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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
281/911

281.謁見II②

「――まぁ、難しく考える必要は無い。

 基本的にはアイナの好きなようにしてくれて構わないのだ」


 王様は、自身の言葉に付け加えるように言った。


 お城にある立派な錬金術の研究室の責任者――本来であれば、研究畑の錬金術師にとっては喉から手が出るほどの話だろう。

 しかし私にとって魅力的かと言われれば、まったく魅力的では無いのだ。


 まず、私は自由にやっていきたい。

 いくら研究室を好きなようにして良いと言われたところで、結局は何か依頼が飛んでくることは明白だ。

 実際のところ、前任者が自分の研究に没頭しすぎてクビになったわけだし。


 次に、そもそも私はそんな研究室が無くても、素材さえあれば一人で何でも作れてしまうのだ。

 大量生産をする必要があったとしても、助手のいる凄腕錬金術師よりは速い自信がある。

 ……この国で使うすべてのポーションを作れとかだったらさすがに難しいけど、そんな話も非現実的なわけで。


 次に、研究費――これもおそらくはかなりもらうことができるだろう。

 ただ、お金に関しては今のところ私が困ることは起きていない。

 いざとなれば以前作った『増幅石』のように、何かを欲しがっている人にそれを高値で売れば良いだけなのだ。


 そして最後に、私の現時点の目標は神器作成である。

 王様の監視下でそんなものを作ってしまったら、結局は王様の監視下に収められてしまうだろう。


 ――……絶対、戦争の道具にされてしまう。


 それにそもそも、私としては取り上げられるのはやっぱりつまらない。

 せっかく作るのだから、神器は私が認める、然るべき人に使ってもらいたいところだ。



「……大変光栄な話をありがとうございます。しかし私はまだまだ修行の身。

 申し訳ないのですが、研究室にはもっと相応しい方がいると思いますので――」


 こと錬金術の腕としては、私以上に相応しい人はいないだろう。


 しかし研究室や研究費を欲する錬金術師は大勢いるのだ。

 好条件の求人はそれを欲しい人に任せて、私は今まで通り、自由にそこら辺を動きまわりたい。



「ふむ……、それは残念だな。私としても、あまり無理を言えるものではない。

 だがアイナよ。お前が望むのであれば、いつでも私は待っているぞ?」


「はい、誠に申し訳ございません……」


 ……あれ? 案外と素直に引き下がってくれた?

 でもこのまま用事が終われば、やっとここから解放される――



「ところで少し、別の話をしても良いかな?」


「もちろんでございます」


「アイナは先日、グランベル公爵の屋敷に行ったと聞いているが、これは本当か?」


「はい、『増幅石』の件で伺いました」


「そのときにシェリル――以前、この城に仕えていた魔術師なのだが、面会したと聞いている。

 これも本当か?」


 ……うぐっ。

 どこから話が漏れたのかは分からないけど、確かな情報筋を持っているかもしれない。

 ここで嘘を付くのは安全では無さそうだ。


「……はい、その通りです。

 私の知り合いにシェリルさんの幼馴染がおりまして、前々から心配していたのです」


「そうであったか。シェリルには少し無理を言いすぎてしまってな、今は休んでもらっているところなのだ」


「日々を立派な部屋で過ごしているようでした。環境もとても良いようで……」


 本当は監視されて、盗聴されて、いざとなれば魔法も封じられる――そんな部屋ではあるのだが、ここでそれを言っても仕方がない。

 私としては、今はおかしな流れにしないことが何よりも重要なのだ。


「そうであったか。類は友を呼ぶ……そんな言い回しもあるくらいだからな」


「……?」


「ところでアイナよ。シェリルとは何を話したのだ?

