206.とある通達①
ジェラードと素材の受け渡しを終わらせたあとは、エミリアさんを呼んで3人で歓談をしていた。
やっぱり人数が多いほど、お喋りするのは楽しくなるよね。
せっかくなので、エミリアさんとジェラードにも神器の素材を一通り見てもらった。
特に進展した話は無かったけど、進む方向は共有できたかな?
「……さてと。それじゃ僕はそろそろ帰ろうかな」
「あ、そうですか? もうすぐ昼食ですけど、食べていきません?」
「いやぁ、急に人数を増やすのもメイドさんに悪いからね。
それに、これから行きたいところもあるしさ」
「ふーむ、それでは引き留めるのも申し訳ないですね」
「うん、また今度お呼ばれするよ♪ また3日後にくるからねー」
ジェラードを玄関まで見送ったあとは、そのままエミリアさんと客室に戻った。
特に戻る必要もなかったんだけど、何となくと言うか、流れでと言うか、そんなふわっとした理由だった。
まだ昼食までは時間があるし、それまではエミリアさんとお喋りをすることにしよう。
「――ところでアイナさん、今日の午後はどうするんですか?」
「午後ですか? えーっと……錬金術師ギルドに行って、依頼がないか見たいですね。
テレーゼさんとダグラスさんに挨拶もしなければいけないし……」
「それでは私もお付き合いしますね。アイナさん、目覚めてからまだ日が浅いんですから」
「いやぁ、それなりにもう動けるようになりましたよ?
でも、一緒に来て頂けるなら喜んで!」
「はい! それで……錬金術師ギルドの用事が終わってまだ疲れていないようでしたら、私の方にも付き合って頂けますか?」
「もちろんです! どこか用事があるんです?」
「ほら、あれですよ。白兎堂に行かないと!」
あー、そういえばエミリアさんの頼んだ服って、もうできてるはずなんだよね。
日にちから言って……あ、私が目覚めた日に出来上がる予定だったのか。
「……すいません、目覚めたのもタイミングが悪かったですね」
「いやいや! そこは服よりもアイナさんだから大丈夫です!
……というわけで、よろしくお願いしますね」
「分かりました。そもそもどんな服かも知らないので、楽しみにしてます!」
「えへへー。あんな服を頼んだのは初めてですから、私も楽しみです♪」
特注したものが出来上がるのは、やっぱり想像しただけでも楽しくなっちゃうよね。
元の世界ではこういうのをやったことはなかったから――もっと昔から挑戦してみれば良かったかなとも思ってしまう。
……でも、お金がやっぱり掛かっちゃうんだよね。
お給料もそんなにだったし、その気があっても結局は断念しちゃっていたんだろうな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼食のあと、しばらくしてから錬金術師ギルドに向かうことにした。
今日も良い天気だ。こんな温暖な気候でいられるのも、神様とか竜王の加護のおかげなのだろうか。
伝説は伝説として、本当のところはどうなんだろうね?
……しかしそんなことを思っても、調べる術なんてあるわけもなく。
平和ならそれはそれで、その理屈なんてものは偉い人に任せて、一般人の私はその豊かさを素直に享受しておくことにしよう。
一般人……? S-ランクの錬金術師は、果たして一般人なのだろうか……。
まぁ、王族でも貴族でも奴隷でもないし、ここは一般人ということにしておこう。うん、それが良い。
頭でそんなことを考えながら、エミリアさんと話しながら歩いていると、無事に錬金術師ギルドに着くことができた。
特に懐かしさは感じられなかったので普通に入って行くと、いつも通りのテレーゼさんの大声から始まった。
「おおおぉ……!? アイナさーん! おかえりなさああああいっ!!」
例によって周囲の目がこちらに集まるが、そのまますぐに視線を元に戻す人もちらほらいるようだった。
私が来るたびにあることだし、常連の中にはもう慣れてしまった人もいるのだろう。
いずれは全員、こちらを見ることもなくなってしまうかも? ……いや、それはそれで望むところか。
「テレーゼさん、お久し振りです。
何だか早く戻ってくることができました!」
「それは何よりです……! 少し遅めですが、一緒にお昼ご飯はいかがですか!?」
「あ、すいません。食べてきちゃいました」
「そうなんですか!? 奇遇ですね、私もさっき食べたばかりでして」
「……え? それなら何で昼食に誘うんですか?」
「それはもう、お話をしたいからに決まってるじゃないですか!」
「仕事をしてください」
「うぐっ。そ、それでは仕事の話をします! しちゃいますよ!」
そう言うとテレーゼさんは引き出しから紙を1枚出して、それを読みながら言った。
「えぇっと、錬金術師ギルドからアイナさんに通達があるそうです。
今日はダグラス主任に会っていってください」
「通達……? んー、何だろう?
どちらにせよダグラスさんとは会っていく予定だったので、呼んで頂けますか?」
「えー」
「『えー』って……」
「主任を連れてきたら私の仕事が終わっちゃうじゃないですか!
もう、主任ばっかりアイナさんとお話しててずるい!!」
「仕事だから仕方がないのでは……。ほら、そうこうしてる内にダグラスさんが来ちゃいましたよ」
そう言いながらテレーゼさんの後ろを指差すも、テレーゼさんは振り向きすらしない。
「アイナさん、さすがに私でもその手には乗りませんよ!?」
「こんにちは、ダグラスさん!」
「だからその手には――」
「よぉ、アイナさん!! もう大丈夫なのか?」
「…………」
挨拶のあと、私とダグラスさんが簡単な身振りでコミニュケーションを取っていると、テレーゼさんは恐る恐るといった感じで後ろを振り向いた。
既に声も聞こえているわけだから、そこにダグラスさんがいるのは疑いようのない現実なんだけど……。
「テレーゼ……お前、受付だろ? 早く俺を呼べって!」
「うぐぐ……。久し振りの再会だというのに!」
「確かに久し振りだけど、まだ10日くらいだろ……」
ダグラスさんはテレーゼさんを手で制しながら、改めて私に言った。
「アイナさん、錬金術師ギルドから通達があるんだ。応接室の方にお願いできるかな。
――あ、そうそう。依頼を受けられるなら依頼書を持っていくけど、今日はどうする?」
「お願いします。できるだけ受けていきたいので」
「本当か? それじゃ準備をするから、先に行っていてくれ」
「主任! 私が応接室までご案内しますねっ!!」
「アイナさん、一人で大丈夫だよな?」
「はーい、大丈夫でーす」
「ぐぬぬ……」
「あ、それじゃテレーゼさん。エミリアさんにはこの辺りで待ってもらうので、何かあったらよろしくお願いします」
そう言うと、後ろに控えていたエミリアさんも会話に参加してきた。
「テレーゼさん、何かあったらお願いしますね!」
「む、むむ……。これは……断れないッ!!」
「それでは私は応接室に行ってきます。
エミリアさん、テレーゼさん、またあとで」
「はい!」
「は、はぁい……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
応接室で一人待っていると、10分ほどしてからダグラスさんが現れた。
どことなく表情が明るいというか、そんな雰囲気を感じさせる。
「アイナさん、お待たせして申し訳ない!」
「いえいえ。ところで通達って何ですか? そういうの、私は初めてですよね?」
「ああ、うん。アイナさん、おめでとう!!」
「え?」
「Sランクに昇格だ!!」
「え? ……えぇーっ!?」
急にまた何で!?
私、何もしてないんだけどっ!!




