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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
257/911

257.帰還①

 朝、いつものように朝食をとっていると、その途中でミュリエルさんが食堂にやってきた。

 給仕は他のメイドさんがやっているから、ミュリエルさんはここの仕事は無いはずなんだけど――


 ついついその場の全員で、ミュリエルさんを見つめてしまう。


「お食事中に申し訳ありません。お客様がお見えなのですが……」


「え? こんなに早く? 誰?」


「大聖堂のレオノーラ様からの使いの方だそうです。

 ……それで、エミリアさんに取り次ぎをお願いしたいと」


「えっ、私ですか!?」


 思わぬ指名に、エミリアさんが驚きの声を上げる。


「はい。できるだけ急いで、ということでした」


「うーん……何でしょうね?

 すいません、アイナさん。ちょっと行ってきますね」




 ――5分ほどすると、エミリアさんは少し険しい顔をしながら戻ってきた。


「お帰りなさい。何だったんですか?」


「いえ、時間ができたら大聖堂まですぐ来るように――って。

 少しくらい用件を伝えてくれても良さそうなものですが……」


「そうですね……。

 でも使いを寄越すくらいですし、早めに行った方が良さそうですね」


「朝食が終わったらすぐに行ってみます。

 ……今日はアイナさんと遊びたかったのに!」


「あはは、何事も無く終わったら何かして遊びましょう。

 ひとまずは心配事を潰しておかないと」


「はい! それとせっかく大聖堂に行くので、今日も少し部屋を片付けてきますね。

 戻りは夕方くらいになると思います」


「分かりました。私も錬金術師ギルドに行ったりとかしてますね」


「テレーゼさんにもよろしくお伝えください!」


 エミリアさんも私から話を聞いて、テレーゼさんの心配をかなりしてくれていた。

 テレーゼさんもそこそこは回復してきたから、たまには昼食をとる人数を増やしてみるのも良いかもしれない。


「そのうちまた、食事もご一緒しましょう。

 テレーゼさんも少しずつは良くなってきているので」


「わーい、良いですね! 楽しみにしておきます♪」


「それも伝えておきますね。では朝食も、さっさと済ませてしまいましょう」


 その後は幾分か口数も減り、いつもより早めに朝食の時間が終わった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 いつも通り昼前に錬金術師ギルドに行くと、テレーゼさんは倉庫整理の仕事をしていた。

 少し元気が戻ってきたから、身体を動かすような仕事にまわしてくれたのだろう。


 書類整理は集中力も要るし、そればかりだと飽きてしまう。

 ここら辺で身体を動かす仕事を振るというのは、なかなか良い采配な気がする。


 ――そんなわけで、以前美味しい思いをしたこともあるので、倉庫整理は私も手伝うことにした。

 今回も雑多にごちゃっとしている倉庫だから、テレーゼさんだけでは大変そうだしね。


「……すいません、アイナさん。お給料も出ないのに……」


「いえいえ! 良いアイテムが出てきたら優先的に売ってくれるって話ですし、大丈夫ですよ!」


 それはダグラスさんからの配慮だった。

 基本的にはタダ働きだからそれくらいは――ということと、あとはテレーゼさんの面倒をみている件の感謝の意味もあるのだとか。

 気になるお値段も多少は安くしてくれるそうだ。


 ……ちなみに今のところ、めぼしいアイテムは何も見つかっていない。



「ひゃぅっ」


 ガシャーンッ!!


 突然響いた声と音に驚いて振り返ると、テレーゼさんが豪快に石の入った瓶をぶちまけているところだった。


「だ、大丈夫ですか!?」


「は、はい……!

 あー、でもちょっと擦りむいちゃいました……」


 とほほ……といった感じで切なそうに笑うテレーゼさん。

 まぁまぁ、ここはさっさとポーションで治してあげよう。


 アイテムボックスから初級ポーションを出して――


「この倉庫もホコリが溜まってますし、危ないから治しちゃいますね」


「えぇ……? これくらいの傷にポーションだなんて――

 ああ、すいません……。ありがとうございます……」


 拒否権は認めないので、さっさとポーションを振り掛けてあげる。

 擦り傷は柔らかい光に包まれて、見る見るうちに癒されていった。


「いえいえ。しかし思いっ切りぶちまけましたね……。

 これはこれで、床がキラキラしていて綺麗ですけど」


「……自分で片付けなきゃいけないというのが無ければ、私も素直にそう思えたかもしれません……」


 確かにそうかもしれない……。

 それにしても改めて見てみると、いろいろな感じの石がたくさん散らばっている。

 ちゃんと選別しないで適当に瓶の中に入れたんじゃない? ……そんな思いが出てくるほどだ。


 となれば、一応は鑑定しておこうかな!

