183.エミリアさんとお出掛け②
白兎堂のお婆さんに連れられて行ったのは、そこから少し離れた場所にある小さな建物。
中に入るとたくさんの布や服が整頓されていたが、その奥に巨大で異質な存在があった。
2メートルのガルルンのぬいぐるみ!!
「――でかっ!!」
「あらあら、ご注文通りですよ?」
お婆さんはにこやかにそう言った。
考えるのと目にするのとではやはり印象が違う。それを見越しての台詞だろう。
……それにしても大きいなー。
……それにしてもキモカワイイなー。
……いや、この大きさとキモカワイイ感じの両輪で、何だか凄くエンターテイメント性が感じられるなー?
「すいません、ちょっと触ってみても良いですか?」
「はい、どうぞ。
お代はもう頂いていますので、お好きなようになさってください」
「え、好きなように……? そ、それでは失礼して――」
ぼふっ!!
ここは迷わず、私の身体よりも大きなぬいぐるみに思い切り飛び込んでみた。
――うん、ふかふか!
腕に力を込めても、良い感じの抵抗を伴いながら軽く沈んでいく。
お婆さんが見ているのであまりはっちゃけたことはできないけど、軽くパンチを入れてもなかなか気持ちが良い。
これは当初目的のストレス発散にはとても良さそうだ!
そんなことを思いながらぬいぐるみから身体を離して、改めて上を仰いで見る。
――うん、でかい!
最初は自分の部屋に置いておこうと思ったけど、想像以上に大きいからどうしたものだろう。
アイテムボックスとかお屋敷の使っていない部屋だとか、しまっておく場所は充分にあるんだけど――
でもこんな立派なもの、できれば人の目に触れるところに置いておきたいよね?
そうなると工房に置いていても意味は無いし、それならあとは――
……お店?
ふむ、それはそれでなかなか……!!
「アイナさん、いかがですか? 手直ししたいところがあれば対応いたしますよ」
「いえいえ! とっても立派な感じになってるので、このままで大丈夫です!
それにしても、こんなに大きいものをありがとうございました」
「うふふ、なかなか無いお仕事だから楽しかったですよ♪
ところで独特な感じのキャラクターですよね。これはアイナさんが考えたんですか?」
「あ、これはガルーナ村というところのセシリアちゃんっていう子が考えたものなんです」
「ガルーナ村……。ああ、確か先日疫病が発生したっていう――」
「はい。私も少し滞在していたんですけど、復興するにはまだ時間は掛かりそうで……」
疫病がガルーナ村に残した傷跡は大きい。
そういえば最近ガルーナ村はどうなっているのかな。少し前のジェラードの話によれば、王都からたくさんの兵士が派遣されていたらしいんだよね。
『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』を探しに行ったそうなんだけど、そろそろ諦めてくれたかな……?
「やっぱり大変なのね。私も何かできることがあるかしら……。
――さて、それではアイナさん。この大きさですけど、アイテムボックスには入れられますか?」
「はい、やってみますね。えいっ」
ヒュンッ
収納スキルを使うと、2メートルの巨体は一瞬にしてアイテムボックスの中に消えていった。
こんな大きさのものをアイテムボックスに入れるだなんて、実は初めてだったかもしれない。
「わぁ、凄い。大きいものをしまっちゃえるなんて、本当に便利ですね……」
「はい、本当に……!」
便利すぎて、もしも持っていなかったら――と考えると少し怖くなってしまう。
ここは神様のナイスなチョイスに本当に感謝するところだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
白兎堂に戻ると、引き続きエミリアさんとバーバラさんが服の話で盛り上がっていた。
テーブルの上には伝票のようなものがあるから、注文自体は終わったのだろう。
「ただいま戻りました」
「アイナさん、お帰りなさい! 服の注文は終わりましたよ~♪」
「おー。どんな感じの服にしたんですか?」
「えへへ、それはあとのお楽しみということで!
せっかくなので、ふんだんにふりふりしておきました♪」
おお……。私が超えられなかった壁を(超えようともしなかった壁を)エミリアさんは易々と超えてくるなぁ……。
「それでは楽しみにしておきます!
――さて、それじゃそろそろ行きます?」
「そうですね、そうしましょう。
バーバラさん、よろしくお願いしますね!」
「はい、楽しみに待っていてください♪」
バーバラさんとお婆さんに挨拶をしたあと、私とエミリアさんは白兎堂の外に出た。
「――服を作るなんて久し振りだから、わくわくしちゃいます♪」
「たまにはこういうのも良いですよね。
非日常感というか、待つ時間もちょっと特別っていうか」
「ですよね、分かります!
――あ、ところでアイナさん! ぬいぐるみの方はどうでしたか?」
「はい、ちゃんと受け取ってきましたよー」
「見せてください!」
……あ、エミリアさんにはぬいぐるみが2メートルあるって言ってなかったっけ。
さすがに外で出すわけにもいかないからなぁ……。
「すいません、ちょっとここではワケあって出せないんです……!
お屋敷に戻ってからお見せしますね」
「ワケ……? わ、分かりました……?」
せっかくなので驚かせようと思い、大きさのことはまだ伏せておくことにした。
ふふふ、あとで度肝を抜かすが良い。
「――さて、次は冒険者ギルドに行っても良いですか?」
「あれ、珍しいですね。急にどうしたんです?」
「ガルーナ村から、ガルルンの置物が届いていないかと思いまして。
少し時間が経ちましたし、確認をしておきたいなって」
「おおー、了解です! 今日はガルルン祭りですね!」
ガルルン祭り――
何だか良い響きだ。いつの日か、どこかの場所で奇祭として催してみたいかもしれない……!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドに行って確認すると、ガルルンの置物が40個届いていた。
以前11個を受け取っていたので、これで大体半分ということになる。
……思い返してみれば、全部で100個って少し多過ぎたかな……?
そもそもは売るつもりで注文したんだけど、結局いまだに売ってないし。
「うーん、40個ですかー。どんなのか見てみたいですけど、これもお屋敷に戻ってからですね」
「そうですね、たくさんありますし……。
でもまぁ、1つくらいなら開けてみましょうか」
そう言いながら、何となく一番近くにあった小さな包みを開けてみる。
中からはオーソドックスなポーズと大きさをしたガルルンが現れた。
しかしやたらと磨きが掛かっていて、今まで見てきたものよりもツヤツヤとしている。
「あはは、アイナさんってこういう小技が好きですよね♪」
「ああー、そういえばこんな注文もした気がします……!
時間を空けると客観視しちゃうというか、新鮮な目で見れるから面白いですね」
「あのときは一気に100個の話をしていましたしね。
――あれ? これは……お手紙ですか?」
エミリアさんが包みの1つに貼り付けられた封筒に気が付いた。
「あ、本当だ。
んー、そろそろお昼の時間ですし、そのときに読んでみましょうか」
「そうですね――っていうか、もうそんな時間ですか!
うぅ、今日は時間が経つのが早いです……」
「確かに!」
楽しい時間は過ぎるのが早いものだ。
それは嬉しいような、寂しいような。何だかちょっと、不思議な気分。




