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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
269/911

269.テレーゼさん、お泊り③

 ――空を埋め尽くすガルルンの群れ。


 その光景を眺めながら、ルークとエミリアさんと一緒にまったりとお茶を飲む。

 今日は何と平和な一日なのだろうか。


「……あれ? アイナさん、あれを見てください」


 エミリアさんの指差す方を見てみれば、1体のガルルンの上に何かが乗っている。


「遠くてよく見えませんけど……人影?」


 そう思った瞬間、その1体は突然向きを変え、こちらに向かって飛んできた。



「アイナさああああああんっ!!」



「うぇっ!?」


 なんとガルルンに乗っていたのはテレーゼさんだった!!

 そしてそのまま彼女は私たちのもとに突っ込み、爆発し、そして周囲は灼熱の炎に包まれた――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――何て夢だ……」



 暗い部屋の中、ベッドから身体を起こしてため息をつく。


 時間を見れば2時半。

 外は当然のように暗く、月の光もいつものように窓から射し込んでいた。


 それにしても、『いつものように』と言ってしまえるくらい、これくらいの時間に目が覚めることが多い。

 昨日は久し振りに魔物討伐にも行ったのだから、もう少し疲れで熟睡できても良いものなんだけど……。


「まぁ、テレーゼさんも泊まっているし……?」


 私は私で、きっとそれなりに気を遣っているのだろう。

 万全の態勢で準備をしているとはいえ、しっかりもてなせるかどうかは最後まで分からないのだ。


 ちなみにテレーゼさんには昨日、早々にお風呂に入ってもらい、少し話をしてから寝てもらった。

 ヴィオラさんの話もしようと思ったが、寝る前に話してしまうと何かの感情を揺さぶってしまいそうだったので、今日の明るい時間に話をする予定だ。


 ここは慎重にいかないとね。せっかくテレーゼさんも、ようやく持ち直してきてくれたのだから――



 コンコンコン



「え?」


 不意に、扉がノックされる音が聞こえてきた。

 ……こんな時間に誰だろう?


 そう思いながら扉を開けてみると――


「アイナさあぁあああぁん……」


 ――テレーゼさんが部屋の前に立っていた。


「どうしたんですか? こんな時間に」


「ちょ、ちょっとお話をさせてください……」


「分かりました。明かりを点けてきますね。

 お茶も入れますので、あそこの椅子に座っててください」


「お休みのところ、すいません……」


 テレーゼさんはしょんぼりしながら、椅子のところまで歩いていった。

 むむむ、精神的な不安がぶり返してきちゃったかな……?




「――はい、お茶をどうぞ」


「ありがとうございます……。はぁ、温かい……」


 そう言うと、テレーゼさんはお茶にちびちびと口を付け始めた。


「落ち着いたら、お話してくださいね」


「はい……。大丈夫です!」


 はやっ!?


 ……と、いつもなら口に出しているところだが、ここから真面目な話が続くようであれば場違いな台詞になってしまう。

 私はその台詞を口に出さないことに成功した。


「えっと、どうしたんですか?」


「あの……、とっても言いづらいことなんですが……」


「はい」


「私の寝てる部屋、何かいませんか……?」


「え? ……何かって?」


 別に誰がいるっていうわけでも無いよね?

 誰も使っていないんだから、いようはずもないし。


「天井に……何かいるみたいなんですけど……」


「え゛」


 その言葉を聞いて、どこか余裕のあった私の手が止まる。


「……もしかして、幽霊とかお化け的な……?」


 この世界には魔物がいるが、だからと言って幽霊やお化けにはまだ会ったことが無い。

 それらはこの世界の(ことわり)で説明できるものかもしれないけど、私としてはやはり怖いものの代表として挙げてしまうだろう。


「あの、それは分からないんですけど……。

 何だか寝ていたら、何かこう……ちょっと説明しにくいんですが……」


「……気になりますね。怖いですけど」


 私もこれまでにいろいろなことを経験してきたものだけど、だからといって怪奇的なものにはあまり首を突っ込みたくない。

 しかしその舞台が自分のお屋敷であるならば、ここは何とかしないといけない……よね?


