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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
280/911

280.謁見II①

 フェリクスさんを前にして、2人の兵士を後ろにしながら、私はお城の中を歩いていった。

 緊張しながらも遅れないように進んでいくと、何となく見覚えのある場所が見えてきた。


 ……確かな記憶は無いけれど、きっと以前も通ったのだろう。


 そのときは前に大聖堂の人たち、後ろにはルークとエミリアさんがいたっけ。


 それに比べると、今は気を許せる人が誰もいない。

 むしろ逆に薬を盛ってきたり――明らかな害意を持っているほどなのだ。



 謁見の間の前まで辿り着くと、扉は閉ざされており、その前には2人の騎士が立っていた。

 フェリクスさんはその2人に声を掛けると、やがて騎士の1人は謁見の間に入っていってしまった。


「アイナさん、このまましばらくお待ちください。国王陛下の準備がございますので」


「はい、分かりました。

 ……それにしても、今日は何だか違いますね」


「違う? 何か気になるところがありましたか?」


 フェリクスさんの質問を受けて、私は騎士をちらっと見ながら言った。


「……いえ。以前来たときは、騎士様の姿をあまり見ませんでしたので……」


 厳密に言えば王様のすぐ近くにはいたような気がする。

 しかし入口や謁見の間の途中までは、兵士がいた記憶しかないのだ。


「なるほど、そういうことでしたか。

 今日は少し特別でして、近衛騎士団に警護をお願いしているのです」


「……特別、ですか?」


 その言葉の響きは、こと今回に至ってはどうしても不安なものに聞こえてしまう。


「詳しくは国王陛下よりお話があるかと思います。

 私の口からはお話することができませんので、何卒ご容赦ください」


「はぁ……」


 しかしこれはつまり、少なくともフェリクスさんは今日の用件を知っているということなのだろう。

 騎士の方は――あまり視線をこちらに向けてくれないし、何を考えているかはいまいち分からないか。



 不安を感じながらそのまま待っていると、しばらくして1人の騎士が謁見の間から出てきた。

 先ほど謁見の間に入っていった騎士と同じ人だから、伝言なりの仕事を終えてきたのだろう。


「――ペートルス男爵、国王陛下がお見えになりました」


「そうですか、ありがとうございます。

 ……それではアイナさん、これから国王陛下に謁見をして頂きます。ご無礼のないよう、よろしくお願いしますよ」


「分かりました」


「それでは、また機会があればお会いしましょう」


「え……? フェリクスさんは来て頂けないのですか?」


「ははは、私の仕事はここまでですので。

 ……アイナさんとは、また良い関係でお会いしたいものですな」


「……? 今日はありがとうございました」


 フェリクスさんの言葉に何となく釈然としないものを感じながら、私はとりあえずお礼を言っておくことにした。

 そもそも突然の登城命令で来たのだから、お礼を言う必要は無いとは思うんだけど――ここは大人として、一応という感じだ。




「――それではアイナ様、謁見の間にお進みください」


 話の切れ目を見つけて、騎士の1人がそう告げた。

 そしてそのまま、謁見の間の扉を2人の騎士が開けてくれる。


 ……うーん? 何だかこれ、結婚式の新郎新婦入場みたい――



 扉が開いた瞬間、謁見の間を奥まで見通すことができた。

 以前きたときはこの広さを学校の体育館で例えてみたけど、今回もやはり体育館の3、4倍くらいに感じてしまう。


 ……うん、やっぱり広い。


 謁見の間の一番奥には玉座があり、そこには王様が座っている。

 王様の左右には騎士が4人おり、そこに至るまでは人影も無くて――


 ……いや、ちらほらと身なりの良さそうな人が見えるかな?

 前回の謁見のときには何だかんだで100人くらいはいた気がするけど、今回は10人くらいで少な目だ。


 周囲の様子を窺いながら、しかし王様から注意を逸らさないように、私は進んでいく。

 王様は遠くからずっとこちらを見ているので、辿り着くまでが何とも気まずい。


 できることなら駆け足で進んで、さっさと話を始めたいところだけど――

 ……まぁ現実的に、そんなことはできないわけで。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――よくぞ参った。久しいな、アイナよ」


「お久し振りでございます、国王陛下。お目に掛かれて光栄です」


 自分で言っていてソワソワしてしまうが、とりあえずそれっぽい感じで挨拶をする。

 挨拶のしっかりできる大人は恰好良いが、自信の無い挨拶をしてしまうあたり、私もまだまだだ。


「うむ、息災のようで何より。

 ここ2月ほどの活躍も聞き及んでおるぞ。特に城の女共の間では、アイナの噂が絶えなくてな」


「ありがとうございます。多くの依頼を、錬金術師ギルドを介して頂いております」


「ときに店はまだ開かぬのか? 我が妃も楽しみにしておるのだが――」


 ……うぇっ? まさかのお妃様も!?

