219.食事会①
時間は19時。
結局、贈答品の準備は間に合いませんでした……はい。
しかしここは逆に考えよう。
『何でも好きな薬を贈る』ということにすれば、実は準備が間に合っていないということは無いのだ。
何せ本人に聞いてからじゃないと準備ができないからね。
この発想に思い至ったとき、私の心はずいぶんと楽になった。
それと同時に、準備は早めにしなければいけない――そんな教訓も得てしまったのだけど。
時間になったところで、招待した全員がお屋敷の食堂に無事揃うことができた。
テレーゼさんが少しぎりぎりだったけど、何とか間に合った感じだ。
「主任……。ちょっと仕事の量が多かったですよぉ……。
間に合わなかったら一生恨むところでした……」
私の目の前ではテレーゼさんがダグラスさんに文句を言っている。
ダグラスさんはそんなテレーゼさんを、まぁまぁとなだめていた。
「――それでは、みなさん揃ったところで始めましょう」
クラリスさんに視線を送ると、うちのメイドさん総動員で前菜を運んできてくれた。
「おぉー。この方々が、アイナさんのところのメイドさんなんですね!」
そう言いながらはしゃいでいたのはテレーゼさん。
一人一人をまじまじと見つめたあと――
「わぁ。あの子、凄く可愛いですね!」
テレーゼさんの視線の先ではキャスリーンさんが配膳をしていた。
キャスリーンさんの耳にも聞こえたのか、彼女はテレーゼさんに会釈をしている。
「はぁ……。テレーゼ、お前なぁ……。そういうことは言うものじゃないぞ……?」
「でもー。主任のせいで、アイナさんのお屋敷をしっかり見られなかったんですよ?
駆け込むのに精いっぱいでしたし……! せめて今くらいは……!!」
「ああもう、それは悪かったから。あとでコーヒーの1杯でも奢るから許せ」
「少ないですよーっ!」
「じゃぁ2杯な」
「セコい!」
……何と言うか、この2人は相変わらずというか。
ちなみに今の席の並びは――
こちら側がエミリアさん、私、ジェラード。
向かい側がレオノーラさん、テレーゼさん、ダグラスさん
――という順番で着いていた。
エミリアさんの前にレオノーラさん、私の前にテレーゼさん、ジェラードの前にダグラスさん……といった具合だ。
前菜がすべて運ばれたところで、ひとまず最初の挨拶をすることにした。
「今日はお集り頂きましてありがとうございます。
何だかいろいろあって、錬金術師ランクがSに上がってしまいました。
今日はその記念の食事会ということで、ゆっくり楽しんでいってください」
そこまで言うと、全員から控えめな拍手を頂いた。
「では、ここからは食事をとりながらということで。
それと初対面の方もいると思うので、軽く紹介していきますね。
えーっと……私はさすがに大丈夫ですよね」
「確かに」
ダグラスさんの渋い頷きと共に、『そりゃそうだ』といった空気が流れる。
「ではこちらから。私の左の方がエミリアさんです」
「……でも私、全員とお会いしたことがありますよ!」
「それもそうですね。私といつも一緒にいてくれる、頼もしい人です。
右のこちらはジェラードさんです。旅の途中、鉱山都市ミラエルツからお世話になっています」
「初めまして、ジェラードです。
エミリアちゃんみたいにずっとアイナちゃんと一緒にいるわけではないんだけど、いろいろ裏方をやってます。よろしくね♪」
ジェラードはテレーゼさんとレオノーラさんに明るい感じで、ダグラスさんには『こんな感じですがよろしく』といったように頭を軽く下げていた。
男性相手に音符を飛ばすのもどうかと思うし、男性同士のところで生まれる距離感なのだろう。
「次に私の左斜めがレオノーラさんです。
ルーンセラフィス教の司祭様で、エミリアさんの同期の方です」
「みなさん、初めまして。今日お会いできたことを光栄に思いますわ」
……おお、何か品のある挨拶だ。
さすが王族――と言ってみようと思ったけど、食事会の前に王族であることは伏せておくように頼まれていたんだよね。
ジェラードは例の謁見の場にいたから知っているみたいなんだけど。
「わぁ……。何だか綺麗な方ですよね、レオノーラさんって」
「だからな、テレーゼ。本人を前にそういうことはな……?」
テレーゼさんに苦々しく指摘するのはやはりダグラスさんだった。
何だかダグラスさん、今日はこんな感じで終わってしまいそうだ。
「それで、私の正面にいるのがテレーゼさんです。さっきから名前が出ていますが」
「ご紹介に預かりましたテレーゼです!
