182.エミリアさんとお出掛け①
本日も晴天なり、本日も晴天なり。
……って、あれ? そういえばこっちの世界にきてから、雨って降ったことあったっけ……。
「――え、雨ですか? 今年は確かに少ないですけど、そもそもこの辺りはあまり降らないんですよ」
それがさも当然のように答えるエミリアさん。
「クレントスから王都に来るまで結構畑はありましたけど……作物は大丈夫なんですか?」
「はい、この大陸は神様の加護を受けていますから大丈夫なんです! ……まぁ、伝説上の話ではあるんですけど。
でも実際のところ、あまり雨が降らなくても作物はしっかり育つんですよね」
へぇー……?
そんなことも有り得るんだ……。何だか信じられないけど、魔法とかもある世界だしね……。
「そうなんですか。うーん、凄いですね」
「はい、その関係でこの国ではルーンセラフィス教が手厚く保護されているんですよ。
――……さて、今日はどこに行きましょう!」
「ちょっと私、作ってもらってた服を受け取りに行きたいんですけど大丈夫ですか?」
「あ、そういえば以前そんなことを言ってましたね。えーっと、ふりふりの服でしたっけ?」
「いやいや、それはしっかり断ったので。
いつもの服ですよ。『循環の迷宮』でダメにしちゃったやつの替えです」
「ふりふりの服も良いと思うんですけど――
それではまず、その服屋さんに行ってみましょう♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『服屋・白兎堂』
ここに来るのは2週間振りになるかな。
場所を少し忘れかけてしまっていたけど、何とか無事に着くことができた。
「へー、こんなところに服屋さんがあったんですね」
「ちょっと分かりにくい場所ですよね。中もあまり広くないんですけど、でも素敵なお店ですよ。
……扱ってるのは少し特殊ですけど」
「私、こういうお店が結構好きなんですよ。
隠れ家っていうか、私だけのお店っていうか――」
それは何となく分かるかも。
自分だけのお店――……うん、何とも心惹かれる響きだ。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。あら? アイナさん、こんにちは。
それじゃ、バーバラを呼んできますね」
「はい、よろしくお願いします」
店番をしていたお婆さんは軽く頭を下げたあと、静かにお店の奥に引っ込んでいった。
「アイナさん。バーバラさんってどなたです?」
「このお店は錬金術師ギルドのテレーゼさんから紹介してもらったんですけど、彼女の幼馴染が働いているんですよ。
その子がバーバラさんといって、私の服を作ってくれているんです」
「おー。ここはテレーゼさんの紹介だったんですか!」
「テレーゼさんもここの服を持ってるみたいですよ。
えーっと、ここら辺のハンガーラックに掛かってるような感じの――」
ひとまずそこら辺の1着を手に取ってエミリアさんに見せてみる。
適当に取ったものの、しっかりがっつりふりふりしていた。
「おぉ……。わぁ、とっても可愛いですね!
むむむ、私欲しいです!!」
「えぇ……? どこで着るんですか……?」
「むぐっ。大聖堂では着れないので……アイナさんのお屋敷で……!」
ふりふりの服を着たエミリアさん。
そんな彼女がお屋敷で何かをしているところを想像してみると――
「うぅん、まぁ可愛くて良いかもしれませんね……」
――そんな結論に終わった。
いや、実際エミリアさんが着たら絶対に可愛いし! それはそれで見てみたいし!
「でもこういう服ってお値段が張りますからね……。うぅーん……」
「あ、それならミラエルツで出したボーナスがあるじゃないですか。……忘れてるかもしれませんけど」
「ボーナス……?
――ああ! アイナさんが『なんちゃって神器』の剣を買う口実にしたアレですね!」
「ぐふっ、そういう風に思ってたんですね……。合ってますけど」
「あはは♪ ですよね!
それじゃ、そのお金で買っちゃおうかなぁ……?」
そんなやり取りをしていると、バーバラさんがやってきた。
「アイナさん、いらっしゃいませ!
――こちらはお友達の方ですか?」
「あ、はい! アイナさんのお友達の方です!」
突然振られたエミリアさんは何やらおかしな返事をしていた。
「……えっと、こちらはずっと一緒に旅をしていたエミリアさんです」
「うふふ、初めまして。私はバーバラといいます。よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします!」
「それではアイナさん。ご注文の服も出来上がっていますので、早速ご試着してみますか?