 えいっ、全部かんてーっ


 鑑定スキルを使うと大量の情報が流れ始める。

 そんな中、私はひとつの鑑定結果に目が止まった。


 ----------------------------------------

 【風の封晶石】

 風の力を増幅させる結晶体。高度な製造で使用する

 ----------------------------------------


「……ぬわっ!?」


「え、どうしたんですか!?」


 思わず発した私の声にテレーゼさんが驚いた。

 私は『風の封晶石』を床から拾い、テレーゼさんに見せてみる。


「これ、かなり貴重な石なんですけど……。さっきの瓶に入っていたみたいです……」


「えー。さっきの瓶、ゴミ扱いだったんですよ!?」


「えぇー……?」


 ちょっと錬金術師ギルドさん! ちゃんと仕事してください!


「でもゴミだっていうなら、こっそりもらっちゃえば良いんじゃないですか?

 私、黙ってますよ」


「嫌ですよー! こういうのはちゃんと、お金を払って手に入れないとダメです!」


「真面目ですね!」


「真面目ですとも!」



 そのあと、『風の封晶石』はダグラスさんに報告をして、金貨90枚で買い取ることができた。

 これで4属性――光・火・水・風が揃ったことになる。あとは闇と土だね!


 ……まぁ全部を揃えたところで何を作るとかは無いんだけど、ここはコレクター心理というやつかな。

 それに『火の封晶石』はレオノーラさんからもらったものだから、作るにしても自分用の何かを作りたいしね。

 例えば6属性を揃えて、それをふんだんにあしらったアクセサリとかでも――って、さすがにそれは無駄遣い過ぎるか。


 あれ? ちなみに『火の封晶石』も、今回と同じくらいの値段だったのかな……?

 レオノーラさん、私のプレゼントに奮発しすぎじゃないですかね……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 倉庫整理が終わったころには、すでに夕方になっていた。


 家路について、一人で夕暮れの綺麗な赤い空を見上げて歩く。

 これを見ているだけで、今日一日の疲れが取れていくような気がする――



「――貴女、アイナさんよね?」



「えっ!?」


 耳元で突然聞こえた声に反応すると、少し年上のとても美しい女性が私に話し掛けていた。


「ふぅん……?

 こうして見ると、何ともすっとぼけたお顔をしているのね」


 ――は?

 いやいや、確かにそういうあなたは綺麗だし、何だか高貴な雰囲気があるし、近寄りがたい雰囲気もあるけど――

 いやいや、それにしても初対面の人に『すっとぼけたお顔』は無いでしょう!


「えぇっと……、どこかでお会いしたことはありましたっけ……?」


 私の記憶を辿ってみるが、こんな人には会ったことがない。

 いや……でも何だか、どこかで見たような記憶が……あるような、ないような。


「ふん。あのとき目が合ったとは思っていたんだけど……記憶力も悪いのかしら?」


 その女性は私を蔑むような目で見てくる。

 ああもう、このパターンはどうせどこかの偉い人なんだろうけど――


「記憶力は人並みのつもりですよ!」


 ――こちらもついつい、言葉に不快感が混じってしまう。


「あらあら、そんなに興奮しないでよ。度量も狭いのね。それでSランクの錬金術師だなんて――

 ハッ! 錬金術師ギルドもずいぶん頼りなくなったものねぇ」


「何なんですか、あなたは。……あんまりからかわないでもらえますか?」


「これはごめんなさい。いつもレオノーラからお世話になってるって聞いていてね」


「……レオノーラさん?」


 思わず出てきた名前に驚く。

 もしかして、レオノーラさんの知り合い――


「オティーリエ」


「……え?」


「私の名前はオティーリエ・アルナ・トゥール・フォンセ・ヴェルダクレス――

 記憶力が悪いのなら、最初だけ覚えてもらえば構わないわ。

 レオノーラの知り合いだし、普通に呼ぶことを許してあげる」


「オティーリエ……さん……? あなたが……?」


 それは王都に来て以来、何度も聞いてきた名前。

 エミリアさんの苦手な人、レオノーラさんが慕っている人、そして『王族に伝わる試練』を受けに王都を離れていた人。

 オティーリエさんは私の視界に1回だけ入ったことがある。王様に謁見したとき、その場にいたたくさんの王族の中の1人――


「ふふふ、やっぱり知っているわよね? それじゃ、今後とも末永くよろしく。

 ……そうそう、貴女に言っておかなきゃいけないことがあるの」


「え?」


 私に言うこと? 今まで何の関係も無かったのに、私に言うことなんて――


「――貴女の頼れる騎士様。貴女にはもったいないわ。それにあの方が可哀想……。

 だからね……ルーク様は、私が必ず奪ってあげるから……!!」


 静かでいながら、強い怒りを秘めたような目で睨みつけられる。

 私はそれに怯んでしまったが、それを確認すると、オティーリエさんは清々しい表情を残して私の前から去っていった。



「なん……なの……?」


 私の身体から、力が一気に抜ける。あわやその場に崩れ落ちてしまうところだ。

 そして初対面で植え付けられた、大きな苦手意識……。


 ……ふと空を見上げてみると、血のような赤い夕焼けが一面に広がっていた。

 それは見ているだけで、何とも心を締め付けてくるような――

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