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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
293/911

293.それは世界に刻まれて②

「エミリアさん……、『世界の記憶』っていうのは……何ですか?」


 突然全員に聞こえた、その不思議な声。

 そして告げられた神器の誕生と私の称号――


「……あ、私も詳しいわけではないのですが……。

 えっと……まず『世界の記憶』っていうのは、世界で起こったすべてのことが記憶される概念だと……、聞いたことがあります」


「世界で起こった……すべての……?」


「はい。大雑把に言ってしまえば、この世界自体が作成する歴史書というか……?

 例えばこの世界を生き物とするなら、その生き物が持っている記憶……というか」


 ……自動セーブ機能みたいな?

 いや、それは違うか……。どちらかと言えば、行動ログみたいな感じだろうか。


「エミリアさんは、それをどこで知ったんですか?」


「昔の伝説を調べていると、ごく稀に出てくるんです。

 ……ただ具体的なことまでは触れられていなくて、名前や抽象的なことだけが残っているような感じでして……。

 でもまさか、こんなにはっきりとした声が聞こえるだなんて……、まったく思っても……?」


 エミリアさんはそう言いながら、身体を小刻みに震わせていた。

 『竜王』の存在に続いて『世界の記憶』という超越的な存在――


 そんなものが間を空けずに現れてしまっては、無条件に恐ろしくなってしまうのも無理はないだろう。

 ……私はいまいち実感が湧かないから、まだ落ち着いていられる気はするけど……。



「確かに私もレアスキルを覚えるとき、何となく声が聞こえてきたことはありましたけど――

 光竜王様の『神竜の卵』っていうレアスキルは、二人とももらったんですよね? そのとき、声って聞こえました?」


「私は聞こえました。

 ……突然のことだったので、驚いてしまいましたが……」


「私も……聞こえました。

 でもアイナさん、あれは覚えた本人だけにしか聞こえないんですよね……?」


 その言葉、エミリアさんの言葉に私は耳を疑った。


「……え? 『世界の記憶』の……さっきの声は、違うんですか?」


「はい…。あの声は『世界の声』と呼ばれるものなのですが……、全員に聞こえると伝えられています……」


「全員? ……何の全員?」


「…………この世界に生きる、全員です……」


「――は?」


「この世界で起こったことの記憶……それが『世界の記憶』。

 その中でも最も重要なことは、『世界の声』として……その世界に生きる者に告知がされるそうです。

 ……『神の啓示』や『神託』などとも呼ばれることがありますが、ここまでのものがまさか……」


「神器が作られるのって、そんなにも重要なことなんですか?

 でも、そうしたら他の神器だって――」


 ……作ったときに、『世界の声』が聞こえたはず。


 ――そこまで考えると、私の記憶の中で引っ掛かるものを見つけた。

 それは以前、錬金術師ギルドの図書館で見つけた『神器作成』という本。

 神器作成に関連する伝説として、確か――


 『神の刃が誕生したとき、生きとし生けるものが祝福を与えた』


 ――そんな記述があった気がする。

 そのときは何も思わなかったけど、エミリアさんの話と照らし合わせると、これが『世界の声』と捉えることもできる。

 ……つまり神器を作るということは、昔から大事(おおごと)だった……ということなのだ。



「ははは……。世界の人、全員に……ですか……?

 ……それは、参っちゃうなぁ……」


 神器を作成することは、今までは信頼できる人にしか話してこなかった。

 しかし『世界の声』によって、今は誰もが知ることになってしまった……?


 それならば、これからは神器を狙われることもあるだろう。

 しがらみもたくさん生まれてしまうだろう。

 周囲の目だって、ずっとずっと変わっていくだろう。


 ……そんなことを考えると、私は強い目眩(めまい)を感じてしまった。


「アイナ様、大丈夫ですか!?」


「……ああ、うん……。

 光竜王様が言っていた『試練』っていうのは……これ、なのかな……?」


 私の言葉に、二人は何も返す言葉を持たなかった。

 大きな力を手に入れた代償。それはあまりにも大きいということだろうか。



「――大きな力……。

 そういえばその神器……神剣アゼルラディアって、どれくらい強いのかな……?」


「はい……、かなりの力を感じます。具体的には分かりませんが、本格的に使う前に、少し慣らしておきたいところです」


「……あ、それならアイナさん。色々と区切りも良いですし、明日……いえ、明後日あたりに何か依頼を受けてみませんか?

