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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
185/911

185.それは神の奇跡のような①

 パスタ屋さんを出たあとは錬金術の素材集め。

 錬金術師ギルドでいろいろと買い漁ったばかりだったので、それ以外のお店――街中の薬草屋とか、魔法関連のお店だとかをまわることにした。


 魔法関連のお店では例の『ひぇっひぇっひぇっ』のお婆さん店員がくるかとも警戒したが、そこでは普通の人が出てきて少し拍子抜けしたり。

 王都には魔法関連のお店が何件もあるらしいけど、あのお婆さん姉妹は王都にはいないらしい。

 そういえば王都の先の街にもう1人いるって聞いていたっけ? まぁそっちに行く機会があれば覘いてみることにしよう。


 今回買ったのは今まで入手したことのある素材ばかりだったものの、それでも少しは新しい素材を増やすことができた。

 軽く確認した限りではマイナーな薬ができるくらいだったんだけど、それもいつか役に立つかもしれないしね。

 できることの選択肢は、できるだけ多い方が良いのだ。



 その後はメイドさんたちのカフスボタンを買ったアクセサリ屋さんへ。


 店員さんと雑談をしていたら、思わずテレーゼさんの話が出てきて驚いてしまった。

 テレーゼさんは趣味が彫金なんだけど、そこら辺の相談に乗ったことがあるのだとか。


 その熱意とぐいぐいくる感じに感心していろいろ教えたそうなんだけど――うん、ぐいぐいくる感じはとっても分かるなぁ。

 それにしても世間は狭いものだね。そんなことを思ってしまった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そんなこんなで、お屋敷に戻ったのは夕方も遅い頃。

 夕食をとってから少し休んだあと、私はエミリアさんを誘ってお店の建物に向かった。

 お店――というのは、私がもらったお店。工房に繋がっている、まだ開店していない錬金術のお店のことだ。


「アイナさーん、急にどうしてお店の方に?」


「ガルルンのぬいぐるみをお見せしようかと思いまして!」


「あ、覚えててくれたんですね!

 お疲れかなーって、明日聞こうと思っていたんですよ」


 さりげない心遣いが何とも嬉しい。

 でも私としても、早く見てもらいたい気持ちはあったのだ。


「お屋敷の方ではちょっと出しにくくて。……場所を選ぶっていうか?」


「はぁ、そんな変なぬいぐるみなんですか?」


「いやいや、とっても可愛いですよ!」


「うーん? それで場所を選ぶんですか……? それじゃ、ぜひ見せてください!」


「はい! 出しますねー」


 ヒュパッ


 どすん


 ――何だかそんな音を立てながら、その場に巨大な……2メートルのガルルンのぬいぐるみが現れた。


「……ほぇ……?」


 エミリアさんは一瞬、不思議な声を出して固まったが、そのあと上を仰ぎ見てようやくそれがガルルンであることに気付いた。


「――え、ええぇ!? な、なんですか、この大きいの! あははははーっ♪?」


 そして大きく驚いたあと、大きく笑い始めた。

 ナイスリアクションです、エミリアさん!


「いやぁ、何かこう調子に乗ってしまって……。

 ちょうどストレス発散で叩けるものが欲しかったんですけど、大きい方が良いかなーって……」


「おお! これ、叩いて良いんですか!?」


「あ、どうぞー。結構丈夫にできているみたいなんで」


「では遠慮なく! うりゃー!」


 ぼふっ ぼふっ


 何とも言えない音が静かなお店の中に響く。


「なかなか良いでしょ?」


「本当に! いやー、私のストレス発散も捗りそうです! 今後も使って良いですか?」


「どうぞどうぞ。でも、急にシルバー・ブレッドとかを撃ち込まないでくださいね」


「そんなことしたら、ガルルンだけじゃなくてお店も壊れちゃいますよ!?」


 確かに!

 エミリアさんのシルバー・ブレッドはそこら辺の魔物なら一撃で倒す威力があるからね……!


「このぬいぐるみはここに置いておこうと思うので、いつでも使ってください。

 ――って言っても、お店の鍵が開いてないか。使いたいときは教えてください」


「あ、ここに置いておくんですね?

 うーん、お店に入ったらこのガルルン。インパクトが強いですね……!」


「そうですね……! それとこのお店って結構広いじゃないですか。

 ガルルンの置物のスペースも作ろうかなって思っていまして」


「おぉ、ついに!

