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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
267/911

267.テレーゼさん、お泊り①

 冒険者ギルドで休憩をしながら紅蓮の月光(クリムゾン・ムーン)の面々と話をしたあと、私たちは錬金術師ギルドへと向かった。

 すっかり暗くなった道を歩いて行き、いざ錬金術師ギルドの建物が見えてくると――


「アイナさあああああああんっ!!」


「おっ」


 ――何だか、懐かしい大声が聞こえてきた。



「アイナさん、お待ちしてました! 準備もばっちりですよ!

 ルークさんとエミリアさんも、お久し振りです!」


 そう元気に言うテレーゼさんの両手には、何やら大きな袋がぶら下がっている。

 それ以外では少し大きめの鞄を肩から下げていた。


「準備って、何でしたっけ……?」


「手土産を持っていくって言ったじゃないですか。お屋敷の使用人の方々に!」


「それにしてはちょっと、量が多くありません……?」


 お菓子の詰め合わせを1箱くらいでも十分なのに、それよりも見るからに多い量だ。

 一体何を準備したんだろう。


「先日、お食事会にお呼ばれしたじゃないですか。

 そのときにレオノーラさんがアップルパイを持っていったと聞いたので、対抗意識を燃やしてケーキを作ってきました!」


「えぇー……? そんな時間があるなら、ゆっくり休んでくださいよー……」


「何の何の! こんなに元気ですから!」


 言葉の通り、今日のテレーゼさんは確かに元気そうだ。

 心身を崩す前の状態にも見えるところではあるけど――



「テレーゼさん、荷物をお持ちしますよ」


 話の隙を突いてそう言ったのはルークだった。さすが頼りになる男子!


「それではもう片方は、私が持ちますね」


 そう続けたのはエミリアさん。さすが気が利く女子!

 ……ちなみに私はタイミングを逸する女子に決定だ。


「あわわ、すいません。ありがとうございます」


「……でも少し距離があるし、私がアイテムボックスに入れていけば良いんじゃない?」


「さすがアイナ様」

「さすがアイナさん」


 いやいや。久々のフレーズを聞いた気がするけど、さすがに今回はその台詞を言いたかっただけじゃない?

 やっぱりこう、言うなら然るべきときに言って欲しいかな!


 そんなことを思いながら、テレーゼさんの手土産をアイテムボックスに入れていく。


「――すいません。持ってもらって申し訳ないんですけど、お屋敷の前まで行ったら私に持たせてもらえますか?

 メイドさんに直接お渡ししたいので」


「分かりました。それまでは持っていきますね」


「はい! えへへ、喜んでくれるかな」


「そりゃあもう、絶対ですよ」


「そうだと良いですね!」


 今日はやたらとテレーゼさんの笑顔が眩しい。

 こんなにも明るい彼女を、きっと久々に見ることができたからだろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「「アイナ様、お帰りなさいませ」」


 お屋敷に戻ると、玄関ではルーシーさんとキャスリーンさんが出迎えてくれた。


「あ、可愛いメイドの子!」


 テレーゼさんがまっすぐに見ていたのはキャスリーンさんだった。

 そういえば先日の食事会でも、キャスリーンさんのことを気に入っていたっけ。


「いらっしゃいませ、テレーゼ様。

 滞在中に何かありましたら、お気軽にご用命ください」


「ありがとうございます!

 あの、これ……使用人のみなさんでどうぞ!」


 テレーゼさんは片手に持っていた袋をキャスリーンさんに差し出した。


「えっと……?」


 キャスリーンさんはちらっと私の方を見てから、その袋を受け取る。


「今日はケーキを作ってきてくれたんだって。

 使用人全員の分があるっていうから、みんなで頂いてね」


「ケーキですか! それは楽しみです」


 そう喜んだのは、キャスリーンさんの横でルークから袋を受け取っていたルーシーさんだった。

 ちなみにルーシーさんは、プロ並みのケーキを作る腕を持っている。


「テレーゼさん、この前のデザートのケーキはルーシーさんが作っていたんですよ」


「えっ!? あれって、どこかのお店で買ってきたものじゃなかったんですか……!?

 でも私も、ある意味では負けていないと思いますよ!」


「ある意味って……?」


「……手作り感? ……とか?」


 お店の味と家庭の味は違うものだ。おそらくはきっとそういうことだろう。

 ……それ以外だったらよく分からないけど。


「ありがとうございます、それでは屋敷の者で頂戴いたします。

 ――アイナ様、食事の準備はできていますが、いかがいたしますか?」


「そうだねー……。

 テレーゼさんを部屋に案内してくるから、15分後くらいで大丈夫?」


「かしこまりました。そのようにいたします」


「うん、よろしくね。

 それじゃテレーゼさん、今日のお部屋に案内しますね」


「はい!」



 メイドさんたちと一旦別れて、他のみんなでぞろぞろと2階へ向かう。

 テレーゼさんの部屋は私の部屋から近いところで、向かいの部屋にすることにしていた。


「ここでーす」


 扉を開けてテレーゼさんを中へと促す。

 他の部屋と同じような間取りだから、特に言うことは無いんだけど――


「わぁ! 立派なお部屋ですね!」


 ――って、私もちょっと贅沢な暮らしに慣れ過ぎてしまったのかもしれない。

 確か昔、同じようなことを思った記憶があるし。


「部屋の鍵はテーブルの上に置いているので、しっかり使ってくださいね。

 あと、何か足りないものがあれば教えてください。持ってきてもらいますから」


「分かりました! うーん、何だか緊張しますね……!」


 ああ、初々しい。私にもこんな時代があったんだよなぁ……。



「アイナさん、私も部屋に一回戻りますね」


「私も同じく、です」


 エミリアさんとルークはそう言うと、それぞれの部屋に戻っていった。


「……むむ? この向かいがアイナさんの部屋ですよね。

 お2人はアイナさんの両隣なんですか?」


「はい。庭が見える方の部屋を全員が取っちゃって」


「うぅ、仲良しで羨ましい……! 私、ここに引っ越してきちゃいたいです!」


 それは何ともワガママというか、傍若無人な要望だけど――

 でも最近のテレーゼさんを見ていたせいか、それすらも愛しく思えてしまう。


「ここに住むと錬金術師ギルドまで遠くなりますよ?

 せっかく近くに住んでいるのに、もったいないと思います」


「もったいない……。もったいない……ですかね?」


 近いだけで価値がある。

 通勤なんて毎日のことだし、積み重なると結構大きな時間になってしまうのだから。


「それと、さすがに家賃をもらうことになりますので――」


「あ! 多分払えませんね! 諦めます!」


「はやっ」


「いやいや、私はただのギルド職員なんですよ!?

 アイナさんみたいなSランクの方と同じ生活水準は厳しいです!」


「そう言われると何も返せませんけど……。

 でもたまにお泊りにくるくらいでしたら歓迎しますので、お気軽にどうぞ」


「毎週来ても良いですか!?」


「それは来すぎですかね……」


「ぎゃふん」



 でも、月に1回くらいなら良い感じじゃないかな?

 さすがに毎週は別荘にされてる感じがするし、そしたらやっぱり家賃を――って言いたくなっちゃうからね。

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