291.神器誕生
「――これで最後ッ!!」
ルークの声と共に、光竜王様の身体に突き刺さっていた最後の柱が斬り飛ばされた。
ドズウウウゥウン……。
柱の上部は地面に落ち、そして崩れる。
光竜王様に突き刺さっていた柱の残りの下部は、何かの力を失ったように、塵のように宙に消えていった。
改めて光竜王様を見ると、やはり大きな傷口が痛々しい。
身体にぽっかりと空いた幾つもの穴……。本来なら死んでもおかしくないレベルの大怪我だ。
「私が今、薬を――」
「……それには及ばぬ……。ふん……っ!」
光竜王様が身体に力を込めると、無惨に空いていた傷が見事に癒えてしまった。
まさに一瞬。魔力なのか神力なのかは分からないけれど、とんでもない回復力だ。
「――凄い……!」
その光景に思わず声を出してしまったのはエミリアさんだった。
回復魔法を使う彼女だからこそ、その凄さが一番理解できたのだろう。
しかしそんな力を持ちながらも、光竜王様は過去に『勇者』という存在に負けてしまっているわけで――
「……大変失礼ながら、光竜王様を倒した勇者というのも――化け物ですね……」
「ふはは……。後にも先にも負けたのは1回きりだがな……。
だが次はこの経験をもとに、さらなる力を得て見せよう……」
光竜王様も大概にポジティブである。
いや、自身の転生を前にして、それなりにテンションが上がっているのだろうか。
「ところで……光竜王様。
私はこれから、どうしたら良いのでしょう……?」
「……うむ。まずは我が封印を解いてくれた礼を言おう。
アイナよ、ルークよ、エミリアよ。……心から感謝する」
「私は何もしておりませんが……」
ぼそっと呟くエミリアさん。
「エミリアさんはルークに支援魔法を掛けていたじゃないですか。
むしろ私こそ、封印に関しては何もしていませんよ?」
「アイナさんは、封印を解くって決めたじゃないですか……」
「……え? ああ、なるほど……」
思い掛けず、何となく納得感のある返事をもらってしまった。
確かに、そういう考え方もあったか……。
「――さて……、封印が解けたことにより、我が転生の準備は問題が無くなった……。
次は神器作成に進むのだが……ここで注意することがあるな……」
「え? それは一体……?」
「……お前は錬金術を、すべてアイテムボックスの中で完結してきたのだろう……?
だが今回の神器作成には、『宣言』――つまり呪文のようなものだが、これが必要になる……」
「はい。一応、暗記はしていますが……」
「……それは、アイテムボックスには入らないであろう?」
むむ……。確かに……。
声なんて結局は音波だから、そんなものを入れることなんてできないよね……。
「そ、そうすると……いつものようには作れない……と?」
「……いや、宣言と魂の工程は最終段階になるからな……。
それまでの工程をいつも通り行い、最後に宣言を行いながら魂を吹き込めば良いだろう……」
「えっと……。宣言は大丈夫そうなのですが、魂を吹き込むというのはどうやって……?」
頑張りや掛け声だけで吹き込まれてくれれば良いんだけど、多分そういうことじゃないよね……。
それにこんな場所では、何の設備も無いし――
って、あれ? そういえば……?
「……今更で恐縮なのですが、神器って……ここで作るんですか?」
「うん……? 我が転生するのにも条件があってな……。
この場所以外であれば、遠い場所にまで行かなければいけないのだ……」
む、むぅう……。
やっぱり後日――なんて言い始めたら、またここまで来なければいけないのか。
それはそれで大変だし、そもそもまた来られるのかどうかも分からない。
それに――
「私たちはここから戻る方法を知らないのですが、それはどうすれば良いのですか?」
「……我の命が尽きれば――つまり転生を終えれば、この空間も消滅しよう。
外の世界との位相が合わさり、近くの場所に放り出されるはずだ……」
「そうでしたか。
それでは光竜王様が転生したら、しばらく待っていれば良いのですね」
「……いや。それではまずいな……」
「え?」
「その『近くの場所』というのがまずいな……。
……お前にはこれを渡しておこう……」
光竜王様はそう言うと、私の目の前に不思議な光の球を作り出した。
「これは……?」
「……この部屋の前の部屋に、魔法陣があったであろう?
