26.おはようございます
「――――――ッ!!」
……うん? 誰かが大きな声を出している気がする。
む……? そういえば、いつもより身体が楽なような気がする……?
まぁ、そうはいっても死にそうなくらいにはしんどいんだけど。
「――――ナ様ッ!!」
なさま? なさま……なさま……。なさまって何?
「――アイナ様ッ!!」
ああ、『アイナ様』ね。あー、私の名前だー。でも『様付け』するほど私は偉くないよー?
そんなことを思いながら目を開ける。
開けたところでぼんやりとしか見えないんだけど。
んん……?
私の右手を誰かが握っている。
そういえばこの前も誰かに握ってもらったみたいだけど、それよりも大きくて固いなぁ。
――はっ!? もしかして私には彼氏がいたのか!?
……なわけないでしょー。とほほ。
「――アイナ様ッ!! 私のことは分かりますか!?」
うんー? 身体が動かなくて横を向けないんだよー……などと思っていると、視界に若い青年が入って来た。
ああ、ぼんやりとしか見えないけど、なんとなく見覚えはある……。会社の人かな……。いやぁ、こんな人いたかなぁ……?
いや、でも何か落ち着く人だなぁ? 何でだろ。
「――私です! ルークです! お気を確かにッ!!」
そういえばこの人、あんまり日本人っぽくないし……外人さんかな?
えっと、知り合いに外人なんていないしなぁ…………――って? うん? ルーク?
ルーク……ルーク。うん、ルーク。
…………ああ、ルークね!!!
知ってる! 超知ってる!
あー、そうそう! 私、異世界に転生したんだった!
何だか急に、色々思い出してきた!!
ルークの名前を皮切りに、一気にいろいろと思い出す。
そうそう、確かガルーナ村の沼地で疫病に侵されて――
あ! つまり私のこの死にそうな状況って、疫病か!!
それに気付くと、私は自分に鑑定スキルを掛けた。
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【状態異常】
疫病610型、疫病3011型、疫病3451型、疫病3912型
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……おおう、4つ同時進行だったのね。そりゃしんどいよ……。
でもこれ、疫病の型が分かったところで薬作れないんじゃ――と思いながら『創造才覚<錬金術>』に意識を傾ける。
……あれ? 何だか作れそう?
作ってみる――? と思ったけど、ちょうど右手は(多分)ルークが握ってくれてるんだよね。
「……ひ、だり……て……」
全身全霊を込めて言葉を発する。
左手を掛け布団から出してください!!
「あ、アイナ様っ!! 左手……左手ですか!?」
ルークが反応する。少し時間を空けて、他の誰かが私の左腕を掛け布団の上に出してくれた。
よーし、ありがとうございます。
それぞれの疫病の症状を鑑定した後、まずは一番喉にダメージを与えている疫病3011型を治すことに。
えぇっと……えーい、れんきん!
バチッ!!
作った薬は視界に入らないが、左手の上には瓶の重さを感じる。
場所は分かるので一応鑑定しておこう。
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【抗菌薬<3011型>(S+級)】
疫病3011型を永続的に治癒する薬
※追加効果:即効性(大)
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うん、ばっちり。
そして再度、全身全霊を込めて言葉を発する。
「それ……飲ませ……て……」
「わ、分かりました! ただちに!!」
「ごほっ! はぁ、はぁ……あー。あー。……はぁ、ありがと……」
薬を飲ませてもらうと喉の痛みがすっと引き、声を出すのも随分と楽になった。
「おぉ……アイナ様っ! アイナ様っ!!」
ルークが必死に声を掛けてくれる。
うーん、ありがとね。
「ルークも……大丈夫……だったんだね……。うん、良かった……」
ひとまずは私もルークも命を落とすことはなかった。
……というか私、レアスキルの『不老不死』持ってるんだけど……疫病には負けちゃうものなの?
そういえば『不老不死』は鑑定したことなかったし、良い機会だから鑑定しておこうかな。
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【不老不死】
歳を取らない不老状態になる。
絶命時、瀕死になる
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……。
えー……? 『不死』っていっても漫画みたいに即再生、即復活するわけじゃないの……?
このレベルの不死だと色々思うところがあるよ? 今回みたいな疫病とかだと、治さない限り永遠に苦しむことになるんだよ? 永遠に瀕死だよ?
ま、まぁとりあえずこれは後においておこう。
それよりもまだ3つの疫病に掛かってるわけだし、先にこれを治してしまおう……。ごほごほ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ~……。一通り治ったよー……」
残りの3つの疫病を薬で治してひと段落。
状態異常には『衰弱(大)』が残っているけど、これは休息を取って何とかしよう。
「さすがはアイナ様……。あれほど苦しんでいらっしゃったのに……」
ルークが感心する。ルークに感心されるのは随分と久し振りの気がした。
「……私、どれくらい寝込んでた?」
「えっと……10日ほどですね」
「とお……? ふ、ふーん……。確かにすごい長い間、うなされてた気がするよ……」
「そうですね、とても苦しそうにされていました……。出来るだけのことはしていたのですが、やはり薬が無くて――」
「――あ、そうそう! 薬といえば、ルークも疫病に掛かってたよね?」
「はい。でもアイナ様のおかげで、私の方は大丈夫でした」
「……え? 私のおかげ?」
ルークの答えの中に戸惑う私。
「え……? 覚えていらっしゃらないんですか?」
「うん」
私が何かやったのかな?
「沼地でアイナ様が倒れた後、村までの道中で薬を全部作って頂いたのですが……」
「……は?」
「いえ、そのときはもうアイナ様は朦朧とした状態でしたが、そんな中で私の掛かっている疫病の分は全部――」
え、もしかして無意識で作っちゃったの?
……っていうか、さっきの薬もそうだったんだけど、材料は大丈夫だったのかな?
えーっと、『創造才覚<錬金術>』……っと。
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【『抗菌薬<3011型>』の作成に必要なアイテム】
・癒し草×1
・血清×1
・溶解液×1
・空き瓶×1
・触媒:ダンジョン・コア<疫病の迷宮>
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……MVPは最後のお前か……。
『あらゆる疫病を撒き散らす』力を持つけど、良い方向に使えば『あらゆる疫病を治す』力にも成り得るってことかな……。
そもそもの能力とは違ってくるけど、私の支配下にある限りは役に立つ方向で使わせてもらうよ。ふふふ、贖罪するのだ。
――ちなみに『触媒』っていうのは『何回でも使える素材』って感じ。私も初めて見たんだけど。




