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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
289/911

289.暗闇の神殿④

「――光竜王……」


 私の目の前、巨大な竜は自身をそう名乗った。

 竜王とは神の眷属、世界に6体いると伝えられる高位の存在――


「……我にお前たちを害する意思は無い。

 若き剣士よ、剣を収めて楽にするが良い……」


 その言葉にルークは柄を握る力を強めるも、すぐに剣を地面に置いた。


 怒りを買って攻撃でもされようものなら、それこそどうなるか分からない。

 ルークは私たち以上に光竜王の気配を感じているのだから、素直に従った判断は賢明なのだろう。


「……失礼いたしました。

 鞘がありませんので、地面に置かせて頂きます……」


 その様子に、光竜王は満足そうに頷いた。



「――えっと……。光竜王……様、お目に掛かれて光栄です。

 私はアイナ・バートランド・クリスティア。突然の訪問を失礼しました。

 ……まさかここに、光竜王様がいらっしゃるとは思わず……」


 とりあえず私は挨拶とご機嫌伺いをすることにした。

 それに相手は神様の眷属。呼び方もこれからは光竜王様……としておこう。


「ああ、よく知っておるよ……。『白金の儀式』の様子は我も見ておったからな……」


「え? そ、そうなんですか?」


「うむ……。この大陸の出来事であれば、我は意識をすればどこでも見ることができる……。

 ――特に最近は、ヴェルダクレスの人間が色々と動いておったからな……」


 ヴェルダクレスの人間……というのは、話の流れからして王様やオティーリエさん、それに与する王族の人たちだろうか。


「そ、そうでしたか……。

 ――あ! こちらの二人は私の仲間です」


 私は思い出したかのように、ルークとエミリアさんを紹介することにした。

 二人はそれぞれ深々とお辞儀をしたが――特にエミリアさんは、それこそ拝むような勢いでお辞儀をしていた。


「……ルークにエミリアよ。お前たちも、アイナを支えてよくここまで来てくれた……。

 いつかここまで来るとは思っていたが、まさかそれが今日という日だとはな……」


「あ、あの、すいません……。光竜王様、そういえばここはどこなのでしょう……?」


 私の素朴な質問に、光竜王様は少し間を空けてから言葉を続けた。


「……ふむ。どこから話すとするか……」


「え!? あ、もし良ければということなので、あまり無理をなさらなくても大丈夫です!」


「まぁ、そう言うな。我も誰かと会話をするのは久し振りなのだ……。

 ……ハインライン17世のヤツが戴冠したとき以来だから、もう20年ほどにはなるか……」


「20年も……? そんなに長い時間を、この神殿で――」


 ……おそらく光竜王様ともなれば、時間の感覚は普通の人間とは違うのだろう。

 しかしその感覚は私には分からないのだから、やはり20年を孤独に――というのは辛いことに聞こえてしまう。



「……そうだな。まずはやはり、この場所のことから話すことにしよう……。

 ここはお前たちがいたヴェルダクレス城の、大雑把に言って地下に位置する。多少、位相は違うがな……」


「位相……?」


「『少し空間が捻じ曲がった場所』……。そんなふうに捉えれば良い」


 ……うーん? よくは分からないけど、普通では行けない場所ってことかな……?


 空間の話になると、私はどうにもよく分からなくなってしまう。

 いや、アイテムボックスで異空間にはアクセスしてるんだけど、それはスキル頼みでやってるから――知識としては全然、という状態なのだ。


「そうしますと、ここには誰も来られないのですか……?」


「いや、昔からヴェルダクレスの国王が変わるときにな……1回だけ挨拶に来るのだ。

 ……特に何をするというわけでは無いのだが、我の加護を得るという名目でな……」


「つまり、お城かどこかからは来る方法があるんですね」


「うむ。それともう1つあるのだが――

 ……まぁそれは良かろう。現実的に、とても難しい話だからな」


「はぁ……、そういうことでしたら……。

 それで光竜王様は、この神殿で何をなさっているのですか?」


「……我の身体を見て、何を考える?」


 そう言われて、改めて光竜王様の身体を眺めてみる。

 何とも美しい竜鱗と肌に、何とも威厳のある居振る舞い。


 これこそ竜。ドラゴン・オブ・ドラゴンズ!!

 ――どんな伝説に出てきたとしても、光竜王様が見劣りすることなんてことは無いだろう。

 むしろ伝説の方が、箔を付けることができそうだ。


 しかし、最初に見たときに思ったことなのだが――


「……柱? ……柱が、何本も刺さっているように見えますが……」


 それはまるで板に打ち込む釘のように、光竜王様をその場に繋ぎとめているようにも見えた。


「――そうだ、忌まわしきはこの柱よ……。

 ヴェルダクレスが建国される前に、我はこの地に封じられたのだ……」


「え!? 封じられた……!?」


 思わずエミリアさんの方を見ると、彼女はそんなことは知らないといったように首を横に振った。

 事実がすべて表に出てくるとは限らない。これはいわゆる、隠された過去というやつなのだろうか。


「……しかしそれも、300余年前のことだ……。

 当時はようやく人間の世も落ち着いてきたころでな……。強き者も多く現れ、そして消えていった。

 勇者や英雄といった存在を多く輩出した時代でもあったよ……」


 『勇者』……?

