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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
199/911

199.不思議の国のアイナさん⑥

 私が3体のガルルンたちと待っていると、10分ほどしてようやくガルルンの行列が目の前にやってきた。

 列の真ん中くらいにいるガルルンの2体は何だか偉そうで、片方は頭にキノコが生えている。


「おおぅ、あれはガルルン茸……」


 こうして見ると、まるで王冠のようにも見える。……ということはあのガルルンは王様か。

 そうするとその横にいる、やたら豪華なドレスを着ているのが女王様ということになるのかな。


「「「ははーっ!!」」」


 王様と女王様が近付くと、一緒にいた3体のガルルンたちは地面にひれ伏して声を上げた。

 いつの間にひれ伏していたんだろう。私だけひれ伏していないから、凄く目立っちゃうんだけど……。


 そんなことを思った瞬間、案の定、王様から声を掛けられてしまった。


「お主、見ない顔だの。何者だ?」


「はい、私はアイナと申します。ここには偶然通り掛かりまして」


「ほう……」


「セキュリティ意識が足りぬわ! 全員の首をはねよ!!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 女王様が発した言葉に、その場にいる全員が凍り付いた。


「――いやいや、女王よ。さすがに全員は……。今の無しー。無しな、赦してつかわす」


「ならばその3体の首をはねよ! その上で王の減俸50%、3か月じゃ!」


「なんと……!? むぅ、仕方あるまい。これで儂の月給は97%減か……」


「「「女王様! 王様はともかく、首はねはご勘弁をぉーっ!!」」」


 ひれ伏している3体のガルルンたちは赦しを懇願する。

 ……王様は良いんだ? ああ、でも減俸だから死ぬわけじゃないもんね。


「そうだぞ、女王。この者たちは庭園の世話をしてくれておる。そう簡単に首をはねることは無いぞ」


 『王様はともかく』という部分は華麗にスルーして3体のガルルンを守ろうとする王様。

 うーん、女王様に比べて人(?)ができているというか、そんな感じがする。


「それならば裁判で決めようではないか。

 よし、首をはねるぞ! 有罪じゃ! 開廷するぞ!!」


「先に刑が決まってるし!?」


 思わず私がツッコミを入れると、ジロッと女王様が睨んできた。

 睨む――とは言っても女王様もガルルンなわけで、別に怖くはないんだけど。


「――ふぅむ、この私にツッコミを入れるとは……。さぞかし名のある芸人なのじゃろう」


「そう言われたのは人生で初めてです」


「気に入ったぞ。これから私の主催する『白ウサギ殲滅戦』を行うのだ。

 それに参加してもらおう。もちろん拒否すれば首をはねる」


「えぇ……。っていうか、白ウサギって『あばばばば!』って走ってくるアレですか?」


「うむ。あやつはこの世界に仇なす存在なのじゃ。

 私の毒入りタルトもぺろりと平らげ、裁判もよく邪魔をするでのう」


「な、何で毒入りタルトなんかを作るんですか……?」


「それは保険金目当てゆえに」


「儂を殺す気か!?」


「王様、ナイスツッコミです」


 女王様に鋭くツッコミを入れる王様に、私はつい称賛を送ってしまった。


「――ふむ。それならば王とアイナがコンビを組むと良かろう」


「両方ツッコミになるので、ボケが不在ですね!」


「そうだそうだ。やはりボケには女王がいないとな」


「私をボケと仰るか。王の減俸20%、3か月じゃ!」


「なんと!? すると儂の月給はマイナス17%に……ッ!?」


「王様、首をはねるのを取り消せるくらいなら、減俸も取り消せば良いんじゃないですか?」


「む! それは良い手だ! 赦すぞ! 儂は自分を赦すぞー!!

 ふはははは、何とも聡明な少女だ! これからは儂の参謀になるが良い!」


「お断りします」



 このあと1時間くらい、こんな感じの会話がグダグダと続いた。

 何だかんだで面白かったんだけど、最初に会った3体のガルルンたちはずっとひれ伏したままだった。

 首はねの件は話している間にうやむやになってしまったようだから、それはひとまず良かったかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ようやく場所を移動すると、そこは大きな法廷だった。

 王様と女王様が裁判官席に着き、他のガルルンたちは傍聴席に着いている。


「……あれ? 女王様、ここで『白ウサギ殲滅戦』を行うんですか?」


「うむ。ほれ、そこに私の作った毒入りタルトがあるじゃろ?」


「はぁ。毒が入っているかは分かりませんが」


「ここに例の白ウサギがやって来るのじゃ。タルトを盗み食った瞬間に、即座に首はね決定よ」


「さっき外で、何回も首はね決定してませんでした?」


「ここは法治国家ゆえにな、できるだけは体裁を繕おう」


「法治国家だったんですか、ここ……」


 どう見ても独裁国家にしか見えなかったんだけど。

 女王様が日々暴走しそうなところを王様がうやむやに誤魔化す――そんな不思議な独裁国家?




