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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
201/911

201.まったりな一日

 今日の天気も晴れ。穏やかな陽の光が何とも気持ち良い。

 しかし――


「――疲れました」


「えぇっ!? まだほとんど動いてないじゃないですか!」


 1週間寝込んでいたこともあり、今はお屋敷の裏庭で軽く運動をしているところだった。

 エミリアさんにも付き合ってもらってキャッチボールなどをしてみたのだが、早速疲れてしまった。


 私はあまり肩が強くないからヘナチョコ山なりボールしか投げられないけど、エミリアさんは結構びしっと投げてくる。

 本気で投げたら結構良い感じなのではないだろうか。……これも修行や冒険で鍛えた賜物かな?


「うぅーん、私はもうダメ……。ダリルくーん、ちょっと代わって~」


「はーい!」


 近くで草取りをしていたダリル君――庭木職人ハーマンさんの息子に助けを求める。

 少し離れたところのハーマンさんが一瞬ギョッとした顔をしたものの、ジェスチャーで許可をもらうことに成功した。


「アイナさーん!? 今はアイナさんのリハビリですよーっ!?」


「少し休憩させてくださーい! はい、ダリル君よろしく!」


「分かりました!」


 ダリル君にボールを渡すと、ダリル君は嬉しそうにエミリアさんへとボールを投げた。

 エミリアさんは一瞬は慌てたものの、難なくボールをキャッチする。


「わぁ! エミリアおねーちゃん、すごい!」


「ふふふ。そうでしょう、そうでしょうとも! こっちからもいきますよー!」


「はーい!」



 裏庭の椅子に腰を掛けてぼんやりと、エミリアさんとダリル君のキャッチボールを眺め続ける。

 ああ、平和だ。何だか気持ちが安らぐというか、何だか良いなぁ……。


 神器とか世界線とか時間軸とか日常離れしたものよりも、今はこういうまったりした時間がとても気持ち良い。


「アイナさまー」


「ん?」


 突然の声に振り向いてみると、そこにはダリル君の妹のララちゃんが立っていた。


「これ、あげますー」


 そう言いながら手渡してくれたのは、草花で編まれた輪っかの髪飾り。

 おぉ、これは何だか懐かしい。


「ありがとね。んー、どう? 似合うかな?」


「はい、とっても!」


 髪飾りを頭に乗せてみると、ララちゃんが満面の笑みを浮かべてくれた。

 ああ、もう! 癒される! 癒されすぎる!!


 そのまましばらくララちゃんと遊んでいると、お屋敷の裏手からキャスリーンさんがやってきた。


「アイナ様、お茶をお持ちしました」


「わぁ、ありがとう」


「……あの、私はこれから休憩なのですが……、ご一緒させて頂いてもよろしいですか……?」


「うん、大丈夫だよ。ぼーっとしてるだけだけど」


「はい、ありがとうございます!」


 休憩時間なら問題無いよね?

 もともとはこのテーブルと椅子は、メイドさんたちの休憩のために揃えたものなんだし。


「アイナさまー。その髪飾り、キャスリーンおねーちゃんに教わったんですよ!」


「へー、そうだったんだ。

 私も子供の頃に作ったものだけど、何だか懐かしいなって思ってたの」


「はぁあ……。アイナ様にもそんな時代が……。はぁあ……」


 私の言葉に、キャスリーンさんは何故かうっとりした感じでそんなことを口走っている。

 不思議に思いながらも、しばらくキャスリーンさんとララちゃんとでお喋りをしていると、ダリル君がこちらにやってきた。


「アイナさま、失礼します!

 ララ、そろそろお手伝いに戻る時間だよー」


「はーい! アイナさま、それでは失礼します!」


 2人は元気良く挨拶をすると、ハマーンさんのところへ走っていった。

 それと入れ代わる形で、今度はエミリアさんがやって来る。


「はぁ~、さすがに疲れました。ダリル君は元気ですよね……。

 すいません、キャスリーンさん。私にもお茶をください!」


「かしこまりました。それではカップをお持ちいたしますので――」


「あ、大丈夫。アイテムボックスに入れてるから」


 そう言いながら、私はいつものお茶セットのカップを出してキャスリーンさんに渡す。


「アイナさんを見ていると、やっぱり収納スキルが欲しくなってきますよね……」


「あはは。私も夢の中で使えなくて、少し不便でしたよ。収納スキル様々です」


「夢の中で……ですか?」


 キャスリーンさんはお茶を入れながら、不思議そうに聞いてきた。


「うん。エミリアさんには昨晩お話したんだけど、寝込んでいる間に長い夢を見ていたの。

 変な夢だったから説明しにくいんだけど、そこではスキルが全然使えなくて」


「なるほど……?」


「――そういえばアイナさん! 水の魔法が使えるようになったんですよね?