錬金術師ギルドの受付をやっていますので、お越しの際はぜひ声をお掛けください!」
「そのお隣が、ダグラスさんです。テレーゼさんの保護者の方です」
「おいおい、その紹介は無いだろう……。
えーっと、錬金術師ギルドで中間管理職をやっています。
テレーゼの上司ですが、いつもこんな感じなので困ってます」
「え、主任! それは酷いっ!?」
「まぁこんな感じですけど、ダグラスさんとテレーゼさんには錬金術師ギルドでいつもお世話になっているんですよ。
――っと、これで一周したかな?」
「では2周目を!」
「しませんってば」
軽くエミリアさんのボケを潰してから、あとは自由に話をしながら食事をしてもらうことにした。
私の中での食事会は、食べて喋って終わるだけのイメージだから、そんな流れでまったく問題無いのだ。
「――それにしても、今日のお料理は美味しいわね」
前菜を食べ終わったところで、レオノーラさんが感心するように言った。
「今日のお料理はメイドさんたちが腕を振るってくれているんですよ」
「メイドが? ふぅん? このお屋敷にはコックはいないの?」
「はい、その辺りもメイドさんの仕事になっていまして」
「へぇ……。能力のあるメイドを雇っているのね」
「ピエールさんの紹介なんです。ご存知ですか?」
「ああ、なるほど。ピエールさんなら納得だわ……」
おお、レオノーラさんも認めるピエールさんの実績!
「それにしてもー! 可愛くて料理も上手とか、無敵じゃないですかー!」
これはテレーゼさんの発言。
ふふふ、うちのメイドさんたちは実力者揃いなのだ。
「いやいや、テレーゼちゃん。
そう言うならアイナちゃんだって、可愛くて錬金術では無敵なんだけど?」
「あ、本当ですね。このお屋敷、ずるい!」
「エミリアちゃんも可愛いしねー。可愛くて実力派の司祭様!
何なんだろうね、このお屋敷は♪」
「そう言うジェラードさんだって格好良いじゃないですか!
それに比べたらうちの主任なんて――」
「おぉい、本人のいる前でそういうことを言うのかー?」
「あはは♪ テレーゼちゃん、男は甲斐性さ。
ダグラスさんも錬金ギルドの責任者だし、しっかりしているじゃないか。僕みたいな流れ者と比べるものじゃないよ」
「えー?」
「でも実際のところ、とてもお世話になってますからね。
私が錬金術師ギルドに行っても、大体ダグラスさんとテレーゼさんのところで完結しちゃってますし」
「ですよね! 私も仕事、ちゃんとしていますよね!」
そう言いながら胸を張るテレーゼさん。
「しかしお前、そろそろあの……アイナさんを大声で呼ぶのはやめろよな……」
「あ、それ! 錬金術師のザフラさんという方に会ってきたんですけど、そのことを言われちゃいましたよ!?」
「ああ、そうだろうな……。いつも大声を張り上げるから、知っている人は多いと思うぞ……」
「アイナさん! それもひとつの愛情表現ですから!」
「プライベートならともかく、仕事中なんだぞ? 愛情表現はプライベートでやれよ」
「それにしてもアイナさん、ザフラちゃんを知ってるんですね!」
「聞けよ!」
「ダグラスさんとテレーゼちゃんは、仲が良いんだね~♪」
「「えぇー……」」
あ、ハモった。
ふと左側を気にしてみると、エミリアさんがゆっくりと前菜を食べながら、それをレオノーラさんが見ているところだった。
「エミリア様、ずいぶん慎重に食べているのね」
「え? そ、そうですね! 少な……じゃなくて、味わって頂いてますよ」
「てっきりアイナさんのところにお世話になっているから、昔みたいにたくさん食べているのかと思っていたんだけど。
……そんなことは無かったのかしら?」
そう言いつつ私を見てくるレオノーラさん。
そんなことはもちろんありませんよ――とフォローをしようとしたとき、テレーゼさんが会話に勢いよく混ざってきた。
「あ、エミリアさんのお食事ですか? そういえば私、錬金術師ギルドの食堂で――」
「ああっ! テレーゼさん、あそこ!!」
「えっ!?
……な、何ですか、アイナさん!? 何かありましたか?」
「あれ? すいません、見間違いでした……!」
「えー……?」
テレーゼさんが余計なことを言い掛けたのを阻止してから、何とか彼女をダグラスさんとジェラードの話の輪へと戻す。
ふぅ、もしかしたら今日一番の仕事だったかもしれない……!
「――まぁ、もしたくさん食べていたとしても私は大司祭様ほど難しいことは言わないけどね。
でも、あまり食べていないのならそれに越したことはないわ」
あれ? レオノーラさんって、そうだったんだ。てっきりもっと怒るのかと思ってたけど。
そんなことを思いながらエミリアさんの方を見てみると、『それならたくさん食べても良いですか?』という目でじっと私を見ていた。
うーん……私は別に良いけど……、エミリアさんは本当にそれで良いんですかね……?
とりあえずここは、『さぁ?』といった感じで軽く流しておくことにした。
お代わりは作ってもらってあるから、食べるのであればちゃんとあるんだけど。




