30.YGSP
次の日、私はセシリアちゃんの家を訪れた。
ランドンさんとの商談? がまとまったため、具体的な打ち合わせに来たのだ。
最初はよく分からない感じで聞いていたセシリアちゃんも、例の『ゆるキャラ』を大量生産して良いと聞くと、とても喜んでいた。
「この子、わたしはとても可愛いと思っていたんですけど誰にも分かってもらえなくて……。
でも、アイナ様が気に入ってくれてとっても嬉しいです!」
「こんなに可愛いのにねー! 何でみんな理解してくれないんだろうね」
「そうですよね! えぇっと……それで、これを100個作るんですか? そんなに作って、いったいどうするんでしょう……?」
「この子は世界を獲れる! ――と思うから、私の旅先……行く先々でブームを起こしてくる!」
「!!」
これこそが私の作戦、『ゆるキャラでガルーナ村を救うぞ計画』! 略して『YGSP』!! 語呂悪いからやっぱやめ!!!
ガルーナ村には再興策のひとつとしてゆるキャラ発祥の地を目指してもらう、というのがその趣旨だ。
もちろんそれが100%上手くいくとは限らないから、本業の農業にも力を入れてもらいつつ、だけど。
「農業は大人たちに任せて、セシリアちゃんたちはこっちの活躍を期待したいの」
「『たち』……ですか?」
「うん。さすがにとりあえずでも100個作るなんて、ひとりじゃ厳しいでしょ?
ある程度見本が出来たら、セシリアちゃんが手先の器用な人に教えてあげて一緒に作っていって欲しいなって」
「……なるほどです。上手くできるか分かりませんが、頑張ります……!」
もちろん周りの大人には話は付けておくし、そもそも『野菜用の栄養剤』の対価での依頼だからね。
これは立派な仕事なのだから文句は言わせない。
高水準の農業を行うために、木彫りも頑張ってもらう。うん、良い考えじゃないか。
……まぁ、この木彫りが売れなかったら私が損するだけなんだけど。それはあれだ、投資のリスクってやつだよね。
「それでね、具体的な期日……いつまで~っていうのは無いんだけど、私たちももうすぐミラエルツに行く予定だから、納品はそっちにお願いしたいの。
でも、そこはランドンさんと話をしておくから心配しないでね」
「はい、分かりました!」
「それじゃ難しいことは置いておいて、どんなのを作るか決めよう!」
「はい!!」
そこから私とセシリアちゃんの白熱した議論が始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼過ぎに話を始めて、気が付けば空は真っ暗。
話をすればするほどセリシアちゃんのキャラ愛が伝わってきて、ついぞこっちも力が入ってしまった。
いやぁ、良い打ち合わせをした……。相手は子供だったけど、元の世界の仕事でもこんなに充実した経験は無かったよ……。
いろいろと話を詰めた結果、最終的に100体作るのは変わらないのだけど、オーソドックスなものに加えて付加価値を付けたものも作るということになった。
ポーズが特殊だったり、無駄に躍動感があったり、少し良い上塗り剤を使ってみたり……。
色々と趣向を凝らしているため、出来上がるのが何とも楽しみだ。
本当ならそのまま全部自分のものにしたいくらいなんだけど。それくらい私は、このキャラがツボにハマっているんだよね。
うん、絶対流行らせてやるぞー!!
ちなみに名前は『ガルルン』にあっさりと決定。ガルーナ村の名前も一部もらってるし、収まりがやたらと良いのが理由だ。
セシリアちゃんのお母さんからお茶を頂いていると、話し疲れたのかセシリアちゃんは寝入ってしまった。
まぁ子供だし、ずっと話していたし。仕方ないかな。
「――すいません、小さい子にこんなことをお願いしてしまって」
好きとはいえ、村の再興策とはいえ、子供に責任や負担を掛けてしまうのだ。
眠って聞いていない間に、セシリアちゃんのお母さんに謝る。
「いえ、気にしないでください。それよりもこの村は、今までとは何か違うことをやっていかなければいけなかったんです。
その『何か』に、この子の……ガルルン? を選んでくださったのはとても誇らしいことですよ」
「本当に可愛いと思うんですけどねー」
「私には……親の贔屓目もあるでしょうし、どうも客観的には分からなくて」
苦笑しながらそう話すセシリアちゃんのお母さん。
ふーむ、そういうものか……。
「とにかくご迷惑をお掛けします。何かありましたらランドンさんにすぐ相談してください」
「分かりました。……そういえばアイナ様も、この村を離れてしまうんでしたよね。本当にお世話になりました。
それに報いるためにも、この子と頑張っていきます」
セシリアちゃんのお母さんは寝ているセシリアちゃんの頭を撫でた。
ふむー、こういう光景は微笑ましくて癒されるなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今日はお疲れ様でした」
宿屋に戻ると、エミリアさんがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。いやぁ、私は楽しかったんですけど、ルークには暇をさせちゃったみたいで」
「いえいえ、そんなことはお気になさらず。それにアイナ様のいつもと違う一面を見れて、とても楽しかったです」
「え? 何かいつもと違った?」
「ええ。とても楽しそうなんですけど、芯に本気なところがあって。モノを作り出すときの難しさと楽しさが見え隠れしていましたね」
なるほど。
モノを作るのは錬金術でいつもやってるけど、レアスキルの『工程省略<錬金術>』のおかげで一瞬で作っちゃってるからね。
本来だったら作る過程や工程に難しさとか楽しさがあるんだけど、そういった意味では錬金術を楽しんでいる……とは言えないんだよなぁ。
あ、でもそういう観点でいうと『神器を作る』というのはこれに当てはまるかな?
