18.夜の帳①
ホーホーホー。
何かがどこかで鳴いている。元の世界でもいたなぁ、あんな鳥。名前は……何だっけ? まぁいっか。
今の時間は20時頃。
本日の移動を終えて、ただいま野営の真っ最中。
乗客たちは、焚火を囲んで思い思いに過ごしている。
御者たちは、馬の近くで何やら作業をしている。
用心棒たちは、周囲を警戒しながら休息を取っている。
パチパチパチ……と音を立てる焚火を見ながら、何ともなしにルークに話し掛ける。
「やっぱり火は良いねぇ……。うん、心が安らぐ~……」
「そうですね。不思議と落ち着きますよね」
「だよねぇ~……」
特に内容の無い会話。
その会話も自然に終わり、引き続き焚火を見つめる。
街の外で迎える夜。
実は野営を始めて今に至るまで、例の夜――ヴィクトリアに見捨てられた夜のことが何回かフラッシュバックしていた。
あのときは周りに誰もおらず、生命の命が消えていくことを実感した。
でも今は周りには人がたくさんいるし、私たちを温めてくれる火も煌々と燃えている。
うん、やっぱり独りじゃ何も出来ないし、何より寂しいしね。
まだ私の旅は始まったばかりだけど、これから色々な出会いが待ってると良いなぁ……。
そんなことを考える私を、焚火の温もりが眠りの世界へと誘う。うつらうつら……
「――む」
……うん? 今の声は――
「ルーク、何か言った~?」
「はい。向こうに……何かいますね」
「え?」
何か? うーん、何だろ?
「ちょっと用心棒の方々に知らせて来ます。アイナ様はここでお待ちを」
そう言うと、ルークは用心棒の一人の方に向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
15分程が過ぎただろうか。ルークがようやく戻って来た。
「遅かったけど、どうかしたの?」
「はい。えっと、ここを遠巻きに狙っている魔物がいるようなんです。
しばらく様子を見ていたのですが、どうにも動きが無いので討伐してしまおうということになりました」
「え? 大丈夫なの?」
「気配は一匹なので大丈夫かと思いますが、何せ暗いですからね。何人かで一気に倒そうということで、私も参加することにしました」
「え? ルークも?」
「ははは、ここいらの魔物ごときには遅れを取りません。アイナ様は安心してここでお待ちください」
そう言うと、ルークは用心棒たちと落ち合い、夜の闇に消えて行った。
おお、何だか急に心細くなってきたぞ……?
……まぁ、それは置いておいて。
そういえばルークってどれくらい強いんだろう?
街門で守衛をしていたくらいだし、そこら辺の人よりはよっぽど強いとは思うんだけど。
それこそ魔物やならず者の相手をしていただろうし、ね。
ちょっと見学にも行ってみたいけど、行ったら絶対足を引っ張るパターンになるだろうしなぁ。
うん。我慢、我慢。
そんなことを考えていると、風に乗って闇の中から声が聞こえてきた。
(うお、コイツは――)
(ちょっと待て! 何でこんなところに――)
……んん? あれ、何か驚いてるよ?
(大丈夫だ、一気に攻めろ――)
(ちっ! 足を取られた――)
(ぐわぁあっ――)
……えぇ? あれ? ちょっとヤバくない……?
(大丈夫ですか――)
(すまない、ここは良いから――)
(私が行きます、この方をお願いします――)
んん? あれはルークの声だな……。
……。
…………。
………………。
つ、続きが気になるんですけどっ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくすると、ルークと用心棒の一人が戻って来た。
用心棒は慌てて馬車に乗り込み、何かを探している。
ルークは途中までそれを眺めていたが、少しするとこちらにやって来た。
「おかえりなさい。どうだった?」
「はい、魔物は倒したのですが、用心棒の方が一人やられてしまいまして……」
「え? 大丈夫なの?」
「どうやら毒に侵されてしまったようで、毒治癒ポーションを取りに来たんです。大丈夫かとは思うのですが……」
ふーむ、それはちょっと心配だね。
というかこれ、私が行けば良いんじゃないの?
「私も行こうか? ほら、鑑定スキルも持ってるし」
「そうですね……。それでは申し訳無いのですが、お願い出来ますか?」
「うん、大丈夫だよ」
私とルークは毒治癒ポーションを手にした用心棒と合流し、怪我人のところへと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、大丈夫か!?」
「……ああ、何とか……」
用心棒は毒治癒ポーションを怪我人に飲ませた。
「これで治ると良いんだが……」
やり取りをしている最中、私は怪我人に対して鑑定スキルを使った。
毒はちゃんと治ったのかな? えぇっと――
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【状態異常】
疫病8172型
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……は? えきびょうはっせんひゃくななじゅうにがた?
あれ? 毒じゃ……ないの?
頭に疑問符を浮かべながら怪我人をしばらく見ていたが、毒治癒ポーションの効果が現れる気配は無い。
いや、そもそも毒でないのであれば、毒治癒ポーションの効果は無いわけで。
ええ? というか、この疫病ってどんなよ! 鑑定っ!
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【疫病8172型】
不明の病原体がもたらす致死性の疫病。
毒のような症状を伴いながら体力を奪い続け、死に至らしめる。
空気感染により影響範囲を広げる
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……ええ、マジですか……。
「おい、しっかりしろ! くそ、もっと効果の高いものじゃなきゃダメなのか?」
「ルーク、ルーク」
私はルークに小声で話し掛ける。
「アイナ様、どうされました?」
「あれ、毒じゃない。疫病みたい」
「え、疫病ですか……? そうするとあの方はもう……? いや、ここにいる者も、もしかしたら……?」
その可能性は十分にある。
とはいえそれは疫病に掛かっているかどうかは私が鑑定すれば良いだけの話だから問題無くて、実際に治せるかどうか? の方が問題だ。
何か治すアイテムは作れないかな……?
私はユニークスキル『創造才覚<錬金術>』に意識を傾ける。
……。
……む……、むむ! 何も浮かばない!!
それってつまり、手持ちの素材じゃ作れないということ。
それじゃどうしよう? うーん、うーん……。
いや、でも何か引っ掛かるんだよね。何だろう、何か見落としているような――




