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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
217/911

217.ちょっとはやいです①

 ザフラさんのお店から帰ったあとは、急いで贈答品の準備をすることにした。

 時間を見ればすでに16時。食事会は19時からだから、時間はあると言えばあるし、ないと言えばない――そんな感じだろうか。


 ひとまず部屋のテーブルにラッピング用の箱やリボンを広げてみる。

 準備とはいっても、今日買った良い感じの瓶に薬を作って、それを箱に入れてリボンを巻くだけなんだけどね。


 それじゃ早速――


「――……って、何の薬が良いんだろう?」


 一概に薬とは言っても、それこそたくさんの種類があるのだ。

 せっかくだし、あげる人にしっかり役立つものを贈りたいところだけど……。



 トントントン



 あれやこれや悩んでいると、ノックの音が聞こえてきた。


「はーい?」


 扉を開けると、姿勢よく立つキャスリーンさんの姿があった。


「失礼します。お客様がいらっしゃったのですが……」


「え? 誰だか名前は分かる?」


「はい。今日の食事会に参加予定のレオノーラ様です。

 早いようなら時間を潰してからまた来ると言っておられますが、いかがいたしましょう」


 むむ? 食事会には本当にまだ時間があるけど……?


「うーん……。このまま帰すわけにもいかないし、私が出るね。客室に行けば良い?」


「はい、そちらでお願いします。

 それとご報告なのですが、レオノーラ様からお祝いのデザートを頂いております」


「え……? うちでも用意してるよね。被らないかな……?」


「いえ。私ども使用人を含め、時間のあるときに食べてくださいとのことでした」


「わわ、そういうことか。それじゃしっかりお礼を言っておかないと!」


「それではアイナ様、客室の方によろしくお願いします」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――お待たせしました、レオノーラさん」


「こんにちは、アイナさん。早い時間に申し訳ないわね」


 ソファーに座っていたレオノーラさんは、立ちあがってから綺麗な挨拶をしてくれた。

 私も挨拶を返して、ソファーに座るように促す。


「デザートを頂いたようで、ありがとうございます。

 あとでみんなで頂きますね」


「うちのシェフに作らせたものなの。期待すると良いわ。

 今晩はお世話になるから、使用人の方々にもちゃんと食べてもらってね」


「はい、分かりました。お気遣いありがとうございます。

 ――ところで食事会まではまだ早いですけど、どうしたんですか?」


 私がそう聞くと、レオノーラさんは一息ついてから答えた。


「食事会のついでにアイナさんのお店を見ていこうと思ったんだけど……、まだ開店してないじゃないの……」


「あ……すいません……。

 準備中ということで一応何かしらは陳列しているんですけど、ポーションや置物ばかりなので……。

 今はまだレオノーラさんに見てもらうようなものはありませんね……」


「……置物?」


 私の言葉の中から、レオノーラさんは『置物』という部分に反応した。

 そりゃそうか、錬金術のお店とは関係無さそうだもんね。


「いえ、ちょっと売ってみたい置物がありまして……」


「ふうん……?

 ――それでね、お店がやっていないものは仕方ないから、早い時間に申し訳ないとは思ったんだけどこちらに寄らせてもらったの。

 この居住スペ……こほん。アイナさんのお屋敷も見せてもらいたかったし」


 ……今、『居住スペース』って言葉を呑み込んだよね!?

 でも呑み込んだっていうことは、誰かからそれはまずいって言われたのかな?

 そもそもその言い方は、レオノーラさんの中では悪気があったわけでは無いだろうし……。


「別に構いませんけど、特に見るところは無いと思いますよ? 使っていない部屋もたくさんありますので……」


「それじゃ、開店前で良いからお店の方を見せてもらえるかしら」


 おっと、話がお店の方に戻ってしまった。

 うーん。エミリアさんがいればレオノーラさんの案内を任せたいところなんだけど、まだ帰ってきていないんだよね。


 私もまだ贈答品の準備が終わっていないし――……って、まぁそれは仕方ないか。

 モノさえ決まってしまえばバチッとすぐ終わるものだから、案内を終えたあとに何とかすることにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――なに、これ」


 まだ開店していないお店にレオノーラさんを案内すると、とりあえずそんなことを言われた。

 レオノーラさんの視線は少し離れた場所の、2メートルもある巨大なガルルンのぬいぐるみに注がれている。


「えぇっと……、うちのマスコット……的な?」


「暗い中でちょっと不気味ね……。それに、王族を相手にするお店にしてはちょっとユルくない?」


「え、王族を……? いえ、そんな立派なお店にする予定は無いですけど」


「アイナさんのお店を心待ちにしている人はたくさんいるのよ?