 それはまるでゲームのような響き。今まで『英雄』という名は何回も聞いてきたけど――


「……すいません、『勇者』というのは何ですか?」


「神の加護を得た戦士――それを我らは、『勇者』と呼んだ……」


「……光竜王様、お言葉を失礼いたします。

 そうしますと、アイナさんは絶対神アドラルーンの加護を得ているのですから――

 アイナさんも『勇者』になるのでしょうか」


「ふふふ……。あるいはそうかもしれぬな……」


 エミリアさんの言葉に、光竜王様はどこか含みを持たせる感じで静かに言った。

 ……でも私、戦士というほどには強くないし? おそらくは『勇者』なんていう肩書きは無いだろう。

 鑑定しても、そんなのは出たことが無いからね。


 ちなみに余談だが、『英雄』というのは人間の世で活躍した人のことだ。

 何らかの偉業を達成するか、既にある神器を所有するに至るか――確かどちらかを達成すれば、その称号が手に入ると聞いたことがある。


「……大変な時代だったんですね。

 つまり、光竜王様はそんな時代に封じられてしまったと……。

 でも、一体誰に……?」


「かつての勇者、ヴェルダクレス王国の初代国王となる者だ……。

 ……ヤツは強かったよ。気持ちの良いくらいの負けっぷりであったわ」


 私の疑問は即座に解決された。

 なるほど。だから戴冠の時に一度切りとはいえ、歴代の国王が光竜王様に会いに来るのか。


「……大変聞きづらいことなのですが、光竜王様は何故封じられたのですか?」


「この地に加護を満たすため……だな。

 そんなことをせずとも、我はずっとそうしようと思っておったのだが――

 人間、不信に陥ると何をするのか分からんものだ……」


 そう言うと、光竜王様は大きく笑った。

 そしてひとしきり笑ったあと、今度は私をまっすぐに見てきた。



「――さて、アイナよ。そろそろ本題に入るとしよう……」


「え? 本題、ですか……?」


「……そうだ。お前はここで、手に入れたいものがあるのだろう……?」


 その言葉を受けて一瞬考えてしまうも、私たちがここに来た理由は1つだけだった。


「『光竜の魂』が――……ここにあるのですか?」


「それは無いのだがな……。もっと良いものがあろう……?」


「え? もっと良いもの……?」


 それって一体――

 そう思った瞬間、すぐに答えを出されてしまった。


「……我の魂、『光竜王の魂』だよ」


 私はその言葉に耳を疑った。

 確かに『白金の儀式』の女神様は、『上位互換の存在』を(ほの)めかしていた。


 私はてっきり『アイテム』を想像していたのだが、まさかそれが『まだ生きている竜の魂』を指していただなんて……。

 しかもそれを手に入れるためには、光竜王様を殺さなくてはいけないのではないだろうか。


「……申し訳ありません。さすがに神の眷属である光竜王様を……その――」


 何と言って良いか分からず、私は言い淀んでしまう。

 仮に殺す覚悟があったとしても、それはそれで勝てる気がまったくしないのも本当のところだった。


 いくらこの場に封じられているからと言っても、いくらルークに必殺技があると言っても――光竜王様を倒すのは、きっと難しい。



「――ふふふ、良いな。……実に良い」


「え?」


「……アイナよ、お前は新たな神器を作るつもりなのだろう?

 神器は圧倒的な力の他に、新たな可能性を作り出す存在。……お前のこれから進む未来が、実に興味深い……」


「あ、ありがとうございます……。

 光竜王様にそう言って頂けると、とても心強いです……!」


 そもそも私が神器を作ろうとしているのは、『私が作りたいから』というのが理由だ。

 他の誰のためでもなく、完全にすべてが私のため。


 しかしだからこそ、光竜王様という上位の存在にそれが認められたことは、私にとってはとても嬉しいものだった。



「――よし、決めたぞ……。

 我が魂、その神器に捧げることにしよう……!!」


「……は? ……いえ、あの……光竜王様……?

 何だか話が飛躍していませんか……?」


 突然の申し出に、私は怯んだ。


 気に入ったから自らの魂を捧げる――

 いやいや、それって……何だろう? 自己犠牲が過ぎるというか、何というか……?


「……アイナよ、安心するが良い。

 我にもメリットはあるのだ……。いや、むしろメリットしか無いな……」


 光竜王様は何かを納得しながら、笑いながら言った。

 さすがに神様の眷属の魂なんて、気軽にもらうわけにはいかないんだけど――

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