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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
308/911

308.逃亡中の日常②

「――うっ、うわああああぁあああっ!!!?」


 突然の恐怖と共に、私は身体を跳ね起こした。

 大量の汗をかいており、動悸も激しい。喉がとても乾いてしまっている。


 ……また、新しい朝がやってきた。

 この目覚めを越えてしまえば、次に見る悪夢は24時間後だ。


 一体あと何回、この悪夢を見ることになるのだろう。

 もしも死ぬまでだとしたら、それこそ――いや、死なないのか。



 痛む頭を振りながら毛布を除けると、私の横には何か臭うものが置いてあった。


「……ん? これは――」


 それは昨日草むらで採集したのと同じもの、10本ほどのニゾラ草だった。


 何でこんなところに……?

 そう思った瞬間、すぐ横でリリーがぷるぷると揺れているのを見つけた。


「……もしかして、リリーが採ってきたの?」


 私はリリーを両手で持って、抱え上げながら話し掛けた。

 昨日一緒に採りに行ったから、これを持ち帰れば私が喜ぶとでも思ったのかな……?


 そんなふうに考えてしまうと、使う使わないは置いておいて、何だかとても嬉しくなってしまう。


「んーっ、ありがとね♪

 でも外は危険だから、あんまり一人で出歩いちゃダメだぞーっ」


 子供に言い聞かせるように言ってから、そういえば言葉なんて理解できないだろうことに気が付いた。

 ずっと話し掛け続けていたら、そのうち理解するようになるのかな?

 ……いや、きっと無理なんだろうな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ゴトゴトゴト……。



 今日も今日とて馬車に揺られ、私たちは辺境都市クレントスを目指していた。

 このまま順調にいけば、残りはあと15日といったところだろうか。


「このまま、今日も何事もなく進められれば良いですね」


「そうだねー。でも、そんなことを言ってると――」


 ……変なフラグが立っちゃうよ?

 平和に進みたいから、できるだけ誰とも会いたくないよ?


「――む。アイナ様、向こうから馬車がやってきますね」


「早速ですか」


「え?」


「いやいや、何でも。

 今回はスルーしておこうか。自然に振る舞っておいて~」


「分かりました。自然に、自然に……」


 ルークは口ずさみながら、自然でいることを意識し始めた。

 自然を意識した時点で、それはもう自然じゃないんだけどね……。

 ……余計なことを言っちゃったかな。




「――すいませーん!!」


 馬車がある程度近付くと、遠くからそんな声が聞こえてきた。

 こっそり前方を見ると、向かってくる馬車の御者が大声を出しているようだった。


「……アイナ様、どうしますか?」


「むぅ……。

 スルーして面倒なことになってもアレだし、ちゃちゃっと応対しておこうか」


「分かりました」


 ルークがそう返事をすると、馬車のスピードは徐々に落ちていった。



「どうかしましたか?」


 馬車が止まったあと、まず最初にルークの声が聞こえてきた。


「怪我人がいるんです!

 薬草かポーションはありませんか!?」


 怪我人……!

 私たちは追われている身だけど、人助けをしてはいけないということも無い。

 さすがにこういうときは、助け合わないとね!


 ……しかし、今や初級ポーションの1つでも、私たちにとっては貴重なものだ。

 これから何があるか分からないのだから、気安くは使いにくい。

 それなら――


「エミリアさん、ヒールをお願いしても良いですか?」


「はい! アイナさんはここでこっそりしていてくださいね」


「了解です。それじゃ病人を装ってますね。おやすみなさーい」


「はーい、またあとで起こしますね」


 そう言うと、エミリアさんは馬車を降りていった。

 ルークも御者台を降りて、向こうの馬車まで様子を見に行ったようだ。


 何事もなく終われば良いんだけど――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ぎゃっ!?」


 しばらくすると、馬車の外から悲鳴が上がった。


「うおっ!?」

「ひぃっ!?」

「お、お助け……」


 そんな言葉が響いたあと、周囲には静寂が訪れた。

 むむ……? 一体何が……?


 そう思いながら馬車の外を見てみると、ルークとエミリアさんの近くで4人の男が地面に倒れていた。

 男たちの外傷は無いようだが、見事に気絶させられている。


「……どしたの?」


「アイナ様、野盗でした」


 私の質問に、ルークはあっさりと答えた。

 野盗ごときならルークの敵にはなるはずも無いんだけど――


「それで、怪我人はいたの?」


「いえ、いませんでした。

 みなさん元気でしたので、先ほどお眠り頂いたところです」


 そう言うとルークは野盗たちを一か所にまとめて、縄で縛り始めた。


「……エミリアさんは大丈夫でしたか?」


「ばっちりですよー。

 最近いろいろな目に遭ってきたので、これくらいは何ていうことも無いです♪」


 ……ああ、そんな目に遭わせてきてしまって申し訳ありません……。

 何だかいつの間にか、こんなに逞しくなってしまって……。



 しばらくすると野盗たちは縄で縛られ、近くの樹の下に綺麗に並べられた。

 事情を知っているのであれば、シュールな光景にしか見ることができない。


「このまま放置で大丈夫? 死んじゃわない?」


「はい、近くにナイフを残しておくので大丈夫かと。

 あとは馬車の馬を逃がしてしまえば、アジトに戻るのも遅れるでしょう」


 ……ふむ。襲ってきたのは向こうだから、それも自業自得か。

 そんなことを思っていると、ルークはさっさと野盗たちの馬を逃がしてしまった。



「……仕事、早いねぇ……」


「私たちも時間がありませんからね。

 ところでアイナ様、馬車の中にはいろいろと荷物があるようでしたが、いかがしますか?」


「え?」


 話を聞けば、馬車の中には盗品と思われるものがたくさん積まれていたらしい。

 恐らく野盗たちは、これからアジトに戻るところだったのだろう。

 そんなときに私たちを見つけて、欲を出して接触してしまったのが運の尽き――という感じか。


「盗品をもらうのって、法律的にどうなの?」


「本来であれば街に届けなければいけないのですが……実際、そこまでは取り締まれていませんね。

 しかし私たちは、街には入れませんし……」


「それなら放っておく?

 ……でも、私たちも状況が状況だからなぁ……」


 役に立つものがあれば、正直拝借したい。

 エミリアさんも黙認しているし、何ともアウトローな集団になりつつあるような。



 ……とりあえず盗られて困っている人もいるだろうから、ここは一旦私たちが預かっておこう。

 このままだと野盗たちに売られちゃうし、それならまだその方が良いよね。


 もちろん平和な日がやってきたら、然るべき対応はさせて頂くつもりだ。

 ひとまずは私のアイテムボックスに収納――ということで!

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