29.復帰祝い
その夜、私たちはランドンさんの家にお邪魔した。
今朝方にお見舞いしてもらったとき、今晩是非にとお呼ばれしていたのだ。
「おお、アイナ様。ようこそいらっしゃいました!
大したものは用意できなかったのですが、ごゆっくりしていってください」
食卓に並ぶごちそう。つまり私の復帰祝いである!
お呼ばれしたのは私とルーク、エミリアさん。
他にいたのはランドンさん、バイロンさん。それに加えて台所と食卓を往復しているこの二人の奥さん。
「あ、バイロンさんは初めましてですね。アイナです、よろしくお願いします」
「ははっ! アイナ様、この度は大変お世話になりました……っ!」
私が話しかけるとバイロンさんは恐縮して返事をする。
「いえ、私だけの力では無く――バイロンさんは聖職者の方を連れてきてくださいましたし、ランドンさんにも迅速な対応を色々として頂きました。
エミリアさんも村の浄化と私の看病をして頂きましたし、奥様方もみなさんを力強く支えていらっしゃいます。
この村の疫病がひと段落したのは、皆さんの力あってこそです。どうか、それを忘れないでください」
THE・余所行きの挨拶!
まぁ何様? って感じもしなくはないけど、実際に助けてるから良いよね。
あ、そうだ。それと――
「ルークも、ありがと」
ここは小さな声で囁く。ルークは身内扱いだから、ここでは余所行きの挨拶には入れないのだ。
「ありがたいお言葉です……。ささ、それでは食事にいたしましょう!」
ランドンさんから席に促され、お食事会が始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
メニューは野菜料理に肉料理、スープなどと一通りある感じ。
宿屋の夕食よりも種類が多く、彩りに溢れていた。うーん、頑張って作ってもらった感がすごくある。
まずは野菜料理に手を伸ばす。
色々な具材が入った煮物。それぞれの野菜の味が良い味出してるなー。
肉料理はそのまま肉! という感じじゃなくてハンバーグみたいな感じ。
なかなかに香辛料が利いていてスパイシー。何種類かあって、味の違いが面白い。
スープは落ち着いた味。味覚をリセットする縁の下の力持ち。そしてふんわりと癒しを与えてくれる。
「うーん、とっても美味しいです!」
私の感想にランドンさんが胸を撫で下ろす。
え、もしかして口に合わないんじゃないか……とか、不安にしてた感じ?
「それは良かったです! まだまだご用意してありますからどんどんお食べください。ルークさんとエミリアさんもご遠慮せず!」
横を見てみればルークはあまり食べていない。
「あ、私に遠慮しないでたくさん食べちゃって良いよ。私、小食だから」
「そ、そうですか? それでは――」
ルークは少し申し訳なさそうに料理に手を伸ばし始める。
いや、そんなところで遠慮されても困るわけだが……。というかしっかり体力付けて、私を護ってください!
「エミリアさんも、それだけで大丈夫なんですか?」
あまり食べてないなぁと思いつつ話を振ると、エミリアさんは困ったような顔を見せた。
「うう……」
「え!? だ、大丈夫ですか!?」
「た、食べて良いのですか……?」
「「「「え?」」」」
一同、きょとんとする。
「えーっと……大丈夫……ですよね?」
ちらっとランドンさんを見る。
「も、もちろんですよ!? エミリアさんにもとてもお世話になったわけですから……!」
「あ……そういう意味ではなく――」
エミリアさんは尚も何かを言い掛けるが、ランドンさんとバイロンさんは強く食事を勧める。
「そ、それでは……ありがたく頂きます……!」
「どんどんお食べ下さい。足りなければ追加しますので」
そして食事は続く――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……えーっと。
隣の席で、エミリアさんが超食べている。
それはもう、気持ち良いほどの量を食べている。
もしかして、職業はフードファイターだったの? ってくらい食べている。
「エミリアさん……すごいですね……」
「はい、とても美味しいです!」
どうにも話が噛みあっていないが、エミリアさんは幸せそうだしまぁ良いか。
そのおかげで追加の注文が入り、台所は忙しそうに現在進行形で回っているのだが。
「ルークはもう大丈夫なの?」
「ええ、腹八分目です。私はこれで十分頂きました」
ふむ、自制がしっかり出来ていて尊敬してしまう。
私は小食とはいえ、もうお腹いっぱいで動きたくないし。
「――そういう感じだと、エミリアさんは今どれくらいなんですか?」
「えぇっと――言わなきゃダメですか……?」
一同、何やら不安がよぎった。
もはや食事はエミリアさんしか食べておらず、他の面々はそれを眺めている感じになってしまっていた。
エミリアさんに視線が集中しても可愛そうだから、別の話でもしようかな。
「そうそう、ランドンさん。お話があるんです」
「はい、なんでしょう?」
「これを見てください」
そう言いながら、私はセシリアちゃんが作った木彫りの置物を机に置いた。
「これは……セシリアの木彫りですか?」
「ご存知ですか?」
「ええ。街に行商に行くときはこれも入れていますから。本人曰く『可愛い』らしいのですが、私にはどうにも……」
「いえ、可愛いですよ」
「えっ!?」
「可愛いです」
「……そ、そうなんですか? そ、そう言われてみれば……まぁ、可愛げもある……のか? バイロン、お前はどうだ?」
「え、あ、はい。いや、えーっと、そう言われてみれば……」
「可愛いですよね?」
私はにっこりと二人に微笑む。
「ところで、この村はこれからも農業を続けていくんですよね?」
「はい、この村にはそれしかありませんから……。それが何か?」
「ちょっとしたものを作ってみたんですが――」
私はアイテムボックスから瓶をひとつ取り出して机に置く。
「この薬は……何ですか?」
「野菜用の栄養剤です」
「は……? 野菜に、栄養剤ですか……?」
「はい。具体的にはこういう効果があります」
そう言いながら鑑定スキルを使い、宙にウィンドウを出す。
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【野菜用の栄養剤(S+級)】
野菜に活力を与える。
品質向上(小)、病気耐性(小)
※追加効果:品質向上(極大)、病気耐性(極大)、成長速度増加(大)
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ドヤァ……!
ちなみにこれを作ったらアイテムボックス内の薬草系の素材がほとんど無くなったのだけど、逆にいえばそれだけすごい効果があるのでは無いだろうか。『極大』なんて初めて見たし。
「こ、これは何ともすごい……!」
「こんなの……初めて見ましたよ、村長……」
「もぐもぐ……S+級……アイナさん、すごい……もぐもぐ」
「質で勝負する野菜を作ってみてはと思いまして」
その言葉にランドンさんとバイロンさんが驚く。
「え? もしかして……これを譲って頂けるのですか!?」
「はい、もちろんそのつもりですが――無料ではありませんよ?」
「あ、そ……そうですよね! おいくらくらいでしょうか……?」
「100……ですね」
「え……? き、金貨100枚ですか……?」
「アイナ様、さすがにそれは――」
ランドンさんとバイロンさんは口々に言う。
「この木彫り100個で、買い取って頂けませんか?」
「「は?」」
二人の視線は、にっこりと微笑む私の手の中の木彫りの置物に注がれた。
*2018/04/16 21:30 誤字修正