 ルークさんの腕と神器が組み合わされば、それこそ無敵でしょうし……」


「そうですね……。ひとまず、そうしましょうか」


 私が力無く言うと、二人とも同じように頷いた。

 今日はもう疲れた……。明日はしっかり休んで、明後日から動くことにしよう……。



「それではアイナ様、そろそろ戻ることにいたしましょう。

 この部屋の力も弱まってきたようですし……」


 ルークが周囲の様子を窺いながら、静かに言った。

 この部屋を埋め尽くしていた暗闇はいつの間にか薄らぎ、どこからともなく明るい光が射し込んできている。


 改めて部屋の中を眺めると、かなり広くはあるものの、広いだけの部屋にも見えてきてしまう。


「――光竜王様に会う前はかなり広く感じたけど……何かの術で、そうしていたのかな……?」


 まるで手品の種明かしをされたかのように、何となく気が抜けてしまう。


「そうかもしれませんね。光竜王様の力は凄いものでしたし……」


「……その辺りはあとにして、ひとまず戻りましょう。

 アイナ様もエミリアさんもお疲れですし、まずはゆっくりと休まなければ」


「えーっと……。戻るには隣の部屋で、光竜王様から頂いた光の球を使えば良いんでしたっけ?」


「はい、そういう話でした。……それじゃ、戻りましょうか。

 ……あ、その前に――」


 私はアイテムボックスから光の球を取り出して、改めて光竜王様の亡骸を向いてから――そして深くお辞儀をした。

 ルークとエミリアさんもそれに倣い、しばらくの時間をそうしたあと……私たちはゆっくりと、隣の部屋に向かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ッ!!」


 隣の部屋への出口のところで、私たちは思い掛けない人物に遭遇した。

 それは――


「アイナ様、お下がりください!」


 ルークが慌てて、私とその人物の間に割って入る。


「……やはり、ここにいたか……。

 魔法陣の起動を邪魔していたのも、お前たちか……?」



 忌々しいように言葉を紡ぐのは――ヴェルダクレス王国の国王、ハインライン17世だった。

 鬼のような形相を見せる彼の後ろには、30人もの近衛騎士たちが続いていた。


「こ、国王陛下……っ!!」


 とっさに私は後ずさりをしてしまう。

 王様からすれば私がここにいること自体、歓迎できることではまったく無いのだ。

 彼の視線は私に強く向けられ、そして私たちの後ろに移っていき――



「…………ぬ、ぬぁ!!? あ、あああっ!!?

 光竜王……!! おおおっ、おおぉお……っ!!!?」



 王様は狂ったような声を上げながら、その場に崩れ落ちた。

 しかしその視線は、光竜王様の亡骸に釘付けになったままだ。

 何人かの近衛騎士が王様に駆け寄り、気を確かに持つように言っている中で――


「……ひふっ……。

 我が王家が……これまで守り続けてきた……。この国の……加護……が……。

 殺し……た、のか……? 竜王……殺し……を……?

 な、何という……こと……を……。何ということを……して……くれた……ッ!!」


 王様はゆっくりとこちらを向きながら、凄まじい形相で私たちを睨み付ける。


「この若造の……剣が……? 新たな、神器……だと……?

 こ、こんなもののために……我が光竜王を……!?

 私の……私の代、で……!!?」



 気が付けばその場にいる近衛騎士たちが全員、いつの間にか私たちを取り囲んでいた。

 転送のための魔法陣は隣の部屋だ。私たちが帰るには、そこをどいてもらわないといけない。


 何とも不穏な空気が漂っている中、唯一の安心材料は『白金の儀式』のときに王様に付けた条件だ。

 王様は私たちに手出しをすることができない。手出しをすれば、王様自身に致死ダメージが与えられてしまうのだから。


 従って、ここは王様には申し訳ないのだけど――



「……親愛なる近衛騎士たちよ。

 これより我が命令を伝える……。何よりも優先し、必ず遂行せよ……」


「……御意に」


 王様の震える声に、一番近くの騎士が答えた。

 そして次の瞬間――



「――アイナ、ルーク、エミリアの三名を処刑せよ!!

 必ず殺せッ!! 我がヴェルダクレスに仇成す者に死を――」



 グシャァ……!!



 ――言葉の途中で、王様は身体中から血飛沫を放ち……そして、自身の血の海に沈んだ。

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