 時間を見れば3時前。

 そろそろルークが修練に向かう時間だ。それならば――


「ルークがそろそろ起きるころなので、ちょっと付き合ってもらいましょうか」


「えぇっ!? ルークさん、こんな時間に起きてるんですか!?」


「私が寝ている間に修練を済ませたいらしくって」


「ははぁ……。アイナさんのお側にいるのも、大変なんですね……」


 いや、ルークが特別なんじゃないかな?

 エミリアさんはぐっすり眠っているだろうし。……いや、それが普通だと思うんだけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ルークの部屋の扉をノックすると、すでに修練の準備を終えたルークが部屋から現れた。


「アイナ様? どうかされましたか?

 ……テレーゼさんまで?」


「修練前にごめんね。テレーゼさんが、寝ていた部屋で気になることがあるみたいで。

 ちょっと一緒に見てくれるかな」


「気になること……? はい、分かりました」


「うぅ、すいません……」




 テレーゼさんの部屋で明かりを点けると、ぱっと見ではいつもと変わらない様子を確認できた。


「えっと、天井……でしたっけ?」


「はい。起きたら分からなくなったんですけど、眠ってるときにこう……何というか……うぅん……」


 説明しようにも説明ができないでいるテレーゼさん。

 超常的なことが本当に起きているのであれば、それも仕方のないことだろう。


「何も無いようですが……、ちょっと気配を探ってみますね。

 魔物や霊的なものであれば、何かしら引っ掛かると思いますので」


 ルークはそう言うと目を閉じて、そのまま口も閉ざした。

 私とテレーゼさんは邪魔にならないように、何となく部屋から出ていくことにした。




「――特に何も無いようでした。

 とは言え、テレーゼさんも怖いでしょうし、今日はアイナ様の部屋でお休みになられてはいかがでしょうか」


「え? ……まぁ、そうだね。

 テレーゼさんはそれで良いですか?」


「お邪魔しちゃって大丈夫ですか?

 ベッド、1つしかありませんよね……!」


「あ、それならアイテムボックスでちゃちゃっと持っていきましょうか」


「えぇー……」


「え?」


「い、いえ! 何でもありません! 便利だなって思いまして」


「ですよね! これがあれば引っ越しも余裕ですよ。

 それではベッドを持っていきますので、テレーゼさんは私の部屋でお茶でも飲んでいてください」


「はい、ありがとうございます……」


 そう言うと、テレーゼさんは私の部屋に静かに入っていった。



「ルークも時間、ありがとね。あとは一人でやっておくから、もう大丈夫だよ」


「……あの、アイナ様」


「うん?」


「あの部屋の天井の裏に……何かあるようですね」


「えっ!? ……やっぱり幽霊、みたいな?」


「そういうものでは無いのですが……。

 むしろ気配を断つような感じで、微かに何かが足りない……そんな感じがします」


「何かが足りない……。何も無いところに、何かが足りない。……うーん?」


「私も詳しくは分かりませんので、テレーゼさんがお帰りになったあとに調べてみたいと思います。

 何せ天井裏ですから、気軽に穴を空けるわけにもいきませんし」


「確かに。それに気にはなるけど、今調べるとテレーゼさんが心配しちゃいそうだもんね。

 夕方あたりに調べてみよっか」


「はい、そうしましょう。

 危険な感じはしませんが、ひとまずはあまり近付かないようにしてください」


「うん、了解ー」



 ルークとはそこで別れ、私はテレーゼさん用のベッドを運ぶことにした。

 荷物も綺麗にまとめられていたし、それも一緒に運んであげようかな。


 ……あんなことがあったあとでは、もう入りたくないだろうしね。

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