表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第2章 ガルーナ村
20/911

20.お節介ルートへの分岐

「疫病の件は感謝しておりますが、行き先を変えることは出来ません」


 これは、乗り合い馬車一行の責任者の言葉。

 ここから北のガルーナ村で疫病が流行っているかも……という憶測から、少し寄り道は出来ないかと聞いてみたところの返事だ。


 結果は前述の通り、検討の余地も無くあっさり却下。

 まぁ仕方無いよね。仮に疫病が流行っていたとしても、村の方で何らかの対応が出来ていれば無駄足になるわけだし。

 それにぶっちゃけここの全員で行ったところで――っていうのもあるし、そもそもこの責任者の人だって雇われの身だろうから勝手なことも出来ないだろうし。


「見たところここの全員、ガルーナ村と縁があるヤツはいなさそうだしな。敢えて首を突っ込む義理もねぇってことか……。冷たいねぇ、世間の風は……」


 一部始終を見ていた用心棒の一人がぼそっと言う。

 そりゃそうだ。自分の身を危険にしてまですることじゃない。

 ついでに言ってしまうと、この用心棒さんだって乗り合い馬車の用心棒の仕事を途中で降りるのは難しいだろうし。


「分かりました。無理を言ってすいませんでした」


「いえいえ、こちらこそ何と言って良いものやら……。申し訳ございません……」


 話が好転しなさそうだったので、ひとまず私は諦めることにした。




「うーん。実際のところ、こういうときってどうするの? 村の対応方法として」


 乗客たちが集まる焚火の場所に戻りながらルークに話し掛ける。


「そうですね。村で疫病が流行っていたら――誰かが代表して、近隣の街に助けを求めに行くでしょう。その後は聖職者や薬師、錬金術師といった……疫病に対応できる専門家をどれだけ早く確保出来るかが問われますね」


「なるほど。それじゃ私たちがガルーナ村に行ったところで、完全に無駄足になる可能性もあるんだね」


「……そうですね」


「うーん。疫病の心配をして行ったのに、何もかもが解決していたらちょっとおマヌケだよねー」


「……はい、そうですね」


「ところでガルーナ村って何か名産ってあるの? 美味しいお料理とか、何か」


「……特に無いかと思いますが、クレントスの広場で木彫りの置物を行商していたのは見たことがありますよ」


「木彫り? ふーん。それって、可愛かった?」


「可愛いというか、うーん、何ていうんでしょうね? ちょっと口では説明出来ませんね」


「えぇ? 口では説明出来ないの?」


「はい、ちょっと難しいですね」


「口で説明出来ないなら、見に行くしか無いじゃない? もー、しっかりしてよ!」


「申し訳ありません。そうですね、見に行くしかありませんね」


「私、すごい気になってきたんだけど。急いでガルーナ村に行かないと!」


「そうですね。私もお供いたしますよ!」


 そこまで話すと私とルークは目を合わせ、お互い吹き出して笑い合った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「それでは私たちはここで降りますね」


 時間は朝9時。

 連れ立った乗り合い馬車を外から眺めながら、責任者の人に挨拶をする。


「本当にガルーナ村に行くんですか……?」


「はい、木彫りの置物を見に行ってきます」


「は……? 置物……?」


 責任者の人は呆けた顔で私たちを私たちを見る。


「はい。置物です。素敵なものがあるって聞きましたので」


 はぁ……と、今なお混乱した眼差しを向ける責任者の人。


「あ、そうそう。足りないとは思うのですが、昨日の薬代です。これくらいしか出来ませんが、受け取ってください」


 そう言われながら渡されたのは金貨2枚。

 おお、臨時収入! 金貨3枚分のお金しか無かったから本気で助かります!


