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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
215/911

215.他店調査②

 今日はダグラスさん、テレーゼさん、レオノーラさん、ジェラードを招いての食事会の日だ。


 開始するのは夜だから、それまでは時間が十分にある――というわけで、私は外出をしていた。

 ちなみにエミリアさんは朝からどこかに出掛けてしまったので、私は今日も一人である。


「よーし。早速、錬金術師ザフラさんのお店へ――」


 ――行こうと思ったのだが、そういえばジェラードが食事会のときに何かくれそうなので、念のため返礼品のようなものを用意することにした。

 『返礼品』って言っちゃうと何もくれなかった人には贈れないから、『記念品』とか『贈答品』って言った方が良いかな?


 何を贈るかを考えてみたところ、錬金術師としてのランクが上がったのだから、ここはやっぱり錬金術で作ったものが良いだろう。

 ぶっちゃけ(スキルのおかげではあるけど)、この世界に私以上の錬金術師はいないのだから、それはきっと素晴らしい贈り物になるに違いないのだ。


 自画自賛的に『素晴らしい贈り物』などと言ってしまったが、そうとなれば外見にもこだわりを持ちたくなってくる。

 ジェラードから渡された増幅石を入れるための『立派な箱』のように、外見が立派になるだけで、中に入っているものがさらに凄く見えるようになるのだから。


 ひとまずいつものアクセサリ屋さん――メイドさんたちのカフスボタンを買ったお店で相談してみると、思いがけず素敵な瓶を買うことができた。

 隣の国から輸入したガラスの工芸品とのことで、ちょっとした特別感を持った逸品だ。



「――はぁ、良い買い物したー♪ ……とかやってたら、もう昼ですか」


 アクセサリ屋さんを出てから、空を見上げて一人つぶやく。


 今からザフラさんのお店に行って、できれば少しお話を聞いて――

 それからお屋敷に戻って、贈答品にするアイテムを何かしら作ってラッピングをして――って、結構忙しいかも?


「よし、考えていないでさっさと動こう!」


 昼食をとると時間がまた遅くなってしまうから、ひとまずは食べないままで行ってみよう。

 クラリスさんに昼食は要らないって言ってあるし、お屋敷に戻るまでに何かしらを買えれば良いかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 教えてもらった場所にようやく着くと、小さなお店を見つけることができた。

 入口の大きさは白兎堂と同じくらいで、扉の横の黒板には売っているものが書かれているようだった。


「初級ポーション……と、爆弾がたくさん……と、etc……っと」


 そういえばザフラさんは爆弾が得意なんだっけ。

 ポーションは『初級』って明記してあるから、中級以上は売っていないのかな?

 『etc』は……ちょっとまとめすぎなような気もするけど、きっといろいろ取り扱っているのだろう。


 よーし。黒板はしっかり確認したし、それじゃ早速入ってみることにしよう。

 いまさらだけど、錬金術の専門店は実は初めてなんだよね。どきどき……。



 ――カランカラン♪


「いらっしゃいませー」


 扉を開けると心地良い鐘の音が鳴って、直後に可愛らしい声がお店に響いた。

 お店の中はこじんまりとした感じで、例えて言うなら駅前にあるケーキ屋さん――といったくらいの大きさだろうか。


「すいません、少し見せて頂けますか?」


「きゃ、きゃあああああっ!!!?」


「えっ!?」


 声を掛けた途端、店員の女の子は大きな声を上げて驚いていた。

 私も釣られて驚いてしまう。


「えっ、あのっ!? な、何のご用でしょうか!?」


「え、えーっと? 売っているものを見せて欲しいなって……」


「はわわっ、これは何ですか!? 抜き打ちですかっ!?」


「えぇー……?」


 話がどうにも噛み合わないんだけど……どうしたら良いのかな?

 ここはひとまず、彼女の知っている名前を出して落ち着かせてみることにしよう。


「あの、紅蓮の月光(クリムゾン・ムーン)のリーダーさんからの紹介で来たんですけど……」


「え!? リーダーさんの、ですか!?」


「はい……」


「んん? んー?」


 彼女はそう言いながら、私の顔をおっかなびっくり覗いてきた。

 聞いていた印象と違うけど、本人なのかな? 一応確認しておこう……。


「あの、あなたは……ザフラさんですよね?」


「はい、そうです……。そう言うあなたは、錬金術師のアイナさんですよね……?」


「あれ、何で知ってるんですか?」


「や、やっぱりそうですよね……!? 何回か錬金術師ギルドでお見掛けしたことがありまして……。

 あの、受付の方がいつも叫んでいるので目立つというか……」


 テレーゼさんめ。


「そういう知名度は要らないんですけどね……」


「いえいえ! もちろんS-ランクの錬金術師ということで、良い意味でも知名度がありますよ!

 まだまだお若いのに腕が立っていて、王族ともかなりの取引があるって――」


「そんなことまで伝わっているんですか……。あ、ちなみに先日Sランクに昇格したんですよ」


 ザフラさんの持っている情報が少し古かったので、一応最新情報を伝えることにした。

 だからどうしたっていう話でも無いんだけど。


「わぁ、それはおめでとうございます!

