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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第2章 ガルーナ村
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27.聖職者さんと時系列のまとめ

「そうだ、アイナ様に紹介しないといけない方が!」


 ルークが突然、話を変えた。


「え? 紹介? えーっと?」


 誰かいるのかなーと周囲を見回すと私の左側、その死角に一人の女の子が立っていた。

 ……すいません。ルークにばかり気を取られてて、まったく気が付いていませんでした……。


 その女の子は聖職者っぽい服を着ていて、目が合うとにっこりと微笑んでくれた。


「はじめまして、アイナさん。私はエミリアといいます。よろしくお願いしますね」


「あ、はい。はじめまして、エミリアさんですね。私の名前は――もう知ってますよね、アイナです」


 私も笑い返しながら簡単に自己紹介をした。


「アイナ様。エミリアさんはアイナ様の看病をずっとしてくれていたんですよ」


「え、そうなんですか? ……そういえば誰かに手を握ってもらっていたような」


「あ、ご存知でしたか? 一回だけ、握り返してくれたこともあったんですよ」


「はい。でもあれ、結構前のような気もするんですが――」


「そうですね、私がアイナさんを初めて診た日だから……8日前、ですね」


「……本当に、結構前ですね」


 ルークとエミリアさんから話を聞くと、時系列はざっとこんな感じ。


 まず私が疫病で倒れたのが10日前。

 その後、他の街に助けを求めて出ていた村人――バイロンさんが聖職者の一行を連れて戻ってきたのが8日前。

 聖職者の一行は村の周りに浄化の魔法を掛けて回り、3日前に疫病の完全な沈静化を確認。

 そして私の看病のためにエミリアさんを残して、他の聖職者たちは王都に帰っていった……とのことだ。


「ははぁ……。私のために残ってもらってしまって、申し訳ないです……」


 まずはエミリアさんに謝罪する。


「人を助けることが私の使命ですからお気になさらず――。……いえ、むしろ私がアイナさんに救われたところもあるんですよ」


「え? 救われた……?」


「あの、実は私たち……聖堂の者がこの村に来ることになったとき、みんな心の中では絶望的な状況を察していたんです。

 村に行ったところで誰も生きていないだろう。せめて他の街に疫病が広がらないように浄化だけはしよう……って、そんな空気だったんです」


 なるほど。疫病も空気に乗って村の周りを漂っていたからね。

 私はそっちの方に気が回らなかったから正直助かったけど。


「――でもこの村に着いて驚きました。あの……半数の方が亡くられたのは非常に傷ましいことなのですが、それでも半数の方がご無事だったんです。

 話を聞けばその半数の全員を、一人の錬金術師の方が救った……と。そしてその方が伏せってしまい、重篤な状態にある……と」


「あはは……。最後に思い切りやらかしちゃいましたね。油断したわけでは無かったのですが」


 油断というか、今回の私の場合は空気感染じゃなくて例のダンジョン・コアの近くにいたのが原因だからね。

 あんなのどうやっても予想なんて出来ないし。


「この異常事態の中では仕方がありません。それに今回の疫病は、その特異性から緊急案件として国の上層部に報告されることになったんです。

 その救済の功労者として、アイナさんはきっと祝福を授かることでしょう」


 国民栄誉賞みたいなものをくれるのかな!? 一瞬そんなことを思ってしまった私は何だか俗っぽい。


「――それはそれとして、私の個人的な思いとして……絶対に、そのような方を亡くしたくなかったんです。

 いえ、看病をしていて正直もうダメかと思ったときは何度もあったのですが、そのたびに死の淵で持ちこたえていらっしゃるようで……」


 それ、レアスキルの『不老不死』です。絶命したときに瀕死になるんです。

 本当なら何回死んでいたんだろうね、私……。


 そういえばユニークスキル『情報秘匿』で『不老不死』を隠してるから、他の人に鑑定されてもバレないんだよね。

 ……そうか、そうすると端から見ると私は『往生際が悪くしぶといヤツ』みたいに見えていたのかな。


「――それを見て、私はアイナさんに神の加護が付いているのだと確信したんです」


 あ、まさかのそっち方面の解釈? ……そっか、聖職者だもんね。


「今日はその力に賭けて……アイナさんの容体がほんの少しだけ良くなったところを見計らって、私の全力で浄化魔法を掛けたんです。

 もちろんそれだけではまったく治すことは出来なかったのですが、アイナさんが目を覚ますきっかけにはなったようで……本当に良かったです」


 なるほど。確かに今日は少し楽になった気がしていたんだけど、エミリアさんのおかげだったのね。


「そのおかげで何とか目を覚ますことが出来ました。ありがとうございます」


「いえ、私はただのきっかけですから……。あ、それにしても少し話し過ぎてしまいましたね。すいません、病み上がりだというのに」


「寝込んでいたときのことがよく分かりましたし――それに、疫病の後処理もして頂けたということでとても安心しました」


「それは良かったです。……さて、それでは私は少し席を外しますね。また後で来ますが、気にせずお休みしていてください」


 そう言うと、エミリアさんは軽く頭を下げて部屋から出て行った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「うーん、汗がすごいしお腹空いたししんどいし寝たい」


「えっと……まず、どうしましょう」


 私のとりあえずの要望にルークが困る。


「……それじゃ、寝る前に少しお話に付き合ってもらえる?」


「はい、分かりました」


 そう言いながら、ルークはベッド横の椅子に腰を掛けた。


「……とりあえず無事に生還することが出来ました。心配お掛けしました」


 ぺこりと一礼。ごめんなさいと、ありがとうの意味で。


「いえ……うん、はい……。何はともあれ、良かったです……」


 積もる話は色々あるけれど、ひとつずつ。


「10日前に見つけたあの――、黒い宝石みたいなやつなんだけど」


「はい。アイナ様が寝込んでいる間、聖職者の方たちと探したんです。あんな危険なものは放置しておけませんでしたから……」


「あ、そうそう。それなんだけど……ルークはあの時、何で怪我をしたの?」


「……はい、私にもよく分からないのですが……あの宝石から歪み……が発するのが見えたのです」


「歪み?」


 私が返すと、ルークは少し考えるように宙を仰いだ。


「うーん……、何というのでしょうか。ガラスが割れるように、こう、宙にヒビが入ったというか――。

 そのヒビがアイナ様に向かったので、私が間に割って入ったところ……あの怪我を負ってしまったのです」


 どういうことだろ?

