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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
239/911

239.アイナさんのメイドな1日①

「――はぁ……。服、ありがとうございました……」


 次の日、朝食のときにエミリアさんが例の服を食堂に持ってきた。

 急に渡してくるものだから、とっさに受け取ってアイテムボックスに速攻でしまう。


 ……さすがに、メイドさんたちには見られたくないからね。


「いえいえ。……あの、何だか疲れてません?」


「思いのほか似合わなくてですね……。

 やっぱりこの服は、アイナさんが着ていて良かったと思いました」


「褒め言葉としてはあまり受け取れませんが、ありがとうございます……。

 エミリアさんが着てた服はどうします? お渡ししておきましょうか?」


「……聖職者があんな服を持っているのは、いかがなものかと……」


 なるほど、確かに。

 もしあの服が見つかってしまったら、『お前は裏で何をしているんだ』的な展開になることは目に見えている。

 以前買っていたフリフリの服なら、『あ、そういう趣味なんですね』という感じで終わるだろうから、そっちは問題ないのかな。多分。


「――言われてみればそうですね。

 それではエミリアさんの服は私が預かっておきましょう」


「ありがとうございます……。

 もう着るか分かりませんけど――あ、いえ。ファーディナンドさんに会うときに、また着るんですよね……」


「あはは、そうですね……」


「……でも、アイナさんは私のことは気にしないで、ミニスカの服を楽しんでくれても大丈夫ですから。

 ああ、でも外には出ないでください。ひとりでこっそり、部屋の中で楽しんでくださいね」


「えぇ? 何を言ってるんですか……」


 そうは言ったものの、考えてみればエミリアさんはフリフリの服をこっそり楽しんでいそうだから――

 まぁそういう楽しみ方もあるのかな? さすがにあの服を夜な夜な着ていたら、何だか怪しい感じがするけど。


「――ついでと言ってはなんですが、アイナさんも私が着てた服、着てみませんか?

 是非、見てみたいです!」


「いや、それがあんまり似合わなくて――」


 ――……あ。


「……ッ!!? も、もしかして昨晩着てみたんですか!?

 な、何で呼んでくれなかったんですかぁー!?」


「えぇ……? エミリアさんがそれを言うんですか……?

 それじゃ、今度見せ合いっこします……?」


 それなら何とか妥協の範囲だ。

 自分だけ見せたくないものを見せるのは絶対に嫌だからね。


 しかし――


「……まことに残念です……。きっぱりさっぱり、諦めましょう……」


 ――エミリアさんは、どうしても見せたくないようだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 朝食が終わったころ、給仕をしていなかったマーガレットさんが食堂にやってきた。


「アイナ様、エミリアさん、おはようございます。

 ――あの、今日は魚屋さんに案内するようにクラリスさんから言われたのですが……」


「あれ? アイナさん、そんなお話をしていたんですか?」


「昨日クラリスさんに魚屋さんの場所を聞いたら、それなら――っていうことで。

 マーガレットさんはここら辺のお店の人と仲が良いそうだし、それも良いかなって思いまして」


「いつも行っているお店には、鮮度の良い魚がたくさんあるのでオススメですよ!

 ……それにしてもアイナ様、魚を買われるのですか? もしかしてお料理を?」


「最近お料理もしてないから、それも良いかもねー。

 でも今回は、錬金術で使う素材を探すつもりなの」


「ははぁ……。魚も錬金術に使うのですね、奥が深いです……」


 実際に作る物は魚の缶詰だから、どちらかと言えば料理に近い……のかな?

 いや、料理というか加工だから、やっぱり錬金術が近いか。


 錬金術とは一体……?

 そんないつもの思いに駆られるものの、これはいつもの通り置いておくことにしよう。



「――ところでアイナさん、魚屋さんには私も付いていって良いですか?」


「エミリアさんもですか? 私は大丈夫ですけど――

 ……お店の方は3人、中に入れる?」


「はい、割と広いお店なので問題ありません」


「そうなんだ?

 それじゃエミリアさん、大丈夫そうなので一緒に行きましょう」


「わーい♪ ……ちなみにマーガレットさん、お買い物に行くときはいつもメイド服なんですか?」


「え? はい、そうですね」


「アイナさんはどの服を着ていくんですか?」


「どの服って――どういう意図の質問ですか?

