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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
261/911

261.遠い彼の地で

 ジェラードは私との話を終えたあと、ルークと2人で何かを話していた。

 そのあとは私とエミリアさんと合流して、4人で少しだけ話をしてから――


「――それじゃ今日は遅いし、僕はもう帰るね。

 留守の間はルーク君、2人をよろしく♪」


「はい、分かりました」


 ジェラードのお願いをすんなりと引き受けるルーク。

 お願いしなくてもしっかりやってくれそうだけど、そこはそれ。きっと男の約束といった感じのものだろう。


「ジェラードさんも気を付けてくださいね。

 ――ああ、そうそう。餞別に高級ポーションをどうぞ」


 そう言いながら、瓶を5本ほど押し付ける。


「ありがとう、遠慮なくもらうよ。

 このお返しは、戻ってきたときにまた働いて返すね♪」


「待ってますからね!」


「ジェラードさん、あまり無理はしないでくださいよ!」


「うん、エミリアちゃんもアイナちゃんのことをよろしくね。

 ……それじゃ♪」


 ジェラードは最後に笑顔を見せると、お屋敷から去っていった。




「――はぁ。ジェラードさんがいない間は少し心細いですが、しっかり頑張りましょう。

 ルークも戻ってきてくれたし、大丈夫だとは思いますけど!」


「頑張ります! ……何を頑張れば良いかはちょっと分かりませんが、頑張ります!」


「特に問題が無いなら、いつも通りで良いと思いますよ」


「それでは平穏な日々が続くように、とりあえず毎日お祈りをしておきますね!」


「おぉ、さすが司祭様。よろしくお願いします!」


「お任せください!」


 エミリアさんは自信満々に言い切った。これできっと平穏な日々が訪れてくれることだろう。

 さて、時間もかなり遅いし、そろそろ――


「アイナ様、このあと少しよろしいですか?」


「え? どうしたの?」


「一応、お耳に入れておきたいことがありまして」


「了解、それなら客室で話そうか」


「アイナさん、私は先に部屋に戻ってますね。何かありましたらお呼びください」


「はーい」


 エミリアさんはルークの空気を察したのか、そのまま部屋に戻っていった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


 客室のソファに座り、2人分のお茶を入れる。

 片方をルークに渡して、ゆったりとした雰囲気の中で話を進めることにした。


「それで、何のお話かな? ジェラードさんと何かあったの?」


「はい、ジェラードさんから少し話を伺いまして。

 ……私の故郷、クレントスの話なんですが」


 ――辺境都市クレントス。

 私が転生してきた場所の、すぐ側にあった街。そしてルークが生まれ育った街だ。

 この王都からは3週間ほどの距離があり、かなり遠い場所ということになる。


 ……思えば遠くに来たものだ。


「クレントスの? ジェラードさんは『時事』って言ってたけど、何だろ」


「情報を得たので共有しておきたかった、ということでした。

 特に何がどうというか……どうすることもできないというか、そんな話ではあるのですが」


「ふぅん……? それで、何があったの?」


「何でもクレントスに、王政に対する反乱分子が集まってきているそうなんです。

 まだ具体的な行動は起こしていないらしいのですが、それに対抗すべく王国も動き始めているとか」


「反乱分子……?

 平和な国に見えて、やっぱりそういうのもあるんだ――」


 ――と言い掛けて、そういえばと思い出す。

 この国の王様、他国への侵略を考えているんだよね。実際のところ、裏では何があるのか分からないものだ。


「そしてそのリーダーの名前は、アイーシャ・ルクス・アドリエンヌ……という方です」


「へー、女性なんだ――って、アイーシャ? ……え? ……もしかして、アイーシャさん……?」


「はい。信じられませんが、そのようで……」


 アイーシャさんとは、クレントスで私が脚を治してあげたお婆さんだ。

 そしてそのお礼に、私に立派な杖をくれた人。



『これはね、私の支援者に取り寄せてもらったの。脚を治してもらってからね、私にもやりたいことが出来たのよ』


『私も結構な野心家なのよ? 毒を食らわば皿まで。そうそう、アイナさん、ヴィクトリア様にちょっかいを出されていたんでしょう?』


『私の恩人にちょっかいを出すなんて、誰であろうと許しませんからね。うふふ、アイナさんがこの街に戻って来たとき、どうなっているかしらね……?』



 ――記憶を辿れば、確かにアイーシャさんは別れ際に物騒なことを言っていた。

 まさか、そんなに大それたことをするなんて……?


