181.それっぽく工房にて
ジェラードが帰ったあと、私は錬金術師ギルドまで買い物に向かった。
王国軍から受けた爆弾作成の依頼を確認したところ、やはり素材が足りなかったためだ。
普段はバチッと気ままにアイテムを作ってはいるものの、これはアイテムボックスの中に素材があるからできる芸当。
素材は買えるときに、しっかりたくさん買っておかないとね。
そんなわけで、ダグラスさんにも手伝ってもらいながらいろいろと買い漁ってみたんだけど――
「……全部買うのか?」
――その一言だけで、何となく私の買いっぷりも想像できるというものだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お屋敷に戻ったあとは、一息ついてから工房へ。
せっかく工房があるのだから、ここで作業しないともったいないからね。
「さて、それじゃどんどん作っていきますか!」
はい、れんきーんっ
バチッ
もいっちょ、れんきーんっ
バチッ
かんてーっ
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【初級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:30、範囲:7
※追加効果:攻撃力×2.0
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【中級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:50、範囲:10
※追加効果:攻撃力×2.0
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――うん、問題無くできてるね!
爆弾もずいぶん久し振りに作ったけど、そういえば追加効果で攻撃力が倍になっちゃうんだっけ。
さすがにこれよりも上の爆弾を世に出しちゃうと、バランスブレイカーになっちゃうよね?
「……参考までに、ちょっと高級爆弾も作ってみようかな……」
れんきーんっ
バチッ
かんてーっ
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【高級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:100、範囲:15
※追加効果:攻撃力×2.0
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『私の作った中級爆弾』が、『一般的な高級爆弾』くらいの威力……っと。
範囲は狭いから単純比較はできないけど、使い様によっては充分代替できちゃうか。
……うん、ひとまず受けたのが中級爆弾までにしておいて良かったかな。
「さて、それはそれとして。どんどん作ってこー」
一回思い切り伸びをしたあと、次々に爆弾を作っていく。
作ってすぐアイテムボックスに入れるから身体はあまり動かさないんだけど、いちいち爆弾の重さが腕に掛かってくるのは少ししんどいかもしれない。
……さすがにそこに文句を言うのは怠け過ぎか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさーん♪」
「ふえっ?」
爆弾を作り終わったあと、少しぼーっと座っているとエミリアさんが突然工房に入ってきた。
「お菓子を買ってきたんです! 一緒に食べましょう♪」
「あ、良いですね! っていうかお帰りなさい、今日は早かったですね」
「えへへ♪ 今日はとっても良いことがあったので! 片付けも切り上げてきたんですよー」
「良いことですか? えー、何だろう?」
「アイナさんにとっては別に――って感じなんですけどね!」
そう言いながら、エミリアさんは缶に入ったクッキーを出してきた。
うん、とっても美味しそう!
「でもエミリアさんが嬉しいことなら、私も嬉しいと思いますよ!」
私は私でお茶を入れ始める。
ここら辺の連携はサマになってるよね。
「それでは頂きましょう!」
「はい、頂きます!」
サクッ
クッキーを口に運ぶと軽やかな音と共に品の良い甘さが口に広がった。
うーん、美味しい! しあわせってさりげないところにあるものだね!
「それでですね! 今日、レオノーラ様から聞いたのですが――」
「ふむふむ?」
「何と! オティーリエ様がしばらく旅に出たそうなんです!」
オティーリエ様――というのは、エミリアさんにとっての大聖堂での天敵。
この国の王位継承順位が第22位の王族にして、何やらルークを追っかけしていた女性。
……とはいっても私、彼女をまだ見たことが無いんだよね。
いや、一応王様と謁見したときに視界に入ったはずなんだけど、全然記憶に無いっていうか――
「旅、ですか? 急に何でまた……?」
「レオノーラ様によれば、何か王族に伝わる試練を受けに行ったそうな……?
それが何かまでは分からないんですけど、しばらくはオティーリエ様の影に怯えなくて済むんです! やったぁー!!」
その気持ちは分かる!
嫌な上司が有給休暇を何日か取ったときの解放感たるや! ――みたいな感じだよね?
若干前向きでは無いしあわせではあるものの、しかしそれも立派なしあわせだ。
このしあわせの意味が分からない人は――いやむしろそっちの方がしあわせだから、分からない人は分からないままで良いと思う。
「それは良かったですね! 心の重さが減るというか……!」
「はい! 数日前に大聖堂でお会いしたのですが、そのときも相変わらずの圧で……。
そこらの魔物よりも存在感があるので性質が悪いんですよね。……あ、これは内緒ですよ!?」
「そんなこと、わざわざ言いませんよ!
それじゃ、しばらくは平穏な日が続きますね。……うーん、それにしても王族の試練、ですか……」
「下々の者には分からないシキタリなんでしょう、きっと。
ところでアイナさん、工房で何かやってたんですか? ……また考え事です?」
「あ、エミリアさんはいませんでしたもんね。
昼前に王国軍の――第二装備調達局? っていうところの人が訪ねてきまして、仕事をもらったんですよ。
それで、その依頼品を作っていたんです」
「ははぁ、王国軍ですか……。
第二装備調達局というと、消耗品を扱うところでしたっけ?」
「それはよく分かりませんけど、爆弾の依頼を頂きました」
「あ、じゃぁ私の記憶は正しかったですね! ……ふーむ、それにしても爆弾ですか」
「実はあまり乗り気じゃなかったので、弱めの爆弾しか受けなかったんですよ。
依頼に来た人も少し不満そうでしたけど」
「ふむふむ。それではその爆弾を作っていたんですね。お疲れ様です!」
「ありがとうございます。納期は1週間後なので余裕でした♪」
「――ということは、少しはお時間できますか?」
「え?」
「ここのところアイナさん、ぼーっとしてたから……あんまりお話していなかったじゃないですか。
明日にでも、そこら辺に遊びに行きませんか?」
……確かにこの1週間ほどは何もできていなかったから、たまには息抜きも良いかもしれないなぁ……。
「――そうですね、それじゃ明日はそうしましょう!
ルークがいないから街の外は行けないですけど、いろいろやらなければいけないこともありますし」
「それでは決まりですね! 最近は片付けばかりで――あ、そうだ。ついに奥の部屋も4歩入れるようになったんですよ!」
「おお、1歩増えましたね……!」
――まぁそれはそれとして、明日は久し振りに思いっきり息抜きをすることにしよう。
ぼーっとするのと息抜きするのとでは、また少し違うものだからね。




