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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
295/911

295.それは世界に刻まれて④

 パチパチパチ……ッ!!


 部屋の出入り口に焼夷弾を投げつけると、激しい火の粉と共に炎が舞い上がった。

 炎は煙を立てて燃えており、完全に視界を遮ってくれている。


「普通ならこれで、通れないとは思うんだけど――」


 そう零した瞬間、炎の中に人影が揺らめいた。

 しかし――


「シルバー・ブレッド!!」


 ――間髪入れず、エミリアさんの攻撃魔法が飛んでいく。

 それは炎の中の人影に当たり、そのまま元の部屋へと弾き飛ばした。


「……エミリアさん!? あんまり無茶をしないでください!!

 ルーク、高級爆弾投げちゃって!!」


「かしこまりました!!」


 魔力切れのエミリアさんを注意しつつ、ルークに攻撃をお願いする。

 さすがに炎の向こうまでは距離があるから、私の腕力ではどうしても届かないのだ。


 ルークが高級爆弾を隣の部屋へ大きく投げると、高級爆弾は焼夷弾の炎を通過するときに――


 ドカアアアアンッ!!


 ――誘爆してしまった。

 ついでにその爆発で、出入り口の一部が崩れ落ちた。

 ……さらに、焼夷弾の炎も吹き飛んでしまったという……。


「わわっ!? もう1回焼夷弾!!

 ――の前に、高級爆弾投げとこうか!!」


 近衛騎士は爆弾を警戒しているようで、炎が消えたタイミングではこちらに飛び込んではこなかった。

 それならもう一度怯ませておいて、その上で炎の壁を作り直すのが良いだろう。


「いきますっ!!」


 ドカアアアアンッ!!


 シューッ!! パチパチパチ……!!


 ルークが高級爆弾と焼夷弾を投げ終わると、出入り口には再び炎の壁が現れた。

 ……それにしてもこれ、凄い便利だね……。本当は建物を燃やすためのものなんだろうけど……。

 ちなみに燃える力が強いのは、きっとS+級だからだろう。


 そんな中、耳を澄ませてみれば炎の向こうから――


「……炎の護りを張ります……!」

「……まず私たち3人が外に……!」

「……負傷者はまず回復を……!」


 ――何やら近衛騎士の話し声が聞こえてくる。

 どうやらそれなりに、ダメージと警戒は与えられているようだ。


 しかし相手は精鋭の近衛騎士。

 このまま爆弾での攻撃や酸欠狙いで追い詰めていくのも良いが、向こうに奥の手があったらとてもまずい。

 私たちはまず、ここから逃げて生き延びなければいけないのだ。



「――それじゃ、そろそろ転送の魔法陣のところへ行こう!」


 そう言いながら、ルークに新しい焼夷弾と高級爆弾を渡す。

 ルークは出入り口に向かって焼夷弾を投げ、炎の壁を厚くした。


「私が後ろを護りますので、お二人は先に!!」


「うん! エミリアさん、もう少し頑張りましょう!!」


「はい……! 大丈夫です……!」


 エミリアさんを先へと促しながら、私たちは走り始めた。

 転送の魔法陣までは、もう少し――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「光の球……! 私たちを転送して!!」


 魔法陣の中央まで辿り着き、三人集まったのを確認してから光の球に呼び掛ける。

 アイテムに呼び掛けるなんて何だか恥ずかしいけど、今はそんなことを言っている場合ではない。


 光の球は素直に私の呼び掛けに応じて、優しい光を発した。

 それと同時に、魔法陣のいくつかのポイントが光り始める。


「――こ、これで大丈夫……?」


「そうですね……、おそらくは。

 起動までは1分といったところでしょうか……」


 エミリアさんは魔法陣に広がる光の具合を見て、そう教えてくれた。


 1分……。ここでの1分はとても大きい。……いや、1時間とか掛からないだけマシか。

 もしそこまでの時間が掛かってしまうなら、近衛騎士たちと最後まで戦わなければいけないのだから……。


 そんなことを考えていると、出入り口で燃えている炎の中から、1人の近衛騎士が飛び出してきた。

 もう!? 早ッ!!


「アイナ様、ここは私が――」


「ああ、ルーク。ここで急に、一人だけ残って足止めをするとかは無しだからね?

 そしたらエミリアさんを殺して、私も死ぬから」


「「え……?」」


 こんなときにも関わらず、二人のきょとんとした顔を獲得してしまった。

 私は『不老不死』だから死ねないわけで、自分だけを人質にしたところで……ねぇ?

 ……いや、この言葉自体、そんなに深い意味があるわけでは無かったんだけど――



「――それより残りの高級爆弾をっ!!」


「あ! はいっ!!」


 ドカアアアアンッ!!


 ルークが手に持っていた高級爆弾を投げると、近衛騎士は上手いこと後ろに避けてくれた。

 よしよし、これで時間稼ぎは大丈夫!


 足元の魔法陣には全体的に光が宿り、静かな唸りを上げて周囲の埃を舞い上げている。

 そろそろ起動するころ――


 そう思った瞬間、私はふわっとした浮遊感と共に、暗闇の中に投げ出されていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ひゃっ!?」


 突然の落下感と共に、私はどこかに放り出された。

 すぐに起き上がって辺りを見れば、ルークとエミリアさんも近くで起き上がろうとしている。


 まずは良し! ここで三人が散り散りになっていたら、それだけで悲惨な展開だったのだ。


「アイナ様、ご無事ですか!?

 ここは一体、どこでしょう……?」


 三人集まり、改めて周囲を確認してみる。

 そこは私には見覚えのある場所――


「……ここ、王都の公園……ですね……」


 以前、テレーゼさんをあちこち追い掛けて最後に辿り着いた公園。

 彼女と話をした大きな木からは離れているけど、この辺りも確かに通った記憶がある。


 夜空を見上げれば、綺麗な星々が――……って、あれ?


「……アイナさん、どうかしましたか?」


「い、いえ。何でも……。

 さて、ここからどうしましょう……」


 私が二人にそう聞いたとき――



 ガラーン…… ガラララーン……



 ――夜中だというにも関わらず、どこかから大きな鐘の音が響いてきた。


「む……これは……?

 ……この音は――緊急閉門……!!」


「緊急閉門……?」


 ルークの声に、私はそのままオウム返しをしてしまう。


「クレントスは夜間、すべての街門を閉めているので使う機会はありませんでしたが――

 この王都は夜間でも人の出入りがあるため、街門の一部は開けられているのです。今の鐘は、それの緊急閉門の合図になります」


「……タイミングを考えると、私たちを外に出さないため……だよね?」


「そう考えるのが自然です。

 それに朝になったからといって、そのまま街門が開くとは限りません。……何せ、国王陛下が――」


 おそらく死亡。そしてその王様の死に際の命令。

 日中の閉門は人の流れや物の流通に影響はあるだろうが、大罪人を捕まえるためなら――


「暗闇の神殿から何とか逃げてきたけど……王都からも……?

 ……そ、そうだよね。そりゃ、そうだよね……」


 よくよく考えてみれば、王様の支配は王都に――そしてこの国全体に及ぶ。

 王都に戻ってきたからとはいえ、そこは引き続き危険地帯なのだ。



「……迷っている時間はありません。

 アイナ様、王都から逃げましょう!!」


 ――何ともやり場のない思いを抱えながら、私には頷くしか道はなかった。

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