 ルークの顔を見てみれば、自分で言っておいて信じられない――そんな顔をしていた。

 私は先の言葉を本人から聞いてはいたけど、ルークとしてはアイーシャさんがそんなことをするなんて思いもよらないだろう。


「うーん……。アイーシャさんは没落貴族の方で、ルイサさん曰く『悪い連中』が接触を持とうとしていたそうなんだよね」


 『悪い連中』……というのは、今の流れでは『王政への反乱分子』……ということになるだろう。

 確かに平和な世界において、それを壊す者がいるとしたら――『悪い』と言われても仕方が無いか。


「……そうだったんですか。

 私はルイサおば……ルイサさんからは何も聞いていませんでしたから、まったく知りませんでした」


「ルイサさんにとっては、ルークはいつまで経っても子供みたいなものだからね……」


「そうですね……。

 それでジェラードさんが言うには、ここまでが1か月前に伝えてくれようとした情報だそうです」


「え? そうすると続きがあるの?」


「はい。何でも周辺都市から派兵が始まったそうです。

 ミラエルツやメルタテオス……それ以外にも多くの都市が、王都とクレントスの間にはありますので」


「えぇ……? それって大丈夫なの……?」


「どうでしょう……。

 私は昔のアイーシャおば……アイーシャさんは知りませんので、どれくらいのことが出来るのかはまったく……」


「ふーむ……。ちなみに一番兵力があるのって、やっぱり王都なんだよね?」


「そうですね。王都からも少人数ではあるそうですが、派兵されたようです」


「……めちゃくちゃ心配になってきた。

 でもこんなところからクレントスまで派兵するんだね……。さすがに遠すぎない?」


 片道3週間。

 そんな場所から派兵するのは、様々なコストが掛かり過ぎる気がするのだが――


「主に物資補給が目的だそうです。

 やはり王都は流通が最も盛んな場所なので、他の場所では調達しづらいものを大量に送り込むのだとか」


「へぇ……?」


「戦いが激化すれば消耗品もたくさん必要になりますからね。

 怪我をすれば薬も必要になりますし、戦いを効率的に進めるには爆弾なども使用されますし――」


 ……え。


「爆弾……」


「はい。全員が全員、魔法を使えるわけではありません。

 やはりそういう武装があるのと無いのとでは大違いです。……どうかされましたか?」


「え? う、ううん、何でも無いよ!?」


 ――何て、そんなことは無い。

 先日、王国軍の第二装備調達局から受けた依頼……爆弾。


 ルークの話から察するに、あの爆弾もクレントスでの戦いに使うものかもしれない。

 そういえばジェラードも、調達局の動きを追っている中で私のところに来たことがあったし――


「……そうですか? 顔色が悪いようですが……」


「そんなこと――

 ……いや、違う。ごめん、王国軍からの依頼で、爆弾を作って納品しちゃったんだ……」


 そのことを隠すには何か後ろめたく、ひとまず正直に話すことにした。


「なるほど。……しかしアイナ様が作らなくても、他に作る方はいたでしょう。

 アイナ様が王都に来る前でも、そういう武装は普通に流通していたのですから」


「……威力は普通より高いけど、大丈夫かな……」


「そ、そこは……まぁ……」


 私の問いに、ルークは何とも答えづらいように言葉を詰まらせた。




「――私、クレントスに戻った方が良いかな……」


 しばらく無言の状態が続いたあと、私は何となくそんなことを言ってみる。


「アイナ様が、何故?」


「いや、爆弾を作ったのもそうなんだけど、アイーシャさんの脚を治したのも私だし――」


 ――しかし戻ったところで、何がどうなるということも無い。


「ご心配されるのは分かりますが、この件はアイナ様とは関係の無いことだと思います。

 ジェラードさんが私にこの話をしたのも、そもそもはクレントスが私の故郷だからです。

 ……ですので、あまり気に病まないでください」


「うん……。ごめんね」


「……いえ。

 実は私も、こう見えて結構動揺しているんですよ」


「そうなの? ……あんまり、そうは見えないなぁ……」


「ははは。それも例の修行のおかげでしょう。

 気持ちを安定させるのは特に力を入れましたからね」


「はぁ、凄いね……。私もその修行、受けてみたいかも……」


「滝から飛び降りたり海に潜ったりしますが、大丈夫ですか?」


「……うそ。前言撤回」


「ははは、それが賢明です」


「そう? そうだよね、あはは……♪」



 最後は強引に笑い話に持っていって、今日はそこで話を終わることにした。


 私の作ったものが、仲間の故郷で、知り合いを倒すために使われる。

 そう考えるだけで、何とも心が強く締め付けられてしまう思いだ。


 ……いや。正直、本当にしんどいかも。

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