287.暗闇の神殿②
しばらく休んだあと、私たちは再び暗闇の中を歩き始めた。
進んでも進んでも暗闇。
そして進む方向も、ルークの感覚頼みだ。
「……ちなみにエミリアさんは、何か感じたりしてますか?」
「そうですね……。何となく、魔力のような流れは感じますけど……。
いや、でも……魔力……なのかな……?」
エミリアさんの答えも、何だか少しあやふやだ。
何かしらの力が流れてはいるようだけど、魔力ではない。……しかし、似たようなところはあるようだ。
「……うーん? ちょっと不思議な力なんでしょうか。場所自体もそんな感じですし……」
――不思議な力。それは何とも、結論の出ないときには便利な言葉だ。
そもそも魔力だって、魔法を使わない限りは分かり難いものだし……。
しかしどちらにしても、感じられるのは単純な魔力ではないようだった。
「……神殿に、何かがいるんですかね?」
「そうですね……。アイナさんは『光竜の魂』を求めたわけですから、それがあるとして――
何者かがそれを護っていたり?」
「むぅ……。条件がどうのこうの言ってましたし、もしかして戦うことになるんでしょうか。
『これが欲しければ我を倒してみよ』的な感じで……」
「うわー、ありそうですね。
そうしたらいつも通り、ルークさん頼りになってしまいますが……」
「――すいません、アイナ様。エミリアさん」
「うん? どうしたの?」
「その……。実は私の剣ですが、お城で没収されておりまして……」
「「え」」
……そういえば、ルークは剣を持っていない。
確かに手枷を付けられるくらいだから、剣なんて没収されていて当然なんだけど――
「その剣って、ずっと使っていた剣ですよね。うーん、あとで返してもらいに行きましょう!」
「でも、まずはここから出ないといけませんからね。もしこの先で戦闘になったら、その時点で武器が無いわけで……。
『なんちゃって神器』の剣も、今のところナマクラだから使えないし――」
……しかし、一応それなりの武器は錬金術で作れるのだ。
れんきーんっ
バチッ
いつもの音と共に、私の手には何ともシンプルな剣が作られた。
「――こんなのならあるけど、使える?」
「ありがとうございます。
……長さもちょうど良いですし、使わせて頂きます」
「おぉー。アイナさん、鍛冶屋にもなれるんじゃないですか?」
「でも、本職が作ったものにはやっぱり及ばないですよ」
実際のところ私の作る剣は、金属の塊を剣の形にしただけのようなものなのだ。
日本刀の『折り返し』みたいな繊細な技術は入れ込むことはできないし、同じような感じの鍛冶の技巧は取り入れることができない。
鋳造で作る感じのものならちゃんと作れるんだけど、それ以上のものは難しい……っていう感じかな?
――でも、管轄外の鍛冶がそこまでできるんだから、ひとまずは十分だよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再び暗闇の中を歩いていくと、徐々に寒気のようなものを感じてきた。
「……何だかちょっと、寒くない?」
「アイナ様、さすがです。気配の元に、ずいぶんと近付いてきましたからね」
「ああ、そっちが理由……? もう夜だろうし、てっきり気温が下がってきたのかと思ったんだけど……。
そういえば今って何時かな。――クロック!」
時計の魔法を唱えると、時間を示すウィンドウが宙に現れた。
「――18時過ぎ……かぁ。
でもここ、時間がよく分かりませんよね。遅い時間だから暗いってわけでもありませんし」
「最悪、一晩過ごすことになりそうですね。
……いえ、脱出方法が分からないから、何日かいることになるかもしれませんけど……」
「うえぇ、それはちょっと勘弁して欲しいです……。
でも、もう少しで多分神殿に着くんだよね?」
「神殿かどうかは分かりませんが、ここの主要な場所であることは間違いないでしょう」
「そっかー。ぱぱっと素材が手に入って、ぱぱっと出られれば良いんだけど――」
「――……む!? おお……」
引き続き話をしながら歩いていると、不意に先を歩くルークが驚きの声を発した。
「どうかしたの?」
「はい、アイナ様の位置からもう少し進むと……ちょっと進んで頂けますか?」
「え?」
不思議に思いながら、ルークの横あたりまで進んでみる。
すると――
「う、うわぁ!!?」
私の目の前に、突然巨大な神殿のような建物が姿を現わした。
まさに、突然。……これは正直、心臓に良くないレベルだ。
「どうやらこの辺りまで進むと、突然見えるようですね」
「……なるほど……。それにしても、大きい建物……」
「え? え? 二人ばっかりズルいですよ!
私も進んで良いですか!?」
「はい、エミリアさんもどうぞ」
ルークの言葉に、エミリアさんも私の横まで歩みを進める。
「――わっ!? わわっ!!
おぉー!!」
恐らく神殿を目の当たりにしたエミリアさんは、ひたすら感嘆の声を出していた。
何だか面白いというか、とても可愛らしい。
「これでようやくゴールが見えてきましたね!
神殿の中も広そうですけど、どこかには何かがあるでしょうし」
「そうですね。神殿というからには、内装とかにも何かヒントがあるかもしれません。
ルーンセラフィス教に関わるものでしたら、私なら見れば分かりますから!」
自慢気にそう言うエミリアさん。
確かに『光』やら『竜』やらの単語が出てくるのであれば、その辺りを信仰として扱っているルーンセラフィス教は強いかもしれない。
「それじゃ、早速進んでみましょうか。
時間も時間だから、ある程度のところで一晩休むとして――」
「――いえ」
私の言葉を、ルークが遮ってきた。
「うん? ルーク、どうしたの?」
「……この神殿……少し進んだ先に、何かいるようです。
おそらく、2つ先の部屋にはもう――」
――ルークがそう言った瞬間、突然地面が細かく揺れ始めた。
「わっ!? じ、地震!?」
「えぇっ!? 珍しいですね!?」
「いや、これは……気付かれたようです」
「え……? その、中にいる……何かに……?」
「はい。……どうしますか?
さすがに入口や隣の部屋で一晩過ごすのは避けたいので……進むか、戻るかになると思うのですが」
「うぅ……さすがにここから戻るのはちょっと……。
その何かって、友好的なのかなぁ……?」
そこにいるのが番人のようなものであれば、おそらくは敵対的だろう。
すぐ戦闘になるのも目に見えてしまう。
「そうですね……。今のところ、敵意や悪意のようなものは感じませんが……」
「……それじゃ、進んでみる……?
ここからちゃんと帰れるのかを調べて、安心してから休みたいっていうのもあるし……」
どこにいるかも分からない状態で、帰れるかどうかも分からない場所。
これでは正直、いくら休んでも疲れはなかなか取れなさそうだ。
「分かりました、私は大丈夫です」
「アイナさん、私も大丈夫です!」
――少し進んだ先にいる『何か』。
それの正体はまだ分からないけど、ここは覚悟を決めて進んでみよう……!!




