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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
209/911

209.どこか古典的な

 ――目が覚めると夜中だった。


「……うわぁ。睡眠時間、めちゃくちゃだぁ……」


 ベッドの中で思わずぼやく。

 確か昨晩――いや、今も夜の時間なんだけど、夕飯を食べたあとは早々に寝てしまったんだっけ。


 昨日は早朝からいろいろあったし、そのあとは錬金術師ギルドと白兎堂をまわったし……。

 いつもならそれくらいは平気なんだけど、やっぱりまだまだ本調子ではないということかな。


 また寝ようと頑張ってはみたものの、どうにも眠れそうになかったのでしばらく起きていることにした。

 何かをしていれば、また眠くなるかもしれないからね。


 ……さて何をしようかと考えてみれば、まぁ錬金術くらいしかすることは無いわけで。

 生活が落ち着いてきたのであれば、そろそろ何か趣味を持っても良いかもしれないなぁ。


 テレーゼさんは彫金が趣味だし、そういうものにしても良いかも?

 一応錬金術で指輪とかも作れるけど、デザインがお察し状態だからね。


 好きなデザインを彫金で作って、好きな効果を錬金術で付ける。

 ……あれれ? 結局、錬金術に戻っちゃった? ……どうにも錬金術ばかりに偏るのはよろしくないなぁ。


 エミリアさんの場合は、伝承とかを調べるのが好きなんだよね。

 確かミラエルツでそんなことを聞いた気がするし、普段お話をしている中でもそういった知識がちらほら出てくるし。


 ルークの趣味は……何だろう。剣術とか? 根が真面目だし、それもあり得そう。

 ジェラードの趣味は……ナンパなんだろうなぁ。

 ついでにアドルフさんの趣味は、お酒とかかな? ただのイメージだけど。


「――ま、それはそれとして。

 そういえば作らなきゃいけないものがあったよね」


 それは、グランベル公爵の欲しがっているもの――大規模な魔導器に使うという高品質の触媒。

 ジェラードが集めてくれた素材を見てみると、魔導石やら水晶やら、鉱物関係が多かった。


 一緒に入っていたレシピ――作り方のメモを確認すると、どうやら『増幅石』というものを4属性分、それぞれ1個ずつ作れば良いらしい。


 増幅石……。

 うーん? 初耳だけど、とりあえず作ってみようかな。


 はい、れんきーんっ


 バチッ


 私の手の上には赤色の透明な水晶が現れた。

 こう見るとただのガラス玉にも見えるけど……とりあえず、かんてーっ


 ----------------------------------------

 【炎の増幅石(S+級)】

 炎の力を増幅させる結晶体。高度な製造で使用する

 ※追加効果:増幅量×2.0

 ----------------------------------------


 ……これで良いのかな?

 ちょっと使い方は想像できないけど、魔法の威力を上げる感じの魔導器……とか?


 ――ま、それはさておき、これをあと3つね。


 バチッ


 バチッ


 バチッ


 ――はい、完成♪


 この3つも鑑定したけど、『炎の増幅石』と同じ結果だったので割愛……っと。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さて、まだ眠くは無いわけで」


 何度かベッドに入ってみるも、やはり寝付くことはできなかった。

 錬金術師ギルドで受けた依頼をこなしたり、これからお店をどうするのかを考えたり、そういったこともやらなければいけないんだけど――


 でも、今やること?


 そう思ってしまうと、途端にやる気が失せてしまった。

 何せ時間としては深夜なのだ。そんな時間帯であることを考えると、どうにもやる気が出てこない。


 もう少し軽いこと、例えば趣味とか――って、それを言い始めると話が戻っちゃうか。

 それ以外だと、例えば何か読む本でもあれば良いんだけど――


「……ああ、そういえば書斎に本はあるよね、一応……」


 今朝に何回か眺めて、結局何の興味も引かれなかった大量の本たち。

 でも逆に、それを読んでいれば眠気が起きてくるかもしれない?


 それならそれで、つまらない本ながらも役に立つということか。

 まぁ暇だし、ちょっと行ってみようかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 書斎に行くと、いつもの貫録のある内装が月の光に照らされて、何とも不思議な雰囲気を漂わせていた。


「うーん、やっぱり月明かりは良いね。心にくるというか……」


 心からそう思いながらも、月明かりだけではよく見えないので、無慈悲に明かりをつける。

 不思議な空気は消え失せて、いつもの日常の空気が戻ってきた。


 ――それじゃ、何か読めそうなものを探してみようかな。


 そう思いながらパラパラと何冊かの本をめくってみるも、やはり興味が出てこない。

 興味が出てこないというのはつまり、部屋に持っていって眠気が出るまで読む――ということもしたいと思わないレベルだ。


 せめてこう、少しでも興味ある単語が見つかれば……といった感じで徐々にハードルを下げていく。

 しかし良い本は見つからない。


「……よし。ここは根性で、左上から順番に全部見ていこう!」


 朝になるまで、時間はかなりあるのだ。

 それまでに眠気が来れば良し、眠気が来なければ時間を潰すことができるから良し。


 途中で興味のできた本があれば、それを部屋に持ち帰って読んで――そのうち眠気が来るだろうからそれも良し、だ。


 ……うん、完璧な計画だね! 何か無駄が多そうだけど!

 でも、そうと決まれば早速取り掛かろう。今は深夜のテンションに身を任せるのだ!




「――ん?」


 本をパラパラめくりながら早や1時間。

 とある1冊の本に目が留まった。


 いや、目が留まったというか――


「この手法は、昔どこかで見たような気がする……」


 ――その本は、中の紙の部分がくり抜かれており、そこに小さな金属の箱が収められていた。

 箱を手に取って軽く振ってみると、中からは何かが箱の内側に当たる音が聞こえてくる。


「……んん? 何、これ?」


 よく見ると、その箱にはとても小さな鍵穴があった。

 ふむ、これに合う鍵が無いと開けられないのか――


 ――何てことは無いんだけどね!


 ひとまずその箱をアイテムボックスに入れて、そしてそのまま――れんきんちかんっ!


 バチッ


 私の手の上には、箱の一部を脆い炭に置換させた箱が現れた。

 ふふふ、こういう使い方もできるのだよ。


 というわけで、早速オープンっ!!


 苦もなく箱を開けて、期待をしながら中を覗いてみると、そこには――


「鍵……?」


 ――鍵が1つだけ入っていた。


「むむむ……。鍵を使って開ける箱の中に、まさか鍵が入っているとは……」


 何とも複雑な心境である。

 しかしどこの鍵だろう? この部屋の中では、これに合う鍵穴なんて見掛けたことは無いけど――


「――ふわぁ……」


 気が抜けた途端、何やら突然、眠気が襲ってきた。

 外を見ればまだまだ暗い。今から眠れば十分な睡眠を取ることができるだろう。


「よし、今日は寝ようかな……。何だかよく分からない鍵も手に入れたし……」


 ……それにしても、何であんな本があったんだろう?

 ピエールさんが搬入してきたものなら何だかおかしい気がするけど、もしかして元々ここにあった本なのかな?


 そうだとすると、このお屋敷の以前の主が隠しておいたもの?

 でもそんなにしてまで隠すものを、このお屋敷に残して出ていくかなぁ……。



 いくつもの疑問は残るものの、ひとまず私は目先の睡眠にやられることにした。


 うん。ねーむーいー。

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