 品揃えとお店の作り方次第では、王族ご用達にするのも簡単でしょうに」


 それはそれで金回りは良くなりそうだけど、何だか息が詰まりそうだなぁ……。

 やっぱり私としては、一般の人にも普通に使ってもらえるようなお店を目指したいかもしれない。


「うーん……一応、それも考えておきますね。まだ方向性もあまり見えていないので……。

 でもどちらにしても、ガルルンはガルーナ村復興のために置いておきたいんですよ」


「ガルルン? ……ああ、このぬいぐるみのことね。

 ――って、よくよく見れば置物もたくさんあるじゃない」


「はい。さっき言った置物っていうのはそれのことです」


「ふぅん、これをガルーナ村……の、ねぇ?

 ガルーナ村って確か、アイナさんが疫病から救った村よね?」


「そうですそうです。ガルルンだけじゃなくて、農業の方も少しサポートしてるんですよ」


 栄養剤を送ったり、ガルルン茸を送ったり――……全体的には割とぶん投げてしまっている感じはあるんだけどね。


「いろいろやってるのね……。

 普通だったらそこまで面倒は見ないと思うけど、人が好いと言うか何と言うか……」


「あはは。褒め言葉として受け取っておきます」


「そうね、それがアイナさんの良いところだもんね。

 でも前にも言ったけど、あまり人を信用しすぎないようにね。特に王族――……って、私が言うことじゃないか」


 そう言いながら、レオノーラさんは失言したように振る舞った。


「いえ、ありがとうございます。……本当でしたら、立場上言えないことでしょうし」


 私の言葉にレオノーラさんの返事は無かったが、そのあとは自然の流れでお店の中を案内していくことになった。

 商品は一応陳列してるから、話のタネはそこそこあるのだ。



「――やっぱり薬が多いのね」


「はい、薬は私の得意分野ですからね!」


 いや、実際には何でもいけるんだけど、ひとまずは『薬が得意』という設定にすることにした。

 どこから依頼が来ても、どれだけの量を受けても、薬なら誰かが困るなんてことは無いだろうし。


「うん、良いんじゃないかしら。エミリア様から聞いているけど、アイナさんは今までいろんな人を助けてきたんでしょう?

 知り合いとして、それはとても誇らしいわ」


「知り合い……」


 思わずレオノーラさんの言葉を反芻(はんすう)してしまう。

 そういえば私とレオノーラさんの関係って『知り合い』なのかな。いや、王族を『友達!』とはなかなか言えなさそうなものだけど。


「不満なら何でも良いわよ?

 エミリア様とは『司祭仲間』っていう感じだけど、アイナさんとは『仲間』って感じじゃないし――」


「ですよねー」


「とすると、『仲間の仲間』?

 ……うぅん、ややこしいわね。もう『友達』で良いんじゃないかしら」


「え? 良いんですか?」


「アイナさんとはそれなりにお話もしたことがあるからね」


「それでは、お友達ということでお願いします!

 ふふふ。レオノーラさんがお友達だなんて、何だか嬉しいなぁ♪」


「そう? まぁ、王族が友達だというならアイナさんのステータスにもなるでしょうし――」


「え?」


「え?」


 レオノーラさんの言葉に、思わず変な声が出た。

 それを聞いたレオノーラさんも変な声を返してきた。


「いえ? そうじゃなくて……。いや、それはそれでなるほどなんですけど――

 私は別に王族の友達が欲しいんじゃなくて、エミリアさんが大好きなレオノーラさんが友達になってくれたのが嬉しいな~って……」


「ああ、なるほど……。

 でもそう考える人は珍しいわよ。王族なんて立場だと、常に利害関係で見られてしまうんだから」


「それもそうかも、ですね……」


 私の場合は、レオノーラさんが王族だから知り合ったのではなく、知り合ったレオノーラさんが偶然王族だっただけなんだよね。


 正直私は王族やら貴族やらというものにあまり興味が無いと言うか――

 いやむしろ逆に、あまり深入りはしたくないと言うのかな?


 そんなことを考えていると、レオノーラさんが困ったように笑いながらつぶやいた。


「本当に、無欲な人ね……」



 多分、それもきっと褒め言葉だろう。

 今日は褒められまくりだね! ……本当にそうかは分からないけど。

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