少し狭くて申し訳ないのですが、この奥に試着室がありますので」
「そうですね、それではお邪魔しまーす」
――渡された服を試着室で着てみると、とても丁度良い具合にできていた。
全身鏡で確認したあと、試着室から出てバーバラさんにその旨を伝える。
「……直しは要りませんね! ぴったりです!」
「それは良かったです。もう1着も同じ寸法で作りましたので、こちらもお試しください」
そう言いながら、バーバラさんからもう1着を受け取る。
この服はデザインと監修がバーバラさん――ということで、完全お任せで作った服だ。
改めて試着室に入って、もらった服を広げてみる。
……むむ? これは何だか見覚えるのある服っていうか――
いやいや、これは……。えぇー!?
まぁ、一応着てみるけどさ!!!!
「おぉー、アイナさん可愛いーっ!!」
「わぁ、お似合いですっ!」
試着室から出ると、とりあえずエミリアさんとバーバラさんから褒められた。
「あの……バーバラさん?
ふりふりの服にはしないように言いませんでしたっけ……?」
「はい、しっかりとフリルは抑えました!!」
えぇ……?
たしかにフリルのふりふりは少ないけど……えぇ、そういうものなの……?
改めてお店の中にある全身鏡で自分の姿を見る。
明るい水色の服に白いエプロン。
いわゆるエプロンドレスというやつなんだけど、このカラーリングとデザインって――
「――私の国に『不思議の国のアリス』という物語がありましてね……」
まさにそれ!
いかにもこれから、どこか不思議の国に旅立ちそうな装い!
……いや、元の世界からこっちの世界に転生してるから、ある意味ではここが不思議の国なんだけど!
「えっと、このデザインはアイナさんを見て、こう……インスピレーションを受けて作ったんです。
もしかしたらその物語が関係しているのかもしれませんね!」
バーバラさんは満足げに、何となく納得いったような感じで言った。
いやいや……え? これ、お金払うの? ……ま、まぁ良いけど……。好きっちゃ好きなデザインだし……。(私には可愛すぎると思うけど)
「ところでその物語って、どういうお話なんですか?」
「えーっと、確か女の子がウサギを追いかけて不思議な世界に行くっていうお話で……。
ちょっと詳しいことは忘れましたけど、そこの女王様に死刑宣告を受けるんだったかな……?」
「……何だか殺伐とした物語ですね。でもウサギを追いかけるだなんて、このお店の名前にもぴったりですよね」
確かにここは『服屋・白兎堂』。何かの縁は感じることはできるけど――
「――それはそれとして、サイズはぴったりでしたので着替えちゃいます!」
「はい、分かりました。
アイナさん、その服はいかがでしたか? 細かいところにもこだわっていて、かなりの自信作なんです♪」
バーバラさんがキラキラした目で見てくる。
確かにシンプルに見えながら、各所に細やかな気配りが感じられる。これは良い仕事だ……!
「とっても素敵だと思いますが、着る場所を選びますね!」
「はい! 着る場所を選んで、ぜひ楽しんでください!」
――前向きに捉えられた!!
その後、バーバラさんとのやり取りを終えたところでお婆さんが声を掛けてきた。
「アイナさん、バーバラの用事は済みましたか?」
「はい、今終わったところです」
「それでは、ぬいぐるみの方はどうしますか? ご自宅までお届けもできますよ」
「あ、ぬいぐるみもできているんですね!
アイテムボックスを持ってるので、受け取っていきたいです」
ぬいぐるみ――
前回、勢い余って作成をお願いしたガルルンのぬいぐるみの話だ。その大きさ、2メートル!
「あら……あんな大きいものも入るだなんて、とっても高レベルなのね。
さすがに大きくてこのお店には置いておけなかったから、少し離れた倉庫に置いているんですよ」
ちらっとエミリアさんを見てみれば、バーバラさんと服の話をしているようだった。
エミリアさんはどうやらふりふりの服を作ることにしたらしい。
……それじゃ、その話を進めている間にぬいぐるみを取りにいくことにしようかな?
「分かりました、今からでも大丈夫です!」
バーバラさんとエミリアさんに声を掛けてから、私はお婆さんと一緒にお店の外に出た。
もうすぐ、2メートルのガルルンと感動の初対面! このあとすぐ!!




