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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
299/911

299.ある村にて①

 様々な不安や心配を抱えながら、私たちは人通りの少ない場所を選んで進んでいった。

 広い道から離れた草原――といった感じの場所。少しは歩きにくいものの、精神的にはずいぶん楽だった。


 ひたすら歩いて陽も暮れたころ、私たちはようやく小さな村を発見することができた。

 水は持っていたので大丈夫だったが、ここに至るまで食事は何もとっていない。

 何ともお腹が空いたところではあるが、まずは寝る場所を確保しなければ――



「……泊まるところ、あるかなぁ……」


 村をざっと眺めれば、周囲を柵で囲ってはいるものの、村の入口に人が立っているということはなかった。

 ひとまず村に入るための身分証明は必要が無さそうだ。……泊まるときには分からないけど、そこで求められたら何とか誤魔化すことにしよう。


「私の格好――鎧が良いもののままなので、私がリーダーという設定でいきましょう。

 それと、ここからは偽名を使いませんか?」


 ルークが率先してそう言った。

 エミリアさんがずっとルーンセラフィス教の法衣であるように、ルークもずっとあの日の格好のままなのだ。

 普段よりも良い鎧を着けているので、この3人の中ではぶっちゃけ一番リーダーっぽい。


 それに、偽名の件も良い提案だ。

 本名で呼び合っていたら即バレするか、バレなかったとしてもその情報がいつか広まってしまうだろう。


「……うん、そうだね。そうしよっか、デイミアン」


「私がアンジェリカで、アイナさんがフレデリカさんですね!」


 エミリアさんが何だかうきうきしながら言った。

 呼び合う名前を変えるだけで、いつもとは違う非日常に。それが心躍る……といった感じだろう。


「呼び間違えたら、金貨1枚のペナルティにしましょうね」


「「えっ」」


「……あ、いや。それくらいの緊張感を持って……ということで!」


「「なるほど!」」


 私の提案は笑いを外してしまったが、何とかフォローすることに成功した。


 ……しかし実際のところ、金貨を1枚出して無かったことにできるのであれば、それはかなりお安いものだ。

 今はその1つのミスが命取りになってしまうのだから。



「――そうだ。もし鑑定できる人がいたら、私が高位の錬金術師だってバレちゃうから……ちょっと調整しておきますね。

 私は駆け出しの魔法使いという設定でお願いします」


「おー、魔法使いフレデリカさん!」


 エミリアさんは何かを納得しながら頷いている。

 個人的にはエミリアさんの魔法使いルートの方が気になるんだけど……。でもそれは、私しか知らないことか。


 そんなことを思いながら、ユニークスキル『情報秘匿』を使って、鑑定されたとき用のスキルを調整していく。

 ちょちょいのちょいっと数字をいじって、こんな感じで終了――


 ----------------------------------------

 【アイナ・バートランド・クリスティア】

 職業:錬金術師 魔法使い


 一般スキル:

  ・水魔法:Lv25(Lv25)

  ・装飾魔法:Lv25(Lv25)

  ・錬金術:Lv99(Lv7)

  ・鑑定:Lv99(Lv17)

  ・収納:Lv99(Lv11)

 ----------------------------------------


 括弧の中が鑑定されたときのレベル、括弧の外が本来のレベルだ。


 職業の『錬金術師』は消すことができないので、錬金術スキルは低いレベルで残すことにした。

 そしていつの間にか増えていた職業の『魔法使い』を活かして、魔法系のスキルをばっちり主張しておく。


 ……これならきっと、ぱっと見の印象としては『魔法使い』として認識されるだろう。


「どうでしょう。それっぽいですか?」


 鑑定のウィンドウを二人に見せて、感想を聞いてみる。


「……おお、魔法のレベルが結構高いですね……。

 レベル25って、一人前のレベルですよ?」


「何だかんだで普通に使えるレベルですからね……。

 それでは魔法使い、兼、駆け出し錬金術師っていう設定でいきますね」


「そうですね。このバランスであれば、魔法使いとして見られると思います。

 さすがに錬金術スキルが低いので、『世界の声』で告知された錬金術師とは思わないでしょう」


「……あ、でも鑑定だと名前がバレちゃいますね」


「確かに!!」


 エミリアさんの言葉に、私は致命的な問題を突き付けられてしまった。


「――しかし名前まで鑑定するのは高レベルの鑑定スキルが必要ですし、この村なら問題ないと思います。

 もしバレたなら、そこはもうどうにかするのみです」


 ルークは説得力のある感じで言ったが、よくよく聞いてみれば具体的なことは何も言っていなかった。

 その場の状況が分からなければどうしようもないし、まぁそれも仕方が無いか。


「……ところでフレデリカさん、スキルといえば――光竜王様からレアスキルをもらいましたよね。

 あれってどういうスキルなんですか?」


「え? あ、そういえばアンジェリカさんとデイミアンは鑑定できないから、まだ知りませんよね。

 それじゃ、今日の夜にでもお話しましょう」


「えぇー!? フレデリカさんはもう知ってるんですか!?