 ……とすると、そろそろ開店準備をする感じですか?」


「ひとまず準備だけして、神器の材料を調べてから開店するのが一番スムーズかなって思ってます。

 あと私は毎日店番をしたくないので、こっちでも人を雇わないといけないかな……?」


「決めなきゃいけないことはたくさんありますね。

 さすがにアイナさん、お店経営はしたことないでしょうし」


 確かに、一番近いところでも――元の世界で小売店の接客アルバイトをしたくらいかな?


「……さすがに経営は無いですね。

 それにしても、また人を雇い始めると大変なことになりそうですよね……」


「お屋敷の方でも、もうずいぶん雇っていますからね。

 ルークさんも今はいませんし、そうなるとお手伝いできるのは私くらいでしょうか!」


 えへん、といった感じで胸を張るエミリアさん。


「むむむ、簡単にお店といっても難しそうですね……。

 白兎堂とか、今日行ったパスタ屋さん、アクセサリ屋さんは少ない人数でやってましたけど、お店自体が狭かったですし」


「錬金術のお店って人が押し寄せるような場所ではないですけど、それにしても2人では大変ですからね」


 改めてお店の中を眺めると、やっぱり広い。

 この広さならせめて常時3人くらいは欲しいかな……? とすると、雇う人数はもっと多くなるわけで。


「誰かに丸投げしたいですね。

 商品は私が作って、あとは誰かに経営をお願いするような感じで」


「ふむふむ、それならまず店長さんを1人雇って――あとの採用とかは、その店長さんに全部お任せ~っていう感じで!」


「私としてはそれが一番楽ですね。

 ……でもさすがにそんなに任せるなら、信頼できる人じゃなきゃいけませんよね」


「ピエールさんに相談すれば誰かしらは紹介してくれるでしょうけど、やっぱり人となりを知ってる方が良いですよね」


「エミリアさん、やってみません?」


「やってみません!!」


「あはは、冗談ですよー?」


「本気が見え隠れしてます!」


「いやいや。本当に冗談ではあるんですけど、それくらい信頼できる人にお願いしたいなって!」


「むぐっ、その信頼だけはありがたく受け取っておきます……!」


 ここで話していてもキリがないし、一旦この話はおしまいにしておこう。

 週に2日くらいだけ私が販売する――とか、他の選択肢もあるにはあるのだし。


「――ひとまずそこら辺はもう少し考えるとして、今日はガルルンの置物を並べてしまいましょう」


「おお、残りの39個ですね! こっちも楽しみにしていたんですよ!」


 アイテムボックスからガルルンの入った包みを次々と取り出す。

 これもこうして見てみると結構な量だ。作るのも大変だっただろう。


「それじゃどんどん開けていきましょう。さすがに量があるので、さくさくっと」


「はい!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そのあとは1つ1つに感想を言い合いながら、どんどん開けてどんどん並べていった。

 なんとも38個が並ぶと壮観なものである。


 そして――


「アイナさん、それが最後の1個ですね! ……何だか後回しにしていませんでしたか?」


「あ、分かりました? これだけ何か、手触りが違うんですよ。

 優しく包んであるというか、押すと柔らかいというか」


「……一応、全部木彫りなんですよね?」


「そのはずなんですけどね……。それでは開けてみましょう」


 柔らかな感触を確かめながら包みを開けていくと――


「「――ぶはっ!!?」」


 それを見た瞬間、私とエミリアさんは大きく噴き出してしまった。

 包みの中から姿を現したのは――


 頭からキノコを1つ生やしているガルルンの置物!!


「え、ええぇ!? さすがにこれはシュール過ぎじゃないですか!?」


「おぉ、アイナさん……これは本物のキノコですよ……。匠の技にしても、これは見事なものです……!

 ――って、あれ? 包みの裏に何か書いてありません?」


「え? あ、本当だ。これはセシリアちゃんの字かな……。

 『小さなキノコが生えてたのでそのまま使ってみました。頭の磨きが足りませんが、それ以上のインパクトを与えると思います』……だそうです」


「自然の素材をそのまま大切になんとかかんとか……ってやつですね!」


「こういうこともあるんですね……。それにしてもセシリアちゃんの才能、恐るべし……。

 毒とかが無ければ、むしろ永久保存版にしておきたいところですよ、これ」


 そう言いながらキノコを鑑定をしてみると――


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 【ガルルン茸】

 突然変異によって生まれたキノコ。

 疫病への抵抗力を上げる薬を作ることができる

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「「…………」」



 何か凄いの生えてるぅううううっ!!!!

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