184.エミリアさんとお出掛け③
昼食は白兎堂から少し歩いた先、個人営業のパスタ屋さんでとることにした。
そこはこじんまりとしていて、夫婦でやっているお店らしい。
ここら辺は小さなお店が多いようだね。白兎堂もそんな感じだし。
「――素敵なお店ですね!」
エミリアさんが機嫌良く言った。
何だか手作りといった感じの温かみが感じられる内装。元の世界であれば、そういった番組でテレビにも取り上げられそうな雰囲気だ。
「確かに良い感じですよね。私も好きです!」
店員さんに注文を終えると、話題は早速先ほどの封筒の話になった。
封筒の端をできるだけ綺麗に切りながら開けて、中から便箋を取り出す。
「――あ、ランドンさんからですね」
ランドンさんはガルーナ村の村長さん。
ガルルンの置物を送ってもらうだとか、そういったことをお願いしている人だ。
「何かあったんですか?」
「えっと、送るのが遅れた謝罪とその理由が書いてありますね。
私たちはジェラードさんからもう聞いていますけど、私たちがそれを知っていることはランドンさんたちは知りませんし……」
ガルルンの置物を送るのが遅れた理由――
ガルーナ村で怪しい宝石の目撃情報があり、それを聞いた王様はたくさんの兵士を派遣した。
そしてその兵士への対応で、ガルーナ村の人々は何もできなくなってしまったのだ。
「……そういえばジェラートさん、アイナさんの名前は出さなかったんですよね」
「今にして思えば、出してもらった方が良かったかもしれませんね……」
それはそれで、かなり今さらではあるんだけど。
あのときは軽い様子見くらいのつもりだったし――まぁ仕方ないか。
「ちなみに、手紙はそれだけですか?」
「続きは、そうですね――メルタテオスを発つときに送った手紙のことが書いてありますね。
一緒に送った『野菜用の栄養剤』のお礼と……あ、その前に渡したやつの結果も書いてありますね。
何だか凄い野菜ができたそうです」
「凄い野菜……!」
「かなりの速さで成長して、かなり美味しく育ったらしいですよ。うーん、ちょっと見てみたい」
「ププピップのこともありますけど、錬金術ってそのうち食文化に大きく影響しそうですよね……」
確かに。未来の美食は錬金術が担っているといっても過言では無いだろう!!
それなら私も、もう少し何かやりたいかもしれない? うーん、手を出し過ぎは良くないから、まぁできたら程度で考えておこう。
「ちなみに例のふっさふっさふっさの教祖様はまだ来ていないそうです。
……見つかったらガルーナ村の聖地化は待ったなしですが」
「まだまだ平和そうで何よりですね」
「それはさておいて、最後の方には近況が書いてありますね。
最近の出来事をさりげなく聞いていった旅人がいたそうなんですけど――これはジェラードさんのことかな?
あと、派遣された兵士は何も見つけられないまま帰ったそうです」
「ははぁ……。兵士のみなさんはご苦労様ですね」
確かにご苦労様である。
その怪しい宝石――『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』は既に私のアイテムボックスに入っていて、いくら探しても出てくることは無いのだ。
「そうですねー。でもこれでガルーナ村の人の手は空いていくのかな?
……まぁ、空いたからと言っても復興で大変でしょうけど……」
大変なときに多くの兵士を派遣して村人を困らせるのもどうかと思うけど、少なくても物資やらは一緒に送ってくれたんだよね?
ガルーナ村を救ったということで私は工房やらお屋敷をもらったし、さすがにそこまでは軽視していないはずなんだけど――
「――っていうか、私の方がもらいすぎですよね!」
「え?」
不思議そうに返事をするエミリアさん。
ああ、言葉足りずだった……。それを反省しながら、考えたことを伝えてみる。
「……命に値段はありませんけど、確かに極端な感じはするかもしれませんね。
でも王族や貴族はそういったところもありますよ」
遠くの困った人間より、目の前の英雄――みたいなものだろうか。
「うーん、あのときに比べれば私もずいぶん金回りは良くなりましたし……もう少し援助した方が良いですね」
「おお、それは良い考えです!
でもあのときはあのときで、ガルルンで復興の手助けをしようとしたのは素敵だと思いましたよ」
「私のガルルン営業が頼りないばかりに……!
