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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
177/911

177.新しい使用人②

 その後、ピエールさんの用意した馬車に乗って街を移動する。

 街の中心部から外れる方へ30分も揺られていくと、『ピエール商会』という看板が掲げられた広い場所に着いた。


 結構な数の人たちが話をしたり、荷物を運んだり、集まったりしている。


「――おお、ここがピエールさんの本拠地ですか」


「いえいえ、ここは単なる流通の中継地点の1つでゴザイマス」


「えぇ……? ……つまり、ここだけじゃないってことですか……。凄いですね……」


「お褒め頂きありがとうゴザイマス。

 それでは奴隷の斡旋はあちらの建物にナリマスので、もうしばらくこのままでお願いイタシマス」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後さらに5分ほど馬車に揺られたあと、馬車を降りてある建物に連れられていく。

 『奴隷の斡旋』とは言うものの、そこはそれなりに綺麗な建物だった。


 そしてある部屋に通されると、中には大人の男女と子供の男女が1人ずつ、合計4人が座っていた。


「――アイナ様、こちらが今回ご紹介するエイムズ家の皆さまデス。

 エイムズ家の皆さま、こちらお話していたアイナ・バートランド・クリスティア様でゴザイマス」


 ピエールさんからの紹介に続き、私も自己紹介をする。


「はじめまして、アイナと申します」


「本日はお目通りの機会を頂きまして、誠にありがとうございます!

 私はハーマン、そして妻のダフニー、子供のダリルとララでございます」


 ハーマンさんがそう言うと、その言葉に続いて3人がお辞儀をした。

 うん、なかなか感じの良さそうな人たちじゃないかな?


「ハーマンさんは庭木職人をされておりマシテ、一通りの仕事は問題無く行うことがデキマス。

 特に問題が無ければこのまま契約へと進ませて頂きマスガ――」


「……コホッ」


 話の途中、ダフニーさんが軽く咳をした。


「そういえば、ダフニーさんってご病気なんでしたっけ……?」


「は、はい! ですが今は小康状態を保っておりまして……っ!!」


 私の言葉に反応したのはハーマンさんだった。

 あれ、ずいぶんと焦っている……? それに、他の3人も急に恐縮した感じになっちゃったけど――


「アイナ様。問題があるようデシタラ、他の奴隷にいたしマスカナ?」


 ピエールさんの言葉に、ダリル君とララちゃんがダフニーさんのスカートを心配そうに掴んだ。

 ――ああ、なるほど。病気を理由に契約できないことを恐れたのか。


「あ、いえいえ。軽い気持ちで聞いただけですよ!」


 そう言いながらダフニーさんを鑑定する。


 ----------------------------------------

 【状態異常】

 呼吸器障害(中)

 血流不全(小)

 ----------------------------------------


 ……ふむ、初めて見るものかな。


 えーっと……『創造才覚<錬金術>』――っと。

 んー、これはいけそうだ。


 せっかくのご縁だし、ちゃちゃっと治してあげよう。


 れんきーんっ


 バチッ バチッ


「ほわっ!?

 アイナ様、こちらの瓶は何でゴザイマスかな?」


 突然私の手元に現れた2つの瓶を見て、ピエールさんが驚いた。


「私、アイテムボックス持ちなんですよ。

 ちょうどダフニーさんに効きそうなお薬がありましたので、出してみました」


「ほぉ……。さすが、有名な錬金術師サマでゴザイマス」


「――というわけで、もしよろしければ飲んでみてください」


 そう言いながらダフニーさんに瓶を2つ渡す。

 彼女は彼女で、ハーマンさんと心配そうに目線を交わしていた。


「あ、あの……、アイナ様……。私共は薬代をお支払いする余裕がありませんで……」


 おずおずと言うハーマンさん。

 そう言えば薬代を払うために借金をしていたんだっけ。


「無料で良いですよ。これからお世話になりますので」


「な、なんと……? ありがとうございます。

 それでは後で――」


「あ、結果が気になるのでここで飲んじゃってください」


「え? 結果……?」


 ……ん? 何かおかしいこと言ったかな?


「あなた……せっかくのアイナ様のお申し出ですので、頂くことにしますね」


「そ、そうか……?」


 心配そうなハーマンさんを横目に、ダフニーさんは2つの薬を両方飲み干した。


 それじゃ、かんてーっ


 ----------------------------------------

 【状態異常】

 なし

 ----------------------------------------


 ……うん、ばっちり!


「はい、治りましたのでもう大丈夫です。それでは契約をお願いしますね」


「は……?」

「……おかーさん、治ったの?」

「……もうだいじょうぶなの?」


 私の言葉に、不思議そうに声を出すエイムズ家の3人。

 ダフニーさんは自身の胸を押さえながら、少し深呼吸をしてから――


「……うそ……、苦しいのが取れました……」


 ぼそっとつぶやいた。


「――ふむ。エイムズ家の皆さま、こちらのアイナ様はS-級の錬金術師サマなのデス。

 世界の最高峰の、貴重な薬を頂けマシタナ」


 さり気なく私のアピールをするピエールさん。

 実際のところ、こういう展開を読んでこの家族をあてたでしょ……。私も何となく、そう思いながら乗っちゃったけど。


「おお……実力のある錬金術師様とは伺っていましたが、まさかそこまでの方だったなんて……。

 ありがとうございます!! ありがとうございます!!」


「アイナ様……。この病気、一生治らないものと思っておりました……。

 このご恩に報いるためにも、精一杯働かせて頂きます……!」


「はい、よろしくお願いしますね」


 うん、やっぱり感謝されるというのは気持ちの良いものだね。

 でも、それにしても――


「ところで、今まではどういう薬を買っていたのですか?」


「あ、はい……。

 誠に申し上げにくいのですが、錬金術では有効な薬を作れないと言われてしまったので……霊験あらたかな祈祷を捧げた特殊な――」


 ――ああ、そういう感じか。


 ジェラードの右腕のときも、効かない薬を延々と買わされていたんだよね。

 弱みに付け込む人なんて、どこにでもいるものなんだなぁ。


「……なるほど、今まで大変でしたね。

 これからはもう大丈夫ですので、ご安心ください」


「はいっ! ありがとうございます! これから、よろしくお願いいたします!!」


 ハーマンさんの大きな声とお辞儀に、他の3人も続けてお辞儀をした。

 それを見て満足そうに頷くピエールさん。



 ――……いや、何であなたが満足そうなんですか。

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