 私も早く使いたいです!!」


「いやぁ……。すぐには使えないんですよ、あれ……。

 だから安心してください」


「むむ?」


 エミリアさんは不思議そうな表情を浮かべるが、それよりも今は今晩の宿を確保しなければいけない。

 楽しそうな話はあとに回して、今は面倒なことを先に潰してしまおう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――もし、そこのお方。この村に何か御用ですかな……?」


 村の中に入ると、しばらくして村人が遠くから話し掛けてきた。

 雨に濡れないように家の中から扉を開けて、身体を半分出しているような状態だ。


 風貌としては老人……とまでは言わないが、少し老けた中年の男性。

 その村人からの問い掛けに、ルークが丁寧に返事をした。


「私たちは旅の者なのですが、今晩泊まる宿を探しております。

 この村に、どこか泊まるところはあるでしょうか?」


「ほう……、こんな雨の中を大変ですな……。

 生憎とこの村には泊まる場所はございません。――とはいえ、お客人をこのまま返すわけにはいきますまい」


「寝泊まりができれば問題はありません。

 できれば食事も頂きたくはあるのですが――」


「ふむ……。それでは狭いですが、我が家に泊まられますかな?

 ちょうど今、息子が王都に出向いておりますので、部屋は空いているのです」


「おお、ありがとうございます!」


 思い掛けず、今晩の宿が速攻で決まってしまった。

 順調すぎて怖いところもあるけど、まずはこのスピード感を喜ぶことにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――あなた方に、お願いがあるのです」


 濡れた服を魔法で乾かしながら暖炉にあたっていると、村の男性がそう言ってきた。

 すでに終わらせた自己紹介によれば、この男性はこの村の村長らしい。


 見知らぬ村を訪れたときの村長からの依頼というのは、ゲームでもよくある話だ。

 どんな依頼なのか、少しだけ楽しみだったりして……?


「何かお困りごとですか?」


 これは私の台詞……ではなくて、ルークの台詞。

 今はルークがリーダーという設定だから、こういう話は全部ルークに任せることにしていた。


 私は私でまったりと、エミリアさんと並んでその会話を静かに聞いている。

 ……いつもと勝手が違うけど、これは何だか楽だなぁ。


「はい……。あなた方もご存知でしょうが、この5日ほど雨がずっと降り続いております。

 このままでは畑がダメになってしまうので、対応を行わなければいけないのですが……人手が足りなくて……」


 ……なるほど。……ん? 畑……?


「私どもは何をすれば良いのでしょう」


「はい、デイミアン殿には畑での作業を手伝って頂きたいのです。

 力仕事の手が足りておりませんので……」


 ――むむ?

 まさかこのタイミングで、そういう頼みごと……?


 農業はこの村の死活問題だろうから、大切なことであるのは確かなんだけど――

 それにしても何だか一気にゲーム感というか、ファンタジー感が消え失せてしまった。

 ……いや、畑の作業が大切なことなのは分かるんだけど――いや、うん、とっても大切なことだよね! これは手伝わないとね!


 ルークは一度、私をちらっと見た。

 名目上はルークがリーダーだけど、決定権は私にあるのだ。


 その前提を踏まえて、私は小さく頷いた。



「――分かりました。ただ、あまり滞在はできませんので……そこはご容赦ください」


「おお、助かります! それではデイミアン殿には明日、畑での作業をお願いいたします!

 次に、アンジェリカ殿には病人を診て頂きたいのですが……」


「え? この村には病人がいるのですか?」


 村長さんの言葉に、エミリアさんは身体を乗り出した。

 さすが聖職者、そういったことには人一倍反応をしてしまうのだろう。


「病人とはいっても風邪なのですが……。この雨の中、身体を冷やす者が多くて……」


「いえ、こじらせると大変ですからね。今から向かいますか?」


「はい、是非お願いいたします。その間に、食事の準備をいたしましょう」


 病気の治療といえば、本来は私の仕事なんだけど――

 むむむ……。今は仕方ないとはいえ、何だか得意分野を取られた感じで悔しい!


「さて、それでフレデリカ殿には――」


 そしてついに、私の番。

 一旦どんな頼みがくるんだろう……!?


「――食事の準備と洗濯をお願いしても良いですか?」


 ……………………。


 めっちゃ家事やーんっ!!!!



 ――と思ったけど、洗濯は一番得意でした。魔法があるから。

 食事の準備もこの3人の中では一番得意なつもり。


 ……村長さん、とっても名采配☆

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