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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
208/911

208.ふりふり

「うーん、やっぱりなぁ……」


 白兎堂に向かいながら、私はどこか釈然としないものを感じていた。


「アイナさん、どうしたんですか?」


「いやぁ……。Sランク昇格は嬉しいんですけど、なんだか突然の展開だなって。

 冒険者ギルドだと自分から申請しなきゃ昇格できないですか」


「そうですね。でも、国の計らいで昇格してくれる場合もたまにはあるんですよ?」


「え? そうなんですか?」


「はい。例えば要人を救ったとか、平和を脅かす魔物を倒したりだとか……。

 偉い人から功績が特に認められた場合、冒険者ギルドへの働きかけがあって、それで昇格する場合もあるんです」


「へぇ……。私のもそれなんでしょうか。

 でも特に誰も救ったわけでもないし、魔物を倒したわけでも無いしなぁ……」


「錬金術師ギルドはまた違いそうですけどね……。

 ほら、アイナさんは誰も受けないS-ランク以上の依頼をたくさんこなしましたし」


「ダグラスさんの推測でも、それは挙げられてましたね。

 でも目覚ましい活躍ってほどでは無いような……」


「まぁまぁ。アイナさんの普段の頑張りが認められたっていうことですよ、きっと!」


「うーん、いつも頑張ってるかなぁ……」


「えぇっ!? そこを疑問視しちゃうんですか!?」


 頑張ると言っても、私はバチッとやってアイテムを作ってるだけだからなぁ……。

 他の錬金術師と比べるとずいぶん楽をしているわけだから、頑張っているかと言われれば少し疑問を持ってしまうのだ。

 だからといって、『工程省略<錬金術>』を封印するつもりは無いんだけど。


「そうですね……。でも今回はタダで昇格させてもらえましたし、これはこれで良しとしておきますか」


「Sランクになって、それを疑問視する方も珍しいですね……!」


「む、確かに……! そ、それじゃ――

 やったー、Sランクに昇格ダー!!」


「そうです、その調子です!」


「ワーイ!!」


 ……いや、それはそれで、何だかなぁ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そうこうしているうちに、私たちは白兎堂に到着した。

 いつも通りの店構えにどこか安心しながら入ると、迎えてくれたのはこれまたいつものお婆さんだった。


「いらっしゃいませ。あら? アイナさん、エミリアさん、こんにちは。

 今日はエミリアさんの服ですか?」


「はい! バーバラさんをお願いしても良いですか?」


「分かりました、少々お待ちくださいね」


 そう言いながら軽く頭を下げたあと、お婆さんは静かにお店の奥に引っ込んでいった。



「――ふぅ、緊張しますね!」


 バーバラさんを待っている間、エミリアさんは緊張気味に目をキラキラとさせていた。


「そうですね。私はエミリアさんの表情を見ているだけでとても楽しいです」


「えっ!? そう言われると、何だか複雑な気分です!」


「ふふふーん♪」



 そんなやり取りをしているうちに、お店の奥からバーバラさんが布の包みを持って現れた。

 そして――


「いらっしゃいませ――って、アイナさん!?」


「えっ!?」


 ――何だかとても驚かれた。


「あ……、失礼しました!

 テレーゼさんから『アイナさんがいなくなっちゃったよぉ~……』って、ずいぶんと話をもらっていたもので……」


 バーバラさんはにこやかに、テレーゼさんの物まねをするように教えてくれた。


「あはは、似てますね。えーっと、思ったよりも早く戻ってこれましたので。

 ここに来る前は錬金術師ギルドに寄って、テレーゼさんとも会ってきたんですよ」


「そうでしたか。それでは私もようやく、夜の呼び出しが無くなりそうですね」


「夜の呼び出し?」


「はい。毎晩近くの食堂に呼ばれて、アイナさんの話ばかりされていたんですよ。

 オレンジジュースだけで毎晩2時間も粘るから、お店の人に申し訳なくて……」


「あはは……。すいません、ご迷惑をお掛けしました……」


「いえいえ、こちらこそあの子がすいません。

 ――さて、今日はエミリアさんの服の受け渡しですね!」


「やったー!

