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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
286/911

286.暗闇の神殿①

「……3つ目の請求を条件付きで承認しました。

 対象が存在する付近の座標に、アイナ・バートランド・クリスティア及び仲間2名を転送します……」


「なっ、な……っ! それは……っ!!」


 女神様の言葉に、王様は恐ろしい形相を浮かべた。

 例えるならそれは、絶望――



「……すべての請求が為されました。これを以って『白金の儀式』を終了します……」



 女神様がそう告げると、彼女の姿は徐々に薄れていった。

 それと同時に、私たち3人の足元が突然光り始める――


「え!? これは!?」


「転送するって言ってましたよね……!?」


「アイナ様! はぐれるとまずいので、とりあえず手を繋いでおきましょう!」


「うん、了解!」


 ――私たちがそんなやり取りをしている中、女神様に縋るように宙を掴もうとしていた王様の視線がこちらを向いた。


「アイナよ! 頼む、それだけは勘弁してくれっ!!

 今までの非礼は詫びる! だから――」



 王様の悲痛な叫びは、突然訪れた暗闇と共に途中で消えてしまった。

 この暗闇は――おそらく女神様の転送が発動したのだろう。


 ふわっとした浮遊感があってから、触覚以外の感覚が無くなる。

 唯一ある触覚は、ルークとエミリアさんに繋がっている感覚だ。ひとまずこの感覚があれば、私は十分に安心することができた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――……わっと!?」


 体感としては数秒後、ズシャッ……という音と共に、私は地面に転げ落ちた。

 歩いてて転んだくらいの衝撃だから、そこまで痛いというものでもない。


 周りを見てみれば、ルークとエミリアさんも同じように倒れていて、ちょうど起き上がろうとしているところだった。


「……ここ、どこでしょう?」


 エミリアさんが不安そうに声を出す。


 そこは何とも不思議な場所。周囲は闇で覆われているのに、私たちの周辺だけがぼんやりと光っている。

 単純な闇の中ではない。かと言って、どこかから光が射しているというわけでもない。


「うーん、分かりませんね……。

 近くの地面と、エミリアさんとルークしか見えませんし……。

 でも、何だかとっても新鮮というか……?」


「そうですねぇ……。空も真っ暗ですし……。いや、空なんでしょうか?

 洞窟? いや、うーん……?」


「アイナ様、鑑定で場所が分かったりしませんか?」


「あ、そうだね。それじゃ早速――」


 かんてーっ


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 【現在の場所】

 暗闇の神殿 周辺地域

 ----------------------------------------


 もいっちょ、かんてーっ


 ----------------------------------------

 【暗闇の神殿】

 暗闇に覆われた神殿

 ----------------------------------------


「……だってさ」


「むむ、これは……よく分かりませんね」


 ルークがウィンドウを眺めながら呟いていると、エミリアさんがハッとしたように言った。


「もしかして、ここは絶対神アドラルーンの神殿ですか!?

 アイナさんが女神様に導かれた――とか!!」


「いや、神様と会ったのは闇の中ではなくて……何も無いところでしたからね。ここは違うんじゃないかなぁ……」


「っていうか! その話!! 聞かせてくださいっ!!!」


 エミリアさんはいつになく食い付き気味で話してきた。

 アドラルーンはルーンセラフィス教の一番偉い神様だから、それも仕方が無いか。


「そうはいっても、あんまりお話することは無いんですよね。

 以前1回死んじゃったんですけど、そのときに会っただけなので」


「え……?」


「アイナ様、死んだんですか……?」


 ――あ。


「……ああ、うん、いやいや。死んだあとにね、神様に会ってね、生き返らせてもらったっていうか?」


「さ、さすがアイナさん……。

 確かに聖人には、1回死んでから蘇えるというのはよくある話ですし……」


「なるほど、アイナ様は聖人だったのですか……。

 何とも素晴らしいことです……」


「それまではただの人だったんだけどね……。そのときに、神様から錬金術のスキルをいろいろともらったの」


「そうすると、アイナさんの錬金術はまさに神の御業――

 ああ、まさかこんなにも神の力を近くに感じられるだなんて……」


 エミリアさんは何やら私の右手を取って、しきりに感動している。

 錬金術を使うとき、右手にアイテムを作ってるからかな……?


