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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
180/911

180.急なお客様

 ――そして1週間が過ぎた。


 お屋敷のこともひと段落したし、ルークも修行に出ていってしまった。

 何と言うか、ここにきて張り詰めていた緊張が一気に緩んでしまった――といったところだろうか。


 それにしてもこの1週間、本当に何もしていない。

 厳密に言えばクラリスさんから相談を受けて、お屋敷のこともやったりはしていたけど――これは言われてやっただけだし。


 やることはやりつつも、自発的には何もしていないというか――

 あ、いや。メイドさんたちにカフスボタンをプレゼントしたけど……まぁ、それくらいか。


 ちなみにエミリアさんは最近、よく大聖堂の自分の部屋を片付けに行っている。

 奥の部屋もようやく3歩入れるようになったと喜んでいたけど、それにしても奥の部屋って一旦どうなっているんだろう……。



 そんなことを考えながらぼーっとお屋敷の中を歩いてみると、メイドさんたちが働いているのが見える。


 日差しを求めてお屋敷の外を何となく歩いてみると、警備員さんたちが巡回しているのが見える。


 何となく気が向いて裏庭に行ってみると、ハーマンさんも一生懸命に仕事をしている。



「――……うん。私もしっかり働かないと」


 ……となると、たまには錬金術師ギルドに行ってみるのも良いかな?

 1週間も空いたから、依頼も少しは溜まっているはず――


「アイナ様!!」


 お屋敷の方からの突然の呼び声に振り向くと、ミュリエルさんが走りながらやってきた。


「うん? どうしたの?」


「はい、お客様が見えられまして――

 お城の使いということでしたので、ひとまず客室にお通ししたのですが……」


「え? 何かもう嫌な予感しかしないんだけど……」


 ……一体何の用事だろう?

 工房やらお屋敷の使い心地を聞きにきた――とかではさすがに無いよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 客室に行くと、貫録のある壮年の男性が座っていた。

 体格もかなり良く、何とも気圧されてしまいそうになる。


「――いらっしゃいませ、お待たせいたしました。

 私がアイナ・バートランド・クリスティアです」


「突然の訪問、失礼いたします。

 私はヴェルダクレス王国軍、第二装備調達局のアルヴィン・ビル・アボットと申します」


 アルヴィンさんは立ち上がり、丁寧に挨拶をしてくれた。


 それにしても――え? 王国軍……!?


 ちなみに王都ヴェセルブルクはヴェルダクレス王国の首都。

 辺境都市クレントスも、漏れなくヴェルダクレス王国の国土になるのだ。


「どうぞお座りください。それで、今日のご用件は……?」


「はい、今日はアイナ様に仕事の依頼をさせて頂きたく、参りました」


「仕事、ですか――」


 コンコンコン


「失礼します」


 ノックのあと、クラリスさんがお茶を持ってきてくれた。


 ――お茶出しをしている間の何とも言えない時間。

 クラリスさんが客室を出ていくと、ようやく話が進み始める。


「このたび、緊急で爆弾を調達する必要ができまして――その製造を、アイナ様のところでお願いできないかと」


 ――爆弾!!


 うわー、断りたい!

 だって人を傷付ける気満々のアイテムでしょう!?

 ……あれ? いや、人、とは言ってないか。もしかしたら魔物討伐かもしれないし――


「えっと、魔物討伐用ですか? それとも対人用ですか?」


「汎用的に、どちらにでも使えるものが望ましいです」


 ――そりゃそうだ!


 うーんうーん、でもあれだよ。

 私が自由に何でもな感じで作っちゃうと、多分とんでもないものができちゃうよね?

 それはさすがに渡したくないなぁ……。


「……申し訳ございません。

 私は爆弾は専門外ですので、作れても一般的なものになってしまうのですが――」


「なんと!?

 ……ふぅむ、確かに薬関係と美容関係の実績が多いと聞いておりますからな……。

 とは言え、作る物の多くが高品質という評判。それでは一般的なものをお願いいたしましょう」


 あー、やっぱり折れてくれなかったか……。


「それではこちらに資料をまとめさせて頂きましたので、ご覧頂けますでしょうか」


 アルヴィンさんから手渡してきた資料をもらって眺める。


 『初級爆弾』――は作ったことがあるか。

 あとは『中級爆弾』『高級爆弾』『爆裂矢』『焼夷弾』……その他諸々っと。はぁ、それにしてもいろいろあるもので。


「――『初級爆弾』と『中級爆弾』でしたらお受けできます。

 それ以外は申し訳ありませんが……」


「むむむ、思ったよりも――……っと、いや、失礼。

 それではその2つをお願いいたします。数量と報酬はこちらになります」


 えぇっと……『初級爆弾』が200個、『中級爆弾』が100個……。

 報酬は金貨40枚――っと。


「ちなみに、納期はいつになりますでしょうか」


「実は少し急ぎで必要なものでして……。1週間後には可能でしょうか」


 さすがに素材が足りなくなるとは思うけど、ここら辺は錬金術師ギルドでも扱っているから大丈夫かな。

 素材さえあれば、納期なんてあって無いようなものだからね。


「はい、問題ありません」


「では1週間後、こちらまで取りに伺います。代金はそのときにということでお願いいたします」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――疲れた」