その中央で、その光に祈りを込めるが良い……。王都のどこかに飛ばされるはずだ……」
「あの魔法陣って、そういう使い方だったんですね!」
「うむ、他にも色々とあるのだがな……。主には転送のためにあるようなものだ……。
……さて、それでは準備ができ次第、我に声を掛けるが良い」
光竜王様は、何だかゲームのNPCのような台詞を言って会話を終わらせた。
そんなことを言われると、倉庫でアイテム整理をしたり、宿屋に泊まったりしたくなってしまうけど――残念ながら、ここにはそんなものは無いわけで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――準備ができました!!」
光竜王様をしばらく待たせておいて、ルークとエミリアさんと色々と喋ってから――何とか心の落ち着きを取り戻した私はそう告げた。
時間なんてもう22時頃だったりする。今日はすごく働いているなぁ……。
「ふむ……ようやくか……」
「す、すいません!?」
「……いや、すまんな……。我も転生を楽しみにしているのでな……」
「や、やっぱりすいません!?」
私は何度も光竜王様に謝った。
しかし何だかんだで、光竜王様とは最初よりも親しく話している気がする。
……神様の眷属に、それは良いのかどうかは疑問なんだけど……。
「……それでは始めよう。
ここからは時間との勝負ということもある……。速やかに行うぞ……」
光竜王様は深く呼吸をしてから、低い声で呪文を唱え始めた。
それは長く、速く、かなり複雑なものに聞こえる。
そして徐々に、光竜王様の周りを魔法陣が取り巻いて――そして最後に、光竜王様が眩く輝き始めた。
「――アイナよ、今だ……!」
「は、はい!!」
素材良し! 手順良し! それじゃ――
れんきーんっ
ズガガッ!! ガガガァアアアンッ!!!
「……ふぇ!? え、えええぇ!?」
錬金術を使った私の前に現れたのは、激しい光と稲妻を撃ち放つ『なんちゃって神器』の剣――
光は闇を照らし、稲妻は部屋中に飛び散り続ける。
剣は私の手の上を揺らめくように浮かび、とんでもない熱を放っている……ッ!!
で、でも何でこんな感じなの!? か、かんてーっ!?
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【未知の剣(F+級)】
多くの可能性を秘めた剣。
刻まれる意思によって、様々な可能性を示す
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あああ、何も分からないし!!?
っていうか、まさかのF+級……!? そ、そんなあああああっ!!!!
「……それでは我が魂より『光竜の魂』を錬成し、その剣に吹き込もう……。
アイナよ、これより宣誓を行うが良い……」
「は、はい……ッ!!
調和と力の宣言――……我が支配を受けるすべては、調和と力をその主に示すべし!
浄化の光は邪悪を打ち消せ! 輝ける光は闇を打ち消せ! 命の喜びは死の悲しみを打ち消せ!
神の理を以って、すべてをここに集約することを――」
『――理想補正<錬金術>を使用しますか?』
「えっ!?」
突然頭のどこかに響いた声。
『理想補正<錬金術>』は私の持っているユニークスキルのうち、使い道の分からない最後のもの――
辺りを見回す余裕など無い。
おそらくは誰かじゃない、私のスキルたち――『極限の創造技術』がそんな選択肢を出したのだろう。
そうであれば……!
――使用する!!
そう念じた瞬間、目の前の剣に大きな力を宿るのを感じた。
結果オーライなのであれば、ひとまず次――
「自由意志の宣言――……世界を象る七と九の根源よ!
我が意のままに法則を折り曲げ、新たなる法則を創り出せ!
現象、生命、概念の形象を捉え、我が支配に透明なる翼を――」
私がそこまで唱えると、光竜王様がその大きな手を輝く剣にかざした。
「……我が眷属よ、ここに生まれ……そして、宿れ……!!」
光竜王様の言葉が終わったその瞬間――
パアアアアアアアアンッ!!!!!
――何かが弾ける音がした。
その剣は光と稲妻を放つのを止め、周囲は徐々に静けさを取り戻していった。
そして私の目の前で、その剣は光と共にゆらゆらと浮いている――
思わず剣に手を差し伸べてみると、まるで幼児が母親に近寄るように、ゆっくりと私の手の中に収まっていった。
それはまるで生きているように温かく、未来を照らすように明るくて――
……私が目指してきた神器。
それがついに、完成した瞬間だった。