 見せてください!」


「え? ああ、そうでしたね! ……えぇっと、どこになら撃てるかな?」


 裏庭とはいえ、ここはハマーンさんが丁寧に庭木仕事をしてくれているのだ。

 いくら私の土地だからって、勝手に荒らしてしまうのは申し訳ない。



 少し探してみると、土が盛ってあるだけの場所を発見できた。

 ハマーンさんに聞いて、問題無いことを確認してからそこに撃ってみることに。


「――アクア・ブラスト!!」


 私が手をかざしてそう唱えると、夢の中と同じ感じで、手から水球が弾け飛んだ。


「おおっ!」

「アイナ様、凄い……!」


「ふふふ。……あれ? でも、何だか疲れ――」


 不意に身体から力が抜けて、体勢を崩す。

 その瞬間、エミリアさんとキャスリーンさんが同じタイミングで身体を支えてくれた。


「わわっ、大丈夫ですか!?」

「いかがされましたかっ!?」


「うーん、ごめんなさい。何だか急に力が抜けて……」


「それは魔力が一気に無くなったときに起こるものですね。

 私も例のイヤリングをしていると、程度の違いはありますがこうなりますよ」


「ああ、そうなんですか……。夢の中だと撃ち放題だったんですけど――」


「夢は夢、現実は現実ってことですね!」


「うぅ、世知辛い」


「アイナ様、そろそろお戻りになられますか? まだ体調も万全とは言えませんし……」


 キャスリーンさんが心配そうに言ってくる。

 まさにその通りなので、今日はもう切り上げることにしよう。


 ……結局、ほとんどお喋りして終わったわけなんだけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 エミリアさんに付き添われて自分の部屋に戻ると、時間は15時過ぎだった。

 まだ早いけど、今日はもうのんびりすることにしよう。


 本格的に動くのは明日からになるかな?

 ……体力が持つ分、できるだけ――って感じにはなるだろうけど。


 まずは錬金術師ギルドに行って少しくらいは依頼を受けて、テレーゼさんにも挨拶をして。

 お金をほとんど貸し付けに回しちゃったから、本腰を入れて稼がないといけないしね。


「――あ、そうだ。エミリアさん、証書の管理をありがとうございました」


「いえいえ。少し緊張しましたけど、何事もなくてなによりでした」


 エミリアさんから金庫を受け取って中を確認する。そこには預けたときのまま、証書が12枚入っていた。

 外に出しておくのも怖いから、さっさとアイテムボックスに入れてしまおう。


「そういえば昨日今日って、私ばかりが話しちゃってましたよね。

 私が寝ている間、何かありしました?」


「はい、それなりに!」


「え、そうだったんですか? 先に教えてくださいよー」


「大変なところから目覚めたばかりでしたので、余裕が出てからにしようかなって思いまして。

 それに昨晩は、夢の話で大盛り上がりでしたし!」


 思い返せば昨日は寝付くまで、2人で夢の話をずっとしていたのだ。

 話し始めたら面白くなってきて、それで終始してしまったっていうか。


「あぁー、確かに……。ついでに私、結構早く寝ちゃいましたしね……」


「そうですそうです。しかも今日はお昼まで寝ていましたし。

 また寝込んじゃわないかって、結構心配したんですよー!」


「むぅ……。さすがに昨日よりはマシになったので、もう大丈夫です!

 あったことを教えてくださいな」


「分かりました!

 えっとそれじゃ、まずはルークさんの件からですね」


 え? ルークの件?

 お屋敷から出ていったあと、今まで何の連絡もきてなかったけど――今、どうしているんだろう?

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