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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
282/911

282.謁見II③

「エミリアさん! ルーク! 大丈夫!?」


 思わず二人に声を掛けると、二人とも気丈な感じで頷いた。

 本当ならすぐにでも駆け寄って話をしたいところだけど、私の前には王様がいる。


 ただでさえややこしいところなのに、変に動いてさらにややこしくなるのは御免だ。

 ……ここは王様を中心に話を進めていくしか無いだろう。



「――二人を、どうするおつもりですか……?」


「なに、特に何もしないさ。

 アイナさえ望むように動いてくれればな」


「……研究室のことですか?

 分かりました。二人の無事を保証して頂けるなら……、その話はお受けいたします」


 王様自ら人質を取るだなんて、何て姑息なことを……。

 しかし私のせいで、二人を危険に巻き込むわけにはいかない。


「いや、それはもう良いのだ」


「……え?」


 思わぬ王様の返事に、私は驚いた。

 つい先ほどまで執拗に求めていたのに、今は違うものを望んでいる……?


「――こうなることは最初から予想しておったよ。

 研究室に興味も無いだろうことも、ユニークスキルを知らないと言い張ることも、私の意のままにならぬことも」


「そ、それでは――」


「……しかし私とて、このような方法は取りたくなかった。

 仮にも一国の王が人質だとはな……。だからこそ、最初はお前の意思に任せようと思ったのだ。素直に従っていれば良し、とな」


「…………」


 王様の言葉に、私は何も言うことができなかった。

 次に何の話がくるか分からず、おそらくはその不安に怯えていたのだろう。


 そんな私を舐めるように見たあと、王様は両手を上げて、私の後ろの方に大きく声を挙げた。


「――皆の者、集まるが良い!!」


 私の後ろを振り返ってみれば、身なりの良い10人ほどが近くに集まってきていた。

 そういえばすっかり忘れていたけど、謁見の間に入ったときからすでにいたんだっけ……。



 しばらくすると、私と王様、ルークとエミリアさんは遠巻きに見られるように囲まれた。

 囲まれるとはいっても人数はあまり多くないから、隙間はたくさんあるんだけど――


「この方たちは……?」


「私と志を共にする、王族の者たちだよ。

 今日はアイナと謁見をするということでな、集まってもらったのだ」



「国王陛下の申し出を断るなんて愚かな……」

「ふふふ、もう終わりだな……」

「今日は貴重なものが見られそうだわ……」



 ――耳を澄ませるまでもなく、そんな声が聞こえてきた。

 何を望むのか、何が起こるのかは分からないけれど、もはやここは素直に聞くしかないのか。


「……国王陛下は私に何をお望みなのでしょう。

 私の仲間には、どうか手を出さないで頂きたいのですが――」


「アイナさん!? 私たちのことは気にしないで良いですから!」


「そうです、アイナ様! まずはご自身のことをお考えください!」



 私の言葉と、それに続いたエミリアさんとルークの言葉。

 王様はすべてを聞き終わったあと、一息ついてから言い放った。


「反逆罪である!!

 エミリア、ルークの両名を拘束せよ!!」


「は……?」


「あっ!?」

「ぐっ!?」


 すぐさま周囲の騎士が、二人の身体に剣を押し当てる。

 ルークは王様を睨み付けているし、エミリアさんは抜き身の剣に震えていた。


「な、何をなさるんですか! おやめください!!」


 私は王様を見たあと、とっさに周囲の王族たちを見まわした。

 全員がにやにやとした気持ち悪い笑みを浮かべており、途端に不気味な感情に呑みこまれてしまう。


「――アイナよ、もう遅いのだ……」


 そう言いながら、王様は自身の立派なマントから一枚のカードを取り出した。

 そしてそれは、私にも見覚えのあるものだった。


「それは――」


「……これはプラチナカードという。王族など、高貴な立場の者に与えられるものだ。

 アイナよ。お前も持っているのだろう?」


「え!?」


 確かに持っている。しかし何で王様がそれを知っている……?

 最近は滅多に出していないし、そもそも出したことは数回だけだ。


 王都に来てからでいえば、大司祭様に見せたときと、『循環の迷宮』の裏切りの件で騎士団に提示したとき――


「あ……」


「……心当たりがあったか?

