186.それは神の奇跡のような②
ガルルン茸――
それはかつて疫病で滅びかけた村で生まれた奇跡の素材。
神の慈悲により人間に与えられた、祝福の雫――
「――とか!」
「エミリアさんの創作魂に火が付いた!?」
目の前のキノコ――ガルルンの置物の頭に生えたキノコを改めて見下ろす。
毒々しさは無く、かといって地味過ぎず。神秘の森にあるキノコと言われれば、なるほどなと思わせる控えめな色合い。
……お鍋に入っていたら、少しは敬遠するような感じではあるんだけど。
「でもこれは、そんな伝説が生まれても仕方ない感じがします!
このキノコを絶やしてはいけません! それがガルルン教の司祭であるアイナさんの務めです!!」
「うおぉ、ここにきてついに私にも使命が……!!」
使命なんてものは神様からも与えられなかったというのに、まさかキノコから与えられるとは!!
――でもまぁ何か凄そうなものだし、それはそれでありなのかもしれない……?
「アイナさんご本人がいれば疫病なんて恐れることは無いですけど、世界全部をみるわけにはいきませんからね!
このキノコを普及させれば多くの人の命を救えますし、ガルルン教の名前も広がるでしょう……!」
「なるほど……!!
ところでちょっと気になったんですけど、この名前って誰が決めたんですか?」
「名前?」
「はい、『ガルルン茸』っていう名前。
『ガルルン』っていう名前自体、私とセシリアちゃんで付けたものなんですけど……」
「うーん、最初から命名しない限りは『大いなる存在』がそれっぽい名前を付けるそうですよ。
一般的な呼び方にあとから変わることも稀にあるそうですし、数字が割り振られることもあるみたいですし」
数字が割り振られる――っていうのは、例えば『疫病8172型』みたいな感じの名前のことかな?
どちらになるかの境目は分からないけど、何かの名前と関連付くのであればその名前が影響してしまうということだろう。
「……なるほど。こういうことが起きると、この世界は自分たちで作っているみたいな感覚が生まれますね」
「壮大な話になってきました……!
でもアイナさんがいなければ、このキノコは生まれなかったと考えると……そう思えちゃいますね」
そんなやり取りをしながらガルルン茸を見ていると、何とも不思議な気分になってくる。
……うん、とりあえず細かいことは置いておくとしよう。
「――それじゃ、このキノコは何とか増やすことにしてアイテムボックスにしまっておきましょう。
ガルルンの置物は前回受け取った11個――1個はルークにあげたから、残りの10個ですね。
これを足して、合計49個……っと」
テーブルの上には、販売できるガルルンが49個並んだ。
これは壮観……というか、それよりも何というか――
「何だか観光地のお土産コーナーみたいですね」
「あ! 言っちゃいましたね! 言ってしまいましたね、エミリアさん!!」
「え、えぇ!? でもそういうアイナさんこそ、同じことを思っちゃったんですね!?」
「否定できません!
……うぅむ、こんなにたくさんあるのがまずいのでしょうか」
「そうですね……。日替わりで少しずつ出してみるとかはいかがでしょう……?」
「インパクトに欠けますが……錬金術のお店ですからね。
――あ、1箇所に固まっているのがまずいのでしょうか! それならこう、お店中に分散して置いておけば――」
「それはそれで『ガルルン☆ワールド』みたいな感じになりそうですよね……」
「うぅ、そんなアミューズメントパークに行ってみたい……。
全体的なバランスもありますし、これは商品陳列のときに考えることにしますか」
「案外良い感じで収まるかもしれませんしね!
……それにしてもガルルン教の司祭様ですかぁ……」
「え? それが何か?」
突然考え込むエミリアさん。
創作宗教とは言え、何か問題があるのだろうか――
「司祭をやるなら、ガルルン教の法衣が必要ですよね!!」
「え?」
「いつも私が着ているのはルーンセラフィス教の法衣じゃないですか。
やっぱりこういうのがあると、信仰として引き締まると思うんですよ!」
「は、はぁ……」
「せっかくですので作りませんか? いえ、作りましょう!」
「え、えぇー?」
エミリアさんは今日、白兎堂で自身の服を注文したばかりだ。
もしかして、ただ単に服の注文をするのがおもしろくなっただけなのでは……。
「お金のことなら心配しないでください、私がお出ししますので! その、ボーナスから!!」
これは駄目なパターン!!