 ……私と同じくらいの年齢なのに……凄い……ですね……。

 あの、さっきはすいません……。凄い錬金術師が突然来たので、取り乱してしまって……」


「突然に失礼しました……。今日はザフラさんのお店を参考にさせてもらおうかなって、お邪魔したんです」


「そうだったんですか。Sランクの方に見てもらうようなものは無いかと思いますが、ゆっくりしていってください。

 ――あ、すぐにお茶を入れますね!」


「ありがとうございます。いろいろ見させてもらいますね」



 ザフラさんが奥へ行っている間に並んでいる商品を見てみると、やはり爆弾の種類の多さが目に付いた。


 なるほど、爆弾と言ってもいろいろあるものなんだね。

 なんだか花火みたいなやつもあるし……、バリエーションが豊富というか。


 この『ねずみ爆弾』って何だろう? ねずみ花火みたいなものかな?

 でもしっかり球状の爆弾っぽいものがくっついてるし……火を点けたらどうなるんだろう。


 そんなことを考えながら改めて店内を見回してみると、大きな棚が4つあって、カテゴリ別のような形で商品が陳列されていた。

 棚の2つが爆弾関係で、もう1つが薬関係。もう1つが雑多にいろいろ――といった感じだ。雑多な棚が、黒板にあった『etc』になるのかな?


 引き続き、雑多な棚を眺めてみると――


「……『強化ロープ』に『強化松明』、『研磨剤』に『固形燃料』……」


 ふむ、なるほど。こういうものも錬金術に含まれるのか……。

 これはなかなか、見ているだけでも面白いかもしれない。


「――お待たせしました! 狭いですが、こちらにどうぞ!」


 ザフラさんはお茶を置きながら、お店の隅にある椅子を勧めてくれた。

 椅子の横には小さいテーブルもあって、お客さんが休めるようにしているようだ。


「ありがとうございます。それではお言葉に甘えますね」


 出されたお茶を一口飲んで、ほっと一息。

 一息ついたところで、ザフラさんが緊張した面持ちで話を続けてきた。


「えっと……参考にならないとは思いますが、いかがですか? 私のお店……」


「錬金術のお店ってこういうお店を想像していたので、『まさに!』って感じですね!

 あと、爆弾が好きなんだなーって分かる品揃えっていうか?」


「あはは……。私の兄が冒険者だったんですけど、爆弾を特に使っていたんです。

 そのおかげで、私も爆弾ばかり作るようになっちゃって」


「へー、お兄さんの影響なんですね」


「はい! 他にも雑多に作っているんですけど、基本的には冒険者向けの品揃えになっていますね」


 お店の広さもあるし、普通は何から何まで作るのは難しいわけだから――何かに特化するのは方針としては良いことだよね。

 ザフラさんの場合は、特化しているのが『冒険者』だということだ。


「リーダーさんたちも冒険者になったばかりだそうですし、冒険者に特化している錬金術のお店があれば重宝しちゃうわけですね」


「はい、ありがたいことです。

 紅蓮の月光(クリムゾン・ムーン)の皆さんにはポーションもたくさん買っていってもらってるので、本当に助かってるんですよ」


 ザフラさんは嬉しそうに言った。

 ……あれ? この笑顔を見ちゃったら、ポーションだけ私のお店で売るなんてできないんじゃない……?


 そう思いながら、棚に並んでいるポーションを遠目に見ながら鑑定してみる。


 ----------------------------------------

 【ちょっと不味い初級ポーション(C級)】

 HP回復(小)

 ※追加効果:無し

 ----------------------------------------


 ――むむ? 初級ポーションが『ちょっと不味い初級ポーション』になってるぞ……?

 気になってもう少し詳しく鑑定をしてみると、どうやらポーションには本来不要のおかしな成分が入っているようだった。


 1つ1つ違うんだけど、鉄粉が混ざっていたり、火薬が混ざっていたり……。

 これじゃ、怪我は治っても健康被害がいつか出ちゃうかも?


「あの……。ザフラさんのポーションって、変な味がするとかって言われたことあります?」


「うっ……。け、結構言われるんですよ……。でも、その理由がよく分からなくて……」


「ポーションの中に鉄粉やら火薬やらが混ざっているようなので、そのあたりを見直してみると良いかもしれませんよ」


「えっ!? うーんと……あ、もしかして大釜の周りの煤とかかな……」


 そう言いながら、ザフラさんは慌ててお店の裏手を覗いていた。きっと視線の先に、ザフラさんの工房があるのだろう。


「原因は分かりそうですか?」


「恐らくですが……ちょっと試しにやってみます! あの、付き合ってもらって良いですか?」


「そうですね。せっかくですし、見学させてくださいな」


「き、緊張します……! 何かあればご指導ください……っ」



 指導ができるかは分からないけど、誰かが錬金術を使うところを見るのも初めてなんだよね。

 ここは後学のために、少し見学させてもらうことにしよう。

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