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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
260/911

260.彼のお願い

 ルークの修行秘話を一通り聞いて盛り上がったあと、最後にルークは付け加えるように言った。


「――そういえば帰りの船に、例の女性も乗っていたんですよ」


「ん? 例の女性って?」


「以前私に付き纏っていた、オティーリエさん……という王族の方です」


「「え?」」


 せっかく忘れていたその名前。

 何だか唐突に刃物を突き付けられたような錯覚を覚えた。


「特に話はしていないのですが、やはりたまにちらちらと見られて……。

 従者も10人ほどいたので、その関係で話し掛けられなかったのでしょうか」


「どうだろうね……。ちなみにオティーリエさんって、何かの試練を受けに行ってたみたいなんだよね。

 場所が同じだったのかな?」


「なるほど。あの島は少し不思議な感じがしましたし、試練の舞台となるようなものがあったのかもしれません」


「出てる船も少ないっていう話だしね……。

 帰ってくるタイミングも同じになっちゃうか」


 それにしても船の上で逃げ場が無い状態だったのに、オティーリエさんはルークに接触しなかったのか。

 以前のノリであれば、アタックなりアピールなりをしてきそうな感じがするんだけど――


「実際のところ、静かにしてくれていたので助かりましたよ。

 逃げるにはもう海に飛び込むしかありませんから。……修行中に散々海にも飛び込んだので、別に平気なんですが」


「……逞しくなったねぇ」


「ルークさん、剣よりもサバイバルの方が上達してそうですよね……」


「確かに」


「ははは、そうですね。剣の修行もやりましたが、今回はそれ以外の修行の方が多かったです。

 剣の方はまだまだ、修めるには長い道のりですよ」


「そういえば必殺技みたいなのは教えてもらったの?」


「おぉ、必殺技!

 リーゼさんも何か使っていたんでしたよね。……私、やられたあとでしたけど」


「えーっと、確か『クルーエル・テレブレーション』……でしたっけ?

 風の塊がズガアアンって感じで、あれは凄かったですね。ルークに思いっきり当たってたけど」


 ……いや、そうなったのは私を護ったからだ。

 本来は受けなくても良い攻撃だったわけで、思い返すと今なお申し訳なくなってくる。


「――そうですね、あんな感じの……多少強さは上下しますが、3つほど教えて頂きました。

 ただ、使えるようになったのは2つだけです」


「へー、凄い!」


「もう1つのって、使うのが難しいんですか?」


「いえ、ちょっと条件が必要な技なんですよ。魔法剣の技……というのでしょうか。

 私はあくまでも普通の剣使いですから、そちらの方は一応教わっただけですね」


「ふむ。……となると、やっぱり今後は魔法剣も覚えていく?」


「どっちつかずになっても困るので、まずは普通の剣に絞ろうかと考えています。

 その応用として、いずれ魔法剣も少し学んでみようかなと」


「なるほど……。先は長いね」


「これは負けていられません! 私もバニッシュフェイトを目指して頑張らないと!」


 ルークの言葉に、エミリアさんも力を込めた。


「エミリアさん、いっそ魔法使いを目指してみては?」


「いやいや、そんな中途半端はいけません! 私は聖職者の道を邁進するのみです!」


 さり気なく魔法使いの選択肢を提示してみるも、エミリアさんは何の興味も示さなかった。

 夢の中で見た英知の姿――エミリアさん魔法使いバージョンとは一体何だったのか……。


「支援に攻撃に、いろいろな魔法を覚えたら強そうだなって思ったんですが、ダメですかー」


「うーん、修得しきればそうかもしれませんけど……。

 それならアイナさんはどうです? 錬金術はもう完全にマスターしてるじゃないですか」


「む。確かにこれ以上はレベルが上がりませんね」


「料理スキルなんてどうでですか?

 この前お料理したときも、錬金術を絡めていろいろやっていましたし」


「ふむ。それは良いかも……?」


 そう思いながら何となく自分を詳細に鑑定してみると、料理スキルのレベルは5だった。

 技能系のスキルはレベル20でやっと一人前という感じだから、私の料理の腕はまだまだ……といったところだ。


 でも勉強のし甲斐はありそうだし、選択肢には入れておこうかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夕食後、ルークも疲れているだろうということで、ほどほどのところで解散することにした。