 ――しかしそれにしても、この2人はなかなか信じ難い話を素直に受け止めてくれる。

 私の秘密なんて、あとは異世界から転生してきたことくらいなのでは無いだろうか。


 ……何だかそれだけ隠していても仕方ないし、いずれは話しても良いかもしれない。

 まぁ、話す機会ができたら話すことにしよう。



「――それで、エミリアさんはそろそろ人の手をぷにぷにするのをやめてください」


「え? ……あ、失礼しました!!」


「いえいえ。さて……こうしていても仕方が無いし、どうしましょう。

 どこもかしこも先が暗くてよく見えませんし……。『暗闇の神殿』という割に、神殿っぽい建物も見えませんし」


「アイナ様、向こうの方から強い気配がします。あちらに進んでみましょう」


「え? ルークは何か感じるの?」


 私には何も感じられない。

 いや、少しだけ風が吹いている……それくらいのものだ。


「――はい。あちらから強い気配が流れてきています。

 おそらくはもっと近くに行けば、もっと強く感じるでしょう」


「ふむ……」


 重ね重ね言うが、私には何も感じられない。

 エミリアさんも同様のようで、もしルークがいなかったらここで詰んでいたことだろう。


「それでは進んでみますか?

 ……いえ、でも疲れちゃいましたよね。休んでいきませんか?」


 よくよく考えてみれば、王様との謁見から『白金の儀式』まで、ずいぶんと緊張の連続だったのだ。

 ここには誰も来る気配は無いし、少しくらい休憩していっても良いだろう。


「そうですね、休んでいきましょう。

 謁見の間に来たとき、エミリアさんもルークも手枷を付けられていましたし――

 大変なこと、いろいろあったんでしょう?」


「そうなんですよー。……あれ、そういえば手枷はいつの間に」


「謁見の間で、アイナ様の側に飛ばされたときに一緒に外れてましたよ」


 ルークは笑いながらエミリアさんに言った。


「むぅ。感動のあまり、まったく気が付いていませんでした……」


 確かに、あのとき手枷が付いたままだったら抱擁とかもできなかったもんね。

 女神様も粋な計らいをしてくれたものだ。



「それで、二人はどうだったんですか?

 私は錬金術の研究室や資料室を案内されたんですけど」


「私はアイナさんのことばかり聞かれましたね。

 かなり怪しかったので、詳しいことはお話しませんでした」


「私も同じです。途中で何やら薬を盛られたりしましたが……」


「え? ルークも!?」


「……というと、アイナ様も? 大丈夫でしたか?」


「うん、私は鑑定で気が付いたから。……ルークは?」


「我慢しました」


「えぇ……?」


 たまにとんでもないことをしれっとやってのける。それがルーク・クオリティ。

 どれどれ、かんてーっ


 ----------------------------------------

 【状態異常】

 幻覚(小)

 ----------------------------------------


「……って、ずっと幻覚状態だったの……!?

 はい、薬あげる……」


 私はアイテムボックスから『幻覚治癒ドロップ』を出して、ルークに渡した。


「ありがとうございます。薬といっても、ポーションではないのですね」


 そう言いながら、ルークはそのままその薬を飲み込んだ。

 しばらくしてから……かんてーっ


 ----------------------------------------

 【状態異常】

 なし

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 うん、しっかり効いてるね!


「……私も幻覚の薬を盛られたんだけど、幻覚ってどんな感じなの?

 やっぱり判断力とか、無くなっちゃう?」


「そうですね。最初はふらふらしましたが、ある程度したら慣れてしまいました。

 私の場合、たまに視界の隅を何かが走り抜けていったくらいです」


「人によって違うのかな……。でも、ルークは精神力で抑えてそうだからね……。

 ちなみにエミリアさんは、薬は盛られませんでした?」


「私は食事に誘われても、断っていたので大丈夫でした!」


「えぇ!? エミリアさんが!?」


「ちょっ!? な、何ですか、それ!?

 私だって慎重になるときくらいありますよ!?」


「えぇー……?」



 思いのほか、3人の中で一番慎重だったエミリアさん。

 これは実に予想外だ……。


 エミリアさんにポカポカ叩かれながら、私は呑気にそんなことを考えてしまっていた。

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