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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
283/911

283.謁見II④

 突然現れたオティーリエさんはそのまま悠然と、王様のすぐ横まで歩いていった。

 私との距離もずいぶん近付き、王様とオティーリエさんの威圧感がダブルで襲ってくる。


「――私が呼ばれたってことは、お父様の思惑通りに進んだってことよね?

 まったく馬鹿な人。せっかくの温情があったでしょうに」


 お父様……というのは、話の流れからして王様のことだろう。

 というと、オティーリエさんって王女様だったのか……。あれ、もしかしてレオノーラさんも……?


 でも、呼び方からして姉妹ではなさそうだし、それなら血縁は少し離れているのだろう。


「まぁまぁ、オティーリエよ。そう悪く言うでない。

 おかげで私の理想にまた一歩近付くのだからな」


「そうね。それにルーク様は、私が頂きますからね♪」


「何故そこまで目に掛けるかは分からぬが……好きにするが良い」


 オティーリエさんは拘束されているルークに投げキッスを送ったあと、王様と一緒に私に冷たい視線を向けてきた。



「――それではお父様、この虫の処理をしてしまいましょう」


「まったく、この口の悪さときたら……。

 さて、アイナよ、待たせたな。これから私の望みを言わせてもらおう」


「……それを聞いたら、ルークとエミリアさんを解放して頂けますか?」


「ハッ! エミリア様なんてどうでも良いけど、ルーク様は私が頂くのよ?

 アイナさんには選択肢なんて無いんだから――」


「オティーリエ、しばらく黙っていなさい」


「はぁい、お父様。申し訳ございません♪」


 王様の注意に、オティーリエさんは人を小馬鹿にする感じで謝った。


「……話が脱線してすまんな。

 アイナが私の望みを聞けば、あの2人は解放してやろう。ただ、オティーリエがどうにもあの若者を気に入っていてな……。

 そこは本人たちの好きにさせてやってくれ」


 そうは言っても、ルークはオティーリエさんに何の興味も持っていない。

 つまり私はそのあたりを気にせず、素直に王様の望みとやらを聞いてあげれば良いわけだ。


「……分かりました。それでは、王様のお望みを教えて頂けますか……?」


「うむ、約束したぞ。

 ……さて、プラチナカードについてだが――もうひとつ、能力があるのだ」


「別の……能力……?」


 先ほどは『身分や身元を暴こうとする者に致死のダメージを与える』という能力を教えてもらった。

 プラチナカードの存在意義を考えてみれば、これはごく当然の能力だろう。


 しかし、それ以外となると……?



「特に重大な事件があったとき、どうしてもプラチナカードを持つ者の身分や身元の確認が必要になる場合がある。

 この能力は、そういった特例措置として存在しているのだ」


 王様がそう言うと、オティーリエさんはドレスのどこかから一枚のカードを取り出して、自身の口元に当てた。


「あ……」


「うふふ♪ 私もプラチナカードを作ってもらったの。どう? 良いでしょう?

 ――って、アイナさんも持ってるのよね? まったく、下賤な者が、身分不相応に……」


 嬉しそうに言ったり、苦虫を潰したように言ったりと、オティーリエさんの顔も忙しそうだ。

 まともに取り合っていてはキリがない。私はそんなふうに、彼女のことは茶化しながらスルーしておくことにした。


「オティーリエはこの1か月ほど、王族に伝わる試練を受けに行っていてな。

 無事にクリアして、見事に生還したわけだ。その褒美と証としてな、プラチナカードを作ってやったのよ」


「……それは、おめでとうございます……」


 王様はそんなことを誇らしく言ったが、それが一体どうしたのだろう。

 確か、王位継承順位が上がるっていう試練なんだよね……?


「まぁったく、アイナさんは頭が高いわね。

 ねぇねぇ、私の王位継承順位ってご存知?」


「……第22位だと聞いておりますが……」


 その後、レオノーラさんに話を聞いたエミリアさんから、第22位よりも上がったとは聞いているけど――

 そこまで言う必要は無い。下手をすれば、レオノーラさんにも飛び火してしまう。


「今ね、私の王位継承順位は第1位なの。次期国王よ?

 ……もっと口の利き方ってあるんじゃないかしら?」


 え!? よりにもよって、第1位!?

 っていうか、この国大丈夫!?


 ……こんな場面にあって何よりも、そんなことをまず思ってしまった。


「申し訳ございません……。知らぬこととは言え……」


「まぁまぁ、オティーリエ。そんなに意地悪をするで無い。

 第1位とは言っても、すぐに変わるものだからな」


「あら。お父様こそ、そんな意地悪を言わないでくださいな」


 まったくこの親子は性質が悪い……。

 しかしこの話、今する必要はあったのだろうか。



「――さて、プラチナカードの能力の話に戻そう。

 特例措置として存在する能力とは……プラチナカードの所有者同士による、身分や身元の照会なのだ」


「え……?」


 ……何と言うことはない。

 プラチナカードの所有者に対して、一般の人はその身分や身元を調べることができない。

 しかしプラチナカードの所有者同士においては、その身分や身元を調べることが――いや、暴くことができるということだろう。


「これはプラチナカードの所有者が3人必要なの。

 実際に照会し合う2人と、その立会人の1人。そしてその全員の承諾を以って、初めて『白金の儀式』が行えるってわけ」


 白金の儀式――

 まぁ、プラチナカードでやる儀式だもんね。そのまんまというか……いやいや、そうじゃなくて。


 しかし結局、王様は私の身分や身元を知りたいだけ……?