とりあえずあとで、手紙の返事と一緒に『野菜用の栄養剤』をたくさん送ることにしましょう」
「現物支給なんですね」
「お金は国の方から出ていると思いますから、ここは私しかできないことで攻めていきましょう。
やっぱり主な産業は農業ですし、美味しい食べ物は元気に繋がりますし」
「確かに! そしてあとはアイナさんのガルルン営業ですね」
「ぐふ……。そういえばガルルンの置物は『野菜用の栄養剤』と物々交換したので、私からガルーナ村にはお金を直接出していないんですよね。
ガルルンの置物を高めで売って、売れたら一部を寄付しようかなぁ……」
そんな感じで何となく真面目な流れになった頃、店員さんが頼んでいたパスタを持ってきた。
「――お待たせいたしました」
私たちの前にお皿を並べてくれる。うん、とっても美味しそうだ。
「とりあえず私たちも、美味しいものを食べて元気に繋げましょう!」
「あはは、そうですね。……む、エミリアさんが頼んだやつ、美味しそうですね!」
「そういうアイナさんの方こそ! 少しずつ分けますか?」
「お客様、取り皿をお持ちいたしますか?」
「ありがとうございます、お願いしまーす♪」
「はい、かしこまりました」
そう言いながら、店員さんは素早く取り皿を持ってきてくれた。
「んー、美味しい♪ そっちもこっちも美味しい♪
それに店員さんの気が利いてて、何だかこのお店大好きです!」
「そうですね、私も大好きです!
しっかり場所を覚えておかないと……!」
「確かにここも、少し入ったところにありますからね」
白兎堂を念頭に返事を返す。
私も道を覚えるのは得意な方ではないから、しっかりと覚えておかないと。
「――ところで、このあとはどうしますか?」
「そうですね、エミリアさんはどこか行きたいところはあります?
今までの2件って、私が行きたかったところですし。……あ、食べ物以外で。
――……ッ!!?」
「え? え? アイナさん、急にどうしたんですか!?」
「今凄いことを思い付きました!
エミリアさん、たくさん食べるのがバレたくなければ……何件かのお店をはしごすれば良いんじゃないですか!?」
「…………ッ!?
おぉ、今このときまでその発想はなかったです……!!」
「次に行くなら、私は飲み物だけになりますけど」
「ああん、そうですよね! せっかく誰かといるのならやっぱり一緒に食べたいですよー。今日はやめておきましょう!」
「……今日は?」
「あ、はい。そのうちやるかもしれません!」
「……ですよね。素直でよろしいです」
「これぞまさに……天啓!!」
「司祭様がそういったことを言って良いんですか……。それに私はガルルン教ですし」
「そういえばそうでしたね……。
えっと、そうすると食べ物以外……うーん。実は私、王都には長くいますけどあんまり詳しくないんですよね……。
観光地とか信仰関係なら強いんですけど」
「それじゃこのあとも買い物に行きましょうか。
私は素材になりそうなものをいろいろ買いたいので、少し付き合ってもらうことになりそうですけど」
「最近は動くことも減りましたし、私は大丈夫ですよ!」
「ありがとうございます! あ、そうだ。この前、良さげなアクセサリ屋さんを見つけたんですよ。
メイドさんたちのカフスボタンを買ったところなんですけど」
「おお、ぜひ教えてください!
そういえばアイナさんがあげたカフスボタン、メイドさんたちが喜んでいましたよ」
「あ、そうですか? それは良かったー」
「特にキャスリーンさんなんて、気が付くとちらちら見てましたし。
アイナさん、キャスリーンさんに凄い好かれていますからね……少し嫉妬です!」
「えぇ……、そうきますか……。でもエミリアさんは別格なんで、大丈夫(?)ですよ」
「本当ですか! やったぁ!」
「だからずっと旅に付いてきてください!」
「うわーん、アイナさんがいじめるー!」
エミリアさんが一緒にいるのは王都を発つまで。もう何回も聞いて、何回も答えてくれた話。
ここは何かとんでもないことが起きない限りは揺るがないだろう。
……それにしても王都で工房とお屋敷もらっちゃったわけなんだけど、王都を発つのっていつになるんだろう?
そんなときって、くるのかなぁ……。




