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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
203/911

203.朝の出来事①

 ――はて?


 窓から外を見てみると、ようやく夜空が白み始めたくらいの時間。

 どうやらいつもより早く目が覚めてしまったようだ。


「……んー、もう朝かぁ……。

 まだ寝ていたいところだけど、ちょっと身体がしんどいかな……」


 これは身体の方が睡眠を拒否しているパターンだ。

 1週間寝込んでいた上に、昨日も睡眠時間がめちゃくちゃだったし。……仕方ないと言えば仕方ないか。


 寝ていられないというのであれば、ひとまずは起きて何かをすることにしよう。


 今日からはいろいろと動く予定だしね。

 何かをやるとなったら、一日なんていうのは経つのが早いものなのだ。


「――せっかくだし、少しそこら辺を歩いてみよう」


 起床したところで身体はやっぱりだるいままなので、軽い運動ということでお屋敷の中を歩いてみることにした。

 早朝の時間帯はあんまり歩いたことがないんだよね。



 とりあえず廊下に出てみると空気は冷たく、静寂に包まれていた。

 そんな中、外から差し込む薄暗い光が、何となく特別な時間のようなものを演出している。


「結構こういう雰囲気、好きなんだよね」


 そんなことを呟きながら、2階の空き部屋に入ってうろうろしてみたり、窓から外を眺めて格好付けてみたり、軽くストレッチ運動みたいなことをしてみたり。

 我ながら何とも意味不明な時間を過ごしてみる。



 少し新鮮な気分を味わったところで、次は1階へ行ってみることにした。

 階段を下りて、さて何をしようかと考えていると――


「――あれ? アイナ様、おはようございます」


「ふぇっ!?」


 突然の声に驚いて振り向くと、そこにはディアドラさんが立っていた。

 ディアドラさんというのは警備メンバーのリーダーの女性だ。


「あ、突然失礼しました。驚かせてしまいまして……」


「いえいえ! ディアドラさん、おはよー。夜の警備、お疲れ様」


「ありがとうございます。今晩も何もありませんでしたので、ご安心ください。

 ……それにしても先日まで大変でしたのに、こんな早くに起きても大丈夫なんですか?」


「いやー。逆に寝過ぎちゃって、もうこれ以上寝られなかったというか……」


 そう言うと、ディアドラさんは納得した表情を浮かべた。

 誰にでもそういうことはあるよね。


「これから外出をされるようでしたらお見送りしますが、いかがいたしますか?」


「あ、外には出ないから大丈夫。1階を少しまわったら部屋に戻ろうかなって。

 ……ところでこの時間は、さすがに警備の人くらいしかいないのかな?」


「そうですね。もう少しすればメイドの方たちが厨房に集まるかと思いますが、まだ早いですね」


「おー。そういえば厨房ってあんまり行ったことがないんだよね。……ちょっと覘いてこようかな」


「それも良いかもしれませんね。先ほど通ったときは静かなものでしたよ」


「ふむふむ、それじゃ行ってみるねー」


「はい、お気を付けて」


 ディアドラさんに軽く挨拶したあと、私はのんびりと厨房に向かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――……」


 厨房の前に来ると、中から誰かの気配がした。

 誰かいるのかな? でも、明かりはついていないよね……? 来たばかりなのかな?


 そんなことを思いながら静かに中を覘いてみると、裏庭への扉のところで人影を見つけた。

 扉を挟んで、中に1人、外に1人がいるという格好だ。


 辺りはまだ静かで、耳を澄ませば何とかその声を聞くことができた。


「――それでは、これをお持ちください……」


「……」


「――あ、いえ。お屋敷の中でお金のやり取りはできませんので……」


「……」


「――はい! それでは後日、そのように……」


「……」


 バタンッ




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――んん? んんん?


 いつの間にか、静かになった厨房には私一人が取り残された。

 どうやら話をしていた2人は裏庭の方へと出ていってしまったようだ。


 それにしても外の人の声はよく聞こえなかったけど、中で話していたのは――メイドのミュリエルさんだったような?

 こんな早い時間に何をしていたんだろう。それに、外にいた人は――


「――えっ!? あ、アイナ様!?」


「ふぇっ!?」


 急に掛けられた声の方を振り向くと、そこにはクラリスさんが立っていた。

 この反応をしてしまったのは、本日既に2回目である。


「おはようございます、こんな時間にどうされたのですか?

 ……あ、もしかして、早めの食事ですか?」


「ううん、そうじゃなくて――何だか眠れなかったからうろうろしてたんだけど、厨房ってあまり来たことがなかったかなって」


「確かに、アイナ様をここで見たのは初日以来ですね」


「だよねー。……ところでさっき、ここに誰かいたんだけど……」


「誰か……? 警備の方でしょうか?」


「んー。裏庭への扉のところで、誰かが2人で喋ってたみたいなんだよね。

 1人はミュリエルさんの声だった気がするんだけど……」


「……ミュリエルさん、ですか?

 そういえば最近、朝早い時間に部屋からいなくなることがありますね……」


「それじゃやっぱりミュリエルさんだったのかぁ……。

 あと、もう1人の人に何かを渡していたみたいだったんだよね。会話の中で『お金』の話が出ていたし……」


 そこまで言うと、クラリスさんの眉がピクッと動いた。

 クラリスさんは前のお屋敷でお金の横領問題があったそうだし、こういう話には人一倍反応しちゃうか。

 そんなことを考えていると――


「おはようございます――って、うわぁ!?

 アイナ様、こんな時間にどうしたんですか!?」


 ――元気いっぱいのミュリエルさんが現れた。


「あ……おはよう。ちょっと目が覚めちゃって、少し散歩をしていたの」


「そうでしたか、ここのところ大変でしたからね。

 それでは私は朝食の準備に入らせて頂きます! あ、調理はしないのでご安心ください!」


「あ、うん……」


 ミュリエルさんはメシマズのメイドさんだから、調理は禁止されているのだ。

 仕事の合間に練習はしているみたいだけど、まだまだ賄いにもできないくらいのレベルらしい。


 いつも頑張ってるし、しっかりやってくれているようだけど――まさか、裏で悪いことはやっていないよね……?

 ミュリエルさんをちらっと見ると、は厨房の明かりをつけて、調理器具の準備を始めたところだった。


 信じたいけど、どうしたものか。

 そう思いながらクラリスさんを見れば、何やら静かで重いオーラを発している。


「……アイナ様。この件は一旦私がお預かりします。

 朝食のあとにヒアリングをして参りますので……ッ!!」


 ――おおぅ、怖い……。


 それじゃここはクラリスさんに任せて、あとで報告をもらうことにしよう。

 私が積極的に動かなくても、自浄作用が働くのはやっぱり助かるなぁ。


 ミュリエルさんは今、楽しそうに食材の準備をしている。

 悪いことはしていないとは信じているけど――それなら一体何をしていたのか、っていうことになるよね。


「……それじゃクラリスさん、お願いね。

 午後は出かけるから、報告をもらうのは午前中か夜だと助かるな」


「可能な限り午前中に、速やかに報告させて頂きます……ッ!!」



 ――あ、はい。


 私がぼへーっとしていられるのはクラリスさんのおかげです。

 いつもありがとう。

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