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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
274/911

274.長い一日が始まる

 コンコンコン、コンコンコン


「――……ふみゅ」


 朝、私は扉をノックする音で目が覚めた。

 部屋の時計を見れば、時間はまだ6時。起きるにはもう少し時間があるところだけど――


 少し寝ぼけながら扉を開けてみると、そこにはクラリスさんが立っていた。


「……お休みのところ申し訳ございません。

 お城から遣いの方が見えられまして、アイナ様に取り次ぐ様にと……」


「え、お城から? ……もしかして調達局の人?」


 こんな朝早くから、何か依頼でも持ってきたのかな?

 それにしても、さすがにこの時間は非常識というか――


「いえ、それが違いまして……。

 保安局のディートリヒ様と名乗られていました」


 保安局……?

 ディートリヒ……?


 ……申し訳ないけど、どちらも初耳だ。


「分かった、私が出るね。

 ……出るけど、さすがに着替える時間はくれるよね……?」


 私は苦笑いをしながらクラリスさんに聞いてみた。

 何せ今まで寝ていたのだ。当然のことながら私はパジャマ姿だし、これから身支度をしなくてはいけない。


「はい、30分ほどは問題ないとのことでした。

 ……それと、エミリアさんとルークさんにも取り次ぐ様に言われておりまして……」


「え? ……何でまた?」


「申し訳ございません、私には分かりかねます……」


「そ、そうだよね。ごめん。

 それじゃ準備するから、2人にも声を掛けておいてもらえる?」


「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 クラリスさんはそう言いながらお辞儀をすると、急いでエミリアさんの部屋に走っていった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 身支度を終えて1階へ向かうと、既に身支度を終えていたエミリアさんと、修練から戻ってきたであろうルークが階段の下で話をしていた。


「おはよー」


「アイナさん、おはようございます。……朝から突然、何でしょうね?」


「アイナ様、おはようございます。こんな時間から、何が何やら……」


 2人はそれぞれ、不思議な取り次ぎに疑念を持っているようだ。

 それはもちろん、私も例外ではない。


 軽く話をしていると、クラリスさんが玄関の方から駆け寄ってきた。


「――アイナ様。保安局の方は外でお待ちです」


「え? 客室には通さなかったの?」


「はい、外で待つと仰られまして……。

 ……それに、あの……連れている人数も多くて……」


 クラリスさんは心配そうな顔で、少したどたどしく教えてくれた。

 彼女にしては珍しく動揺をしているようだ。


「人数も多い……?

 まぁ、とりあえず出ちゃうね」


「あ、アイナ様――」



 玄関の扉を開けてみると、そこには――

 いかにも軍人といった貫録のある壮年の男性を筆頭に、その後ろには兵士が10人ほど立っていた。


 この集団のリーダーは、どう見ても壮年の男性だろう。


「……おはようございます。

 私がこの屋敷の主、アイナ・バートランド・クリスティアです」


「貴女がアイナ殿か。お初にお目に掛かる。

 私はヴェルダクレス王国軍保安局、ディートリヒ・カミル・アーレンスである」


「ご丁寧にありがとうございます。

 ……それで、ご用件は何でしょう?」


 私がそう言うと、ディートリヒさんは私の後ろ――ルークとエミリアさんの姿を確認してから、軽く頷いた。

 そして手に持っていた筒から立派な紙を取り出して、それを広げながら私に突き付けてきた。



「――登城命令!!

 アイナ・バートランド・クリスティア――

 並びにルーク・ノヴァス・スプリングフィールド、エミリア・リデル・エインズワース!

 貴殿ら3名の身柄を拘束する!!」



「は……?」


 登城命令……? 身柄を拘束……?

 一瞬理解が及ばず怯んでしまった隙に、ルークが一歩、前に歩み出た。


「こちらの命令書の署名はどなたですか?」


「ヴェルダクレス王国、国王陛下! ハインライン17世である!

 1時間以内に準備を整え、我らと共に来るように!

 なお、外部との連絡はこれより不可とさせて頂く!」


 ディートリヒさんの大声の中、ルークは命令書とやらをしっかりと読んでいた。

 そしてしばらくすると、私のところに戻ってきて――


「アイナ様、あの命令書は本物のようです。

 ……法的拘束力を以って、私たちは彼らに付いていかなければいけません」


「えぇ……? 来いと言われれば行くのに……。何よ、それ……」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――アイナ様、いかがでしたか……?」


 お屋敷の中に戻ると、クラリスさんが心配そうに声を掛けてきた。

 いつの間にかメイドのみんなもいるし、警備メンバーもディアドラさんとレオボルトさんの2人がいた。


「よく分からないんだけど、私たち3人に登城命令が出たみたい。

 ……そういうの、あるんだね?」


 それがよくあるものかは知らないけれど、ひとまず私たちには出ているのだ。

 あるかないかで言えば、しっかりあるものなのだろう。


「それにしても、何で私とルークさんまで……?

 アイナさんだけだったら錬金術の件かなって思うんですけど……」


「確かに……」


 私と、その仲間たち――

 どう考えてもそれだけの関係しか出てこない。他の繋がりなんて、特には無いのだから。


「……アイナ様、お屋敷のまわりにも兵士が散らばっているようです。

 一応、変な真似はできないというか……」


 ディアドラさんは念のためといった感じで、彼女にしては小さい声で教えてくれた。

 変な真似……。逃走とか、かな……?


「うーん……。私たち、別に悪いことはしてないよね……?」


 『悪い』と言われても仕方ないのは、グランベル公爵に『意識昏睡ポーション』を盛ったことくらいだろうか。

 実際にこれがバレたら、本当に牢屋に直行かもしれないけど――



 ――……え? もしかして、それ?



 いやいや、ファーディナンドさんが密告するなんて考え……たくは無いし、確認しようにもジェラードは王都を離れているし――



「――大丈夫です!

 きっと王様が、育毛剤とかをこっそり欲しがってるんですよ!」


 こんなときにも関わらず、エミリアさんはおちゃらけてそんなことを言い始めた。

 ……いや、こんなときだからこそ、そんなことを言ってくれたのだろう。


「アイナ様、何かあっても私がお護りしますので……」


 ルークは静かに、力強く言ってくれた。

 急な出来事に不安は不安だけど、この2人がいるのだから、私はきっと大丈夫だ。


 となれば、私は――



「――みんな、何だか不安にさせちゃってごめんね。

 よく分からないけど、登城命令が出たので今日はお城に行ってきます。

 ……クラリスさんとディアドラさん、いつも通りみんなをまとめておいてね」


「はい……」

「かしこまりました」


「……あ。そうそう、だれか錬金術師ギルドのテレーゼさんに伝言をお願いできる?

 今日は一緒にご飯を食べられないけど、明日また行くって」


「分かりました、それは私が……!」


 そう言ってくれたのはキャスリーンさんだった。


「うん、ありがとう。よろしくお願いね」


 この場に集まった中で、キャスリーンさんは一番不安そうな顔をしていた。

 見ているだけで可哀想になってきてしまうほどだ。……少しでも安心してもらうために、私は思いっきりの笑顔を彼女に見せてあげた。



 ――心臓の鼓動がやけにうるさい。

 大丈夫、大丈夫だ。悪いことは1つしかやっていないんだから。


 ……っていうか、それも自衛のためだし?

 後悔することなんて何も無い。だから私は、堂々とお城に行ってやろう。


 いや、まぁ……実際のところは悪い話じゃなくて、良い話かもしれないしね?

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