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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
294/911

294.それは世界に刻まれて③

 私たちの前で、赤い血溜まりに浸かった王様が細かに痙攣(けいれん)をしている。

 何人かの近衛騎士は王様に駆け寄って回復魔法を使っているが、それ以外の近衛騎士は剣を抜いて――こちらに向かって構えを取った。


「……え……? 何、これ……」


 私の口から、自然と戸惑いの声が溢れる。

 王様がああなってしまったのは『白金の儀式』で付けた条件を違反したからだ。

 しかしまさか、そうなることを承知で処刑命令を下すだなんて――



「――アイナ様!! 気を確かに!!」


 ルークの大声に、私は何とか我に返る。


「ご、ごめん。でも、どうしたら……」


「……先ほど国王陛下は、『何よりも優先し、必ず遂行せよ』と仰いました。

 おそらくは死を覚悟してのことでしょう。ならば私たちは、ここから逃げなくてはなりません」


「ここから逃げる……。

 そ、そうだ! 隣の部屋に行きさえすれば……!」


 隣の部屋の魔法陣を使って王都のどこかに転送すれば――広いところに出てしまえば、まだ何とかなるのでは……!?


「はい、その通りです。

 しかしそれには、近衛騎士たちをどうにかしなければいけません。

 ……近衛騎士は、それぞれがかなりの使い手と聞いております」


 かなりの使い手……。

 ルークはともかく、私やエミリアさんは役に立つのだろうか。

 いや、エミリアさんはまだしも、私なんて――


「アイナさん、ルークさん。ひとまず、できるだけの魔法を掛けますので――」



「――フラッシュ・ブラスト!!」



「ッ!?」


 エミリアさんの言葉の最中、近衛騎士の一人が突然叫んだ。

 叫んだ? いや、魔法だ!!


 その声が響いた直後、私たちの頭上に向けて眩い炎の球が打ち上げられた。

 それは緩やかな放物線を描いて、頂点に達しようと――


「だめ! ――バニッシュフェイト!!」


 私はすかさずその炎の球に向けて、魔法効果を打ち消す魔法を使った。

 ……それはただの直感。


 例えば戦闘の開始直後の目くらましとか――そういうものが通ってしまえば、こちらが一方的に不利になってしまう。

 逆にそういったものを潰してしまえば、もしかしたら相手に隙のようなものができるかもしれない――


 魔法を掛けられた炎の球は、放物線の頂点に達したところで、そのまま掻き消えるように宙に霧散した。



「……何? バニッシュフェイトだと……?」


 近衛騎士の誰かが、小さな声で言った。

 そもそもこの魔法はこんなに簡単に使えるものでは無い。

 私の場合は、運良くアクセサリに効果が付いたから使えるだけなんだけど――


「……アイナ様、素晴らしいです。

 私が攪乱して参りますので、その調子で臨機応変に戦って持ち堪えていてください!

 エミリアさん、支援を随時お願いします!」


「は、はい!!」


 エミリアさんの返事を聞くと、ルークは出口近くの近衛騎士に向かって走り出した。

 そして――


「剣よ、力を貸せ!! うおおおおおおおおおおッ!!!!」


 響き渡るルークの咆哮。それと共に剣――神剣アゼルラディアが輝きを放った。

 次の瞬間、眩い剣撃が宙を走る……!!。



 スガアアアアアアンッ!!!!



 ――その威力はただの剣のそれでは無い。

 一撃で近衛騎士を2人吹き飛ばし、そして神殿の床を大きく破壊した。


「……凄い……」


「アイナさん! 油断しないでくださいっ!!」


「あ、はい! ごめんなさいっ!!」


 エミリアさんは必死に、ルークと私に魔法を掛け続けてくれている。

 そうだ、私だけが役立たずではいられないのだ。


 しかし私の攻撃手段と言えば、『クローズスタン』と『アイス・ブラスト』の2つのみ。

 『クローズスタン』は相手に触れなければいけないからここでは使えないとして、そうすると残るものは『アイス・ブラスト』だけということになる。


 確かに当たればそれなりに強いが、精鋭の近衛騎士たちを相手に、果たして当たるものだろうか。

 その点、ルークは凄い。剣撃に加えて爆弾のような爆発まで起こして、何というか多才な攻撃というか――


 ……爆弾!?


 そうだ、私には魔法だけじゃない。錬金術を使った攻撃方法があるのだ。

 ここに及んで、それを使わない手は無い――


「プロテクト・ウォール!!」


 ガキイイイインッ!!


「うぇっ!?」


 とっさに激しい音のした方を見れば、背後から攻撃してきた近衛騎士の剣を、エミリアさんの魔法が受け止めているところだった。

 私とエミリアさんの周囲には円柱型をした、薄っすらと白く光る壁が作られている。

 この壁で護られていなければ、おそらくは今の一撃で終了――


 ……考えている暇は無い。お礼を言っている暇も無い。

 足も(すく)むし考えもまとまらないし――それなら開き直って、攻撃をしてやる!!


 爆弾の在庫は0。それならここで作って、順次投げ付けるのみ!!


 ――まずは高級爆弾×2!!