一瞬で作れるからといっても素材集めが大変だろうし……。
……うん、それにしても作るための素材とか、そもそもどんな神器を作れるかも分かってないんだよね。
一度見た『神剣デルトフィング』なら素材は分かるんだけど、それ以外の神器のことはまったく分からないわけで。
作るにしても、そもそも既にある神器しか作れないのか、神器を作るためのレシピのようなものが存在するのか。
ユニークスキルの『創造才覚<錬金術>』がすごいとはいえ、神器を作るにはちょっと向いていないんだよなぁ。
……そうそう。ユニークスキルといえば、未だに『英知接続』と『理想補正<錬金術>』の使い方が良く分かってないんだよね。
もしかしてここら辺にヒントがあるのかも……?
でも――、うん。やっぱりこういう思考を巡らせるのは楽しいな。
「――アイナさん、どうかしましたか? 何だか楽しそう」
不意にエミリアさんに声を掛けられた。
あれ、何かにやけてたりしたかな?
「ああ、いえ。これからのことをちょっと考えていて」
「なるほどー?」
「そういえばアイナ様。お話を聞いている限りなのですが、そろそろガルーナ村を離れるおつもりですか?」
ルークが話を変えてきた。
そういえばセリシアちゃんの家でもそんな話をしていたしね。
「うん、そうだね。疫病の件もひと段落したし、村の再興策も種を撒いたし……。
これ以上いても出来ることは少ないし、明後日くらいにミラエルツに向かおうかな?」
「そうですね。王都から行き先をミラエルツにした矢先のガルーナ村……でしたからね」
本当に行き先がころころ変わるよね。
そろそろ本筋に戻したい。本筋に戻ってガルルンをブレイクさせるのだ――じゃなくて神器を作るのだ!!
ちなみに復習だけど、ミラエルツは金策が目的で、王都は神器とその素材の情報収集が目的である。
後者の目的についてはルークにも言ってないし、そもそも神器を作るなんてこともまだ言ってないよね。
どのタイミングで言うべきか……悩ましい。
「――ところでアイナさん。私も王都までご一緒させてもらってよろしいでしょうか」
少し考え込んでいると、エミリアさんが尋ねてきた。
「もちろんです。エミリアさんは私の看病で引き留めてしまったわけですし。
――あ、でもミラエルツにはしばらく滞在する予定ですが、大丈夫ですか?」
「ええ。アイナさんと一緒なら救済の修行にもなるだろうと……。
もしアイナさんが疫病から回復するのであればと、あらかじめ大司祭様からお許しは頂いております」
大司祭様って? 話を聞くと、エミリアさんの聖堂の上司らしい。そもそもエミリアさんは司祭……いわゆるプリーストなんだって。
なるほど、これはゲーム好きにはたまらない展開だね!
「それじゃ明日は出発の準備と村の人への挨拶に充てて、出発は明後日の早朝ということで決定しましょうか。
ルークもそれで良い? ふふふ、いつの間にかセシリアちゃんとも仲良くなってたし」
「アイナ様が皆さんを診ているときに、色々な方とお話させて頂きましたからね。
――そうですね、明日は皆さんにご挨拶をすることにしましょう」
「うん、そうだね。私がいると恐縮しちゃうだろうから、それじゃ明日は別行動ね」
「え!? いえ、私はアイナ様をお護りする使命が――」
「明日はエミリアさんと色々準備してるから気にしないで!」
「いや、しかし――」
「あれ~? ルークって女の子の買い物に強引に付いてきちゃう系~!?」
「くっ……。わ、分かりました。それではエミリアさん、明日はアイナ様のことをよろしくお願いします……」
「あはは……。分かりました、お任せください」
話を何とかまとめ、明日はエミリアさんと二人で行動。
とはいえ特別なことは何も無くて、単に『野菜用の栄養剤』で消費した薬草とか素材を集め直したいだけなんだけどね。
ミラエルツで買い揃えても良いんだけど、出来ればガルーナ村にお金を落としていきたいから……。