 私はいつもの服を着ていきますけど……」


 魚屋さんにあのミニスカ服を着ていくわけにはいかないし、『はったりをかます服』を着ていくわけにもいかないし。

 両方とも場近い感が半端ないんだけど――


「ここはアイナさん!

 私たちもメイド服を着て行ってみましょう!!」


「「えぇ!?」」


 珍しくマーガレットさんと声がハモった。

 いやぁ、こういうこともあるんだなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「わ~♪ アイナさん、似合ってますよ~♪」


 エミリアさんに押し切られて、何となくメイド服を着ることになってしまった私。

 いや、本気で嫌がれば断れた気もするけど、空気を悪くしたくなかったのか、昨日からのノリが続いていたのか。


 エミリアさんもメイド服に着替えていて、何ともご満悦である。


「マーガレットさんも、ごめんね……」


 メイド服を用意してくれたのはマーガレットさんだった。

 一応、緊急時のためのメイド服がお屋敷に用意してあったとのことだが、本来は私たちが着る用途では無いわけで。


「いえ……。

 でもクラリスさんに見つかると怒られちゃうと思いますので……こっそりと、お願いします……」


 私は家主であり雇用主であるから、怒られたとしてもほどほどのところで済むだろう。

 しかし、マーガレットさんはクラリスさんの下で働いているわけだから――


「――あ、そういえばクラリスさんって、今はどうしてるの……?」


「はい。今日は朝から、お屋敷の用事で外出しています」


「そうなんだ。まぁ、怒られたらエミリアさんが何とかしてくれるはずだから大丈夫!」


「えっ!? わ、私ですか!?」


「この世界には言い出しっぺの法則というものがありましてね……」


 何かを言い出したら、最初に言った人がまずそれをやる。

 これは発言に責任を伴わせるものだから、今回は問題なく適用することができるだろう。


「……むぅ、分かりました。アイナさんのメイド姿も見れたので良しとしましょう。

 あ、ついでに写真を撮りませんか?」


「撮りません!」


「お金は私が持ちますよ」


「撮りません!」


「うわーんっ! マーガレットさんも何とか言ってやってください~っ!!」


「そ、それでは――

 そろそろ行きませんか……?」


「「あ、はい」」



 確かに、ごもっとも。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 メイド姿のまま、エミリアさんとマーガレットさんとの3人でお屋敷の外に出る。


 それにしても、いつもと違う姿をするのはやっぱりドキドキするものだ。

 しかし昨日とは違って変な露出は無いから、そう言った意味では安心ができる。それに、行く場所もまともなところだしね。


「アイナ様、魚屋さんの場所はこの道をずっと進みまして、それから――」


 自然な流れで説明を始めたマーガレットさんだったが、何だか違和感を感じる。

 んー……、何だろう?


 その答えをすぐに出してきたのはエミリアさんだった。


「あのー、メイドさん同士で『様』付けって、どうなんでしょう……」


「あ、なるほど。確かにちょっと変ですよね。

 マーガレットさん、私のことは『さん』付けでよろしく」


「えぇ……? う、うーん……分かりました! それでは――」


「いやいや、ちょっと待ってください!」


「え? どうしたんですか、エミリアさん」


「思うに、メイド姿の状態でアイナさんの名前は呼べないと思うんですよ。

 ほら、マーガレットさんの仕えるお屋敷の主人なわけですし」


「はぁ……、まぁ……」


「ここは偽名を使って――」


「えぇ……? 偽名はもう結構ですよ……」


「えぇ~っ!? でもでも!」


「それじゃ、エミリアさんはエミリーで」


「安直な! そ、それじゃアイナさんは――アイ? イナ? アナ?」


「ど、どれも嫌ですよ!?」


「分かりました、アンで!」


「『ア』しか合ってない!?」


 でもまぁ、面倒だからそれでいいや。すぐに帰るだろうし。

 私は渋々とその提案を受けることにした。


「あはは……。それではアンさん、エミリーさん、そろそろ向かいましょう」


 マーガレットさんの言葉に、エミリアさんはまた何かを考え始める。


「うーん……。何だかマーガレットさんだけ普段通りですね」


「えっ!? べ、別にそこは普通でも――」


「……マーガレット先輩!」


「えぇっ!?」


「――ほら、私たちはメイドさんとしては新人じゃないですか!

 それなら、マーガレットさんは先輩ですよね!」


「えぇーっ!?」



 ……何だかカオスになってきたけど、さっさと行って、さっさと帰りましょ?

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