浪費癖、イクナイ!!
「今回は止めておきましょう!」
「え、えぇー?」
明らかにがっかりするエミリアさん。
いざとなれば『はったりをかます服』で代用できるし、ここは必要なところでは無いのだ。
「必要になったら、ということにしましょう。そんなときは訪れないと思いますが!」
「むむぅ、残念……。しかし諦めませんよ。私が諦めても、第2、第3のエミリアが……!!」
なにそれこわい。
でもちょっと、何だか楽しそうではあるかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻って少し休憩。
休んだあと、改めてガルルンの置物を出してガルルン茸を眺める。
「……うーん、やっぱりシュールな……」
ガルルンの頭からキノコが生えている。
どうしてこうなった……という言葉がとても似合う姿だ。
まぁこれはこれで永久保存版にするとして、これからこのキノコを増やさないといけないんだよね。
キノコって確か……上の部分から胞子を飛ばすんだっけ? それがそこら辺にくっついて、育っていくんだよね?
むむむ、今ほどネットの知識に頼りたくなったことはあっただろうか……!
――なんて無理なことを考えるのは置いておいて、ここは前向きにキノコを育てている人に話を聞いてみることにしよう。
ちょっと明日、その関連をあたってみようかな?
でも、ひとまずは自分でできそうなことをやっておくとしよう。
そして『創造才覚<錬金術>』を使うこと2時間――いろいろ探した結果、以前作った『高栄養飼料』の素材まわりからそれっぽいものをようやく見つけることができた。
その名も――『菌床』!!
何やらキノコを栽培するときに使うもののようだ。
早速それを作ってから鑑定をしてみる。
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【菌床(S+級)】
キノコを育てるための培地。
品質に高い補正を得る。
※追加効果:品質×2.0
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――できた!
……でも何となく、これじゃ上手くいかなそうな気がする……?
たまにあるんだよね、こういうこと。スキルが何となく教えてくれる、錬金術師としての勘というか……。
そういえばこの前作った『皮膚再構成の軟膏』がそうだったんだけど、錬金術で作ったアイテムが素材になることもあるんだよね。
もしかしたらこの『菌床』を素材にして、もっと上のアイテムを作れたりしないかな?
そんなことを思いながら、『菌床』を使って作れるアイテムを『創造才覚<錬金術>』で調べてみると――
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【『伝説キノコの菌床』の作成に必要なアイテム】
・竜の血×1
・菌床(S+級)×1
・栄養剤(S+級)×1
・高級ポーション(S+級)×1
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――何か見つけた!!
……とは言え、またもや『竜の血』ですか。
こんなに頻繁にお目見えするのであれば、ドラゴン討伐が捗ってしまうのも無理がないというものだ。
ひとまずそれはそれとして、早速作ってみると――見た目は『菌床』よりも少し濃い色のものができた。
それを鑑定すると――
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【伝説キノコの菌床(S+級)】
伝説キノコを育てるための培地。
品質に高い補正を得る。
※追加効果:強靭な生命力
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――おぉ、何だか凄そうな感じ!?
追加効果が特別っぽいから、これもかんてーっ
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【強靭な生命力】
死滅時、98%の確率で復活させる。成長に高い補正を得る
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「おおぅ……」
何かキノコ初心者でも安心できそうな効果が付いてる!
これは何とも百人力ではあるのだが――
「……ところで、どうやって使うんだろう?」
培地と言うからには、ここにキノコの胞子を付けるのかな?
ひとまずガルルン茸を培地の上で何度か軽く叩いてみる。
……とは言っても、何か反応があるわけでもなく。
「――……まぁいっか。今日はこれでおしまいにしておこう」
2時間もずっと『創造才覚<錬金術>』を使っていたので、さすがに疲れてしまった。
キノコ関係はまた明日やることにして、今日はもう寝てしまおう。
それじゃ、おやすみなさいー。
うん、今日はとっても楽しい1日でした!