 今日はいろいろなことがあったので、何となく部屋でぼけーっとしていたのだが――


 そんなタイミングで、遅い時間にも関わらずジェラードがやってきた。

 ひとまずは客室に通して、お茶を飲みながら2人で話すことにする。


「――へぇ! ルーク君が帰ってきたんだ?」


「そうなんですよ。あ、呼びましょうか?」


「うーん、そうだね。ちょっとルーク君に話したいこともあるから――」


「話したいこと?」


 そういえばルークが修行に出て行った直後にも、確かそんなことを言っていたような……。


「ちょっとした時事なんだけどね。

 まぁそれはそれとして、まずはアイナちゃんといろいろお話したいから、ルーク君はそのあとにしようかな♪」


「そうですか?」


 それならその通りにしよう。

 こんな時間に来るくらいなのだから、そもそも私に話があったのだろうし。


「――先日の『意識昏睡ポーション』だけど、無事にグランベル公爵に飲ませてきたよ」


「そうですか……。どうでした?」


「元々が意識不明だったからね、特に様子は変わらなかったかな。

 でも僕が付いていて良かったよ。飲ませるとき、グランベル公爵が懇意にしている医者が立ち会ってね~」


「え? それって大丈夫だったんですか?」


「うん、鑑定スキルを持ってたのは予想外だったけどね。

 先に『意識障害(大)治癒ポーション』を見せてから、鑑定してもらったあとに、『意識昏睡ポーション』にすり替えて飲ませたんだ」


「あー……。そういう小技、ジェラードさんは得意ですもんね。

 ファーディナンドさんだけだったら上手くいかなかったかも?」


「多分ね。うん、結果オーライってやつ♪」


「さすがですね!

 それで薬を飲ませたにも関わらず目を覚まさなかったわけですけど、お医者さんは何か言ってました?

 ……そもそも状態異常を鑑定されませんでした?」


「ああ……。

 アイナちゃん、鑑定スキルで状態異常を調べるのって、それなりにレベルが必要なんだよ」


「む。そ、そういえば……?」


 何を隠そう、私は鑑定スキルも最初からレベル99なのだ。

 結構忘れがちだけど、私が鑑定で何から何まで調べられてしまうのは、このレベルがあったればこそなんだよね。


「そんなわけで、医者にはファーディナンドさんが適当に言って誤魔化してたよ。

 重度の意識障害だから、最高峰の薬を以ってしてもすぐには効果を現さないだろう――って」


「さすがに機転が利きますね」


「うん。見ていて安心できる人だよ。

 弟がああじゃなかったら、本来はグランベル家を継ぐ人だったわけだし」


「確かに……。それに貴族の中でもトップクラスですからね。

 ファーディナンドさんの後ろ盾があれば、私も少しは安心できるようになるんだけどなぁ……」


 王様のちょっかいやら、オティーリエさんのちょっかいやら。

 ファーディナンドさんにはそこら辺を上手く防ぐ盾にもなって欲しいところだ。


「――そうなると良いね。

 そうそう。少し話をしてきたけど、ファーディナンドさんもアイナちゃんのことはとっても信頼していたよ」


「それは良かったです。

 まぁ……あんな薬を渡した時点で共犯みたいなものですからね。……いや、共犯そのものか」


 自分で言って少しテンションを下げてしまう。

 しかし総合的に見て、この選択がベストだと自分で判断したのだ。いまさら後悔するところでも無い。



「――さて。今日の本題の1つはそれだったんだけど、実はもう1つあるんだ」


「え? はい、何でしょう」


 それ以外の本題?

 何か頼んでいたことはあったっけ? ……別件かな?


「ルーク君が戻ってきたのはちょうど良かった。これも神の思し召し(おぼしめし)というやつか」


「ちょうど良かった……って言うのは?」


「うん。えっとね――

 僕、ちょっとこれからミラエルツに行ってこようと思うんだ」


 ――鉱山都市ミラエルツ。

 以前私たちが訪れた街。そしてジェラードと初めて会った街――


「突然ですね。何かあったんですか?」


「……僕の右腕のことは覚えているよね」


「はい」


 ジェラードの右腕は、私たちが会った時点ではすでに動かすことができなくなっていた。

 それを私の薬で治したんだけど――


「ファーディナンドさんの話を聞いていてね、僕の右腕が疼くんだよ。

 アイナちゃんのおかげで今は全盛期以上に動けるようにはなったけど、あのときの借りを僕はまだ返していないんだ」


「あのときの、借り……」


 ジェラードの右腕は偶然や事故で動かなくなったのでは無い。

 故意に、ジェラードに罰を与えるためにそうさせられたのだ。


 『ちょっと怖い組織から受けた仕事に失敗した』ために、命の代償として右腕の動きを奪われた――そんな話を以前に聞いていた。


「……そんな野暮用でさ、1か月か2か月くらい王都を離れようと思うんだ。

 できるだけ早く戻ってこようとは思うんだけど、良いかな……?」


 ファーディナンドさんがグランベル公爵に手を出したのを見て、何か思うところがあったのだろう。

 彼もまた、昔の借りを返そうとしているところなのだから。


「――分かりました。

 こちらは何とかしますので、気にしないで行ってきてください。……最近、頼りすぎでしたしね」


「ありがとう……。

 またたくさん頼ってもらえるように、すぐに戻ってくるからさ。大変なときに、本当にごめん」


「いえいえ、大丈夫ですよ!」



 ――とは言っても、やはり心配なところはある。

 裏の社会に通じたジェラードは、私やエミリアさん、ルークに足りない部分を本当に補ってくれているのだ。


 でも1か月か2か月の辛抱だし、ここは耐えることにしよう。

 ……大丈夫かな。……いや、頑張ろう。

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