「それではお気を付けて。また機会がありましたら、馬車のご利用をお待ちしております」


「嬢ちゃんたち、気ぃ付けてな!」


「面倒掛けて済まなかったなー!」


 最後、責任者の人と用心棒たちの言葉を残して乗り合い馬車は去っていった。

 乗客たちは何も言わなかった――というか、出来るだけ無関係を装っていた感じだったよ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ほどほどに急ぎ足。それくらいのペースで進む。

 全力で走ったところで最後まで持たないからね、現実的なペースで進んでいるところなのだ。


 とはいえ――


「ルークだけだったら、もっと速く進めるんだろうけどね……」


 何せ体力がまるっきり違うわけで!

 私は健康体だと言っても、鍛えてる人から見れば全然なわけで!


「この付近はそれなりに安全とはいえ、昨晩の大蛇のような例もありますからね。私がアイナ様を置いて先に行くなどあり得ません」


 ルークはきっぱりと言う。

 そりゃもちろん、私だってこんなところで独りにされるのは嫌だけど。


 でも、魔物が出ないと分かっていれば――穏やかな陽気の中、自然豊かな風景がめいっぱい広がっているからね。

 ピクニックみたいな感じでウキウキして進めそう。


 それにしても広い空。自由に飛び回れたら気持ち良いよね――と思ったところで何となく口にする。


「そういえばルークって、ドラゴンを見たことある?」


 神様もこの世界にはドラゴンがいるって言ってたし、そういえばどれくらいの認知度なんだろう?


「ドラゴンですか。見たことは無いのですが、A級以上の冒険者には討伐依頼がいくこともあるそうですよ」


「え? 討伐しちゃう感じなの?」


「危険と判断されたドラゴンはそうなるようです。ただ人間との共存を選ぶドラゴンもいるので、すべてのドラゴンを討伐する……ということは無いですね」


「それじゃ、ドラゴンって頭良いんだ?」


「それもピンからキリまで……でして。かなりの知性と理性を持つ『竜王』という存在もいれば、獣のように暴れる『暴竜』というものもいるそうです。討伐対象は、主に後者ですね」


「ふむふむ、『竜王』かぁ。すごい存在なんだろうなぁ……」


「そうですね、人間で言うところのS+級冒険者……みたいなものでしょうか」


 なるほど、それは分かりやすい例だ。

 その種族の中の、頂点のひと握り。まさに英雄や王、といったところだろう。


 英雄といえば、そういえば英雄シルヴェスターはS+級冒険者だったっけ。


「ところでルークって、冒険者ランクはどれくらいなの?」


「私ですか? えぇっと……今はD-級ですね。いや、頑張ればもう少し上だとは思うんですが、仕事で忙しくて……」


「あはは。それじゃこれから、いくらでも上げられるね」


「機会があれば、ですね。私はアイナ様をお護りするのが使命ですので」


 護ってくれるのはありがたいんだけど、ルークもしっかり強くなってもらわないと。

 ドラゴンで思い出したけど例の神器、『神剣デルトフィング』の素材のひとつに『氷竜の魂』ってあったんだよね。

 名前からして、これって多分ドラゴン討伐が必要だろうし……。


 まぁ『神剣デルトフィング』を作るかはまだ分からないけど、他の神器を作るにしても『氷竜の魂』みたいな素材が必要な可能性もあるわけで……。

 何にせよ、私の旅はいつか過酷なものになりそうだし? それまでに力を付けないとね、お互いに。


「というわけで、機会を見つけて冒険者ランクも上げてみよっかー」


「アイナ様が望むのであれば、全力を尽くしましょう」


 ルークは迷い無くそんな返事をする。

 冒険者ランクを上げるための旅ではないからスタンスとしてはそんなもので良いか。


「でもそれは王都に行ってからかなー。それまでは一旦忘れておこー」


「そうですね、分かりました」




 ひとしきり話した後は、少し疲れてきたこともあって口数が減っていく。

 ルークもそれを察し、声を掛けるのを控えてくれていたみたい。うーん、細かい心配りがちょっとニクイ。


 そんなこんなで休憩含めて4時間ほど。昼過ぎにようやくガルーナ村が見えてきた。


 さてはて、果たして今はどんな状態か。

 出来れば心配虚しく何事も無ければ良いんだけど。

 何も無かったら、木彫りの置物を見て帰ることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