 ……あ、試着室をお借りしても良いですか?」


「どうぞどうぞ。狭いので気を付けてくださいね」


「はーい。それではアイナさん、着替えてきますので少々お待ちを!」


 そう言うと、エミリアさんは包みを受け取って奥に消えていった。

 バーバラさんは一応といった感じで、エミリアさんに付いていってしまった。



 店員のお婆さんも戻ってきていないので、今このお店には私が一人。

 こういうときは、なんだか少し特別な時間に思えてしまう。


 お店といえば、神器の材料も調べることができたし――錬金術のお店もそろそろどうにかしないといけないかな?

 自分でやるなり、人を雇うなり、どちらにしても考えることは多いんだよね。


 でもお店を本格的にやるとするなら、王都にずっと暮らすことになっちゃいそうだよなぁ……。

 それはそれで良いのかな? お屋敷暮らしにも慣れてきたし、周りの人にも恵まれているし――



 そんなことを考えていると、明るい声とともにエミリアさんが奥から現れた。


「じゃじゃーん! どうですか、アイナさん!!」


「おぉ、これは――」


 可愛い!


 可愛い!!


 可愛い!!!


 語彙が仕事してくれない!!


「――可愛いですね!!!!」


「えへへ♪ 私の注文通りですよー♪ いや、むしろそれ以上♪」


 音符をやたら飛ばすエミリアさんの服は、ワインレッドの色と白色が見事に調和したロリータ服。

 ふりふり要素やレース部分も多く、見る人が見ればたまらない逸品である。

 着ている本人の可愛さと相まって、服との相乗効果が彼女をどこまでも可愛く見せた。


 『可愛い』――どう捻っても、それ以外の言葉は出てこない。

 うぅん、自分の語彙の無さが恨めしい。


 エミリアさんが近くに寄ってきたので、ひとまず服を撫でるように触ってみる。


 ……うん、私のアリス服とはまた違う感じだけど、やっぱり良い仕事をしているなぁ。

 布も質が良いものなのか、触り心地がとても良いし。


「やっぱりバーバラさんの服は良いですねぇ……」


「はい、これも渾身の一作です!

 遠慮しないでどんどん可愛らしさを詰め込めるのは、やっぱり素敵ですよね!」


「ですね!!」


 エミリアさんとバーバラさんはその辺りが見事に通じ合っていた。


 私はそもそも普通の服を希望していたわけで、そこまでの価値観は共有していないのだろう。

 少し寂しい気はしたものの、『どこで着るの?』という冷静な疑問が頭をよぎり、『まぁいっか』という結論に収まっていったのだけど。


 でも、私の場合は夢の中でちゃんと着たからね!

 ……って、あれ? ここでアリス服を作ってなかったら、あの夢ってどうなっていたんだろう?


 あの夢は私の記憶が元になっていたみたいだから、例えば元の世界がベースになっちゃっていたかもしれない……?

 そうだとしたら『力の化身』なんて、私の元上司が出てきそうだよね。うわぁ、それは冗談じゃない……。


 そんなことを考えている間にも、目の前の2人は可愛い服のことで盛り上がっていた。

 私もぼんやり聞きながら、『なるほど、そういう考えもあるのか……』などと理解に努めていると、いつの間にか1時間ほどが経過してしまっていた。



「あの、そろそろ――」


「え? ……あ、もうこんな時間!?」


 時計を見て驚いたのはバーバラさんだった。

 私とエミリアさんは良いとして、バーバラさんは今は仕事中だからね。

 この1時間は接客というか、ただの雑談になっていたわけで……。


「すいません、エミリアさん。また今度お話しましょう!」


「はい、是非! それでは今日は失礼しますね」


「毎度ありがとうございました! アイナさんもまた、よろしくお願いしますね」


「はーい、それではまた!」



 白兎堂を出ると、空には夕方の気配が漂い始めていた。

 今から帰れば、お屋敷に着くのはちょうど良い時間になるかな?


「――それにしても、エミリアさんとバーバラさんって話が合いますよね」


「そうですね、私も驚きました!

 今度テレーゼさんも誘って、4人でどこかに行きませんか?」


「えっ? そうすると、私がテレーゼさん担当に……?」


「担当というか……、あはは……」



 いや、テレーゼさんは良い人なんだけど、ずっと一緒にいる自信が無いというか……。

 もう少し力を抑えてくれれば、凄いとっつきやすい人だとは思うんだけどなぁ……。うーん。

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