237.秘密の会談③
「――話は良く分かったんですけど、大きな問題があると思うんです」
「ほう?」
突然の私の指摘に、ファーディナンドさんは興味深そうに聞いてきた。
「ユニークスキルを持っていないっていう証明は、どうやってやれば良いんですか?」
言ってみれば、これは『悪魔の証明』だ。
持っていることを証明するのは、私自身が自分を鑑定すればすぐ証明できる。
しかしそもそもユニークスキルは『鑑定スキルによって看破されない』という性質を持っている。
その性質が知られているのであれば、他の誰が鑑定したところで『ユニークスキルを持っていない証明』にはならないのだ。
「ははは……。アイナさんはユニークスキルの性質をよく知っているようだね。
確かに鑑定スキルや、それと同様の力では証明することができないんだ」
「ですよね? そうしたらもう、私って詰んでるじゃないですか」
いくらしらばっくれたところで、待っているのはシェリルさんたちと同じ道である。
自白するまでは拷問……? うわ、今更ながらに怖いんだけど……。
「一応、私もシェリルを解放してやりたくていろいろと調べてみたんだ。
それでまぁ、証明する手段をひとつだけ発見することはできたんだが――」
……あ、いや!
本当に『証明する手段』があるなら、逆に証明されてしまうわけだから、むしろそれは困る。
それはシェリルさんも同様だ。せっかく今まで黙秘を続けたのに、その苦労虚しくばらされてしまっては元も子もない。
……とはいえ、ばれるのを回避するためにその手段は聞いておきたいところか。
「ちなみにそれって、どういうものなんですか?」
「うむ。ドラゴンの上位種……竜王という存在の話になるんだが、彼らは何でも見通す『神眼』というレアスキルを持っているそうなんだ。
つまり竜王を見つけて、その力を借りて証明する――ということになるな」
竜王――それは神々の眷属と呼ばれる、この世界における上位の存在。
6属性に対応し、全部で6体が存在しているという。
「……竜王、ですか。それって会えるんですかね……?」
「何せ伝説上の存在だからな。
しかしこの大陸は竜王の加護を受けているという言い伝えもある。となると、案外近いところにいるかもしれんぞ?」
「近いところって……。まさかそこら辺の山にいるわけでも無いでしょうし……」
「ははは、まぁな。
ただ、この話を上手く使えば時間は稼げるはずさ。表向きはほどほどに従っていれば、国王陛下もあまり無茶なことはしないだろう」
「それだったら良いんですけど……。
……はぁ。王都の暮らしが、一気に暗雲立ち込めてきましたよ……」
「私もできるだけの助力をしよう。しかし、私の動きはかなり制限されているからな……」
ファーディナンドさんは難しい表情を浮かべた。
それにしても、今までの話を踏まえる限りではどう考えてもグランベル公爵よりファーディナンドさんの方が人間的に優れているんだよね……。
……そうだ。グランベル公爵と言えば――
「――私、グランベル公爵には結構、怒ってるんですよ」
「む? ……そうだな、アイナさんからすればそれも仕方が無いことだろう」
「ちょっと仕返しをしてあげたいんですけど――
ファーディナンドさんは、それくらいは許してくれますか?」
「ははは、どうぞどうぞ。私も酷い目に遭ってきたし、ハルムートの振る舞いには目に余るものがある。
他の人間を巻き込まないのであれば、私も応援するぞ」
「ありがとうございます。とりあえず、グランベル公爵が一番嫌がることをやって差し上げたいのですが」
「ふむ……。一番嫌がることか……。
――髪の毛を全部抜く、とか」
無慈悲!!