 ――ズガアアアアアアアァンッ!!!!


 白ウサギを全員でしばらく待っていると突然、法廷の天井から轟音が響いた。

 崩れ落ちる天井。煙や埃が舞う中、その向こう側には青空が見える。


 そしてそこから――


「あばばばば! あーばばば!!」


 ――白ウサギが現れた!!


「現れたな、白ウサギ! さぁ、そこのタルトを盗み食らうが良いッ!!」


 女王様が立ち上がり、白ウサギに向かってビシッと指を差した。


「あばば? あーばば」


「……な、何!? 『女王のタルトは不味いからもう要らない』じゃと!?

 何と無礼な、首をはねよ!!」


 タルトを盗まなくても結局は首をはねる。うーん、女王様ブレないね……。


 女王様の命令に、剣を持ったガルルンたちが白ウサギに攻撃をする――のだが、あっさりとやられてしまった。


「えぇい、皆の者! 総攻撃じゃ! 何としてでも白ウサギの首をはねよ!!」


 女王様の再びの命令に、傍聴席のガルルンたちは一斉に立ち上がり、白ウサギに向かっていく。

 しかし全員が次々に倒されていった。


「王よ! 王も行くのじゃ!」


「え? 儂も……?」


 女王様の言葉に王様もしぶしぶと攻撃に参加したが、あっさり一撃でやられてしまった。


「――くぅ……さすが『力の化身』、さすがというべきか……」


「え? あの、『力の化身』って何ですか?」


「うむ。この世界の強い力を持つ『力の番人』の成れの果てじゃ。その力を自らのために使い、この世界に混乱を招いておる」


「『番人』の成れの果て……? それなら、もしかしてこれが使えるかも!!」


 そう言いながら、ポケットから『透色の瞳』を取り出す。

 この中(?)には『調和の番人』と『自由意志の番人』が入っているのだ。

 もしかしたら――


 私は『透色の瞳』を白ウサギに向かって掲げた。


「あばば!? ……あーばばば!!!!!?」


 白ウサギは突然苦しみ出した。

 しばらくは何かに抵抗しているようだったが、身体が徐々に光となり、最後には『透色の瞳』に吸い込まれていく――


 そして、その場にはようやく静寂が訪れた。


「……倒した。倒しましたよ!!」


 実際倒したかどうかは分からないけど、この場から消すことはできた。

 これはつまり、『倒した』といっても過言では無いだろう。


「むむむ……。あの白ウサギをこうも容易く……?

 貴様、何者じゃ!! 私たちを欺くことが目的かッ!?」


 女王様は声を荒げ、張り上げながら叫んだ。

 えぇ……!? 何でそうなっちゃうの!?


「え、いや、だって――」


「聞く耳、持たぬわ! こやつの首を即刻はねよ!!」


 女王様の声に、周囲のガルルンたちはようやく起き上がり、刑の執行に同調する。


「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」


 えぇ!? ちょ、ちょっと待って!?


「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」


 ……むぅう、私の愛したガルルンたちが!


「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」


 こんなことを言うだなんて!!


「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」


 ああもう、信じられない!!!


「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」



「うるさあああああぁいっ!!!!

 あなたたちなんか、ただのガルルンのくせに!!」



 私が大きく叫んだ瞬間、周囲のガルルンたちが突然宙に舞い上がった。

 それはまるで紙吹雪がつむじ風に飲まれていくような、重量をまったく感じられない光景。


 舞い上がったガルルンたちが凄まじい速度で飛んでいる中、法廷の建物が積み木のように崩れ出し、そして空にヒビが入り始めた。


 ヒビの入った空が欠け始めると、そこからは眩しい光が溢れ出す。

 欠けた空はどんどん広がり、そして私の周囲を光で満たしていく……。


 ――世界の終わりというのは、もしかしたらこんなものなのかもしれない。


 そこにはすでに女王様も王様も、ガルルンたちもいないのだ。

 風景も無く、ただただ光に満ち溢れている。


「これで、この夢も、終わり……?」


 私が誰とも無しに言うと、完全に想像外ではあったが、それに返事をする声が在った。


「――そう、ここは夢の終わり。そして、ひとつの英知の終着点。

 ……よくぞここまで辿り着きました――」


 驚きながら声の方を見てみれば、そこには見慣れたような、見慣れてないような――そんな姿があった。


「え、えぇ……? あなたは一体……。

 っていうか、あなたは――」

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