 もしかして今日の登城命令って、お店の催促――


「申し訳ございません、お店の方はまだ準備中でして……」


 お店にはアイテムを並べるだけはしているから、準備中といえば本当に準備中なのだ。

 いつ開くかは決めていないし、具体的には何も決めていないし――本当に、ただ並べただけの状態なんだけど。


「ふむ、そうか。

 実際、『浄化の結界石』の儀式などで忙しいようだったからな。それも止むを得まい」


 そう言いながら、王様は嬉しそうに笑っていた。

 何故嬉しそうなのか。それは『浄化の結界石』が『賢者の石』の素材の一部のためで、王様はその『賢者の石』を欲しているからだ。


「はい、その儀式も無事に終わりまして……『浄化の結界石』は5つを作成することができました」


「なるほど、個数は十分であるな。

 ……そうだ、グランベル公爵に増幅石を提供したとも聞いておる。まさか、あの難題を容易く解決するとは――」



 王様はそこで一旦言葉を区切り、少し考えたあと、思い出したように言葉を続けた。



「――そうそう、私からの贈り物は気に入ってくれたかな?」


 ……贈り物?

 王様からもらったものと言えば……?


「はい、とても素敵なお屋敷と工房で……。お店の方はまだですが、こちらも素晴らしいと思います」


「ああ、いや。それではなくてな」


「え?」


「アイナは今、錬金術師ランクはSランクであろう?」


「はい、錬金術師ギルドから通達を頂きまして――

 ……え? もしかして……?」


 私が驚きの表情を浮かべると、王様はにやりと笑った。


「うむ、私が強く推したのだよ。

 そうでなくてもいずれはSランクに上がるとは思ったが、期待の意味を込めてな」


「……あ、ありがとうございます。大変に光栄です……」


 いやいや。王様が強く推したら、それってほぼ強制ってことにならない?

 錬金術師ギルドは国営では無かったと思うけど、さすがに王様の推薦を無視できないだろうし……。


「ところでこの城にも、少し前にはSランクの錬金術師がいたのだ。アイナは知っているかな?」


「いえ、存じません」


 正直、S-ランク以上で知っている錬金術師なんてパプラップ博士くらいのものだ。

 実際に会ったことは無いんだけど、ププピップの研究者ということで、主に食卓でお世話になっている。


「そうか……。だが、あんな怠け者は知らなくても問題は無いか」


 おっと、ばっさりと切り捨てちゃった。

 ダグラスさんの話によれば、怠け者というよりも自分の研究に没頭しすぎちゃった感じなんだよね?


 ……とはいえ、どちらにしても王様には面白くないわけで、ばっさりいかれるのは無理も無い。


「心中お察しいたします……」


 私の返事もそれくらいで精一杯だ。

 下手なフォローもできないし、そもそもフォローする義理もないし。



「――その点、私はアイナのことを評価しているのだよ。

 王都を訪れて以来、次々と難題をこなし、そして王族や貴族を始め、錬金術師ギルドの受けも良い。

 ……おそらくは私の望みも、十分に叶えてくれると信じておる」


「光栄ではありますが、過大な評価かと……」


 ドヤ顔をしたいところだが、さすがにそんな度胸は持ち合わせていない。

 ここは素直に謙遜しておくことにしよう。


「そんなことは無いぞ?

 『増幅石』に『賢者の石』に――それらは共に、今後の我が国を支える大きなものになっていくからな」


 え? 『賢者の石』を作るなんて言った覚えはありませんよ?

 いやむしろ、もし作ったら自分でオリハルコンを作るのに使っちゃいますよ?


 ……しかし、この流れを修正するというのもやはり怖い。

 ここは元日本人、何となくやり過ごしてしまおう。


「それは何よりでございます……」


 ……そういえば『増幅石』の方も、王様が何か関係しているのかな?

 グランベル公爵は昏睡状態だから、今は何かが進むということも無いだろうけど……。



「――さて、そろそろ本題に入ろう。

 この城にある錬金術の研究所は、ペートルス男爵から案内を受けたであろう?」


 王様は少し改まって、私に向かって言ってきた。


「はい。とても大きくて立派な設備もあって……壮観なものでした」


「うむ、うむ。それは良かった。

 それでな、アイナにはその研究所の責任者をやってもらいたいのだ」



 ……あ、あー……。

 流れからしてそうは思ったけど、やっぱりそういうこと……?


 正直、まったくやりたくないです……はい。

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