「え、えーっと……。それは酷いですけど……。えー……?」
「ははは、ハルムートは自前の髪に自信を持っているからね。
私なんぞ、少しこう……いや、少しだけ後退してきたところも……まぁ、あるような気はするだろう?」
「……心配でしたら、育毛剤を差し上げますよ」
「む……。それでは一応……もらっておこうかな……」
真面目な中にも、さりげなく茶目っ気が光るファーディナンドさんだった。
「では、それはあとで差し上げますね。
――っていうか、もっとこう……ありませんか? 髪の毛を抜いてもただの嫌がらせで終わっちゃいますし……」
「嫌がらせとしては致命的なんだけどな……。
あとはそうだな……。国王陛下からの信用を落とすとか――」
「それはなかなか!」
「……いや、しかしそうするとグランベル家の立場がな……。
家督は奪われたとはいえ、私もグランベルの名は誇りに思っているんだ。それはさすがに手伝うことはできないかな……」
「ふーむ……。それじゃいっそ、ファーディナンドさんが家督を奪い返すっていうのはどうですか?」
「む……?」
「ファーディナンドさんは肩身の狭い思いをしなくて済みますし、私としても充分な仕返しになります。
それに、新しい被害者も出さないで済む――」
「ふむ……。それはなかなか挑戦的な意見だね。
アイナさんも危ないことを言い出すものだ……」
そう言いながら、ファーディナンドさんは宙を見上げて考え始めた。
ぶつぶつと、何かを呟くのが聞こえてくる。
「……難しいですか?」
「――それは難しいさ。ハルムートが下手を打って、家門の者から突き上げを食らう様なことでも無い限りな」
しかし、もしもファーディナンドさんに強い権力が戻るのであれば、今後の私のためにもきっとなるだろう。
例えば王様からのユニークスキル絡みのちょっかいを、少しくらいは退けてくれる――とかね。
「……とりあえずすぐに思いつくような話でもないですし、これは次の機会にしますか?」
「うん、そうだな。そんなにぱぱっと思いつくものなら、とっくにやっているだろう。
ここはアイナさんの力を計算に入れて、持ち帰って考えてみることにしよう」
「よろしくお願いします。でも私、もの作りしかできませんけどね!」
「アイナさんレベルだと十分に凄いからな……?
……ああ、そうだ。せっかくだし、せめて新しい被害者を生み出さない方法くらいは考えてみようか」
「あ、それは良いですね」
「ハルムートが虐待をするときに使う部屋が地下にあるんだ。
部屋数としては、1つだけなんだが……これを使えなくする方法は何かあるかな?」
「……うーん。爆弾で吹き飛ばす」
「おいおい、ずいぶんと怖いことを言うな……」
「いえ、冗談ですけど……。でも、極端なことを言えばそういうことですよね?」
「まぁそうだな。しかしさすがに屋敷内で爆発騒ぎを起こすのは、どうにもな……」
ふーむ……、と考えながら5分ほど。
唐突に、私は元の世界にあったとってもアレな存在を思い出した。
「そうだ! 私の国に、とても臭いっていう有名な食べ物があったんです」
「ほう?」
「それをその部屋で開封するっていうのはどうでしょう。
臭くなって、しばらく近付けないと思いますよ!」
「……え? いや、いくら何でも、食べ物の臭いだけで解決できるわけは無いだろう……?」
「んー。それじゃ、早速作って――」
……って、アレの素材って魚だよね。さすがにアイテムボックスには無いから、今は作れないか。
錬金術で作れるかはちょっと分からないけど、今までの経験から考えれば多分いけるはずだし。
「――いえ、それではファーディナンドさん宛てにお届けしますね」
「ふむ……。送るだけなら屋敷の者に言ってくれれば良いぞ。食べ物の場合、中身までは調べられないからな」
「缶詰ですけど、大丈夫ですか?」
「まぁ大丈夫だろう。缶詰であっても、今までに開けられたことはないからね」
「分かりました。それでは後日、お送りしますね。
あ、間違えても自分の部屋で開けないでくださいよ?」
「……それって、食べ物なんだよな……?」
ファーディナンドさんは不思議な表情を浮かべて聞いてきた。
はい、食べ物です。
それでは全世界の臭い食べ物ランキングのトップランカー、『シュールストレミング』を作ってあげることにしましょう!!




