょう。もう1日、ここに残りますか?」


 ……おお、それはなかなか良い提案かもしれない。

 ここならいつもより落ち着けるし、人もあまり来なそうだし……。



 ――そんなことを考えた瞬間、どこからともなく声が響いてきた。



「んっんっんっ♪ ……罠に掛かった犯罪者チャンはいるかなぁ~……?」



 それは洞窟の入口から、反響を伴って聞こえてくる。

 ……誰かが、ここに来た……?



 しばらくすると、1人の青年が姿を現わした。……顔はまだ少年のあどけなさを残している。

 服装は黒を基調としたローブだが、純粋な魔法使いというよりも、どちらかといえば上位の派生職業のような感じだろうか。


 ……もちろん、私には見覚えのない人だった。



「あ、あなたは……?」


「ボク? ボクはね~、キミたちを殺しにきたの。

 んっんっんっ♪ さぁて、誰を殺そうかなぁ~?」



 突然現れた青年の、突然すぎる言葉。

 もしかして馬を殺した弓師? ……とは一瞬思ったが、明らかに弓師では無いし、弓矢も持っていない。


 そんな彼の右腕からは、唐突に、黒と紫色の気味の悪い輝きが溢れ始めた。



 どこからどう見ても敵。

 それならば、私たちが取るべき行動は――

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