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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
301/911

301.ある村にて③

 夕食を食べ終わってから食器の片付けを済ませて、ようやく一休み――……とはいかないんだっけ?


「それじゃフレデリカちゃん、他の家の洗濯物をよろしくね。

 私が案内してあげるから」


「はーい、お願いします!」


 ルークとエミリアさんは食事のあとも、村長さんの話に付き合っていた。

 私だけが奥さんの手伝いをずっとしているわけだけど、ちらっと目の合ったエミリアさんは申し訳なさそうに頭を下げた。


 まぁまぁ、これはこれで楽しいし、それに何だか『良い嫁』を演じているようで、そういった意味でも何だか面白い。

 今までの自分から自分を遠ざけている――そんなネガティブな理由も、きっとどこかにはあるのだろうけど。



 大きな笠を借りて雨の中を歩いていくと、やはり簡単に身体が濡れてしまった。

 こんな状況では、大勢の村人が風邪をひいてしまうのも無理はないだろう。


 しばらく歩き、少し離れた家の扉を奥さんが叩くと、中から体調の悪そうな女性が現れた。

 ささっと薬で治してあげたいところだけど、今は手持ちの薬が無い。……何とももどかしい限りだ。


「……こんな時間に、何かありましたか?」


「こんばんわ! あのね、うちにお客様がいらしてるんだけど、魔法使いの方なの。

 洗濯物をぱぱーっと片付けてくれるから、お手伝いをしに来たのよ!」


「へぇ……?」


 少し呆気に取られながら、女性は短い言葉を発した。


「初めまして、フレデリカっていいます。

 アンジェリカがこちらに伺ったと思いますが、一緒に旅をしているんです」


「ああー、さっきの司祭様のお仲間さん……!

 司祭様のおかげで体調も少し良くなったんですよ。……洗濯まで手伝って頂けるんですか? ありがたいことです……」


「はい! 遠慮しないで全部出してくださいね!」


「畳むのは私が手伝うよ!」


 奥さんはそう言いながら力こぶを作るようなポーズをした。

 その腕は見るからに逞しい。私よりも、絶対腕力はあるんだろうなぁ。


「……さすがにそこまでは申し訳ないので……」


「それじゃ、身体が温まるものでも作ってあげるわね!」


 そう言うと奥さんは他人の家にも関わらず、ずかずかと入っていってしまった。

 ……なんともパワフルな訪問だ。これが田舎のおばちゃんパワー……とでも言うべきだろうか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――はい、終わりました!」


 溜まっていた洗濯物にすべて魔法を掛け終わったころ、奥さんがホットミルクを持ってきてくれた。


「フレデリカちゃん、お疲れ様!

 はい、身体を冷やさないようにね」


「ありがとうございます!」


 温かいコップを受け取って一口すする。

 熱い! ……けど、美味しい!


「はぁ……。本当に簡単に洗濯が終わっちゃった……。

 司祭様もそうだけど、フレデリカちゃんも凄いんですね……」


「そうでしょう? うちの自慢の娘なんだから!」


 奥さんが胸を張って言い切った。

 ……おや? いつのまに奥さんの娘になったのかな……?


「ところでフレデリカちゃんは、司祭様と一緒に旅をしているんですよね?

 何でも強い魔物を討伐してまわっているとか……」


 むむ? 心当たりの無いその情報、出元はエミリアさんかな?

 私たちの正体を隠すのであれば、『クレントスに向かってます!』とは言えないわけだし……。


「そうですね。魔物を倒したり、依頼をこなしたり、いろいろとやってます」


 鎌をかけられていても嫌なので、ここはどうとでも取れるような返事をしておく。

 これは生き残るための処世術だ。


「それじゃ、冒険者さんなんですね。

 私はさっさと嫁いじゃったけど、そういう生き方も素敵ですよねぇ」


「まったくよねぇ。この村は平和だけど、やっぱり大変なことばかりだし……。

 でもフレデリカちゃんなら、この村でも上手くやっていけると思うのよ」


 奥さんは陽気にそんなことを言い始めた。

 いやいや、私はすぐにこの村を出ていきますよ? 勝手に息子さんの嫁候補にはしないでくださいね?



