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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
227/911

227.グランベル公爵家、訪問④

 まずはグランベル公爵のお兄さん、ファーディナンドさんがシェリルさんの部屋に入っていった。

 私が来たのも突然のことだから、一応経緯を簡単に説明してくれるとのことだ。


 しかし、ファーディナンドさんは1分もすると部屋から出てきてしまった。


「それではアイナさん、どうぞ」


「え? あの、説明は上手くして頂けましたか?」


「大丈夫、いつもこんな感じだから」


「えぇー……?」


「さぁ、どうぞどうぞ」


 ファーディナンドさんのやや強引な案内で、私はシェリルさんの部屋に入ることになった。



 部屋に入ってみると、やはりその部屋は広かった。

 何かの会議場としても余裕で使えるような、そんな広さだ。


 中はきちんと整頓され、清潔に保たれているようだ。

 壁には少し変わった模様が刻まれているけど、これは装飾の一環なのだろうか。


 さてさて、一見すると好待遇で住まわせてもらっている感じはするんだけど――


「――よう。俺に何か用なんだって?」


 部屋の中心に置かれたテーブルに着いていた、1人の少女が私に声を掛けてきた。

 少女らしからぬ言葉遣いに少し戸惑いはしたものの、まぁこんな人もいるかとすぐさま理解を示す。


 その少女はとても可愛い風貌をしていたが、どこかやさぐれているというか、中身が伴っていないというか、そんな印象を受けた。


「初めまして、私はアイナ・バートランド・クリスティアです」


「ふーん? で、何の用?」


 おおぅ、名乗り返してくれない。

 こちらに対して、何の興味も示していないということだろうか。


 そういえばテレーゼさんの話によると、シェリルさんって二重人格なんだよね。


 まだ私も信じ切れていないんだけど――

 確か『大人しい方がシェリルちゃん、元気な方がヴィオラちゃん』だったっけ?


 目の前のこの子はさすがに『大人しい方』では無いだろうから――


「今日はあなたとお話をしたくて来たんです。

 えぇっと、あなたは……ヴィオラさん?」


「うぇっ!?」


「えっ!?」


 突然の反応に、私も驚く。


「お前、何者だ?」


 ……そこからですか。


「名前は先ほど言った通りですが、私はテレーゼさんとバーバラさんのお友達なんです。

 ヴィオラさんたちのことを聞いて、お話をさせて頂きたいなって――」


「……何だお前! 怪しいぞ! 消えちまえっ!!」


「え、えぇっ!?」


 少女は勢い立ち上がり、手で印を組み、恐ろしい速さで詠唱を開始した。

 それと同時に彼女の手の中が輝き、部屋の中が揺れ、部屋の中に風が吹き荒れる。


「――全部消し飛べッ!! テンペスト・シルフィードッ!!!!」



 ちょ、ちょ――――――――――っ!!?