 漫画とかで良くある、空間ごと斬り裂く……みたいな感じのヤツかな?


「それじゃルークは私を庇ってくれたんだね。……ありがとう」


「いえ、お気にせず。それでその黒い宝石なのですが、どうしても見つけることが出来無くて……。アイナ様は何かご存知ですか?」


「うん……あれね。どうしようもなくて……私のアイテムボックスに叩き込んだ……」


「――えっ!?」


 思わず、といった感じで驚きの声を上げるルーク。


「あのね。ルークが倒れた後、アレからすごい量の疫病が溢れて出て来たの。もうね、とっさにバチコーンと叩き込んであげたよ」


「む、無茶をしますね……。それで、アレって何だったんですか?」


「何かね、鑑定したらダンジョン・コアっていうらしいよ」


「は……?」


 その答えに呆然とするルーク。ああ、何だか懐かしいや、このパターン。


「ダンジョン・コアって、知ってるの?」


「ええっと……これも伝説上といいますか、存在だけは知られていて、実物は知られていないといいますか――」


 なんでもこの世界には『ダンジョン』というものがあり、意思を持つかのように迷宮を作り上げ、冒険者を招き入れるらしい。

 そして『ダンジョン・コア』とはまさにダンジョンの命のようなもので、これがある限りは何があってもダンジョンは消滅しないという。

 逆にいえばこれを壊しさえすればダンジョンは消滅するのだが、ダンジョンがそういったものを人の目に触れされるはずもないわけで。


 ちなみにダンジョン・コアは生物の力を餌にして成長する――というのが通説らしい。

 そう考えるとジョージ君が怪我したとき、ルークが怪我したとき、そしてその後の疫病を大量に撒き散らそうとしたとき――凶悪さが尋常じゃないほどに増し続けていたのも何だか納得がいく。


「うーん、凄いものなんだねぇ……? ……というか実際に凄かったけど……。いや実際、アイテムボックスから出した瞬間に凄いことになるだろうけど……」


「まさかそんなものが身近にあるとは……。そ、それで……どうするんでしょうか、そのダンジョン・コアは……」


 ルークは心配そうに聞いてくる。そりゃそうだよね。


「アイテムボックスからは出せないし、これはこれで便利だからこのまま持っていようかなと……。あのね、これがあればどんな疫病でも治せるっぽいの」


「え? もしかして私が飲んだ薬も――」


「うん、このダンジョン・コアが材料のひとつだよ。何回でも使える感じの素材なの」


「……そ、そうなんですか。アイナ様なら正しく使って頂けると思います。そうですね、アイナ様が持つべきものです。

 ――そういえば少し話は変わりますが……英雄シルヴェスターは、クレントス北方のダンジョンに潜るために来た……という噂がありましたね」


「え? そうなの?」


「ええ。英雄と呼ばれる方がわざわざ辺境のクレントスに訪れる理由が他には見当たりませんし……。ただ、そうだとしてもそのダンジョンは特に何も無い場所なので……本当にそれが目的かどうかは分からないのですが」


「ふぅん? ところでそのダンジョンって何かふたつ名みたいのはあるの? 私の持ってるダンジョン・コアは『疫病の迷宮』っていうらしいんだけど」


「……それはまた物騒な名前ですね……。えっと、クレントス北方のダンジョンは『神託の迷宮』と呼ばれています」


 うわー、そっちの方がかっこいいー! そっちのダンジョン・コアが欲しかったー!!


 ……それにしても『神託の迷宮』かぁ。私が神様を介して転生してきたのと何か関係があるのかな?


「うーん……ダンジョン・コアに、英雄シルヴェスターかぁ……。それも何か関係があるのかな? そもそも何で沼地にダンジョン・コアが落ちてたっていうのもあるし……」


「まったく、謎だらけですね……」


「ところで私がダンジョン・コアを持ってるのは……内緒にしてた方が良いよね?」


「それはもちろんそうですね。誰かに言ったところでそれを狙う輩が現れるでしょうし、異質な力だけに黙っておくのが良いかと」


「うん。それじゃ、これは私とルークだけの秘密ね」


「分かりました。何があっても口外しません。ご安心ください」


「よろしくね。……ふわぁ、何だか疲れちゃった。……そろそろもうひと眠りしようかな……」


「それでは身体を拭くものをお持ちしますね。あと、着替えもされた方がよろしいかと」


「そうだね。えーっと、誰に言えばいいのかな」


「私が手配しますので、アイナ様はそのままお待ちください」


 そう言うとルークは部屋の外に速やかに出て行った。

 みんなに世話になって、申し訳無いやらありがたいやら。この恩にはどうにかして報わせて頂こう。


 それにしても――神器を作る旅の初っ端で、何か想像から思い切り外れたものを手に入れちゃったなぁ。

 はてさて、これからどうなることやら……。

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