 その後も引き続き、おばちゃんたちは雑談で盛り上がっていた。

 しかしこれ以上、おばちゃんトークに巻き込まれるのはごめんなわけで……。

 ……ここはさっさと退散することにしよう。


「――お話中すいません。

 そろそろ他の家に行きませんか? 夜ももう遅いですし」


「あ、そうね! それじゃそろそろ失礼するわ!

 しっかり休んで、風邪もさっさと治しちゃうのよ?」


「はい、ありがとうございました。

 フレデリカちゃんも、本当にありがとうね」


「いえいえ、お大事に――」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、私(たち?)は順調に3軒の家で洗濯物を片付けていった。

 合計で4軒――……確か2、3軒って言ってなかったっけ? 最後の1軒はボーナスステージだったのかな?


 そんなことを思いながら村長さんの家に戻ると、ルークとエミリアさんが出迎えてくれた。


「お帰りなさい、フレデリカさん!」


「ただいま戻りました!」


 部屋の中を見てみると、村長さんはテーブルで眠りこけている。

 何だかこの人、マイペースだなぁ……。


 村長さんを横目に見ながら三人で話をしていると、奥さんが温かいスープを持ってきた。


「はい、三人とも今日はご苦労様。

 これを飲んだら、そろそろ寝ちゃいましょうか。向こうの息子の部屋を使って良いから。

 ……あ、身体を拭くなら台所のお水を使ってね」


「分かりました、ありがとうございます」


 たまにはお風呂に入りたいところだけど、お風呂自体が高価なものだから、この村では無理そうだ。

 次に入れるのはいつになることやら――

 ……いやいや、我儘は言わないようにしよう。我慢、我慢っと。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――夜、暗い部屋の中。

 私たちが使う村長さんの息子さんの部屋は、ガランとしていた。


 1つだけあるベッドは現リーダーのルークに譲ろうと思ったのだが、最終的に私とエミリアさんの2人で使うことになってしまった。

 ルークが夜に眠るのは久し振りだから、ここは思いっ切り休んで欲しかったんだけど……。


「……それよりフレデリカさん、お話をしましょう!」


 そろそろ眠りに入ろうかというころ、エミリアさんが突然話し掛けてきた。


「……え? 明日も仕事がありますし、眠らないんですか?」


「いやいや! 夜に例のスキルの話をするって言ったじゃないですか!」


 例のスキル――

 ……ああ、そういえば確かに……!


「すいません、そうでしたね。

 ルークはまだ起きてるー?」


「はい、もちろんです」


「え? 何が『もちろん』なのかな……?」


 目を凝らして見てみると、ルークは鞘に収められた神剣アゼルラディアを抱きながら、毛布にくるまって座っていた。

 神剣アゼルラディアは、村に入る前からアイテムボックスに預かっていたんだけど――夜間は持っていたいということで、ルークに渡しておいたのだ。


 あまり村の人には見られたくない。しかし、何かあったらまずいから――



「それよりも、はやくー!」


 矢継ぎ早に、エミリアさんの可愛い催促が飛んでくる。

 それじゃ早速、私のスキルを対象にして、かんてーっ


 ----------------------------------------

 【神竜の卵】

 竜王の力を宿した可能性の欠片。

 所有者の強い望みに応え、新たなスキルを得る

 ----------------------------------------


 鑑定スキルを使うと、暗い部屋の中に明るいウィンドウが映し出された。

 それを三人で覗き込む。


「……ふむ、これは……」


「おおぉー、何だか凄いスキルですね!

 これ、どうやって使うんですか?」


「いやぁ……。

 私もちょっと願ってみたんですけど、何も起こらないんですよね……」


「えぇー……?

 願う力が足りないのでしょうか?」


「そうみたいですね……。

 調理スキルのレベル99を願ってみたのですが、全然ダメで……」


「……アイナさん、何を願ってるんですか!」


「あ、アンジェリカさん。本名は使っちゃダメですよ!

 金貨1枚のペナルティですね」


「えっ!? そ、その話は生きていたんですか!?

 ……でも今の流れで、それはズルいです!!」


「ふふふー♪」


「……しかし、今の私たちにとっては心強いものですね。

 新たなスキルがいつ手に入るかは分かりませんが、心の拠り所になるというか……」


 ルークの言葉に私は頷いた。

 まわりが敵だらけのこの世界で、信じられるのは自分たちのみ。


 ……ならば、可能性はひとつでも多いほうが良いのだから。

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