 最後まで詠唱が完了した瞬間、突然部屋の壁が光り始めた。

 とっさにそれを見てみれば、壁に刻まれていた『少し変わった模様』が魔法陣のように図形を描き出している。


 そしてその光と反比例するように、ヴィオラさん(?)の手に生まれた輝きは徐々に明るさを失っていた。


 ――結果、私の被害はゼロ。

 部屋の中のものが散らばっただけで、特に何が起こったということも無かった。



「……あ、あの?」


「へへっ、驚かせてごめんな! この部屋、盗聴されてるからさ」


「えぇ、盗聴ですか!?」


「おう! その仕組みも魔法機構で作られてるんだけどさ、魔力の供給元が俺を封じる術と同じところにあるんだよ。

 だからそっちの術を発動させて、盗聴の方を封じたんだ」


「えーっと、つまり……今は大丈夫なんですか?」


「30分くらいは大丈夫だぞ! ついでに扉もロックされて、誰も入ってこないからな。

 ……っていうかさ、敬語はウザいからタメぐちで話してくんない?」


 む……初対面で敬語禁止とは。私的にはなかなかやりづらいぞ。


「わ、分かった。……それで、あなたはヴィオラさん?」


「そうそう! そう呼ばれたのも久し振りだなー。

 テレーゼとバーバラは元気にやってる?」


「うん、元気も元気だよ。特にテレーゼさんは」


「はははっ、そうだろうな。あいつら、今は何をやってるんだ?」


「テレーゼさんは錬金術師ギルドの受付嬢。

 バーバラさんはそこの食堂で働きながら、服屋さんでも働いてるよ」


「ぶはっ!? テレーゼが受付嬢!? 何でだよーっ!?」


 先ほどまでとは打って変わり、ヴィオラさんは目を輝かせながら私の話に聞き入った。

 バーバラさんの話は予想通りといった感じだったのか、テレーゼさんの話ばかりに興味がいっているようだ。


 ひとまずそこら辺は簡単に、テレーゼさんから聞いていた話をそのまますることにした。

 錬金術師を目指していたけど途中で断念して、せめて錬金術師ギルドの職員として働くことにした話を――



「――と言うわけで、私はそこでテレーゼさんと知り合ったの。

 そのあと、服屋さんを探しているときにバーバラさんを紹介されて」


「……そっか、お前も錬金術師なんだな。

 今日はハルムートのやつに呼ばれてきたのか?」


「呼ばれてというか、こっちから接触したんだけどね。

 ヴィオラさんたちに会いたくて」


「俺たちに? シェリルにだろ、どうせ」


「うーん? 私は2人に会いたかったけど……」


 確かに今まで、呼び方こそ『シェリルさん』と言ってはいたものの、どちらがどうということを私は知らなかったわけで。

 『どちらかにだけ会える』と言われても、『どちらが良い』という判断基準が無かったのだ。


「ふぅん……? そんなやつ、初めてだなぁ」


「今まではそうだったの?」


「おう。そもそも王城に召し抱えられることになったのが、シェリルの才能が理由だったからな。

 俺は単に、魔法を使う力が強いだけだし」


「そういう違いがあるんだ? へぇ~……」


「お前、何も知らないんだな。

 それなのに、よくもまぁこんなところまで会いに来てくれたもんだ……」


 ヴィオラさんは少し呆れながら、そんなことを言った。


「でも、これでテレーゼさんたちには無事を伝えられるよ。心配してたからね」


「もう忘れられていたかと思ったけど……そっか、そっか」


 そう言いながら、ヴィオラさんはくるっと後ろを振り向いた。

 その声は少し涙声にも聞こえるし、彼女も今まで我慢してきたことがあるのだろう。


「……ところでヴィオラさんは、何でここにいるんですか?」


「んん? 聞いてるかもだけど、召し抱えられたあとに仕事をまったくしなくてさ。

 シェリルが拒絶しちゃって」


「拒絶って……、何か嫌なことでもあったの?」


「軍の連中からの依頼ばかりが多くてなぁ……。俺が言うのも何だけど、ずいぶん非道な依頼がきてたんだよ。

 それで心を閉ざしちまって――そのままここに軟禁、ってわけ」


「軍の依頼……?

 私は『魔法の天才』としか聞いていないんだけど、どういうこと……?」


「ああ。シェリルは魔法を作る才能があるんだ。

 シェリルは魔法を作る、俺は魔法を使う――そんな感じで、俺たちは才能が別れちまってるのさ」


 魔法を作る才能……。

 それって――


「創造才覚……?」


「うぇっ!?」


 つい漏らしたその言葉に、ヴィオラさんは凄い勢いで反応をしてきた。

 創造才覚、それはユニークスキルの名前の一部。


 ユニークスキルとは、世界の中で一人だけが修得可能なスキル。

 そして鑑定スキルによっても看破されないもの――


「……あ、すいません、何でもないです」


「何でもないってことは無いだろ!? それに敬語ウザい!」


「えぇー。一回くらいは許してよ」


 察するに、シェリルさんはユニークスキル『創造才覚<魔法>』とかを持っているということ……?

 その名前を見たことはないから、実際に『<魔法>』っていうのかは分からないけど。


「むぅ、それを知っているなんてただ者じゃないぞ……?

 軍のやつにも、ここの連中にも言ってなかったのに――」


「まぁ、私も持ってるしね」


「ふぇっ!?」


 さり気なく自分のことをバラしてみる。


 多分、ヴィオラさんが他の誰かにバラすということは無いだろう。

 下手をすれば、自分の方もバレてしまうのだから。


「さてと、それじゃシェリルさんのことも聞かせてもらえる?」


「……いや、その前に1つだけ確認させてくれ」


「え? ど、どうぞ?」


 この流れは私の『創造才覚<錬金術>』を突っ込まれるか、もしくは他の――


「――お前の名前、何だっけ……」



 ……いまさら!? アイナですよっ!!

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