 そうだ、騎士団より報告があったのだ。リーゼなる者の懸賞金を懸けたときに、身分証明としてプラチナカードを使ったであろう?」


 確かに使っていた。しかしまさか、そんな報告が王様のところまでいくなんて!?

 ……いや。そもそもプラチナカードを持つのは高貴な者であるのは間違いないが、どこの所属かは一切不明なのだ。


 そんな人間が国内にいるのであれば、いちいち報告が上がるのは止むを得ない?

 クレントスでも見せたけど、それはさすがにここまでは報告されなかった……?


 しかし――


「……そのプラチナカードが一体、どうしたのでしょう。

 国王陛下のお立場は、この場にいる者すべてが存じ上げていると思いますが……」


「ふむ……。その表情から察するに、本当に知らないのか?」


「え?」


 王様の言葉に、私は以前の鑑定結果を頭の中で呼び起こした。


 ----------------------------------------

 【プラチナカード】

 王族や神職者に与えられるとても貴重なカード。

 身分や身元は秘匿され、暴こうとした者には重大なペナルティが科される

 ----------------------------------------


 ……しかし改めて見たところで、王様の真意は何も伝わってこない。


「ははは……! まさかプラチナカードを、何も知らない者が持っておるとはな!

 そもそもそれは、果たして本物なのか……?」


 王様は勝ち誇った目で私を見てくる。

 このプラチナカードは神様が私に最初から持たせてくれたものだ。

 しかし誰かから説明を受けたということも無く、ざっくりと鑑定した以上の知識が無いのも確かだった。


「不勉強で申し訳ございません……。お教え頂けますでしょうか……」


「ふふ、良かろう。何とも滑稽なことではあるがな。

 ……まずはこのプラチナカードであるが、ただのカードではない。国際規約に則り作成された、魔導器の一種なのだ」


「え? 魔導器……?」


 突然の説明に私は困惑した。

 こんなカードが魔法の力を秘めている……?


 全体的に白金色で、右上に小さな青い宝石が埋め込まれた美しい外観。

 魔法の力があると言われれば、確かにそんなふうにも見えるけど――


「そしてその能力なのだがな……。

 身分や身元を暴こうとする者に、ある呪文を使うことでペナルティを――つまり、致死のダメージを与えることができるのだ」


「致死……」


 ……いや、そんな呪文は知らないんだけど?

 でも確かにそういう能力が無ければ、強引に暴こうとすれば良いだけだもんね……。


 しかし、そのプラチナカードをここで出す意味は……?



「――さて、アイナよ。お前のことはいろいろと調べさせてもらった。

 ガルーナ村で疫病騒動を収束させる前は、辺境都市クレントスにいたそうだな?」


「はい……」


「しかし、その前はどうだ? いくら調べても、クレントス以前の情報が何も掴めぬ。

 もしかしたらドルミナス共和国から渡ってきたのか? 確かにあの国には、小さな錬金術国家があると聞いている」


 ドルミナス共和国とはフェリクスさんの話にあった、クレントスの海の先にある別大陸の国だ。

 そこから密航したとなれば辻褄は合うけど、間の海を渡るのは至難の業だと聞いている。……しかし、可能性は0では無い。


「――おっと、これ以上追及しては私の身が危ないかもな。

 突然呪文を唱えられて、殺されるわけにもいくまい」


 王様がそう言うと、周囲の王族からは笑い声が上がった。

 何とも余裕。何とも不遜。……何とも高慢。


「国王陛下は、私の生まれを知りたいのですか?

 それが望みということでも無いと思いますが……」


「……ふむ、聡いな。その通りだ。

 そんなものはあとで、どうしても知ってしまうことだからな」


「は……?」


 不穏なことを言ったあと、王様は右手を上げた。

 このパターン、また誰か来る……?


 とっさに先ほど、エミリアさんたちが出てきた扉を見てみれば――

 そこから私の見覚えのある女性が、悠然と歩きながら入ってきた。


「――ふふふ♪ ご機嫌ね、エミリア様。アイナさん。

 こんなところでお会いできて嬉しいわ。何だか庭の蟻に、久し振りに会うことができたみたい」



 その美しい姿。その美しい声。その棘のある言葉。そして身を斬り裂くような、その鋭い気配――

 エミリアさんの天敵、王族のオティーリエさんがこんなときに、こんな場所に登場してしまった。


 ……もう、何がなにやら――

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