「お疲れ様です。甘いお茶をお持ちいたしましょうか?」


 アルヴィンさんが帰ったあと、そのまま客室でぐったりしているとルーシーさんが声を掛けてきた。


「ありがとう。一般的な甘さでお願いー」


「かしこまりました」


 ルーシーさんが客室から出ていったあと、すぐにノックの音が聞こえてきた。

 入ってきたのはクラリスさんだったのだが――


「アイナ様、お客様がお見えです。

 ジェラード様ですが、お通ししてもよろしいですか?」


「ジェラードさん? うん、よろしくー」




 ――3分ほどすると、ジェラードが明るい表情でやってきた。


「アイナちゃん、こんにちは♪」


「こんにちはー。今日はお久し振りですけど、どうしたんですか?」


「ぶっちゃけて言うと、調達局の人がここに来たでしょ? そのお話を聞きに♪」


「ぶっちゃけすぎ!!」


「まぁまぁ♪ アイナちゃんの不利になることはしないからさ!」


「でも話すって言っても、特に何も聞いてませんからね?

 むしろ大体は作らない方向で話をまとめましたし」


「あ、そうなんだ……。

 うぅん、まぁ爆弾はアイナちゃんには似合わないからねぇ……」


「そこまで知ってるなら、本当に言うことが無いんですけど!?」


「あはは♪ 本当はさ、久し振りに近くに寄ったから遊びに来たんだよ。

 ところでそろそろ、僕に何か仕事はできたかな?」


「もちろんです! ばっちり用意しておきましたよ!!」


 ジェラードにお願いしたい仕事は2件。


 1つ目はテレーゼさんから話のあった、彼女の幼馴染にして魔法の天才というシェリル・ヴィオラ・ブリストルさんの件だ。

 王城に召し抱えて以来、テレーゼさんが会うことはなくなったそうなのだが――この子の今の状況を調べて欲しいこと。


 2つ目はうちのメイドさん、クラリスさんとキャスリーンさんが前に仕えていた場所のこと。

 うちの子を酷い目に遭わせるなんて、赦しておけないからね! ……いや、積極的に仕返しをするとかは考えてはいないけど……いつ何があるか分からないし!


「――ふむ、なるほど。

 1つ目は……確かどこかで聞いたことがあるような……。うーん、でも思い出せないからまた調べてみるね。

 2つ目はまぁ、僕に掛かればすぐだと思うよ!」


「さすが、頼りになります!

 そう言えばオリハルコンの調査はどんな感じですか?」


「ああ、うん。王様が所有しているのは間違いないみたい。

 でもそれだけでは足りないみたいで、王様の方でもいろいろ探しているみたいだよ」


「うーん、なるほど……。それじゃ、もらおうと思っても難しそうですね。

 錬金術師ギルドの依頼でも、王国からの『賢者の石』が10年以上残っているそうですし」


「10年か……。うぅん、なかなか厳しそうだ。

 さて、僕への仕事はその2つで良いかな?」


 他のことと言えば、リーゼさんのことも気にはなるけど……私からはどうにも聞きにくいかな。

 そう言えば1週間前はドタバタしていて、結局ルークに聞くこともできなかったんだよね。


 ……でも、それなら――


「――あの、リーゼさんのことなんですけど……」


「うん? 懸賞金も結構な額だし、早く捕まると良いね。

 アイナちゃんの腹の虫も収まらないでしょ?」


 ……あれ? ……あれれ?

 リーゼさんが裏切った話をしたあと、ジェラードが王都を離れたから――てっきり何かやってると思ったんだけど……。あれぇ?


「何かご存知じゃないんですか……?」


「……まぁ、実のところは僕も少なからず動いてはいるけどさ。

 ところでルーク君はいるかな? 少し話しておきたいことがあったんだけど――」


「え? あ、ルークなんですけど、実は――」


 ルークが1週間前に修行に出ていったことを伝えると、ジェラードは少し考えるように宙を仰いだ。


「――ふぅん……、修行にねぇ……。まぁ、それも壁ってやつかなぁ。

 話を聞く限り、あの状況下では強さっていうか……うぅん、まぁ何ともかんとも、だね♪」


「あ! 何かはぐらかしましたね!?」


 途中まで複雑な表情をしていたのに、最後はいつも通りの明るい表情。

 隠すならもう少ししっかり隠して欲しいんだけど!?


「あはは♪ まぁここら辺は今度会ったときに話してみるよ♪ アイナちゃんは気にしなーい♪」


「むぅ……」



 こうなるとジェラードは本当のところを話してくれないからなぁ。

 ルークとジェラード、裏ではどんな話をしているのやら……。

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