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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第2章 ガルーナ村
25/911

25.意識の底で

「だからさぁ、神原さん。ここのやり方が違うって言ってるの」


「でもBプランで進めるって、この前のミーティングで――」


「はぁ? それはそのときの話でしょ? 毎回確認してよね?」


 会社の一室。いつものように先輩から注意を受ける。

 注意……と言っても、私から見れば不毛な無茶振りのわけで。


 この先輩、何かを聞くとその場その場の答えしか出さない。しかも短絡的で、さらに厄介なことに感情的。


 も~、違うチームに行きたいなぁ。仕事とはいえ、私の精神も限界だよ!


「ちゃんと聞いてるの? もっとしっかりしてよね?」


 あーもう、はいはいはーい!


「……すいませんでした、これからは気を付けます。それでは今回はAプランで進めるってことで良いですか?」


「はあああぁ? そうは言ってないでしょ? 何でそんな適当に放り出すの!?」


 ちょおおぉ!? AプランとBプランしか無くて、BプランじゃないっていったらAプランしかないでしょー!?


「AプランもBプランもダメとなると、どうすれば……」


「それを考えるのがあなたの仕事でしょ!!!?」


 もうダメだ、コイツ。殴りたい。




 休憩室の自動販売機で缶コーヒーを買う。

 ふふふ、今日はちょっと大人の気分で微糖にしよう。

 変な先輩には意味不明に怒られるけど、私だってそれなりに仕事は出来るんだからね。

 でもちょっと凹んだときは、このコーヒーを飲んで大人の成分をチャージするのだ。


 …………うん、苦いや。


 さて、今日ももう少し頑張ろうかな。

 時間は――もう18時か。あと5時間もあれば、資料を作るのくらいは終わるよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「今日もお疲れ様、私」


 時間は既に23時。今日の仕事も何とか無事(?)に終わり、ようやく家路についたところだ。

 外は当然のことながら暗く、ビルの照明と街のネオンライトが遠くで光っている。


「さて……と。『行動力』を消費しちゃわないと」


 そうつぶやきながら、鞄からスマホを取り出してアプリを起動する。

 起動したのは仲間を集めて魔王を討伐するゲームのアプリ。


 仕事の鬱憤をこういうゲームで晴らすんだよッ!!


「むむ、また新しいガチャが来てるねぇ……。もー、無課金ユーザーも愛してよ~」


 アプリが起動すると、画面には『早く新しいキャラクターを買え!』と言わんばかりのド派手な演出が映し出される。


「……うん? 新しいキャラクターに、新能力? ……え、うそ。これ、ぶっ壊れすぎでしょ……!」


 画面を食い入るように見る私。

 そこには今までのゲームバランスが崩れそうなほどの能力を持ったキャラクターが示されていた。


「――それにしてもこのキャラの名前、『アイナ』っていうんだ? ふふふ、私と同じ名前じゃない。

 そっかー、ちょっと課金してみよっかなー。強いし、名前も同じだもんなー」


 よ、よーし! 家に帰ったら早速課金しよう!

 実はスマホアプリにお金を払うのって初めてなんだよね。ふふふ、ちょっと不思議な高揚感が出て来たかも。背徳感、かもしれないけど。

 うーん、とっても楽しみ!



 ――その瞬間、空の暗さとは真逆の、まぶしい光が目に飛び込んで来た。



 ――んん? なんか前もこんなことがあったような気がするぞ――――?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……。




 …………。




 ………………。




 気が付いたとき、私はどこかのベッドで仰向けで寝ているようだった。

 ぼんやり見える天井には見覚えは無いから、ひとまずは自分の部屋では無い。


 ここはどこだろう――?


 そう考えた瞬間、身体中から信じられないほどの重さを感じた。

 いわゆる『ダルい』を極限まで突き詰めた感じというか。


 その上で全身が痛いし、かなり高熱っぽい。

 高熱っぽいと感じた瞬間、嫌になるほど汗まみれなことに気付いた。

 意識も朦朧としているし、頭も喉も痛くて息をするのもかなりつらい。


 つまり一言でいうと、『もう死にそう』って感じだ。


 うん、とりあえず死にそうなのは分かった。

 でも何でこうなってるんだっけ?


 えぇっと、さっき仕事を終えて課金をどうのこうの考えてたら……急に光が飛び込んできて――?


 ああそっか、私は事故にあったんだね。

 でも何とか生き残ったのかな。

 はー、真面目に生きてて良かったわー。


 ……でもこの症状、事故なの? 何だか違うような――。




 ふと気付くと全身に痛みや熱が駆け巡る中、右手に優しい温度を感じた。

 うーん、何だろう?


 まぁ何だろうっていっても、多分誰かが手を握ってくれてるんだよね。

 それくらいの温度だし、何だか柔らかいし。


 でも誰か、手を握ってくれる人なんていたかなー。

 自慢じゃないけど、恋人なんていないしね? 家族も田舎暮らしで疎遠になってるしなー。

 会社の人で握ってくるような人もいないし……、というかいたら引くわー。


 まぁ、誰だか知らないけどありがとう。


 気が付きましたよーってことで、ちょっと握り返してあげよう。




 それにしても目が霞むなぁ。

 曇りガラスを通して見てる感じだよ。


 音も良く聞き取れないから、周りが何か騒いでるような気もするし、静かなような気もするし。

 あ、もしかして病院の集中治療室とかに入れられたりしてるのかなぁ。

 それにしては医療機器みたいな雰囲気は無いよなぁ。




 はぁ。唾を飲むのもしんどい……。あー、水が欲しいー。

 うーん、これってインフルエンザかなぁ。

 事故に遭った上にインフルエンザとか、どれだけ運が悪いのよー。




 うーん。すごい時間が経った気がするけど、まだ起きれない。

 というか身体が動かない。

 いつまで動かないんだろ? ずっとこのままは嫌だなぁ……。

 どこか悪くなると、『普通に動く』ことの大切さが身に染みて分かるよね。

 はー、しんど。




 どれくらいの時間が経ったんだろう?

 もうずっとこのままなら、いっそ……とか考えちゃうよ。

 まだ24年しか生きていないから、もっともっとやりたいことあったけど――


 ――ってあれ? 私って24才だったっけ? 何か17才だった気がするぞ?

 あれ、でも会社に何年か勤めてたし、17才なんてことは無いか……。


 ――ってあれ? そういえば私って不老不死になったんじゃなかったっけ?

 ……って、そんなわけあるかーい。何を妄想しているんだ私は。まずいなぁ、何か記憶がよく分からなくなってきたぞ……。




 ………………。




 …………。




 ……。

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