265.久々の魔物討伐③
――バガアアアァアンッ!!
「うひっ」
2体目のストーンゴーレムは、ルークのよく分からない斬撃でまっぷたつにされた。
右肩から左腰に掛けて綺麗に斬り裂かれた――そんな感じだ。
……あれ? ストーンゴーレムって岩だよね、あれ?
「えぇーっ!? ルークさん、反則的な強さじゃないですかーっ!!」
エミリアさんは嬉しそうなんだか悔しそうなんだか、そんな感じで叫んでいた。
うん、何だか気持ちは分かる気がする。
「まったくですね。いや、きつい修行を乗り越えただけはあるっていうか……?」
2人で話していると、ルークが残りのストーンゴーレムに気を払いながら戻ってきた。
「残りは1体ですね。
……さて、ここからどうしましょう」
「え? 今まで通り、一気に倒しちゃえば良いんじゃないの?
ずがーんと、ばかーんと」
「実はですね……、必殺技は1日に2回が限界なんです」
「むむ?」
「あらかじめ闘気のようなものを練っておいて、それを解放することで必殺技を放つことができるんです。
つまり、今日の分はもうおしまいということですね」
「そ、それは予想外……!」
便利で強力な反面、使用回数の制限があるということか。
たまにそんなゲームもあったけど、何となく少数派のイメージだ。
「ルークさん……。制限がある割に、あっさりと2回使っちゃいましたね……」
「申し訳ありません、良いところをお見せしようと思いまして……」
少し恐縮して言うルーク。
以前よりもかなり強くはなっているものの、そういう性格は変わっていなくて安心する。
「うん、良いところは十分に見せてもらったよ!
……それじゃ、あと1体はどうしようか」
ぶっちゃけて言うと、2体倒したから2体分の報酬をもらっておしまい――というのでも良いんだよね。
若干、消化不良の気もしなくは無いけど。
「必殺技なしではダメそうですか?」
「そうですね、剣の方がダメになってしまいますので」
それはそうだ。
いくら丈夫に作った剣とはいえ、無理に岩を叩いていればすぐに刃が欠けてしまうだろう。
「ふむ……。ここは私の出番ですね!」
「え? シルバー・ブレッドで倒しちゃう感じですか?」
「いえいえ、私の新魔法をお披露目するところかなと!」
「おぉ、いつの間に!」
「最近ずっと勉強してたんですよ。
さぁ、ルークさん。剣を出してください」
「えーと……はい、どうぞ」
ルークは切っ先を向けないようにして、エミリアさんに剣を差し出した。
「いきますよー。
プロテクト・ブレッシング!!」
エミリアさんがそう唱えた瞬間、ルークの剣が白色に光輝いた。
「……わぁ、綺麗」
「綺麗ですよね! この魔法は聖なる加護によって、装備を破損から保護してくれる魔法なんです」
「まさに今、うってつけですね。
……って、何でまたそんなピンポイントな魔法を覚えたんですか……」
「私たちのパーティはルークさん頼みの構成ですから。
また一緒に依頼を受けるときに便利かなって、覚えたんですよ。……早速役に立ちましたでしょう?」
ふふん♪ といった感じで、どや顔をするエミリアさん。
「ま、まぁ……そうですね。それじゃ剣の問題は解決ということで……。
これなら残りの1体は倒せそう?」
「はい、剣が大丈夫なら何とかなるでしょう。
……ところでアイナ様は、氷の魔法を覚えられたんですよね?」
「うん、アイス・ブラストっていうやつ。氷の塊をぶつける感じの魔法だよ」
「ものは試しで、アイナ様も攻撃をしてみませんか?」
「えっ!?」
ルークからの突然の申し出に、私は驚いた。
戦闘は任せっきりにするつもりだったから、その発想は無かったというか――
「ついにアイナさんも魔法使いデビューですね!」
「えぇー……。魔法を撃ったらこっちに襲ってこないかなぁ……」
「私がお護りするので大丈夫です。
それにストーンゴーレムの身体を凍らせることができれば、そこが脆くなるかと思ったんですが……」
「うぅーん……。あくまでもぶつけるだけだから、凍りはしないと思うよ?」
氷の塊を撃ちはするけど、どちらかといえば物理っぽい攻撃なんだよね。
炎の中に撃ち込んだりするならまた違うんだろうけど……。
「でも、せっかくですし! やってみましょう!」
「ふぇぇー……?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
外したら格好悪い……、外したら格好悪い……。
当たりますように、当たりますように――
「――アイス・ブラストっ!!」
ドォン……ッ!!
「おぉ、アイナ様が魔法を……!」
私が魔法でストーンゴーレムを攻撃すると、ルークの感動の声が聞こえてきた。
何だか恥ずかしいからあまり言わないで欲しいんだけど、とりあえず初弾は当たって良かった!
ルークの修練でボールを投げたときとは違って、魔法ならそれなりに当てることはできるんだよね。
細かいコントロールはまだ難しいんだけど。
「それではアイナさん! 同じところを狙っていきましょう!!」
細かいコントロールはまだ難しいんだけど!!
「アイス・ブラストぉっ!!」
ドォン……ッ!!
「惜しい! もう少し上ですっ!!」
「アイス・ブラストおぉっ!!」
ドォン……ッ!!
「もう少し右ですっ!!」
「うわああああっ! アイス・ブラストおぉおぉっ!!」
ドォン……ッ!!
「もう少し左――」
魔力が無くなるまで氷の塊を撃ち込み終わると、何回か当たった場所をルークが執拗に攻撃し始めた。
エミリアさんもシルバー・ブレッドで、その場所を器用に狙っていく。
……さすが経験者、魔法のコントロールは私なんかよりもずっと上だ。
思い返せばエミリアさんが魔法を外しているのなんて、1回も見たことがないからね。
そのまま5分ほど攻撃を続けるとストーンゴーレムの腕が崩れ落ち、10分ほど攻撃を続けるとその動きが鈍ってきた。
そして15分ほど攻撃を続けると、ようやく完全に動きを止めることができた。
「――お疲れ様!
結構、時間が掛かっちゃったかも?」
「そうですね、さすがに防御力が売りの魔物でした」
「やっぱり剣とは相性が悪いですね。鈍器とかハンマーの方が効果的な感じでしょうか。
……とすると、次に覚える魔法は――」
エミリアさんは今の戦いを振り返って、早速次に覚える魔法を思案していた。
何とも勉強熱心で何より。その姿勢は私も見習わないと。
「さて、それじゃ3匹倒し終わったから戻りますか。
討伐の証拠品は……この石かな?」
ストーンゴーレム1体につき、身体のどこかに埋まっているという不思議な石。
この石に力が宿って、ストーンゴーレムの身体を形作っていくらしい。何ともファンタジーな逸品である。
「他の2体の核石はこちらです。
アイナ様、持って頂いてもよろしいでしょうか」
「うん、ちょうだいー」
ルークから核石を受け取って、アイテムボックスに順次しまっていく。
3体倒したから、核石は合計3個――っと。
「討伐も終わりましたし、今晩はテレーゼさんと約束があるということですので、早々に戻ることにしましょう」
「そうだね。それじゃ戻りましょ――……の前に、さすがに昼食はとっていきましょうか。
ぱぱっと食べて、そのあと戻りましょ」
「はい」
「はーい」
ストーンゴーレムを無事に討伐することができた私たちは、ブルーノさんと合流して昼食をとることにした。