 確かに私のルーツが分かれば、何かのアクションにはなりそうなものだけど……。


 ……あ、もしかしたら私が転生者っていうことがバレてしまうのでは――


「さぁ、どうする? アイナは『白金の儀式』に参加するだけで良い。

 それだけでお前と仲間の安全と、今後の王都での平穏な暮らしを約束してやろう」


 ――王様の話は何だかまったく、釣り合いが取れていない気がする。

 今までの要求と比べれば、私の生まれを晒すだけですべてが丸く収まってしまう……?


 そんなの、選択の余地はないわけで――



「アイナさん!!」



 突然響いた声に振り向いてみれば、そこにはレオノーラさんが立っていた。

 その場にいる全員が、彼女の方を一斉に振り向いている。


「え? ……レオノーラさん?」


 今まで王族はまわりに10人ほどいたけれど、彼女を今日見るのは初めてだった。

 一体、どうしてここに……?


「それを受けてはダメ!!

 そうすれば国王陛下の望みなんて――」


「お黙りくださいッ!!」


「つッ!」


 しかし彼女の言葉は最後まで終わらず、レオノーラさんは駆け付けた騎士によって床に押さえ付けられた。


「……ちょ、ちょっと! ひどくないですか!?」


 憤る私の声は王様の耳には届かない。


「――はぁ……。実に嘆かわしい……。王族の自覚が無いようだな……。

 反逆罪である。レオノーラを投獄せよ」


「私もせっかく目を掛けてあげていたのに……。残念だわ、コウモリちゃん……」


 王様とオティーリエさんの言葉が冷たく響く。

 レオノーラさんは騎士たちによって取り押さえられ、拘束され、そのまま引きずられるように謁見の間を――


「待ってください!

 儀式でも何でも受けます! だから、レオノーラさんも許してあげてください!!」


「……ほう? レオノーラとの交流も多少はあると聞いていたが、そこまでとはな……。

 くくく、良かろう。ただしこの場におられては五月蠅いのでな。別の場所に幽閉させておくとしよう」


 王様はそう言うと、1人の騎士に顎でサインを送った。

 その騎士はレオノーラさんたちが出て行った扉に向かい、謁見の間から消えていった。



 ――そしてそれと入れ違う形で、別の騎士たちが3組の簡単なテーブルを持ってきた。

 テーブルというか……お皿を1つだけ乗せるような感じの、スマートなテーブル。


 実際、それぞれのテーブルには小さなお皿と綺麗なナイフが1つずつ置かれた。


 ……ふと横を見ると、エミリアさんとルークが心配そうにこちらを見ている。

 私の生まれがバレるだけなら、そんなに心配することは無い。転生者とバレたところで、奇異の目で見られるくらいだろうから……。



「――さて、準備は整ったな。

 まずはそれぞれがプラチナカードの宝石に血を捧げ、儀式の参加を表明する。

 ……オティーリエ、見本をみせてあげなさい」


「はい、お父様。

 ――白金の儀式、聖なる秤に乗ることを誓います。……オティーリエ・アルナ・トゥール・フォンセ・ヴェルダクレス」


 そう言うと、オティーリエさんは自身の指をナイフで少し切って、彼女のプラチナカードに押し付けた。


「アイナよ、同様に」


「は、はい……。

 ――白金の儀式、聖なる秤に乗ることを誓います。……アイナ・バートランド・クリスティア」


 そのまま私もナイフで指を切り、血が出てきたことを確認してからプラチナカードの宝石に押し当てた。

 ……これで良いのかな? 何だか宝石が温かくなってきたような気がする……。


「――白金の儀式、中立の座にてすべてを見守ることを誓う。ヴェルダクレス王国国王、ハインライン17世」


 最後に、王様だけが違う言葉を述べた。

 おそらく立会人だけは言葉が違うのだろう。


 そんなことをちらっと考えた瞬間、周囲に不思議な空気が満ちてくることに気付いた。

 何とも不思議な――


 寒いのに暑い

 重いのに軽い

 柔らかいのに堅い


 ――様々な相反する感覚が押し寄せてきて、気を抜けば倒れてしまいそうになる。

 そんな中で辺りを見てみれば、私たちの周囲を白く美しい輝きが取り巻いていた。



 私たちを囲む人たちは全員、その光景に驚いている。

 しかし王様とオティーリエさんだけは驚くでもなく、醜い笑みを浮かべていた。


「ふっはっは……。儀式が始まれば、もはやどうにもできまい……。

 嗚呼、ありがとう。アイナよ、よくぞ儀式を受けてくれた……!!」


「お父様、まだ儀式は終わっていませんよ? ふふふ……、あーはっはっは!!」



 ――2人の言葉の意味が分からない。


 え……? 一体、どういうこと……?

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