209.どこか古典的な
――目が覚めると夜中だった。
「……うわぁ。睡眠時間、めちゃくちゃだぁ……」
ベッドの中で思わずぼやく。
確か昨晩――いや、今も夜の時間なんだけど、夕飯を食べたあとは早々に寝てしまったんだっけ。
昨日は早朝からいろいろあったし、そのあとは錬金術師ギルドと白兎堂をまわったし……。
いつもならそれくらいは平気なんだけど、やっぱりまだまだ本調子ではないということかな。
また寝ようと頑張ってはみたものの、どうにも眠れそうになかったのでしばらく起きていることにした。
何かをしていれば、また眠くなるかもしれないからね。
……さて何をしようかと考えてみれば、まぁ錬金術くらいしかすることは無いわけで。
生活が落ち着いてきたのであれば、そろそろ何か趣味を持っても良いかもしれないなぁ。
テレーゼさんは彫金が趣味だし、そういうものにしても良いかも?
一応錬金術で指輪とかも作れるけど、デザインがお察し状態だからね。
好きなデザインを彫金で作って、好きな効果を錬金術で付ける。
……あれれ? 結局、錬金術に戻っちゃった? ……どうにも錬金術ばかりに偏るのはよろしくないなぁ。
エミリアさんの場合は、伝承とかを調べるのが好きなんだよね。
確かミラエルツでそんなことを聞いた気がするし、普段お話をしている中でもそういった知識がちらほら出てくるし。
ルークの趣味は……何だろう。剣術とか? 根が真面目だし、それもあり得そう。
ジェラードの趣味は……ナンパなんだろうなぁ。
ついでにアドルフさんの趣味は、お酒とかかな? ただのイメージだけど。
「――ま、それはそれとして。
そういえば作らなきゃいけないものがあったよね」
それは、グランベル公爵の欲しがっているもの――大規模な魔導器に使うという高品質の触媒。
ジェラードが集めてくれた素材を見てみると、魔導石やら水晶やら、鉱物関係が多かった。
一緒に入っていたレシピ――作り方のメモを確認すると、どうやら『増幅石』というものを4属性分、それぞれ1個ずつ作れば良いらしい。
増幅石……。
うーん? 初耳だけど、とりあえず作ってみようかな。
はい、れんきーんっ
バチッ
私の手の上には赤色の透明な水晶が現れた。
こう見るとただのガラス玉にも見えるけど……とりあえず、かんてーっ
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【炎の増幅石(S+級)】
炎の力を増幅させる結晶体。高度な製造で使用する
※追加効果:増幅量×2.0
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……これで良いのかな?
ちょっと使い方は想像できないけど、魔法の威力を上げる感じの魔導器……とか?
――ま、それはさておき、これをあと3つね。
バチッ
バチッ
バチッ
――はい、完成♪
この3つも鑑定したけど、『炎の増幅石』と同じ結果だったので割愛……っと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、まだ眠くは無いわけで」
何度かベッドに入ってみるも、やはり寝付くことはできなかった。
錬金術師ギルドで受けた依頼をこなしたり、これからお店をどうするのかを考えたり、そういったこともやらなければいけないんだけど――
でも、今やること?
そう思ってしまうと、途端にやる気が失せてしまった。
何せ時間としては深夜なのだ。そんな時間帯であることを考えると、どうにもやる気が出てこない。
もう少し軽いこと、例えば趣味とか――って、それを言い始めると話が戻っちゃうか。
それ以外だと、例えば何か読む本でもあれば良いんだけど――
「……ああ、そういえば書斎に本はあるよね、一応……」
今朝に何回か眺めて、結局何の興味も引かれなかった大量の本たち。
でも逆に、それを読んでいれば眠気が起きてくるかもしれない?
それならそれで、つまらない本ながらも役に立つということか。
まぁ暇だし、ちょっと行ってみようかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
書斎に行くと、いつもの貫録のある内装が月の光に照らされて、何とも不思議な雰囲気を漂わせていた。
「うーん、やっぱり月明かりは良いね。心にくるというか……」
心からそう思いながらも、月明かりだけではよく見えないので、無慈悲に明かりをつける。
不思議な空気は消え失せて、いつもの日常の空気が戻ってきた。
――それじゃ、何か読めそうなものを探してみようかな。
そう思いながらパラパラと何冊かの本をめくってみるも、やはり興味が出てこない。
興味が出てこないというのはつまり、部屋に持っていって眠気が出るまで読む――ということもしたいと思わないレベルだ。
せめてこう、少しでも興味ある単語が見つかれば……といった感じで徐々にハードルを下げていく。
しかし良い本は見つからない。
「……よし。ここは根性で、左上から順番に全部見ていこう!」
朝になるまで、時間はかなりあるのだ。
それまでに眠気が来れば良し、眠気が来なければ時間を潰すことができるから良し。
途中で興味のできた本があれば、それを部屋に持ち帰って読んで――そのうち眠気が来るだろうからそれも良し、だ。
……うん、完璧な計画だね! 何か無駄が多そうだけど!
でも、そうと決まれば早速取り掛かろう。今は深夜のテンションに身を任せるのだ!
「――ん?」
本をパラパラめくりながら早や1時間。
とある1冊の本に目が留まった。
いや、目が留まったというか――
「この手法は、昔どこかで見たような気がする……」
――その本は、中の紙の部分がくり抜かれており、そこに小さな金属の箱が収められていた。
箱を手に取って軽く振ってみると、中からは何かが箱の内側に当たる音が聞こえてくる。
「……んん? 何、これ?」
よく見ると、その箱にはとても小さな鍵穴があった。
ふむ、これに合う鍵が無いと開けられないのか――
――何てことは無いんだけどね!
ひとまずその箱をアイテムボックスに入れて、そしてそのまま――れんきんちかんっ!
バチッ
私の手の上には、箱の一部を脆い炭に置換させた箱が現れた。
ふふふ、こういう使い方もできるのだよ。
というわけで、早速オープンっ!!
苦もなく箱を開けて、期待をしながら中を覗いてみると、そこには――
「鍵……?」
――鍵が1つだけ入っていた。
「むむむ……。鍵を使って開ける箱の中に、まさか鍵が入っているとは……」
何とも複雑な心境である。
しかしどこの鍵だろう? この部屋の中では、これに合う鍵穴なんて見掛けたことは無いけど――
「――ふわぁ……」
気が抜けた途端、何やら突然、眠気が襲ってきた。
外を見ればまだまだ暗い。今から眠れば十分な睡眠を取ることができるだろう。
「よし、今日は寝ようかな……。何だかよく分からない鍵も手に入れたし……」
……それにしても、何であんな本があったんだろう?
ピエールさんが搬入してきたものなら何だかおかしい気がするけど、もしかして元々ここにあった本なのかな?
そうだとすると、このお屋敷の以前の主が隠しておいたもの?
でもそんなにしてまで隠すものを、このお屋敷に残して出ていくかなぁ……。
いくつもの疑問は残るものの、ひとまず私は目先の睡眠にやられることにした。
うん。ねーむーいー。