 バチッ バチッ



 周囲を見ると、私とエミリアさんは光の壁で何とか護られている状態だった。

 一定の距離を保ちながら、光の壁が押し寄せる近衛騎士たちの足止めをしてくれているような感じだ。


「エミリアさん、フォローをお願いします!!」


「はい!」


 私が爆弾を投げるモーションを取ると、エミリアさんは光の壁の一部を器用に解除してくれた。

 ひとまず投げた2つの爆弾はそこを飛び越えて、近衛騎士たちの方へ――



 ドカアアアアンッ!! ドカアアアアンッ!!



 大きな音と共に、強い爆風が巻き起こる。

 近衛騎士たちは当然のように直撃を避けているが、突然現れた爆弾に少しくらいは怯んでくれた。


 ……いや。実際のところ、爆弾はかなりの破壊力があった。

 そのため、再度片手に作り出した高級爆弾を見て、近衛騎士たちは明らかに警戒を強めた。



 ルークの方を見てみれば、最初の一撃以降はあまり戦果が芳しくないようだった。

 神剣アゼルラディアの威力はあるものの、どうにも剣の方に振り回されているというか……。


 もし剣を自在に操れているのであれば、もっとスムーズに近衛騎士たちを倒すことができているだろう。

 ……とすると、あまり長引かせてもダメそうだ。そもそも私とエミリアさんの方が、これ以上耐えられそうにない。


 ――そう、すでにエミリアさんの状態が悪いのだ。

 魔法を使いながら、かなり息を切らしてしまっている。


「エミリアさん、大丈夫ですか!? 何だか辛そうですけど……!!」


「……この魔法、攻撃される度に魔力を消耗してしまうんです……。

 『エコー』のおかげで何とか防ぐことはできていますが、このままでは……」


 ……なるほど。

 剣の攻撃すらも容易く防ぐ魔法なのかと思っていたら、この堅牢さは『エコー』の補正が掛かっている前提だったのか。

 ちなみに『エコー』とは、エミリアさんのイヤリングに付いている『魔法使用時、その効果と消費が2倍になる』という効果だ。


 近衛騎士たちも光の壁を攻撃し続けている。

 これは早目に対応しないと――



「ルーク!!!!」


 私が叫ぶと、ルークがいたところで一際大きな爆発が起こった。

 そしてそこからルークが飛び出してきて、私たちを囲む近衛騎士の1人を斬り飛ばした。


「お二人とも、ご無事で!!」


「ごめん、もう限界! 逃げられる!?」


「了解です! 今なら出口へ――……いけます!

 出口へ走ってください!!」


「うん! エミリアさんも、走りましょう!」


「あ、でも魔法が……いえ、もう限界です! 走ります!!」


 エミリアさんは魔法を解き、少しふらふらとしながら出口へと走る。

 思った以上に消耗が激しかったようだ。


 私も出口へ向かうが、その間もルークは近衛騎士たちと切り結んでいる。


「ルークも早く!!

 ……来るまで、逃げないから!!」


 そんなゲームみたいな別れ、絶対に許さない。

 それに、これは情けだけじゃなくて――ここでルークを欠いてしまったら、私とエミリアさんのこれからも絶望的なのだ。


 ……とは言え何人かの近衛騎士はすでにこちらに向かっているわけで……。

 そして足の速さは、私よりもずっと速いわけで――


 ――このままではやられてしまう。

 しかし、ここで爆弾を使えば自分まで――



「待てッ!!」


 近衛騎士の一人が、私目掛けて走りながら剣を構える。

 私には魔法を唱える時間も無い。密着して魔法を使う勇気も無い。


 何かここを打開できるもの――そうだ、アイテムなら一瞬で作ることができる!

 私には影響が無くて、目の前の一人だけに影響を与える何か――


 バチッ


 右手を近衛騎士にかざし、宙に作り出したのは――『熱い鉄の玉(多分S+級)』!!

 近衛騎士は剣を構えながら、10個ほど作ったそれに突進していき――



「ぐぁっ!!?」


 突然の灼熱を身体に受けて、勢いのままに地面を転がった。


 ……錬金術で『お湯』――水を熱したものが作れるのであれば、鉄の玉を熱したものが作れるのは道理だ。

 熱くて投げ飛ばすわけにはいかない代物だから、相手から突っ込んできてくれなければ当たらなかったけど――


 突然の火傷を負った近衛騎士の身体に阻まれ、その後ろを追っていた近衛騎士たちも体勢を崩した。

 その瞬間、追い掛けてきていたルークの追撃が入る――



「――お待たせしました!」


 ルークと合流することに成功して、私たちはようやく隣の部屋への出口に着いた。

 転送するための魔法陣まではまだ遠く、このまま逃げたところで追い付かれてしまう。


 残る近衛騎士は、まだ15人ほど――



「アイナ様、ここは私が……!!」


 せっかく3人揃ったにも関わらず、ルークがまた飛び出しそうになる。


「……大丈夫! 代わりにこれ!!

 下がりながら、これを出口の狭いところに投げて!!」


 バチッ バチッ バチッ


 錬金術でアイテムを作りながら、それを順次ルークに渡していく。


「これは……?」


「焼夷弾と高級爆弾!!

 調達局から依頼のあったものだけど――そういうものも、覚えておくものだね!」

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