 密室で話をしたと聞いているのだが」


 密室というか、これは魔法がしばらく封印されて盗聴ができなくなった30分のことだろう。

 この30分については完全に情報は漏れていないだろうから、何を言っても問題は無さそうだ。


「シェリルさんとお話をしたのは結局30分ほどだったのですが、彼女の幼馴染の話をしたり、近況の話をしました。

 私が話したかったのはその辺りでしたので」


 それ以外には私からバラしたものの、ユニークスキルの話だとか……。

 あとはシェリルさんたちが拷問に遭っていたとか、一生外に出られないだろうこととか……。

 おまけに『封刻の魔石(暴食の炎・発動補助)』っていうアイテムももらったっけ。


 ――しかしどれもこれも、ここで言えるような話ではない。

 従って、王様には差し障りのない話題を伝えるしかなかった。


「……それだけか?」


「はい」


「そうか、そうか……。

 なかなかに、ユニークスキル所持が疑われている者同士の話とは思えぬな……」


「……え?」


「アイナよ。今までの活躍、そして今までに作り出したアイテムの品質……。

 お前は私の見た中で最も錬金術の実力を持っている。そして同じような実力者が早々に現れることも無いだろう」


「お褒め頂きまして――」


「――持っているんだろう? 錬金術に関わる、ユニークスキルを」



 今までの優し気な口調から一転、王様の口調は冷たいものに変わっていた。

 その言葉と視線を受けて、私の背筋には冷たいものが走る。



 ……完全に疑われている。そして、王様の表情にも冷たい感情が混ざり始めている――


 しかし、ここで怯むことはできない。

 持っていると言ってしまえば最後、私はずっと王様の支配から抜け出すことができなくなってしまうのだ。


「……ユニークスキル……ですか。話には聞いたことはありますが、そのようなものは持っておりません……」


 持っていないどころか、本当は4つも持っている。

 それは『情報秘匿』、『英知接続』、『創造才覚<錬金術>』、『理想補正<錬金術>』の4つだ。


 錬金術に関わると言えば後ろの3つ。

 しかし未だに『理想補正<錬金術>』の使い道が分かっていない。


 私の作るアイテムが全部S+級なのは錬金術スキルのレベル99の方が原因っぽいから――それっぽい効果がありそうな『理想補正<錬金術>』は誤魔化せる。

 『英知接続』だって、『見たことのないものを見たことにできる』みたいな感じでしか使っていないから、これも誤魔化せる。

 となると『創造才覚<錬金術>』さえ誤魔化しきれれば、この場は何とか逃れられそうだ。



 誤魔化す方針を決めてから改めて王様を見ると、今度はその言葉にためいきが混ざり始めた。


「……はぁ。結局はシェリルにも、のらりくらりと逃げられてしまってな。

 私としても、同じ過ちは二度と繰り返したくないのだよ」


「はぁ……」


 何とも返事が見つけられず、相手が王様だというのにそんな返事をしてしまった。


「この世界には知っての通り、ユニークスキルというものがある。

 通常スキルやレアスキルよりも超越的な存在で、同時代に1つのものは1人にしか与えられないという」


「私もそのように、聞いております……」


「アイナよ、お前はまだ若い。そして私はもう年老いている。

 仮にお前がユニークスキルを持っていた場合、私が生きている間には、他の者がそのユニークスキルを持つことができない。……分かるな?」


「そ、そうですね……」


「つまり――

 お前が私に助力できないというのであれば、お前にはそれ相応の扱いをするかもしれない、ということだ」


 それ相応の扱い……。

 確かに私を殺してしまえば、他の人が私の持っているユニークスキルを持つことがあるかもしれない。


 しかし実際にはシェリルさんはまだ生かされているし、そもそも他の誰にユニークスキルがいくのかも分からない。

 当然、誰にもいかないことだって考えられる。私が転生するときには、誰も持っていなかったのだから。


「……申し訳ございません。

 しかし持っていないものはどうしようもありませんし、証明するにもどうやってすれば……」


「そうなのだ。結局そう言われてしまうと、こちらとしては何も言えなくなってしまう。

 ――だが、ユニークスキルを持っていると思わせしめるほど、私はお前のことを認めているのだ。

 仮にユニークスキルを持たなかったとしても、その実力はどうしても欲しい」


 王様が私の錬金術を欲しい理由。

 そんなものは想像に容易い。しかし、私の望まないものの方がきっと多いだろう。


「……ありがとうございます。

 申し訳ございません、研究室の件はしばらく考えさせて頂けないでしょうか」


「それはダメだ」


「えっ」


 私のお願いを、王様は即座に却下した。


「今までは緩やかに監視をするだけだったがな……。

 しかしちょくちょく街の外に出られては心配なのだよ。事故などもあろうが、不意にいなくなってしまうのも困る」


 確かに冒険者ギルドの依頼を受けに出ていったことはあるけど……?


 ……そういえば私が居留守――神器の素材を調べて寝込んでいる間、調達局のアルヴィンさんが狼狽していたことがあったっけ?

 もしかして、王様から監視をするように言われていた……?


「そ、それではあまり街からは出ないようにしますので……」


 王様のまっすぐで冷たい視線に、思わず最初から妥協案を示してしまう。

 優しくしている間は分からなかったが、それが取り払われた今は何とも威圧感が凄まじい。……さすが一国の王だ。


「はてさて、それはどこまで本当のことやら……。

 ここまでの話を聞いてしまえば、王都から離れたくなってしまうものだろう? しかし私にとって、それは最悪の結果なのだ。

 例え言うことを聞かなかったとしても、他の誰にも渡すわけにはいかないのだからな」



 ――つまり、今この時点で、私はもう王都からは出られなくなった……そういうことだろう。

 恐らく待っているのは、シェリルさんたちと同じ運命――



「……だが、私としてもシェリルの二の舞は演じたくない。

 結局、あやつが役に立ったことは未だに無いのだからな」


 そう言いながら王様が右手を上げると、側に控えていた騎士が少し離れた扉から出ていった。



「しかし、私にも幸運が訪れた。

 アイナがシェリルと違うもの――それが決定的に1つあったのだよ」


「違うもの……?」


 シェリルさんのことは詳しくは知らないけど、そんなに違うものなんてあるのだろうか。

 言われた瞬間に思い当たったのは、私が転生者ということくらいだけど、それは今まで誰にも話したことはないのだし――



「アイナさん!」

「アイナ様、ご無事ですか!?」


 突然聞き覚えのある声に驚き振り向いてみれば、先ほど騎士が出て行った扉からエミリアさんとルークが現れた。

 それぞれが手枷を付けられており、それぞれが騎士に連行されているような状態だ。


「ふ、二人に何を!?」


「……そうだ、その目だ! 王たる私よりも、仲間のことを大切に思っておろう?

 その関係がどうしても邪魔なのだ!!」



 思わず向けた私の怒りの目に、王様は何故か喜びを隠さないでいた。

 邪魔なのに、何故喜ぶ?


 そんな、まるで自由自在になるかのように――

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