3.スキルを確認しよう①
宿屋の外に出ようと思い、入口のカウンターにいたルイサさんに声を掛ける。
「おや、お出掛けかい?」
「はい。散策と、あとは色々見てみようかなって」
「そうかい。この街にしばらく滞在するなら、まぁ当たり前だけど冒険者ギルドには行っておいた方が良いからね。
何かを依頼にするにもされるにも冒険者ギルドが介在するし、いざというときは何だかんだで頼りになるし」
冒険者ギルド……そういうのもあるのか……。
うーん。当たり前のことを、当たり前を知らない私に教えてくれてありがとうございます!
そう思いながら相槌を打っていると、ルイサさんは丁寧に冒険者ギルドの場所を教えてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ。冒険者カードの提示をお願いします」
教えてもらった冒険者ギルドの受付に行くと、係の女の子が明るく声を掛けてくれた。
年齢は同じくらいかな。
「すいません、冒険者カードは持っていないんですが……」
例のプラチナカードは冒険者カードの類では無さそうだし、とりあえずそう言ってみる。
「それでしたら、冒険者ギルドへの登録ですか? 登録でしたらこのままこちらで受け付けますよ」
「お願いします。何か必要なものはありますか?」
「大丈夫です! この石板に手を乗せて、後はピッとピピッとした感じで終わりますよ~。その後、冒険者カードを発行しますね。
……あ、手数料は銀貨5枚になりますので、ご用意お願いします!」
銀貨5枚なら大丈夫。
お財布から銀貨を5枚出して、受付の女の子に渡す。
「えっと……ここに手を乗せるんですか?」
「はい、この石板はお客様のスキルや情報を調べる魔導具なんですよ。それじゃ、失礼しますね~」
ピッ。
石板から音がした。
ピピッ。
石板からもう一度音がした。
……と同時に、石板の上の空中に半透明のウィンドウのようなものが開いた。
「はい、終わりました~。えっと……『アイナ・バートランド・クリスティア』さん、ですね」
おお、本当に手を乗せるだけで分かるんだ。
それにあのウィンドウ……。文明レベルは低そうだけど魔法があるんだよね、この世界には。
「ふむふむ。アイナさんは『錬金術師』さんなんですね。レベル12……と。スキルは『鑑定』レベル10と『収納』レベル7をお持ち……と。うわぁ、即戦力じゃないですか、これ」
本当に錬金術師にしてくれたのね! 神様、ありがとう!
レベル12っていうくらいだから、レベルもどんどん上げられるのかな? うわー、すごい楽しみ!
あと、『鑑定』レベル10と『収納』レベル7の良さがまだ分からないけど、即戦力って言うからには良いスキルだよね?
「あ……すごい! レアスキルがありますね! 『工程省略<錬金術>』レベル1……と。」
レアスキル? 心がときめく響き……! 『工程省略<錬金術>』というからには、錬金術の作業時間が減るとか?
「ふむふむ、スキルは合計4個ですね。全部実用的なスキルですし、冒険者ギルドにも欲しいくらいの逸材です!
っと、それではカード発行の準備をしてきますので少々お待ちください」
……あれ? 合計4個? 神様、『スキルもワシが吟味した8つを付けておいた』とか言ってなかったっけ。
数え間違いかな? おじいちゃんたらボケちゃって。
その後、受付の女の子(名前はケアリーさんと言うらしい)から冒険者カードを受け取り、冒険者ギルドについて色々説明してもらった。
そもそも『冒険者』とは『依頼を受ける者』全般を指し、『冒険者ギルド』とは依頼を出す者、依頼を受ける者が幅広く集まる組織らしい。
依頼の中には文字通り街から離れて冒険するものもあるが、街のすぐ外で特定の草を採集する程度の簡単なものもあるとのこと。
ただ、どちらにしても『冒険者』のカテゴリに含まれることになるのだとか。
また、冒険者ギルドには依頼遂行のために仲間を集める場所を提供したり、依頼を行うにあたってのサポートを行うという役割もあるのだという。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいま、マイスイートルーム!」
宿屋の部屋に戻るなり、ノリ良く叫んでベッドにタイブする。
柔らかな肌触りと暖かな匂いが疲れた身体を優しく包み込んだ。
手元には新しく作ってもらった冒険者カード。
冒険者にはランクがあるらしく、下は『F』から、上は『S+』まであるらしい。
私のランクはもちろん、一番下の『F』。
必要があれば上げたいけど、実際使うのかな?
「と、言うよりもですね」
自分に対して、何となくつぶやく。
ケアリーさんが言っていたのだけど、鑑定スキルはモノだけじゃなくて人にも使えるんだって。
冒険者ギルドで使っていた石板の魔導具は鑑定スキルの力を誰でも使えるものにしたもので、つまり鑑定スキルを使えるのであればスキル確認などは自分で出来るのだという。
スキルのレベルに応じてどこまで分かるかは違うらしいのだけど。
「よし、それじゃ鑑定スキルを使ってみよう!」
ベッドから起き上がり、まっすぐに立つ。
……えっと、スキルってどうやれば使えるんだろう?
とりあえず部屋の中に置いてある調度品の壺を見る。
「えーっと、えい! 鑑定!!」
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【高価な壺】
高価な壺
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……! 目の前と頭の中にウィンドウが現れて、私に情報を伝える。
「うおっ!?」
急に現れたその映像に驚き、おかしな声を出してしまう。
……いや、でも名前と説明文?が同じなんだけど……?
そのウィンドウに少し注意していると……
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【高価な壺】
高価な壺。
金貨10枚くらいの価値がある
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……! 情報が増えた!!
いろいろ試してみたところ最初から全部の情報が出るわけではなく、意識を傾けることによってその情報量を調整できることが分かった。
つまり詳しく知りたい場合はそのように念じ、軽くで良い場合はそのように念じる……といった具合だ。
ふむふむ、スキルの使い方は分かった! あとはこの応用だね。
それでは自分を鑑定してみることにしよう。冒険者ギルドでもう見てきたけど、今後ちょこちょこ使うことになるだろうし。
「えーい、自分を鑑定っ!!」
別に言わなくても良いだろう台詞を叫び、自分を鑑定の対象にする。
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【アイナ・バートランド・クリスティア】
種族:ヒューマン
年齢:17才
職業:錬金術師
一般スキル:
・錬金術:Lv99(Lv12)
・鑑定:Lv99(Lv10)
・収納:Lv99(Lv7)
レアスキル:
・工程省略<錬金術>:Lv99(Lv1)
ユニークスキル
・情報秘匿
・英知接続
・創造才覚<錬金術>
・理想補正<錬金術>
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……うん?
あれ? 何か……いろいろ並んでるよ? よし、上から順番に見ていこう。
名前と種族、年齢と職業は……うん、いいね。特に何も無いかな。
その下の『一般スキル』……『錬金術』、『鑑定』、『収納』。
これは冒険者ギルドで教えてもらった通りだけど、レベルの表記がおかしくない?
『錬金術:Lv99(Lv12)』って、レベルが99なのか12なのか、どっちなの? もしかして『上限値(現在値)』みたいな感じ?
『レアスキル』も同じ感じ。レベルが99なのか1なのか、どっちよ。
それに、その下の『ユニークスキル』って何だろう? 冒険者ギルドでは何も言われなかったけど……。
不審な点を幾重にも重ね、私は引き続きスキルを確認することにした。